神出鬼没の破天荒なキャラクターの猫丸先輩が登場する作者の本格デビュー作であるミステリ短編集です。
7編の短編と2つのエピソードが収録されています。
「空中散歩者の最期」
「約束」
「海に棲む河童」
「一六三人の目撃者」
「寄生虫館の殺人」
「生首幽霊」
「日曜の夜は出たくない」
*
「誰にも解析できないであろうメッセージ」
「蛇足――あるいは真夜中の電話」
あちらでは船頭、こちらでは役者と、いろんなところにひょっこり出没しては、おかしな謎を鮮やかに解き明かして去ってゆく仔猫みたいなまん丸い目をした憎めない猫丸先輩が主人公の“名探偵・猫丸先輩の事件簿”のシリーズ第1作です。
猫丸先輩が挑む謎は、周囲に高い建物がないのに明らかに20m以上の高さから落下した死体が発見された謎だったり(「空中散歩者の最期」)、孤独な少女に明日もう一度会うと約束した“おじちゃん”の不可解な死の謎だったり(「約束」)、海で遭難した二人の青年が魔物に襲われる昔話の謎だったり(「海に棲む河童」)、163人の観客が見守る劇場の舞台上で起きた俳優の毒死事件の謎だったり(「一六三人の目撃者」)、寄生虫博物館の3階で1階に居るはずの人間が殺害されていた謎だったり(「寄生虫館の殺人」)、アパートの鍵の掛かっていないドアを開けると部屋の真ん中に置かれた生首が呪いの言葉を話した謎だったり(「生首幽霊」)、毎週日曜日にデートする彼が連続通り魔の犯人かもしれないという女性の疑いだったり(「日曜の夜は出たくない」)とバラエティに富んでいます。
しかも、内容が本格ミステリ風、ハードボイルド風、怪談風とさまざまなだけでなく、語り手も一人称のもの、三人称のものが混在し、文体や長さも変化に富んでいるというか、バラバラです。
そして、最後の2つのエピソード(「誰にも解析できないであろうメッセージ」、「蛇足――あるいは真夜中の電話」)はこのバラバラな7種の短編をリンクさせる仕掛けが語られますが、この趣向は読者によって賛否が分かれると思います。
私のお気に入りは、第2話「約束」です。
2月の夕方、両親がまだ帰宅していない無人の家に帰りたくない小学2年生の麻由は立ち寄った公園で、ベンチに寂しげに座っているパパと同じくらいの年の“おじちゃん”と知り合います。
その“おじちゃん”も家に帰りたくないということ知った麻由は、その日以降、ほぼ毎日、児童図書館が午後5時半にしまった後、ママの帰る午後7時まで、麻由と“おじちゃん”は公園で会って話をするようになります。
ある日、“おじちゃん”は、もう公園には来られないと言い、その理由を麻由に話します。
麻由は明日、もう一度だけ会ってほしいと“おじちゃん”に頼み、約束を交わしますが、翌日、“おじちゃん”が公園で死体で発見されたことを知ります。
麻由と“おじちゃん”のやり取りの中に潜んだ謎解きの手がかりもすばらしいですが、麻由の視線で描かれる語りが秀逸です。
切ない中にも少女の成長が期待されるラストも見事です。
日曜の夜は出たくない【新版】 (創元推理文庫)
994円
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新版の表紙のイラストは、同じ作者の『ほうかご探偵隊』(http://ameblo.jp/hiikun-book/day-20190105.html)と同様にイラストレイターの伊藤彰剛さんです。
でも、なぜウサギなんでしょうね?
伊藤彰剛さんのツィッターはこちらです。→http://www.akitakaito.com/
[2019年3月1日読了]