カウネット呼ぼう -2ページ目

「ロボット21世紀」 瀬名秀明 [文春新書]

「パラサイト・イブ」でデビューを果たし、その後「BRAIN VALLEY 「八月の博物誌」などを発表した現役科学者の瀬名さんが書いた、現在のロボット技術についてまとめたノンフィクション。日本の未来のあり方まで見据えた本でした。かなり読み応えあり。
話題のヒューマノイドロボットだけではなく、工業用ロボットから玩具まで様々なロボットが取り上げられています。
二足歩行を実現するための技術の話だけに留まらず、どうやって制御を行うかというソフトウェアの話が重要であるという指摘は興味深いです。また「BRAIN VALLEY」に通じるテーマである人間の知性とは何かという問題もロボットに深い関わりがあること。日本人のロボット観はどうやって生まれてきたか? なんのためにヒューマノイド型ロボットが必要なのか? 将来、ロボット開発はどんな未来にむけて進んでいくべきかを第一線の多数の研究者にインタビューを行い、多角的な方向から問題を考えてゆくようになっています。
瀬名さんに問題意識があるから、これだけおもしろい本になったんでしょう。
「どんな未来になってほしいか」。今の日本ではそう言われてもイメージを明確に思い描ける人がどれだけいるのでしょうか。どんなに今頑張っても未来が今より幸せになるとは限らない。そういう閉塞感が漂ってるような気がして。個々に頑張ってる人はいるだろうけれども、それをきちんとベクトルを揃えて大きな流れにしなきゃ効率が悪いからなあ。

「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」 J.K.ローリング [静山社]


脱出不可能であるはずのアズカバンから囚人ブラックが脱走。恐ろしい力を持つその男はハリーの命を狙っているというが
読んでるときに「あれ?」とひっかかったことが伏線として最後にきれいにパタパタパズルにハマっていく様は見事。でもあの便利アイテムの存在は今後のストーリー上、諸刃の剣になりかねないと思うんですが。


「ドミノ」 恩田陸 [角川書店]


今回は、ゆだるような暑さのじめじめした7月の午後の東京駅を舞台に、なんのゆかりもない人たちの行動がほんのちょっとした「偶然」が積み重なってどんどん大きくなってゆくという文字どおり「ドミノ倒し」のような、スピード感のあるシチュエーションコメディ。
いやあ、おもしろい!! なんの関係もなかったようなことがどんどん繋がっていく様は、見事。構成が決してうまいとは言えなかった恩田さんですが、こういう作品も書けるんだ。こういうのができるのだったら、「上と外」の終わり方も期待できそう。
個性的すぎるキャラや細かいエピソードの作り込みはこれだけで終わらせるのがもったいないくらい。
とにかく、これは一気読みすべし。ちまちまと読むと話がわかりにくくなるかもしれないので、まとめて時間がとれる時にノンストップで読んでください。
これ、2時間ドラマか、映画にでもしてくれたらすごく楽しいだろうなあ。
ただし、この作品はあの「青いすりガラスの向こうの世界を覗きこむような」恩田陸特有の空気とは縁遠い作品です。恩田陸にはそちらを求めてる人は、無理して読む必要はないと思います。
恩田陸をまだ読んだことのない人は、「光の帝国 常野物語」 から読むのをオススメ。もしくは「三月は深き紅の淵を」 が文庫本化したばかりなので、それから読むのもいいかも。

藤沢周平 冬の潮


市兵衛は息子の嫁・おぬいを実家に戻すことにした。妻を亡くし、息子の芳太郎も川に落ちて水死した後、嫁と舅だけになり、口さがないある種の噂が流れ始めたためである。
おぬいを実家に戻すに当たっては百両を渡した。これで当座困ることはないだろうという市兵衛の配慮である。
だが、一年近くたって、おぬいが両国の水茶屋に出ていることを知った。市兵衛は思いがけないことを聞いた気分だった。

藤沢周平 しぶとい連中


熊蔵が酔っているときに、母子が身投げをしようとしている場面に遭遇する。熊蔵はそれを助け、有り金を渡すが、この助けられた母子は熊蔵の後をくっついて、熊蔵の家に居座ってしまった。
熊蔵はその悪人面を利用して、賭場で借金をした人間の取立を行っている。その熊蔵が母子に付きまとわれ、右往左往することになってしまった。
 

藤沢周平 穴熊


お弓を探している浅次郎は、ある時お弓に似た武家の妻を知る。その妻は人にはばかられることをして金を稼いでいたが、哀れに思った浅次郎は、その妻を助けるため、夫の塚本伊織にあることを手伝わせる。
それは賭場のいかさまを暴いて、賭場から金をふんだくるというものだった。その企みはうまくいき、金をふんだくることに成功する。
そして、塚本伊織の妻女も人にはばかるようなことをしなくて済むはずだった
 

藤沢周平 おふく


造酒蔵はおふくが奉公に出されるところを眺めていた。幼いながらにおふくが出される奉公先がどんなところか分かっていた。明石屋という男に体を売る店である。
数年経ち、かざり職人になった造酒蔵は明石屋の前に立っていた。なけなしの金を借りておふくに会いに来たのだ。だが、結局おふくには会えなかった。
造酒蔵は金がないとおふくに会えないことが分かり、宗左の子分になった。宗左は恐喝でくっている男である。その宗左の手伝いをしている中で、造酒蔵はおなみと知合った。
 

藤沢周平 馬五郎焼身


馬五郎はほおずき長屋と呼ばれる裏店の嫌われ者である。最近では臆面もなく若い娘を引っぱり込むような傍若無人な振る舞いに出る馬五郎に、裏店の住人は触らぬ神に祟りなしと決め込んでいる。
昔から乱暴者だったわけではない。女房と別れた67年前からである。夫婦の娘が、女房の目を離したすきに川に落ちて死んでしまったのである。
女房と別れ、馬五郎はお角という女を気に入っていた。最近ではお角が一緒に暮らしても良いといっている。だが、馬五郎にお金があるのを分かると、お角は金を持って逃げた。
 

藤沢周平 暁のひかり


市蔵は博奕の壺振りとしてなかなかの腕をもっている。ある朝の帰路、危なっかしい歩き方をしている少女と出会う。病気で長いこと寝ていたので、歩く練習をしているというのだ。市蔵には、その少女の姿がとてもまぶしく映った。少女とは時折会うようになった。そして、言葉もかわすようになった。
その市蔵が、凄腕の壺振りの小梅の伊八を紹介された。伊八からいかさま賽の使い方を学ばないかというのだ。
 

藤沢周平 霧の果て 神谷玄次郎捕物控

神谷玄次郎は北町奉行所の定町廻り同心である。この日もよし野で寝そべっていると、岡っ引の銀蔵がやってきて、人が死んだという。しかも、絞められたような痕がある。それを聞くと、玄次郎は着替え始めた。玄次郎はすさまじい筋肉の張りをしている。そのはずで、直心影流の道場で三羽烏の一人に数えられた腕の持ち主である。
玄次郎が遺体を確かめると、確かに絞められた痕がある。だが、その前に刺されてから絞められている。殺しである。殺されたのは若い娘だった。
玄次郎は銀蔵に女の身元を洗うように指示する。玄次郎には引っかかることがあった。三年前に若い娘が三人も殺されながら、犯人を捕まえられなかった事件を思い出したのだ。その時の犯人の手口と似ている。
今回の娘の死は、玄次郎をある事を思い出させる。それは、十四年前に斬殺された母と妹の姿である。その後、父も心労で他界してしまう。この母と妹の事件は、父が追っていた事件と絡んでいるという噂を聞いた。だが、その父が追っていた事件は上からの指示で中断させられていた。
玄次郎はその時の無念を思いながらも、事件の解決に向かって捜査を続ける。殺された娘はおゆみというのが分かった。

神谷玄次郎は、岡っ引の銀蔵が使っている直吉の行方がしれなくなっているという。その直吉の足跡をたどっていくと、玄次郎の同僚・鳥飼道之丞が使っている岡っ引・弥之助の姿が浮かんできた。

奥州屋の奉公人・増吉が殺された。奥州屋は、その前に簪一本がなくなったというので銀蔵に相談に来ていたのだ。それが玄次郎には引っかかる。玄次郎は、簪の行方を探すのが順番だといった。でなければ増吉を殺した犯人にたどり着かないだろうと思ったのだ。

酔っぱらいが死んでいた。浮浪の物乞いで、甚七といった。この甚七の過去を洗っている内に、甚七には家族がおり、かつては吉川屋の奉公人だったことが分かった。

むめという一人住まいの婆さんが殺された。真っ昼間のことだった。金が盗まれていた。物盗りの犯行だろうが、むめが金を持っていたことを知っている人間はほとんどいなかった。一体誰がそのことを知り得たのか?

玄次郎が例繰り方の同心・伊佐清兵衛から借受けたのは、亡き父の追っていた事件を記した文書である。そこでようやく少し事情が分かってきた。
その頃、玄次郎は重吉という男が殺された事件を追っていた。