- サン・ジャックへの道/ミュリエル・ロバン
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コリーヌ・セロー監督 サン・ジャックへの道
聖地サン・ジャックへの巡礼の旅。それは全て徒歩で行わなければならない過酷なもの。
遺産相続の条件として、巡礼強制参加の仲の悪い3兄弟を始めとして、
メッカ巡礼と勘違いして参加する少年、恋のために参加する少年など、波乱万丈なロードムービー。
フランスからスペインまで1500キロ。
飛行機も鉄道もあるこの現代にオール徒歩。
しかも、巡礼なのに、神を信じているものはほとんどおらず。
罰当たりなわりに頑張っちゃうのは、それぞれに理由があるから。
現代的な個々人の問題が、集団生活と過酷な旅の中で明らかになり、解決していく、
ベタっちゃベタなロードムービーだけど、好き。
ていうか、こういうロードムービーこそ好き。
1500キロもひたすら歩くという、無茶ッぷりがまず、いいじゃないか(笑)
だだッ広い草原や、山道をただ歩く。
ひたすら歩く。
2ヶ月間毎日、歩くことが仕事。
単純きわまる苦行。
仕事も勉強もせずにただ歩き続ける、踏破することを目指す、
そのシンプルさから見えてくるものがあるから。
群像劇だけども、一応主人公のグループは、仲の悪い3兄弟。
どれだけ仲が悪いかというと、取っ組み合いのケンカをするほど。
4,50代のおっちゃん、おばたんがつかみ合いの大喧嘩をするのは中々迫力。
長男は社会的・経済的成功者だけども、アル中の妻を抱え、体のあちこちにガタが来てる。
次女は高校教師だけども、性格がきつく、次男を軽蔑している。
次男は、アル中気味の無職人で、長男にたかって生きている。
あー、なんて大人気ないヒトビトなんだ、と呆れながら見てしまう。
けど、この超利己主義、自分勝手、まさに個人主義の国フランス的なひとびとが、
歩き続ける生活の中で、他人と寄りそうことを学んでいく。
他人の問題を考える、思い遣ることを覚えていく。
彼らに影響を与え、関わりあっていく他の巡礼者たちのうち、
アラブ人の少年二人がとても印象深い。
ひとりは、恋する同級生と一緒に旅したくて参加した少年。
その親友は、いいように言いくるめられて、メッカ巡礼だと思って参加。
この少年のピュアさに胸を打たれる。
はじめは、ピュアというより、ちょっと頭の足りない様子で、「大丈夫か!?このこ」なんだけど、
本当は、ものすごくお母さん思いのすごくいい子なのが、各エピソードで描かれる。
メッカ巡礼じゃないことを本当はわかってたけど、親友のために参加を決める。
すごく貧しくて、お母さんの溜めたなけなしのお金を使って。
まぁ、何故お母さんがお金を出してくれたのか、っていうのはラストへの伏線なんだけど、
息子にいい思いをさせてあげたい、字を覚えさせてあげたい、信心深い、いいお母さんなんだよね。
「メッカ巡礼」で、病気の平癒と、あなたが字を覚えられるように祈ってきてね、と送り出す。
お母さんは病気だから。
少年は病気の詳細は知らないけど、
字が読めるようになって、いい仕事に着いてお母さんに楽をさせてあげたいと望んでる。
後半は、
彼に字を教えることで、次女の高校教師は優しさを覚えていく。
少年達はアラブ人のために、差別を受けるんだけど、
旅の仲間への理不尽な差別に、長男は仲間をかばうこと、人を思い遣ることを知る。
次男も恋をして、成長する。
兄弟たちの問題はそれなりに解決していくんだけど、
彼らに変化を与えたきっかけでもある少年には、不幸が待っている。
この結末がなんとも理不尽で切ない。
最も純粋で、非が無いような人間が、一番大切なものを亡くしてしまうという。
結局はハッピーエンドになるんだけども。
美男美女も天才も出てこず、ふっつーのヒトビトの人生のアレコレ、
それにまつわる社会の問題も描かれる。
まず、巡礼の旅なのにまともな信仰者がいないこと、すでに、観光ツアーと化していること。
フランス人の、外国人問題。
特に差別、就職問題。
少年二人は、よれよれの服に小さなスポーツバッグで参加するのに、
他の参加者は綺麗な格好で、荷物が重すぎるから途中で捨てるブルジョワッぷり。
でも、けしてそれが表に出すぎず、静かに心に残るように工夫されてる。
人間模様もへヴィ過ぎず、監督の暖かい目線や、ファニーなエピソードで楽しく観ることが出来る。
「メッカはまだかなっ!」
とかいう、前半の少年とか。
「メッカじゃなくてキリスト教だよ!?」みたいな。
フランスからスペインの景色も素晴らしいんだけど、
主人公達の心象風景として描かれる夢の風景が、シュルレアリズムの絵画のようで綺麗。
広い平原。手を振る黒い女。馬に変化する。荒野の真ん中で酒に溺れていく女。
こういう、シンボリックで絵画的な映像はさすがヨーロッパセンス。