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本・漫画・映画のレビューブログ。
本は月に10冊ほど、漫画は随時、
映画はWOWOWとTSUTAYAのお気持ち次第(笑)

おっぱいバレー (Linda BOOKS)/水野 宗徳
¥1,260
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おっぱいバレー 実話を基にしたライター水野宗徳さんの初小説

キモ部と呼ばれ、忌み嫌われる男子バレー部に活力を与えたのは、
先生の「おっぱい」だった。
くだらなくて純粋な、男子中学バレー部の健闘物語。

こ、これは正直おもろかった。
くだらないんだけど、ドラマチックで。

発想は、
男子中学生

女の子に興味津々、おっぱいに興味シンシン

そのためには全力投球して頑張れちゃうぜ!
と、いうもの。それだけ。

不良先輩による不良的教育の賜物で、2年次にして中学生活に諦念したがきんちょたちが、
美人先生の魅惑の「おっぱい」が見たいがために、
先生を担いで約束を取り付けてしまう。
それも、麻雀でイカサマをするという、ずるがしこい方法で。
まんまと先生はだまされちゃうけど、「県大会で優勝したら見せてあげてもいいワ」と、約束する。
そこはがきんちょ、うはうはしながらバレーにのめり込んでいくという。

このおばかな物語が可愛いのは、
一貫して、「おっぱいみたいぜ」「ぼくらこずるい男子中学生」
な姿勢が崩れないこと。
バレーに魅力に目覚めても、爽やかなスポーツ少年に華麗なる変身を遂げることなく、
「おっぱい、おっぱい」と練習に励む初心貫徹ぶり(笑)
そうそう、男子中学生なんてこんなもんだよねー
世間知らずな純粋さと、底抜けのおばかさが同居してるんだよねー。

作者は元々舞台や映画なんかのライターさんなだけあって、
キャラクターの肉付けは、若干ステレオ的な配置ではあっても魅力的で巧み。
頭はいいけど、主に小憎たらしい方面に大活用の主人公が好きだ。
たとえ、仲間がおでぶなあほのこや、男前や、真っ直ぐな後輩であろうとも。
幼馴染との淡い恋、という、べた展開があろうとも。
起伏に飛んだストーリーも、べたべたであろうとも。
べたなストーリーは、作者に力量さえあれば、最高に面白くなる。
結末に向かう各エピソードは起伏に飛んで、最後まで弾きつけられた。

ヒロインの先生の、真っ直ぐで、不器用なマドンナっぷりも特筆です。
大人ならでは、先生ならではの、空恐ろしい社会との戦いも含まれつつ、
生徒にいいように翻弄されながらも、
一生懸命、必死に自分の意思=生徒を導くことを貫く姿勢は美しい。
人間的弱さがまた、先生を立体的に造詣する。

文章は、小説というには少しPOP過ぎるけど、さすが手馴れてて読みやすい。
文章のプロがケータイ小説を本気で書いたらこんな感じなんでは。
ものすごく読みやすく、馴染みやすい文体。

出来たら、実写ドラマや映画で見たいなぁ。
小説としても面白いけど、映像メディアで表現した方がしっくりくる気がする。

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桃山ビート・トライブ/天野 純希
¥1,470
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小説すばる新人賞受賞。天野純希 桃山ビート・トライブ

舞姫、三味線、笛に…ボンゴ。
踊り狂え、体の欲するままに。身分なんかぶっ飛ばせ。
安土桃山時代を舞台にした、和風・パンク・バンド小説。

いやはや。いやはや。
これはなかなかに面白かった。
作品を突き抜ける熱量と、キャラクターのおちゃらかさ、奔放さが気持ちいい。

問題点は、もちろん多々ある。
主に、技量において。
構成はあちゃらこちゃら、テンポが悪いし、文章力は、ちょっと切ない。
文章力の拙さが、読んでいて「むぐぐ」となるし、
ネオ時代劇を目指したという、現代語入り混じる文章も、もうちょっとバランスを整えて欲しい。

なにしろ、時代物だと思って読んでいると、ふと、
B専だの、16ビートを刻む心臓、だの出てくる。
織り交ぜるのは大賛成だし、ギャグになるから全然いいんだけども、いかんせんセンスがない。
時代考証だけでなく、描写から時代風味をガンガンに入れて、
そこに唐突にカタカナ語を入れる、ていうメリハリつければ、文章見ただけで笑えるのに。
町田康が好きらしいんだけど、好きならもうちょっと研究してくれ。
まぁ、このへんは新人さんなので、おいおい上手くなるんかもしらん。

いいのは、内容。
1600年前後だというのに、パンクバンドが京の町を席巻するという無茶さ。
しかも、三味線、笛、踊りにボンゴて(笑)
果たしてこれで、描写されているくらいの爆音、熱量が生まれるのかは定かではないケド、
小説の中には暴風にも似た勢いが生まれている。

職業や、時代の設定は、かなり細かい。
歩き巫女など、町から外れた人々についても細かく書いてあるし。
実態が良く分かってないから、嘘をつける、いいとこに目をつけたなぁ、と思う。

その上で、現代の、売れないバンド兄ちゃんみたいな、てけと生活が活写されてるのがなんとも新鮮。

「おれは日本一の三味線奏者(=ギタリスト)になるんやぁ!」
「こんなへぼ一座(へぼバンド)やめたるわいっ」
(以上、概略)

みたいな、そんなテンション。
貴族や公家に媚びる芸ではなく、貴賎問わず、むしろ庶民にこそ受ける芸を、
心震わす、思わず体が動き出すようなセッションを、
その気持ちだけで(わりと適当に)突っ走る様が爽快。

キャラがまた、個性豊か。
特に、ヒロインのちほ好きだ。
舞いや踊りの名手なんだけど、コミュニケーションがまともに出来ない変わり者、
でも、めっちゃケンカが強く、大食いという、ヒロインというよりはマスコット的なキャラで可愛い。
主人公に「いけやぁ!」とか言われて、大の男とをちょいちょいなぎ倒すとか笑えるし。

主人公の藤次郎のてけとさ、お気楽さもいい感じ。
あんまり考えてないんだけど、ムードメイカーかつ、音楽に対する姿勢は真摯で。
でも、あほな発想が一番好きだ。
「河童いるらしで。メンバーにしたれ」と、河童(弥助)探しに赴き、
「きゅうりと相撲が好物なんやて。そら勝負や!」
と、きゅうりを整然と並べた中で、出来もしない相撲をする。
あほだ(笑)

んで、安土桃山のなのに、ボンゴ奏者という、スワヒリ人登場。
弥助。さすがに、ずば抜けて違和感のあるキャラだけども、
幸い小説だから、それほど悪目立ちしてない。
お父さん的役割を果たすし、なにより、ビートを紡ぎだす、桃山・パンクに欠かせない存在。

と、濃ゆいキャラばかりだけども、きちんとバランス取りの笛奏者がいます。
藤次郎に小突き回される女房役の、気の弱い小平太。
ふらふら、だめだめ、と共感しやすいキャラだけども、
ぶちゃいくちゃんが好きという、そんな恋模様でキャラ立ちしてる。
ぐだぐだな、恋べたっぷり、いい味出してるぜ。

と、キャラの魅力が半分くらいしめているといっても過言ではない。
ぶっちゃけ、この4人のシリーズ読みたいくらいだ。
文章技量で手馴れてきたら、さぞやいい味出すと思う。

なにより最高なのが、このキャラの勢いが保たれたまま、
暗いところに落ち込まずに、突き抜けて終わること。
だから、読後感がすごくいい。

時代劇なのにバンド?
時代劇なのにボンゴ?
と、ツッコミどころは盛りだくさんだけど、こういうPOPさはキライじゃないぞ。

ちなみに、「なんでスワヒリ人が桃山時代にいるんだよ」とか突っ込みたくなるが、
”小説だから”以前に、あり得たんじゃないなのかなぁ、と妄想。
豊臣秀吉はバテレン禁止令を出したんだけども、
つまり、宣教師や、ポルトガル人などヨーロッパ人が来ていた時代なんだよね。
んで、その頃、奴隷貿易真っ盛りだったんで、ヨーロッパ人が連れてきた、ていうこともあるかもしんない。
詳しくないから想像だけど。
なにしろ、日本婦女子が奴隷として、ヨーロッパはおろか、アフリカ、インドへ売り払われていた時代だから。
だから逆に、1500年代後半~1600年代前半、ヨーロッパ諸外国舞台で、日本人主役の話も書けるはず。

て、またずれた。話が。
もはやタダのぐだぐだ感想の上、大絶賛してるけども、
熱量と若さを買って。
期待しすぎると微妙とは言っておくぜ。


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ペンギンガイドブック/藤原 幸一
¥2,730
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ペンギンガイドブック 藤原幸一。

地球上に生息する全ペンギンを網羅した図鑑。
学術的区別、身体的特徴、生活行動に関する全てを網羅してある。
豊富な写真と、英訳、コラムと内容は充実。

はじめは表紙のあまりの可愛らしさに借りてきた。
中の写真もベリーキュート。
だ、けども、内実は、中々厳しい。
POPなタイトル、表紙にだまされてはいけない。
中身はペンギンの生態的特長のみならず、過去から現状まできちんと網羅してある。

と、いうのも、このユーモラスで可愛らしいペンギンの半分くらいが絶滅危惧種であること。
全て人間のせい。
地球温暖化による南極の気候変化はもちろん、
見境無い漁によって、餌が採れないこと、
人間の持ち込んだウィルスや、犬、猫、その他動物によって捕食されていること。
人間が来るまでは平和に暮らしていたのに、来たことによって、生存を脅かされている事実。
しかも、昔はペンギン油といって、ペンギンから油をとっていたそうな…
それがその地域の産業で、他に食べていく手段がなかったのかもしれない。
事情はあるだろうし、同じようなことは世界各地で行われてきた。
とはいえ、親しみなれた、”可愛い”ペンギンが、油の材料にされていたという事実にへこむ。

なんのかんのいっても、見た目で気持ち左右されちゃうんだよねぇ。
これが蛇とかだったら、「ひどい!」とかあんまり思わないのかもしれない。
ましてやゴキブリとかだったら…
「鯨取るの怒るなよ」とか軽々しくいえないよな。
理屈つけようが、可愛いもの、綺麗なものを擁護し、
汚いもの、気持ち悪いもの、良く知らないものを忌避してしまうのは、スタンダードな感情だし。
そんな第一印象を、どう理性でカバーしていけるか、が一番重要な気がする。
パッと沸き起こる感情を誤魔化すのは難しいし、押さえつけるのも不自然。
そのあと、どう考えるか、が重要だと思いながら脱線していた。

図鑑といっても差し支えないくらい豊富な写真は全て筆者が撮影したもの。
南極探検隊に加わったのか、それに近いことをしたらしく、生き生きとした生息地での様子がたくさん。
他にも、ペンギンの骨模型や、ペンギンの先祖の化石、
また、ニュージーランドでは、人間の家に巣を作ってしまったペンギンなど、
本当に、ペンギンに関するありとあらゆる写真が載っている。

「ペンギン可愛い可愛い」だけで作られた本でなく、ペンギンに関する全てのことを知ることができる作り。
英訳もついていてグローバル対応。
ただ愛玩するだけでなく、ペンギンに関するあらゆることを知ることが出来る。
筆者の、自然や動物にたいする姿勢や考え方がいいからだろうな。
ペンギンのことしか書かれていませんが、読んで良かったなぁ、と思う。
小説もいいけど、こういうので色んなことを知れるのはいいよね。

とはいえ、やっぱり、ペンギン可愛い。
もふもふの毛玉の雛とか。
まさに毛玉。

18種類もあるけど、中ではアデリーペンギンとチンストラップペンギンが可愛かったなぁ。
やっぱ、可愛もんは可愛い。
巻末のほうにある、ペンギン帽子(ペンギン丸ごと人形がかぶれるやつ)もシュールで可愛かった(笑)
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家守綺譚/梨木 香歩
¥1,470
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梨木香歩 家守綺譚

綿貫征四郎の周りには、人で無いものが連れ群れる。
様々な花の精、犬、人であることを辞めた親友。
日記形式で、あの世とこの世の淡い境目の日常が綴られる。

うんうん。
読み始めは、イマイチだなー、と思ってった。
せっかく、明治あたりの、雰囲気あるお話なのに、文字の選び方にセンスがないな、と。
植物名の表記なんだけどもね。
漢字つかいと、カナ遣いが入り乱れて、せめて統一したらもっと雰囲気出るのにと思ってた。

でも、読みすすめるうちにそんな些細なことはどうでもよくなった。
独特のユーモアと、境界の曖昧さが、すごくいい。
身も蓋もなく言っちゃえば、人間と妖怪が仲良く暮らしてしまう話、なんだけども、
自然=人間以外と、人間が、なんのへだてもなく、
お互いの存在を当たり前のものと受け入れて暮らす日常が心地いい。
舞台の古い時代や、風俗の曖昧さが、なんだかそれを当然のことのように思わせるし、
耳なじみの無い職業(長虫屋とか)、本当にありそうな気がしてしまう。
系統で言えば、怖くない夢十夜、百鬼夜行抄というか。

主人公の性格が絶妙なんだと思う。
貧乏な物書きで、なんでも受け入れる性質。
人であることにおごらず、出来た性格のわんこに嫉妬したり、花に惚れられたり。
どんな存在も、その場にあることを受け入れつつ、1本筋が通っている。
この柔らかいユーモアがすごく心地よくて、どんどんページを繰ってしまう。

周りを彩るキャラクターや、現象も、不可思議で綺麗。
とくにわんこのゴローが好きだなぁ。
わんこなのに、河童に好かれ、妖怪だか、自然の精だかに非常に頼りにされている。
さすがに喋りはしないけど、主人公の面倒も立派に見てくれるし。
主人公の親友もまあまあ好き。
ってゆーか、いいキャラクターなんだけども、ちょっとラフっていうか、
漫画にありそうなキャラ設定が、雰囲気重視のわたしとしては、「むう?」な感じ。
コミカライズされたら、ナンバーワン好きなキャラになりそうだけど。
少女漫画にいそうなキャラなんだよねぇ。
カッコよくて、人をよくからかう、余裕のある人物で。

古い家に住む物書きのところに妖怪が、
エネルギッシュな和尚と仲が良くて、なんていうと、まんま百鬼夜行抄なんだけど、
大きな違いは、主人公は完全に普通のひとで、妖怪というより、自然の精がたくさん出てくること。
この世とあの世の境がとても曖昧で、それらは忌避すべきものではなく、
心ある人にとっては、人間の隣に普通にあるものであったこと。
そして、はっきりとは描かれないけど、文明に進歩により、それが無いものとして追いやられてること。
文明批判とまではいかないけど、「便利な生活の裏に何か忘れていませんか?」という。
その忘れ去られていくものとして、花の精、河童、カワウソ、湖のお姫さま、が出てくる。
水木しげる的な妖怪ではなく、作者オリジナルの不思議な存在。
最終話で出てくる、その主だったひとびとと思われる存在も、ただ優しい。
それもまた、読んでいて心地いい。

様々なシーンの不思議さも、綺麗。
特に、親友が主人公を訪れてくる方法が好き。
掛け軸の中から来るんだよね、舟に乗って。
絵が生きていて、というか、あの世と繋がっていて、鳥も湖も存在しているという。
無言で釣りをしているカワウソとか、積極的に話さないけど、行動する子鬼とか。
馴染むでもなく、忌避するでもなく、受け入れられている様子が好き。
長虫屋や、お守り屋の妙な雰囲気とかね。

願わくば、もう少し、詩的な文章だとさらに世界の美しさが増すんだけどなぁ。
漱石や百閒を目指せとはいいません。
川上弘美くらいの、美しい文章だったら、更に雰囲気が増していいのに。
いや、まあ、結構研究した、時代の出ている文章ではあるんだけど。
日記形式、一人称だから、地の文もこれでいいんだろうけど、
個人的好みとして、時代設定を探究した、美しい文章で描き出して欲しい。

続編て出ないのかなぁ?読みたいなぁ。

おまけ。
ハードカバーの装丁がとっても粋です。
一見地味なんだけども、開くと、内側にとても洒落た絵が載っている。
江戸の着物だね。
表紙も良く良く見ると、縫い目のある、着物として、ちゃんと凝ってるんだよね。
こういうの好きだ。

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猫のあしあと/町田 康
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町田康 フォトエッセイ第二弾 猫のあしあと

町田夫妻と、飼い猫、野良猫たちの生活。
猫それぞれの個性を愛情豊かに描き、
また、人間よりも短く、厳しい生をみつめる。

前作に引き続き。
写真もたくさん、猫との楽しい生活、哀しい生活もたっぷりと。
個人的にはこちらの方が好きかな。
哀しい話は充分多いんだけど、前作と同じくらい、またはそれ以上に考え深かった。

一番大きな違いは、ボランティアの連れてくる野良猫を飼い始めたこと。
拾ってきたけど死んでしまった猫が愛しくて、その兄弟がいるはずだから、
もし見つけたら、連れてきて欲しいと猫ボランティアに頼む話。
これがなかなか酷いんです。
ボランティアが。

なにしろ、最初はともかく、後半は、頼んだのとかすりもしない猫をやたらに連れてくる。
町田さんが次々と引き取ってくれるから、それを見越して連れて行ってる気がする。
ボランティアもとても大変だとは思う。
保護しなくちゃいけない猫はどんどん増えるし、引き取り手や、面倒を見てくれる人はいないし。
厳しい事情があるんだとは思う。
しかし、引き取ってくれるからといって、9匹近く、二人家族の家に持ち込むのはどうか。
しかも、みんな病気なんだし。
もしかしたら、双方にちょっと勘違いあったのかもねぇ。
ボランティア→町田さんもボランティアの一員になってくれた
町田さん→探してる猫をもしも見つけたら、渡してくれるだけで良かった
みたいな。

とはいえ、町田さんは疑問を感じつつも、ちゃんと全部引き取って、誠心誠意世話をする。
1年も生きられない、病気の進行した猫でも。
きちんとケージを買い、様々な薬や水を試して。

「自分が悲しい思いをするから、動物に安楽死を望むんじゃなく、
動物も、最後まで頑張って生きたいはずだから、生かす」

そんな内容のことを書いてあったときは、すごく共感した。
苦しんでいる動物を見るのはすごく辛い。
苦しむ先に助かるとも限らず、医者に、最後通告を受けている時は特に。
もう手遅れだから、何もすることはありません、と治療してもらえないこともある。
でも、それでも、自分たちで出来る精一杯のことをする。
苦しんでいても、もう無理かもしれなくても、動物は生きたいはずだから。

「楽をして、命を助けるということは出来ない」

という意味のことも言っている。
薬をあげたりするだけで、助かるケースなんて、本当に初期症状の場合だけ。
猫エイズや、白血病の場合は、つきっきりで世話をしなくちゃいけない。
そして、報われるとも限らない。

後半は、病気の猫の世話話が続く。
写真を見て、どんなに可愛くても、あまり動くことも出来ない末期症状の猫だったりする。
でも、町田夫妻で分担しながら、必死で世話をする過程は感動する。
目の前にあることを受け止めて、諦めずに、働きかけていく。
それがどんなに難しいことか。
他の命に関わることがどういうことかを教えてくれるエッセイ。

前作以上に猫の写真が豊富で、その猫の辿る結末も全て詰まっている。
ところでお気に入りは、町田さんが猫に話し掛ける言葉。

「可愛いな、かしこいな」

可愛いなはともかく、かしこいな、って(笑)!
本当に好きなんだなー
今度真似して言ってみよう。

あと、写真で、町田さんとにゃんこが一緒に風呂してるやつに笑いました(笑)
うちの猫も一緒にお風呂入るけど、別に珍しくなかったんだなぁ。
(湯船には入りませんが)

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猫にかまけて/町田 康
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町田康 猫フォトエッセイ第一弾 猫にかまけて

町田さんと猫のフォトエッセイ。
飼い猫の小憎らしくも愛らしい行動、共同生活者としての目線、
そして、生き物と暮らすということの意味。

いい話だ。
面白く、かつ、後半は哀しい。
似たような経験があるので、読んでいて非常に心が痛かった。

前半のにゃんにゃん写真+にゃんこ様のやんごとなき生活は、頷きながら笑ってしまう。
突如全力疾走する”クールランニング”
高所から人間の柔らかい部分を付けねらう”急降下爆撃”
あんなに愛し合っていたのに”邪魔邪魔邪魔”。
やるやる!うちの猫もやるわ。

特に”クールランニング”。
うちは、”猫大運動会”と呼んでいる。
それまで、ぼへー、と寝ていたのが、イキナリ、
お耳ぴーん、しっぽぴーん、お目目まんまるになって全力疾走。
わき目も振らず全力疾走。
そして、壁やベッドにぶち当たって停止。
でもまた全力疾走。
なんなんだろね!
意味不明なにゃんこ侍だちが可愛くてかなわん。

あと、”急降下爆撃”に似て、更に非道な技も持ってる。うちの。
”オマエはもう死んでいる”。
布団被ろうが、どこに隠れようが、正確に急所にダブルパンチ。
鳩尾、鼻の付け根などを、後ろ足立ちになって溜めてから、どっかんダブルパンチ。
まじ痛い。
見えないはずなのに、いつも正確に突いてくる。
「お腹すいた」「飽きた」「暗いから付いてきて」等の、わがままな理由により、急所攻撃。
あれはもう、猫シックスセンスとしか言い様が無い。

んが、そんな、「にゃんこ可愛い可愛いかカカか可愛い」だけな本ではないのです。
なんというか、町田さんの性格が良く現れてる。
真摯過ぎるくらい、真摯な向き合い方。
家人の言動も。
猫のために、全力を尽くす。命が助かって欲しいから。
自分に出来ることがあるなら、それを全てやる。
そのくだりは、ほんと泣けた。
ほんとにそう思う。

自分に出来ることがあるなら、全部やりたい。
自分が出来ること、関われることなんてほんと僅かなんだから、出来ることがあるなら全力を尽くしたいと思う。
思うのは簡単だけど、中々出来ないよね。
自分の生活をどれだけ犠牲にして取り組めるのか。

猫の病気は仕方が無い。
仕方がなくても、諦めきれない。
医者に行ってもどうしようもないものを、一体どうしたらいいのか。
それでも、頑張れば、なんとかなるんじゃないか、なんて思ってしまう。
希望を持ってしまう。
でも、希望が叶わない結果になったときの喪失感。

ちっちゃな命が、目の前にあって、手間さえかければ病院にも連れて行けるし、
看病も出来るし、色々調べて薬も取り寄せられるのに、
それに全力傾けるって本当に難しいと思う。
どんどん弱っていく猫を看病するのは辛いし、それよりも前に
「ペットだから」「人間じゃないから」で、手を抜いてしまうことのほうが多い。
だけど、町田さんは逃げずに、当たり前のこととして、猫の全てと向かい合う。
猫好きなら出来ることじゃない。
おおげさかもしんないけど、生きる姿勢の問題だと思う。

やれることがある
と、
やれることを尽くす
は全然別物。
昔、学生時代、野良猫の世話をした時、”よくやりますね”と後輩に言われたことを思い出す。
悪意があって言ったわけじゃないのは分かるけど、突き放された感じで哀しかったなぁ。
でも、猫が好きな人でも、全部が、助からないかもしれない病気の猫のために手段を尽くせるわけじゃないんだよね。
ひとつひとつの出来事と、どれだけ真摯に向き合えるか。
自分の気持ちや生活が辛くなっても、継続して取り組めるか。
まさに、言うは易し、行うは難し。
そのくだりが、極当然の日常として描かれていて、それが、この本を読んで良かったなぁ、
と思った一番の理由。
そして、自分もそうなりたい、って思った。

でも、タイトルの”猫にかまけたばかりいるから、自分は未だ貧乏なのである”とか、
いい年して、猫にやにさげて延々遊んでしまうとか、
相変わらず、若干屈折した町田節は相変わらずなので、町田ファンとしてはそこも面白い。
充分色々成していると思うのに、いつまでたっても
”貧乏なパンク歌手””猫に話しかけてしまう気持ち悪い親父”
とか言っちゃうとこが好き(笑)
”全身毛むくじゃらで可愛いなら、自分も同じことにすれば婦女子にもてるのではないか”と、
髪髭もさもさ伸ばしてしまうくだりは笑った。
そんなんしなくても町田さんもてますから!


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となり町戦争 (集英社文庫)/三崎 亜記
¥500
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となり町戦争 三崎亜記第1作目 小説すばる新人賞受賞作品

平凡な男の元へ、ある日一通の通知が届いた。
それはとなり町との戦争を告げ、協力を仰ぐもの。
目に見える争いも、理由も判然としないまま、”戦争”という事実だけが日常を侵食していく。

これ大好き。
タイトルの絶妙さがすべてを表していると思う。
そのへんに転がっている平凡な言葉が組み合わさって、非凡で奇妙な世界が現れる。
これこそ三崎節ではないかと。
理由も理屈も分からないまま、奇妙な世界に突如放り込まれる主人公の置いてけぼり感、
兵隊も武器も見えない、誰も騒がないのに、着実に進む”戦争”状態。
異常な状況をさらりと、当たり前のように描く、ひょうひょうとした筆致。
大好きだ。
三崎作品は既刊全部読んでるけど、やっぱこれが一番好きだなぁ。

気になるところがないでもない。
主にキャラクターで。
発想や言動の怖い若い男の人物像とか。
このキャラで、戦争の異様さに、ある程度の形が与えられてるんだけど、
物語上必要な存在、ていう記号的存在以上でも以下でもないのが、もにょもにょする。
喋り方のムカつき度、それによる、異様さの強調は理解できるんだけど、
きっと、三崎さん、想像だけで書いたんだろうな、現代っ子、だめ若者イメージ先行で
作りあげたんじゃないだろうか、という印象が付きまとってしまっていかん。

あと、香西さん。
大好きだし、このひとの存在が、この話が絶妙に成立する要因だとも分かっている。
だけども、セックス義務とか、最後は政略結婚を突然させられてしまうところとか、
なんか違和感。
サービス要因&、政略結婚のレトロさが唐突過ぎて。
それに、木のエピソードのウェットさも、このクール&乾燥した雰囲気に馴染まないように思えた。

でもそんくらいかな。
なんで戦争するのか、説明されて無いから意味不明とか、戦争してないじゃんとか、
そういうのは感じなかった。
むしろ、そんな野暮なことをしない、正体不明の空気がいいんじゃないか。

こっから褒めまくるぞ。
「となり町」と戦争をする。
この奇妙なワンアイディアがたまらなく好きだ。
言ってみれば、80年代学園漫画の、学園内闘争のポップさに近いものをイメージさせつつ、
その中身は奇妙なリアリティを伴った不気味さが溢れているところがいい。
狭い範囲の日常に、非日常の最たる”戦争”を持ち込むことによって、鮮明に浮かび上がる非日常感。
なのに、その肝心の”戦争”が全く目に見えない不安感。
更に、主人公には意味不明なのに、周囲は当然のものとして納得しているようで、
知らないのは自分だけ、という、疎外感。
物語の仕組みとしても面白いし、
現実の様々なことの暗喩なのでは?と当てはめて考えていくことも面白い。

たとえば、良く言われるように、
現代日本人にとって、最もリアルな戦争を描き出した
ということ。テレビやネットの先の戦争、闘争、紛争。
最も最近で言えばチベット紛争。
我がことのように憤慨するフリーチベットの活動者、それを覚めた目で見る無関心な人たち。
の、関係性とかね。

もしくは、日常嗜好品のチョコ、その生産をしている人々はチョコを食べたことが無く、
劣悪な環境で搾取され続けているけど、それを知っている日本人は極僅か、ということ。

または、後期高齢者制度。
施行されてから知った人が大多数で騒いでいるけども、そのうち忘れられるだろうこと。
防衛庁が防衛省にいつのまにか格上げされてたみたいにね。

ひとりひとりの生活に深く関わることなのに、
感心を持たない、知らない間に物事が進んでいる、
現実にいくらでもある、自分だけが知らないで、物事が進んでいること、複雑化していること。
そんな様々のことの暗喩に取れるのが、この物語の普遍性と魅力だと思う。

それから、キャラクター。
特に香西さん。
上でちょっぴり批判したけども、やっぱり、香西さんあってのとなり町戦争かと。
三崎作品で(今のとこ)最も成功したキャラクターだと思うなぁ。
非常に事務的で物事を淡々とこなしつつ、
常に丁寧で、言葉にしない先の感情を色々と想像させるところが好きだ。
本当はどう思っているんだろう?何を考えているんだろう?主人公にどんな感情を抱いているんだろう?
とにかく、描かれていないところに対して想像力が膨らむキャラ。
やっている仕事と、淡々とした中に読み取ってしまう、もしくは期待してしまう女らしさ。
三崎キャラは妙に機械的というか、感情のリアルさが感じられないことが多いんだけど、
香西さんに関しては、それが逆作用して、とても魅力的。
主人公との淡い恋模様だって、れっきとした恋なのか、主人公の思い込みなのか、
あと一歩で判然としないし。
香西さんがいなかったら、この作品の好き度も確実に下がったな(笑)

あともうひとり。
上司のひと。
彼の普通のおっちゃん→凄腕戦争やの豹変は、普通に怖かった。

ストーリーの静かな起伏も好き。
書面でのみ変化していく情勢と、
いぶかしみつつも行う、最後の突入劇。
「本当に危ないのかな?しゃれじゃないのかな?」と、直前までリアリティを持てないのに、
そしてやっぱり、銃弾の雨だの、戦車だの、なんて分かりやすいものは出ないのに、
もの凄くハラハラして恐ろしい、緊張感。
そこが一番好きだ。

そして何より、淡々とした筆致が好き。
これだけ妙な物語を、リアリティを持って、普通に描けるってのは特異な才能だと思う。
戦争面を強調することも無く、日常面をフォーカスしすぎてぐだぐだになることもなく。

星新一がまだ生きていたころ、彼が監修するショート・ショートコンテストってのがあった。
その中のひとつに、夜中に男がラーメンを食べたいんだけど、即席めんがどうしても見つからない。
その奮闘を淡々と描いた作品があった。
こうあらすじを書いても何気ないし、ドラマ性も感じられないのに、
その作品は奇妙な存在感を放っていた。
それを思い出す。
もしかして、あれを書いたのは三崎さんじゃないかと今でも思う。
本が手元にないから確かめられないけど、日常の中の非日常感を、筆致だけで描き出す能力が
とてもよく似ていると思う。
確かめられたらいいのにな。


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追記。
自分の考えだけがーっと書きたいから、
普段は他のレビュとか読まない。
書いたあとで初めて読む。
すると、これ評価低いのね…
好きだから構わないんだけどさ。

でも気になるので考えてみたら、
自分は三崎さんを「純粋なSF者、しかもハード。なのに、一般に馴染みやすい文が書けちゃう異能力者」
って思ってるんだな。
反対派の多くは、宮部みゆきさんとか、貴志祐介とか、全部説明してくれるミステリ、エンタ小説と較べるから
フラストレーションが溜まるんだと思う。
なんも説明してくれないし。
SFなのに、SF色を感じさせず一般受けするなんて、なんて素晴らしいんだ!
とか思ってたけど、逆に、それが悪作用するってこともあるのね。
これが、戦争の理由だの、生き生きとした、汗や涙溢れる人物造詣だの入っちゃったら、全く別物になっちゃうのになぁ。
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ジョン・ウー監督 ’86香港 男たちの挽歌

ホーとマークは香港マフィアだ。ホーは弟のキットに仕事を隠して、育てている。
成長したキットは警察に入り、兄がマフィアだということを知り、激しく憤る。
正義感から、兄を含め、マフィアを逮捕しようとして、悲劇が起こる。

うんうん。
なかなか面白かった。
ジョン・ウーはハリウッド進出以後しか知らなくて、
カッコよければ全ていいんだ!の、無茶アクションが大好き。
その原点だってことで見てみた。
80年代の、米欧趣味が踏んだに溢れた画面なんだけど、なんかカッコいい。
譲れない美学がジョン・ウーにあるからだろうね。
基本的にアジア人にはグラサンに合わないと思うし、
主役のホーさんなんか、ちょっと額が後退してるんだけど、
グラサン×黒ロングコートカッコいい。

なにより、アクションめっちゃカッコいい!
ガンアクションメイン、殴り合いで血だらけ、で、もの凄い熱量を持ってるんだけども、
うーむ、カッコいい。
さすがアクション帝王。

キットが、殴りこみの前に、鉢植えに銃を隠しておいて、
それをひとつひとつ取りながら、廊下で撃ちまくるシーンと、
地下駐車場で、カートに乗りながら、ガガガガッ!と撃ちまくるシーンがめっちゃカッコいい。
映像メインの作品ならば、リアリティはともかく、ここまでやって欲しいよねぇ。
実際、銃はそんなふうに撃てない!とかそんなんはある程度、でいいんだよ。
銃の使い方で無くって、見た目のカッコよさ見たいんだもん。

ストーリーは、結構、お涙モノ。
すごい、香港て感じ。家族愛とかが。
ホーさんはいい奴だと思う。
頭が良くて、慕われてて、家族のために最後まで頑張って、
弟に理解されなくても、言い訳せずに、最善の方法を考えていたんだから。
マークの友情も好きだな。
チョウ・ユンファがカッコよすぎるってこともあるんだけども、
明るくっておちゃらけてて、でも友情に熱いという。
最後はうるっときちゃうよ。

でも、キットが好きじゃないんだなぁ。恋人のジャッキーも。
キットは、真っ直ぐで若者らしくっていいやつなんだけども、
それゆえに、尊敬していた兄がマフィアだと知って絶望してしまう。
頑なになる。
それは分かるんだけども、ある意味ワガママ。
何故兄がそうしたのか、全然理解しようとしないんだもん。
何より弟であるキットのためだったのに。もしくは、それ知ってるからこそ、頑なになったのかもだけどさ。

ジャッキーは、唯一のヒロイン役だから仕方無いかもしんないケド、
男たちのカッコよさに較べて、馬鹿すぎて嫌だったなぁ。
なんか、そんな役割しか振られないのが可哀想。
けなげで、必死にいいこなんだけども、抜けてるんだよねぇ。
特に、暗闇で、キットのお父さん手助けしようとして包丁持ち出したとこ。
使えもしないのにそんなもの持ち出さなければ、あんなことにはならなかったのに。
でも、最終的に、ずっとキットを支えようとした芯の強さは好きだなぁ。

時代感も、お国の特徴もたっぷり詰まってるけど、
いい作品なら、それでも古びないもんだねぇ。
どちらかというと、B級だと思うんだけど、でも、いい作品だよ。
そりゃ、タランティーノがリスペクトするわ。
カウボーイ・ビバップで真似しちゃうよねぇ。
…いやいま、BSでやってるじゃん。懐かしくて思わず見ちゃうわ。
そして、スパイクのマフィア時代の話を見るたび、
「男たちの挽歌!」「男たちの挽歌!」
と叫んでしまう(笑)
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鼓笛隊の襲来/三崎亜記
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鼓笛隊の襲来 三崎亜記、第4作品目。

戦後最大の鼓笛隊がやってくる。
わたしの家族は、年老いた義母を迎えて、ひっそり自宅でやり過ごそうとするが。
日常と非日常の間に潜む奇譚短編集。

うーん。
面白かった。
んだけど、前3作品に較べると、小さくまとまりすぎちゃったかなぁ、って印象。

突拍子も無い設定をリアルに感じさせる手腕、
日常のちょっとした違和感を増幅して、明示するテーマ性、
なにより、小説としての完成度、
相変わらず、むしろ、より冴えてきてはいるんだけども、
器用貧乏というか、読みやすくなりすぎて、さらっと読み飛ばしてしまえる。
心に引っかかるものが少ない。
となり町戦争の奇矯さ、失われた町の壮大さは無く、
また、バスジャックの突拍子もないのに、サプライズのある作品としての面白さもない。
これと並行して、もしくは、このあとにまた長編1本控えていて、
そのプロローグ、または腕慣らしとして書いたのかなぁ、って思っちゃう。
前作がごっつりSFだったから、SF苦手な日本人のために、世にも奇妙な物語風に取っ付きやすく工夫したのかな?
ワンアイディアSFでなくとも、もっとがっつりSF風味でも良かったし、
もしくは、テーマをしっかりと入れて欲しかった。
バスジャックも短編だったけど、特にラストの話なんか、喪失感をどうするか、っていうテーマがすごく良かったもん。

悩むのが、面白くないわけじゃないんだよね。
この人の、日常に潜む違和感を、リアルな非日常空間で鋭くえぐってみせるっていう手腕は大好きだし、
読みやすいのに、妙に非人間的というか、淡々と感じる文章も好き。
それらがかなり冴え渡ってるとは思う。これ。

表題の鼓笛隊の襲来なんかは、アイディア的には台風のジョークみたいなのに、
近代化するに連れて失われたもの、
忌避することによって、馴染めるはずのもの(おそらく自然)と敵対するようになってしまった、
というテーマは良かった。

ぞうさん滑り台のある町も、
リアルぞうさんを滑り台にしちゃうっていう奇妙さ、妙に腰の低いぞうさんと、
新しいのに廃れていく新興住宅地のもの寂しい風景が、今の、そしてこれからの日本を象徴しているみたいで
哀しく美しくて良かった。

ボタンは、さすが、もと市役所勤務。
市民に嫌われるお役所と、一般市民の関係をぐっさり書いていて読み応えあった。
お役所仕事って、本当融通聞かないうえに、気持ちが入っていない場合が多い。
それは問題。
でも、様々な条約やら、規則やらって、身勝手な一般市民の要求で作られていくんだよね。
このへんが、理解し合わない役所と市民を浮き彫りにしていて身をつまされるようだった。
こっちが、アレを直せ、これを止めろ、というから、それを拾って条約が出来るのに、
それで失われるものがあるんだよねぇ。
役所とかの、第三機関を通さなくても、市民レベルでなんとかすればいいのに、
それをしなくなってるから色々問題が。
分かりやすく言うと、110番に、傘持ってこいとか、非常識な問い合わせがあるとか、
119番をタクシー代わりに使っちゃうとか、そういう最近問題と、根は一緒。
一部の非常識、もしくは過剰反応で、不便を被る人が出てくるという。
でも、それは、役所の問題だけではなくて、市民レベルの問題でもあるんだよね。

どれもテーマは違うけれども、
しいて言うなら、昔あったもの、でも今は失われていくもの、ってとこかなぁ。
それを、非日常を舞台にすることで、くっきりと浮かび上がらせるという。

うまいんだよ。
うまいんだけど、もっと強い動機で描かれる、熱のある物語が読みたい。
誰にでも読みやすい物語じゃなくてもいいから、SFが好きなら、それをもっとがつんと出してもらってもいいし。
専業作家になったんだから、これからもっと書けるはず。
次に期待しよう。
なんのかんのいっても、ずば抜けて力量のある、大好きな作家さんだから。
期待してるんだー。

しかし、言葉のセンスがいいなぁ。
”鼓笛隊の襲来”って、良く見る言葉がこんな奇妙な響きを持つなんて。

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聖☆おにいさん 1 (1) (モーニングKC)/中村 光
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中村光 聖☆おにいさん1巻、以下続刊

イエスとブッダは、バカンスで日本国東京は立川市に住んでいる。
身分を隠してはいるが、動物は寄ってくるわ、うっかり奇跡を起こしちゃうわで大変な日々。
ぶっとんだ設定のほのぼのギャグ。

イエスとブッダが、ジーパン兄ちゃんと化してアパート住まい。
この、ありそうでなかった設定にプッときて、
お昼寝すると動物がわんさと寄ってきて「ちがうちがう!これ涅槃じゃないから」だの、
お神輿かついで「わっしょい、わっしょい、…アーメンアーメン」と素が出ちゃうだの、
小ネタに多大なる愛を感じて読んでみた。

読後。
なんかこう、ツッコミ不足で、穏やか過ぎて物足りなかった。
更に後。
思い返すたびに、数々のネタにプッとしてしまう、恐るべき持続性。
実はすごいギャグ漫画なのかもしれん。

基本的にはイエスとブッダのボケ倒し。
イエスはちょっと調子が良く、ブッダはちょっと堅苦しい、という違いはあれど、
昨今良く目にする、鋭いツッコミは言語的にも皆無。
漫画的ツッコミ、手だの足だのも出ない。
ふたりとも一人称は”わたし”で、聖人ゆえに、ムカついても、けして相手を攻撃したりしない。
あわあわと気遣い、穏やかに過ごす。
そこがちょっぴりBLちっく。
にて、居心地悪し。

ギャグのメインは、ギャップギャグ。
聖典のエピソードを思わぬところに使うため、1,2コマくらいでかなり笑える。
さっきの涅槃も笑ったけど、
猫に嫌われたい、が一番気に入った。

あのー、兎が身を差し出す話は誰でも知ってると思うんですけど、そのエピソード。
ブッダがお皿持って、庭にいると、にゃんこがぴょんぴょんかけてきて、一生懸命気を遣い、
さらには、ぴょんことお皿の上に身を投げ出し、
「さぁ、このワタシを食べてください(よよよ)」と、自己犠牲。
んで、ブッダが、いらないいらない!そんな重いのいらないから!みたいな。
動物に超好かれちゃうので、
「わたし…どこいっても動物に好かれちゃうんだよね、だから猫にフーッてされたい」(意訳)
とか黄昏るのに大爆笑。
猫にフーッとか……!かわいい(笑)

あと、お祭りに行く話。
2人でテンションマックスでお神輿担いじゃうんだけど、
そこの神社の神様に、おみくじでダメだし食らうやつ。
あれも笑った。

と、このように、かなり笑えるんですよ。
でも穏やかなんだ。
んで、このまったりギャグが後から効いてくる。
ギャグの完成度が高いんだよ…いつまでも笑えるような。

またこれが絵が上手いし、メッセージTシャツというベタな小ネタも楽しみだし。


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