副題は、“猫丸先輩の推測”。
冬の夜に度々届く差出人不明の電報、顔の部分だけ黒く塗りつぶされた迷い猫のポスターなど、何でもない日常に潜む不可解な事件を、神出鬼没の名探偵・猫丸先輩が解き明かす“猫丸先輩シリーズ”第4弾です。
創元推理文庫の新版で『猫丸先輩の推測』から『夜届く』に改題されています。
6編の短編が収録された連作短編集です。
「夜届く」
「桜の森の七分咲きの下」
「失踪当時の肉球は」
「たわしと真夏とスパイ」
「カラスの動物園」
「クリスマスの猫丸」
元のタイトル『猫丸先輩の推測』のとおり、猫丸先輩がするのは“推理”ではなく“推測”です。
しかも、物語は、猫丸先輩の“推測”が当たっているかどうかを確かめずに終わります。
猫丸先輩は、真相を言い当てているのではなく、“こう考えれば、不思議でもなんでもない、謎でもなんでもない”と語るだけなのです。
各話で猫丸先輩が“推測”する謎は、八木沢のもとに謎の電報が届く理由について(「夜届く」)、花見の場所取りを頼まれた小谷に怪しげ人々が近づいてくる理由について(「桜の森の七分咲きの下」)、失踪した猫探しの依頼を受けた郷原探偵が貼ったポスターの猫の顔が黒く塗りつぶされた理由について(「失踪当時の肉球は」)、近所にできたスーパーに対抗する商店街の4日間の大売り出しへの妨害理由について(「たわしと真夏とスパイ」)、デザイナーの葉月が動物園でひったくり犯を目撃し、警備員に通報したものの盗んだものが見つからない理由について(「カラスの動物園」)、八木沢がクリスマスの夜に目撃したサンタが走っている理由について(「クリスマスの猫丸」)と、基本的には“日常の謎”ですが、その内容はバラエティに富んでいます。
私のお気に入りは、新しく表題作となった「夜届く」です。
アパートで一人暮らしの八木沢のもとにある冬の夜、“病気、至急連絡されたし”という電報が届き、家族に何かあったのかと実家に電話したものの何も起きていませんでした。
3日後の夜、またしても“家火災、至急連絡されたし”という電報が届きますが、やはり、実家に連絡してもやはり何も起きていませんでした。
2日後の夜、また電報が届きます。
八木沢がその話を猫丸先輩にすると、猫丸先輩のまさに“推測”が炸裂します。
読者の予想の斜め上を行くようなロジックの展開は見事の一言です。
この作品で、猫丸先輩の“推測”の根拠は、読者にも同じように提示されています。
したがって、読者と猫丸先輩の推理合戦ならぬ“推測”合戦も論理的には可能なため、猫丸先輩の独創的な“推測”に読者は唖然とさせられるのだと思います。
各話のタイトルが、有名作品のタイトルのもじりなのも楽しいです。
ちなみに元の作品は、『夜歩く』〔横溝正史〕、『桜の森の満開の下』〔坂口安吾〕、『失踪当時の服装は』〔ヒラリー・ウォー〕、『あたしと真夏とスパイ』〔天藤真〕、『ガラスの動物園』〔テネシー・ウィリアムズ〕、『クリスマスのフロスト』〔R・D・ウィングフィールド〕だと思います。
夜届く (猫丸先輩の推測) (創元推理文庫)
929円
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表紙のイラストは、創元推理文庫の新版で作者の作品のイラストを描いているイラストレイターの伊藤彰剛さんです。
なぜ狐なのか、私にはわかりません!
伊藤彰剛さんのツィッターはこちらです。→http://www.akitakaito.com/
[2018年2月7日読了]
現在までに刊行されている“猫丸先輩シリーズ”は、次のとおりです。
第1作『日曜の夜は出たくない』(1994年)〔http://ameblo.jp/hiikun-book/day-20190302.html〕
第2作『過ぎ行く風はみどり色 』(1995年)〔http://ameblo.jp/hiikun-book/day-20190625.html〕
第3作『幻獣遁走曲』(1999年)
第4作『夜届く』[『猫丸先輩の推測』から改題](2002年)
第5作『猫丸先輩の空論』(2005年)