退職金の優遇税制は官僚や金持ちを喜ばせるだけ

　　所得があればその大きさに従って税金を払って頂く。

これは税制の基本的な考え方だ。しかし、その基本を大

きく歪めているのが退職金の優遇税制である。退職金

は普通の収入とは別の分離課税となっていて独自の算

出法がある。それは退職金の額から勤続年数に従った

控除額を引き、その残りを更に２分の１にした額に対し

て課税するというものだ。そのため課税対象となる退職

金の所得は大幅に縮小され、多くの税金を取り損ねてい

る。特にこの２分の１が問題で、ほとんど勤続年数がな

くても、どんなに退職金が巨額でも自動的に半分の額が

税金の対象から外されるため、天下り官僚や大企業の

役員、それに地方自治体の長など高い退職金を受け取

る人達を過剰に利する結果となっている。日本は借金と

税収不足に苦しんでいるのだから、早急に退職金税制

を見直し、元官僚や金持ちからもしっかりと税金を取れ

るようにするべきである。

　　たぶん退職金と聞くと老後の心配もある事から誰も

ができるだけたくさん退職金を貰いたいと思う事だろう。

確かにその気持ちはわかる。しかし、これだけ偏った優

遇税制を布いているのは日本だけであり、アメリカなど

では退職金も他の所得と同様に総合課税の内で税金

が課されている。退職金であれ何であれ、所得があれば

それに応じて課税を受けるのは同然のすじだからだ。そ

れに退職金だけ特別に優遇するとそのひずみは他の色

々な所にも現れてくる。例えば、普通に得る収入よりも

退職金の方が税制上優遇されていれば、普通の収入を

減らして退職金を増やす手口で課税逃れをする人が増

える。これは国にとって大きな損害だ。実際問題、天下

り官僚は天下り先を渡り歩く時、巨額の退職金をせしめ、

巨額の課税逃れをしている。グループ企業を渡り歩く役

員なども同じで、課税逃れのために退職金を多くしてい

るという実態があるのだ。

　　それに加えて、普通の所得が減って退職金が大きく

なっているせいで経済にも悪い影響を与えている可能性

がある。なぜなら、退職金と言うものは老後の備えとして

受け取られるものであり、あまり消費に回されない傾向

があるからだ。日本人は基本的に慎重で堅実な人が多

いため、退職するとあまりお金を使わなくなる。１４００兆

円とも言われる個人の金融資産の半分以上を高齢者が

持っている事がその証拠だ。そうやって老後を目前にし

た高齢者の懐にお金が溜まっていけば、もちろん消費に

回される機会は減り、経済にマイナスの影響を与えると

考えられるのだ。これから先、更に高齢化が進むのは明

らかなだけにこれは見過ごせない問題である。よって課

税逃れのために退職金を多くする傾向を無くすような税

制にするべきであり、高齢者の懐に資産が落ち着いてし

まう前にしっかりと課税すべきであると私は考える。

　　細かい数字はわからないが私の印象としては、退職

金への優遇税制を止めれば、かなりの税収アップが期

待できるのではと思う。例えば仮に１億円の退職金を天

下り法人から貰った渡りの官僚がいたとする。その場合

勤続年数による控除を無視しても半分の５千万円が課

税の対象から外される事になるため、残りの半分に最高

税率の５０％（正確にはもう少し低い）を課したとしても払

う税金は２５００万円以下となる。もしこれが普通の収入

として課税されていれば、課税額は５千万近くになってい

たはずである。つまり、現在の退職金税制では高額な退

職金を受け取っても、払う税金の額が半分ぐらいで済ん

でしまうのだ。しかし、もし仮にこの課税所得を２分の１に

する部分をなくせれば、税金の取りっぱぐれは大いに減

り、税収は大きく増えるだろう。また、退職金による課税

逃れが大幅に減らせるので、官僚達がこれまで天下り先

で懐に収めてきた退職金（公的機関であれば税金）の半

分近くを取り戻す事ができるようになるだろう。

　　ただ退職金の税制を見直すにあたって一気に勤続

年数の控除もなくしてしまうと、やはりそれまでの世代と

の不公平感が大きくなってしまうのでそこはしばらく残し

ても良いのではと思う。ちなみに課税対象額を２分の１

にする部分を止めても、４０年ぐらい勤めた大卒の正社

員の平均の退職金のほとんどは、この勤続年数の控除

によって課税対象から外されるため一般の方が退職金

を受け取る額に大きな差は出ない（４０年勤めた場合の

控除は２２００万円で、大卒の平均の退職金は２４００万

円ぐらい）中小企業や高卒だと退職金の平均はもっと低

いのでこちらも影響はほとんどないと言えるだろう。しか

し、将来的にはこの控除の額も今より小さくしていくべき

だと私は思う（もしくは分離課税を止める）やはり所得が

あればちゃんと税金を払うのがすじであり、退職金が増

える傾向や経済への悪影響は正されなければならない。

それから、増税の話になると消費税アップの事ばかりが

話題になるが、その前にこういった官僚や金持ちを利し

ている税制を変えないと不公平であると私は思う。

住宅政策の転換が日本の内需を大幅に増やす！？

　　先日のサンデープロジェクトでエコノミストのリチャー

ド・クーさんが日本の向かうべき経済の方向性について

話していた。その中ですごく気になったのが住宅市場に

関する発言だ。現在、日本の住宅市場は頭打ちの状態

で、空き家率が高く、全体として供給過剰な状態となって

いる。それに加えて安定した所得を持つ人が減っていて、

人口減少も始まっている事から、これからの住宅市場の

成長はほとんど期待できないと私は思っていた。しかし、

クーさんによれば、住宅を査定する仕組みを欧米で行な

われているような方法に替えれば、日本の住宅市場はま

だまだ大きな可能性があり、内需拡大の起爆剤になりえ

るとの事だった。これはいったいどういう事なのかと興味

を持ち、私は住宅市場に関する知識はあまりないが、常

識的に色々と考えてみた。すると、クーさんの意見には

かなり期待を持てる側面がある事がわかったきた。

　　それはつまりこういう事だ。日本の住宅は消費財とし

て扱われており、短いサイクルでの建てては壊すが繰り

返されてきた。そのせいなのか住宅の資産査定方法も、

どんな住宅であれ２５年がたつと資産価値はゼロになる

というような計算の仕方をしている。一方欧米では、査

定の方法が違うため、住宅の資産価値は修理などをし

て良い状態に保っていれば、２５年経っても大きく下がる

ことはなく、寧ろ上がると言う。クーさん曰く、日本はこの

住宅を消費財と見るような査定方法を採用しているせい

で、毎年資産価値にして２０兆円もの損をしていると言う。

そしてここがポイントなのだが、もし日本も欧米と同じよ

うな住宅の査定方法を取り入れ、住宅の資産価値の目

減りをなくす事ができれば、これは家を持っている人た

ちの懐に毎年２０兆円が留まるのと同じ事になり、毎年

家計に対して２０兆円を配っているのと同じ効果が得ら

れると考えられるのである。

　　２０兆円と言ったら日本のＧＤＰの約４％に当たるも

のすごい額である。これだけのお金が家計に入ると考え

れば、消費に火をつけ、相当な経済効果が見込めるの

ではないだろうか。しかもそれが毎年であるから内需を

大幅に拡大しない訳がなく、日本の潜在成長率を大きく

上げると考えられる。もちろんこれは実際に家を持つ人

に現金を配るのとは違って住宅の資産価値が下がらな

いという話で、最初のうちはそれほど大きな消費に結び

つかないかもしれない。しかし、住宅の資産価値が下が

らなくなり、家を持っている人が自分の住宅の資産価値

は今これくらいという事を認識できるようになれば、持っ

ているお金（資産）が増えるのだから、消費などに向けら

れるお金も増える事になり、消費の大幅アップに繋がる

と考えられるのだ。

　　それに加えて住宅の資産価値が下がらないとなれ

ば、住宅ローンもかなり借りやすくなるだろう。これまで

は、住宅を購入してもその資産価値が毎年下がる事に

なるため、途中で返済ができなくなった場合の借金の負

担は大きく、ローンを借りる事に二の足を踏む人も多か

った。銀行側による住宅ローンの審査もそういう事にな

らないよう厳しくやっていたと言えるだろう。しかし、住宅

の資産価値が下がらないとなれば、その住宅を担保とし

て考えられるようになるため、途中で返済が滞っても住

宅を売ればそれで借金はチャラという事ができるように

なる。このため銀行側も住宅ローンの貸し出しをしやす

くなり、収入が多少低い人でも住宅ローンを前よりも借

りやすくなると考えられる。もしそうなれば、住宅市場の

動きは再び活発になり、住宅価格や土地の価格も上が

り、かなりの経済効果、経済成長に繋がるのではないだ

ろうか。それに住宅の資産価値が下がりにくくなるため、

投資対象としての住宅購入も増え、多少ミニバブルっぽ

い現象さえ起こるかもしれない。

　　と、ここまでクーさんの発言を私なりに解釈し、良い

事尽くしの予想を書いてきたが、もちろんこれを実現す

るにはいくつかの条件がある。まず第一に、一番重要

なのは日本の住宅の資産査定の方法を欧米型に変え

ることだ。私は詳しい事はわからないが、これまでの査

定方法を変えるからには、政治主導による政策的な転

換が必要なのは明らかだろう。クー氏曰く、この転換を

実現するには住宅の建ぺい率や容積率に関する規制

など様々な事を変える必要があるとの事だ。第二に、中

古住宅の市場をもっと大きくする必要がある。査定方法

を替えても中古住宅を購入したがる人が増えなければ、

本当の意味で住宅資産の価値が保たれるようにはなら

ない。よって消費者の住宅に対する意識を変えていき、

車や貴金属、アパレルブランドのようにしっかりとした中

古市場を作っていく必要があるだあろう。

　　第三にこれはもう始まっていることだが、ホームイン

スペクターの普及が挙げられる。ホームインスペクター

とは、住宅の根幹となる重要な部分や傷みやすい場所

などを調べて、住宅の価値を査定する人の事で、欧米

型の査定方法へと替えていくにはなくてはならない存在

だ。このホームインスペクターによる検査が広がる事で、

家の持ち主が傷んだ部分を修理するなどして、住宅の

価値を保つようになれば、より良い中古住宅が供給され

るようになり、中古市場が盛り上がると考えられる。そし

て第四に、長期優良住宅の推進も重要である。中古住

宅の市場を大きくするためには、１００年２００年持つよ

うな住宅を作っていく事が有効であると考えられ、これま

でのように３０年ぐらいでまた建て直すという前提での建

築を改めていく必要があるだろう。

　　ただひとつ心配なのは、中古住宅の市場を活性化し、

長持ちする家が増えることで、新規の住宅着工が減って

建築業界にマイナスな影響を与えないかという事だ。新

築が減れば、それだけ建築業者の仕事も減る事になり、

これが雇用や経済に影響を与える事になる。しかし、住

宅市場全体で見れば、中古住宅のためのリフォームや

資産価値を保つための検査、修理等これまで以上に成

長が見込める分野もあり、上に挙げた経済効果による住

宅市場全体の活性化も合わせると、大きなプラスになる

のではと私は見ている。建築業界の方もこういった変化

に適応して仕事を替えていけば、雇用が失われる事もな

く何とかやっていけるのではないだろうか。私の予想がど

こまで正しいかはわからないが、この件に関するクーさん

の意見が正しいならば、住宅政策の転換が日本にとって

大きな経済成長、内需拡大のチャンスになるのは間違い

ない。今度の新政権もそのことを認識し、上に書いたよう

な素晴らしい成長の青写真を実現できるよう努力して頂

ければと思う。

記者会見をオープンにー民主党は約束を守れ

　　前回事務次官や官僚らによる定例会見の中止につ

いて書いたが、政治報道に関して言うと先週もうひとつ

重要なニュースが、ネットや一部メディアで話題となって

いた。それは今度の民主党政権が、これまで公言して

きた記者会見のオープン化の約束をいきなり破った事

だ。これまで官邸内や各省庁などで行なわれる会見は、

記者クラブに所属する大手メディアのみが出席できる事

になっていたのだが、民主党はこれをオープンにし、ジ

ャーナリストなら誰でも会見に出れるようにすると明言し

て来た。しかし、実際に鳩山首相が就任会見を行なう段

となると、民主党は会見をオープンにせず、一部の雑誌

記者に会見に出席する権利を与えただけで事を済ませ

てしまったのだ。

　　記者会見をオープンにする事は非常に重要な課題

である。なぜなら、これは記者クラブの存在とも関わっ

てくるのだが、一部のメディアだけに独占的に会見に出

席する権利を与えてしまえば、他のジャーナリストの取

材する権利を奪い、国民の知る権利を制限する事にな

るからだ。会見に出席できるのが特定のメディアに限ら

れると（ここでは記者クラブに属する大手メディア）、他の

視点を持つ人達による追求や批判は当然限られること

になり、記者と官僚達の馴れ合いなども起こり、報道さ

れる情報にも偏りが生じてくる。これまでメディアによっ

て検証を欠いた垂れ流し的な報道があったのも決して

偶然ではないのだ。しかし、こういった特権は自由な報

道を基本とする民主主義国家のあり方とは相容れない

ものであり、先進国はどこも記者会見をオープンにして

いる。日本だけそれが出来ていないのは非常に恥ずか

しい事であり、民主党が今回約束を破ったのは実に残

念だと言わざるを得ない。

　　記者会見のオープン化を止めた理由として、一部で

は記者クラブの特権を奪う事で、そこに属する大手メデ

ィアから集中砲火を浴びたくなかったのではの噂も流れ

ているが、一方で、記者クラブの側も会見がオープンに

なるのは仕方がないとすでに腹を括っていたとの情報も

出ている。私にはどちらが正しいかはわからない。ただ

大手メディアの多くは今回の件に関して報道をしておら

ず、ほとんどスルーしていると言ってもいい状態だ。自分

達の特権を奪われたくないから、ニュースで触れる事も

問題提起する事も避けたいという事なのだろうが、これ

が日本のメディアのする事なのかと思うと非常に恥ずか

しくなってくる。既得権益にすがりつき、事なかれ主義で

問題から目を背ける彼らに、偉そうに政治家や官僚達

を批判する権利があるとは思えない。

　　それから、よく記者会見がオープンにされない理由と

してセキュリティーや会見のためのスペースの問題が挙

げられるが、これは理由としてはまったく根拠に欠けてい

る。例えば、セキュリティーに関して言えば、今は記者ク

ラブに属する報道関係者側に丸投げの状態にあり、政

府はセキュリティーと呼べるような事はほとんどしていな

い。つまり、記者クラブに属していればそれでＯＫであっ

て、記者クラブにいる人は問題を起こさない、大丈夫だ

ろうという根拠のない仮定の下にすべてを任せているの

だ。元々やっていないものをセキュリティーの問題があっ

てできないと言うのは受け入れがたい理由である。それ

にそもそもの話として、他の先進国ではちゃんとセキュリ

ティーの問題をクリアーして記者会見をオープンにしてい

る。日本だけできないというロジックは通用しないだろう。

他の国でやっているように、どんなジャーナリストでも登

録制にして、しっかりとした基準で変な人でないか調べ、

場合によっては、持ち物検査なども導入してやれば、大

きな問題になる事はないだろうと私は思う。

　　また、スペースの問題にしても、今使っている会見場

が狭すぎるというのが理由なのだが、海外ではスペース

がない場合、メディア関係者が協力して、映像を共有し

たり、代表者に質問を託すなど、会見場に入る人を少な

くしてやりくりしている。海外ではこういったことに関する

ルールがしっかりとしていて、日本でもやろうと思えばす

ぐにできるようになるはずだ。だいたい日本の場合、会

見によってはテレビ局１社から１０人ぐらいの人が入る場

合もあると聞く。何でも質問で当ててもらう確率を上げた

いがためなんだとか。こういった手前勝手な理由のため

に他のジャーナリストが排除され、会見をクローズにして

いるとしたら、これは正当性、公平性に欠けると非難され

ても仕方がない。想像するに、記者クラブから会見場に

入る人を絞れば、それでほとんどの場合は問題はなくな

るのではないだろうか。仮にもっと大きなスペースの会見

場が必要と言うのであっても、そういうスペースを用意で

きるまでは取材関係者がお互いに協力し合ってやりくり

すれば問題はないはずだ。

　　このように記者会見をオープンに出来ない理由はた

いしたものではなく、推測するに記者クラブの既得権益と

彼らを敵にしたくないという民主党の利益のために頓挫

していると考えられる。しかし、民主党はこれまで記者会

見をオープンにすると公言してきたのだから、その必要

性を今一度思い出し、しっかりとその約束を守るよう行動

すべきである。これぐらいの約束を守る覚悟と度胸がな

いようでは、民主党が目指す政治の構造改革も妥協に

つぐ妥協で前に進まなくなるのではないだろう。