藤沢周平 霧の果て 神谷玄次郎捕物控 | カウネット呼ぼう

藤沢周平 霧の果て 神谷玄次郎捕物控

神谷玄次郎は北町奉行所の定町廻り同心である。この日もよし野で寝そべっていると、岡っ引の銀蔵がやってきて、人が死んだという。しかも、絞められたような痕がある。それを聞くと、玄次郎は着替え始めた。玄次郎はすさまじい筋肉の張りをしている。そのはずで、直心影流の道場で三羽烏の一人に数えられた腕の持ち主である。
玄次郎が遺体を確かめると、確かに絞められた痕がある。だが、その前に刺されてから絞められている。殺しである。殺されたのは若い娘だった。
玄次郎は銀蔵に女の身元を洗うように指示する。玄次郎には引っかかることがあった。三年前に若い娘が三人も殺されながら、犯人を捕まえられなかった事件を思い出したのだ。その時の犯人の手口と似ている。
今回の娘の死は、玄次郎をある事を思い出させる。それは、十四年前に斬殺された母と妹の姿である。その後、父も心労で他界してしまう。この母と妹の事件は、父が追っていた事件と絡んでいるという噂を聞いた。だが、その父が追っていた事件は上からの指示で中断させられていた。
玄次郎はその時の無念を思いながらも、事件の解決に向かって捜査を続ける。殺された娘はおゆみというのが分かった。

神谷玄次郎は、岡っ引の銀蔵が使っている直吉の行方がしれなくなっているという。その直吉の足跡をたどっていくと、玄次郎の同僚・鳥飼道之丞が使っている岡っ引・弥之助の姿が浮かんできた。

奥州屋の奉公人・増吉が殺された。奥州屋は、その前に簪一本がなくなったというので銀蔵に相談に来ていたのだ。それが玄次郎には引っかかる。玄次郎は、簪の行方を探すのが順番だといった。でなければ増吉を殺した犯人にたどり着かないだろうと思ったのだ。

酔っぱらいが死んでいた。浮浪の物乞いで、甚七といった。この甚七の過去を洗っている内に、甚七には家族がおり、かつては吉川屋の奉公人だったことが分かった。

むめという一人住まいの婆さんが殺された。真っ昼間のことだった。金が盗まれていた。物盗りの犯行だろうが、むめが金を持っていたことを知っている人間はほとんどいなかった。一体誰がそのことを知り得たのか?

玄次郎が例繰り方の同心・伊佐清兵衛から借受けたのは、亡き父の追っていた事件を記した文書である。そこでようやく少し事情が分かってきた。
その頃、玄次郎は重吉という男が殺された事件を追っていた。