一旦終了しておきながら、再び書いております。
第三十七話「地獄に京伝」で出てきた「心学」。これについて触れないわけには行きません。
石門心学
番組終了後の紀行コーナーでも紹介があった、石田梅岩の『石門心学(せきもんしんがく)』。定信の文武奨励策で、ちょっとしたブームになっていたようです。
石門心学は石田梅岩が創始した庶民向けの心学、その内容が定信の改正の二本柱「文武奨励」「質素倹約」にハマったようです。
ドラマでは山東京伝の黄表紙「心学早染草」は、「目なし用心抄」を読んで作成したようですが、これは石門心学をまとめたもののようです。
先も立ち、我も立つ
石田梅岩の名言で、「先も立ち、我も立つ」というのがあります。商売は相手があってこそ成り立つもの、他を利するからこそ、私利も得られる、というもの。三方よしにも通じるこの教えは、その後様々な商家や経営者に影響を与えています。
この教えは、商売だけでなく、人間関係・組織運営・地域経済にも通じる普遍的な法則です。
石田梅岩の心学は、“信頼を基盤としたマーケティング”の原点とも言えるでしょう。
都鄙問答
石田梅岩を語る上で、『都鄙問答(とひもんどう)』も欠かせません。これは、彼の教えをわかりやすく庶民に伝えるために書かれた「対話形式(Q&A)の入門書」であり、石門心学の精神、すなわち「正しく働き、誠実に生きる」を最もよく表した書物です。
タイトルの「都鄙(とひ)」とは「都=京都の商人」「鄙=地方の農民や庶民」を意味します。つまり、「都の商人」と「鄙の人(一般庶民)」が問答(対話)することで、商い・道徳・人の生き方を分かりやすく説いた書。「商人は利を追うだけではない」「働くことは尊い」という主張を、対話形式で読みやすく展開しています。
江戸時代のマーケ本
ある意味、『都鄙問答』は江戸時代のマーケ本とも言えるかもしれません。『都鄙問答』は、単なる道徳書ではなく、商売人が「どうすればお客様に信頼され、長く繁盛できるか」を説いた実践哲学です。
石田梅岩が『都鄙問答』で繰り返し説いたのは、「正しい心で商いを行えば、それは立派な“道”である」という考え方です。
「働くこと」「儲けること」「信頼を得ること」。そのすべてを、人としてどう行うべきかという視点から説いたこの書は、現代で言えばまさに「マーケティング原論」であり、“商いを通じて社会を良くする”という哲学書でもあります。
石門心学とは、「人として、そして商人として、正しく生きるための“こころのマーケティング”」とも言えます。それを書き留めて広めた『都鄙問答』は、もしかしたら日本初のマーケティング入門本かもしれません。
今後も、発見次第でイレギュラーで記事を書くかもしれません。よろしくお願いします。
過去の記事もご覧ください。(下記のカテゴリーにまとめてあります。)
