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お役に立ちません。

本・漫画・映画のレビューブログ。
本は月に10冊ほど、漫画は随時、
映画はWOWOWとTSUTAYAのお気持ち次第(笑)

 
ぼくの伯父さん
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ジャック・タチ ぼくの伯父さん。
ユロ伯父さんシリーズとしては実は2作目なそうな。

のんびりと気ままな生活を送っているユロ伯父さん。
近代化と自動化のあくせくとした生活を送っている妹と夫は、ユロになんとか仕事を紹介する。
穏やかなユーモアと、社会風刺の効いた1作。

なんといっても魅力は、穏やかなユーモアと、全編を覆う卓越したセンス。
映像のひとつひとつ、インテリアや美術のモダンなセンス。
今見てもちっとも色褪せず、充分に有効なもの。
そして、けして攻撃的ではないが、行き過ぎた文明批判と、牧歌的な生活への愛情。

主人公のユロ伯父さんはしゃべらない。
古くはチャップリン、近ければMr,ビーンを彷彿とするサイレント&パントマイム。
伯父さんはのんびりやさんで、ちょっとした好奇心や、居眠りなんかで
次々と問題を起こすけども、
それがとってもユーモラス。
ギャグではなく、攻撃的でもないユーモアがとても穏やかで心地いい。

こどもに優しく、”ぼく”(妹のこども)に好かれている。
住んでいるアパートは、古めかしい作りで、
重層住宅のように、ごちゃごちゃと作りあげられた小さな迷路みたい。
壁に作りつけられた小屋に住むカナリヤを鳴かせることが、伯父さんの得意技。

だけど、伯父さんの妹と、その亭主は近代化された家に住んでいる。
なにもかもがオートマチックで、半分家に使われながら住んでいる。
ここが、行き過ぎた文明批判なんだけども、その様子はユーモアに溢れていて、
なにより、そのインテリアがおしゃれ。
無機質なんだけども、モダンで、イームズの椅子なんかも出てくる。
きっちりと整備された庭や、イームズの椅子をテラスに出しての食事、
ブライトカラーのキュートなソファ。
ちょっと憧れてしまう。

好きなシーンは3つ。
はじめの、車が延々道を曲がって行くところ、
次の、こどもたちの悪戯の場面、
そして、最後の、工場でホース★ソーセージを作ってしまうところ。

はじめは、音楽をバックに、道路と車だけのシーン。
これが、整然と車が規則正しく動いていて、見ていて綺麗。
シンプルといえばシンプルなんだけど、1シーンずつとても丁寧に作られていて、素敵。
次に、優雅な弧を描いて駐車場に入り、わんちゃんがたくさん出てくる。
この、わんちゃんたちが、最初と最後に出てきて、物語の流れをしめる作りが好き。
センス溢れているんだけども、あったかい感じ。

次に、悪ガキたちの元気いっぱいの悪戯。
これがすごく微笑ましくていい。
悪戯坊主は困りものだけど、こどもたるもの、これくらいの元気がないとね。
近所の子供が連れ立って、きゃっきゃと町を飛び回る姿はすごく健全だし、こうあって欲しいと思う。
事件多発で、こどもをのんびり外で遊ばせて置けない今は恐ろしい時代だなぁ、と思ってしまう。

最後に、ホース★ソーセージ。
これはファニーで大好き。
ユロ伯父さんが、ホース作りの監督を任せられるんだけど、これは機械の様子を見ている、
という地味でヒマで単調な仕事。
機械に使われてる、とも言えるし、労働者に機械が取って代わったシーンでもある。
でもユロ伯父さんは居眠りしてしまって、機械の不調で、
ホースがところどころくびれて、まるでソーセージのように。
気がついたときは時すでに遅し。
ホース★ソーセージは大量生産され、誤魔化そうとした途中で同僚に見つかり、笑いをゲット。
伯父さんはすごく焦ってるんだけど、ナイスなお仕事です。
もちろん、上司に見つかると怒られるんだけど。
仕事面では失敗だけど、誰も傷つけない穏やかな笑いは見ていてほっとする。

アメリカのきっついギャグものとは全然違って、
全編に穏やかさ、温かさが溢れているのが、一番の魅力。
シニカルに陥りすぎることもなく、ユーモアで包み込んで文明批判を発する姿勢が好き。
それしても、ちっとも古さを感じない。
本当にセンスあるものって、時代に関係ないんだなぁ。

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BIOMEGA 4 (4) (ヤングジャンプコミックス)/弐瓶 勉
¥620
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弐瓶勉 バイオメガ既刊1~4巻。早く5巻出ないかな!

暴走する企業の陰謀で、人類をゾンビへ変化させる菌が地球にばら撒かれた。
人造人間造一と、AIフユは、それを阻止しようと奮闘するが、
地球は変化し、謎の構造物へと姿を変える。

う、うーん……
3行あらすじ幾つも書いたけど、これだけ素っ頓狂になっちゃうのは弐瓶さんくらいだ(笑)
洒落のようだが、意外と要点ついてるんですよ、これ。
そして、ギャグのようだが、なかなかクールなスプラッタホラーSFなんですからー

1~3巻までは思ってた。
あー、弐瓶さん、やっちゃったな、と。
何故か彼はゾンビホラー、グチャスプラッタを偏愛しているようで、
主人公がカッコよかろうが、ヒロインがSF的萌えに満ち溢れていようが(珍しい)、
ゾンビがうようよ出てきて倒していく、あと、常に絶望的状況、じゃ読者つかんだろうと思っていた。
案の定、1巻は打ち切りの憂き目に。
しかし、集英社がいい仕事してくれたのです。
拾って、連載してくれた上に、ことあるごとにプッシュしてくれる。
読者選びすぎてダメなんじゃ、と思っていたけど、これが案外続いている。

ま、BLAME!に較べれば、読者サービスに頑張ってくれてる面もあるのかも。
ストーリーの骨子は、ビジュアルショックをメインにした素っ頓狂SFなんだけど、
AKIRAばりのクールなバイクアクション(ヤリスギ感はあるが、見た目がカッコよすぎて無問題)
映画でも出来ないような、ガンアクション(リアルではないが)
という、弐瓶節を忘れずに、
女子が多い!しかも、なんとなく萌えブームを意識しているような気がする。
特に3巻表紙。
フユはスタンダードだけども、サービスっぽい可愛い表紙が多いし、
妹、ロリキャラ、女子高生、と要素だけ挙げれば相当頑張っています。
そして3巻表紙。
BIOMEGA 3 (3) (ヤングジャンプコミックス)/弐瓶 勉
¥620
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これ。
にに、弐瓶さんの絵じゃない!!!
本屋で見たとき、素で分からなかった。
何が起こったのかと思ったが、中身は変わってなくて安心した(笑)
いくら、要素を詰め込もうが、そこは弐瓶勉。
妹は超キツイ性格でクール、アメコミヒロインのごとく、カッコよすぎるアクション。
ロリキャラや女子高生は、結構おばかなんだけども、見た目が萌えというより、ナイスデザイン。
しかも扱い酷い。
これどこそ弐瓶。キャラは記号に過ぎず、かっこよければオールオーケーなんだ。

絵がメインのひとなんで、絵だけ語るけども、
こんなカッコいいもの描ける人、ほんとオンリーワンだと思う。
デザインのクールさは当たり前、
背景舞台も、ヨーロッパ風で、ファンタジック、すごくいい。
たぶん、ジュネのデリカテッセンとロストチルドレンにかなり影響受けてると思う。
イオンの家とか。

そしてアクション。
これだけカッコよければ、バイクが666kmで走ろうが、宇宙銃だろうがどうでもよいです。
一番好きなのは、1巻で、衛生局の3人を瞬時に撃ち殺すところ。
1秒もかかってないような高速ガンアクションで、映画的なんだけど、
よくこれを漫画で表現したと。
時間差で血が噴出す様子で、高速で撃った、ていうのが表現されてるんだよね。
カッコよすぎる。
あとは、4巻、レールガンで捨て身の攻撃したとこかな。
銃がでかすぎて、まるで刀か斧のように背に背負うところがカッコよかった。

んで、キャラ。
BLAME!よりPOPな分、ファニーなキャラがほんと、いい。
まぁ、熊ですけどね。
コズロフですけどね!
プーさんみたいなデフォルメでなく、めっちゃリアルな熊、絵上手すぎ!なリアル熊なんだけども、
これが可愛い。
基本的な役どころは、
「なんだ?熊を見るのは初めてって顔してるぞ」
というのと、
バイクの後ろに乗って、その超スピード&無茶乗りに、よだれ垂らしたり、嘔吐したりするところかな!
本気だよ。
洒落でいってるんでなくて、ほんとそんななんだ。
熊なのに、誰よりも人間らしく、おそらく、普通の漫画で言えば、面倒見のいいおっちゃんか兄ちゃんキャラかと。
ま、熊ですけどね。
「ハチミツはちょっと…」な熊ちゃんですけどね。
前から思ってたけど、弐瓶さんは人間の表情は苦手だが、
無生物を人間らしく描くのは上手すぎる。

とまあ、追ってきましたが、4巻。
こんなアクロバティック、超展開をするとは。
さすがにびびった。
なんせ、あっさり地球がダメになって、BLAME!的超構造物を旅する話に強制移動。
超展開過ぎる。
あっ、今まではただのプロローグだったんですね、ごめんなさい。
弐瓶さんはスケールが違うぜ。
と、思った。思えばBLAME!も、シボさんが大活躍する3巻までは、イマイチ引き締まらない旅ものであった。
4巻目にして本領発揮するとは恐ろしいひとだ……

最早人間は一人もおらず、人間だろ主張する存在は、地球上の人間とは似ても似つかぬ種族。
奇妙な生き物ばかりが跋扈し、構造物は48億キロ続く。
うーん、俄然面白くなってきました。
これでこそ弐瓶さん。これを待っていた。
4巻を読んで、バイオメガがかなり好きになった。
んで、このあとどうなるんだ。早く続きが読みたい。


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フラワー・オブ・ライフ 4 (4) (WINGS COMICS)/よしなが ふみ
¥557
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よしながふみ フラワー・オブ・ライフ全4巻。

明るく爽やか、だがイマイチ空気の読めない主人公、空気は読めるが心理の読めないオタク、
気の弱く、気遣いすぎるぽっちゃりくん。
個性も思いも数あれど、同じ”教室”で同じ時間を生きる高校生の物語。

面白かった!
なんで4巻で終わっちゃったんだろうね?
4巻に入ってからのシリアスモードの落とし方もどきどきした。

男子高校生3人+女子高校生4人+先生2人+諸々の群像劇で、
それぞれの心理や個性の描き方、友人とのぶつかり方が見所。

予定調和は一切無く、こういう展開なら、こう上手くいくであろう、行って欲しい、は叶いません。
人間関係の日常レベルでの生生しさというか。
別に嫌いじゃないけど、性格が合わない、そりが合わない、
そういうときの接点の探り方ががどきどきする。

学生ちゃんたち、特に女子の交友はリアルでどきどき。
男にしか見えない先生の、不幸人生はよしながドラマチック。
先生の理屈はうちにはわからなかった……
しかし、ここまで極端ではないにしろ、傍から見れば明らかに不幸なのにそれを望んじゃう人っているよね。
そこが感情の不思議なのか……

主人公のハル太が好き。
空気は読めないにしろ、あっさり、さっぱり豪快なとことか、
友達や家族を大事にする、気持ちをちゃんと言葉にしていくとことか。
父ちゃんや母ちゃんも豪快だけど、ひとり繊細な姉ちゃんの危うさも好き。
うまくいってるように見える家族だけど、たぶん、姉ちゃんがそのワリを食ってるんだろうな。
ギリギリっぽいのにひやひやする。
ハルも父ちゃんも豪快で、仲良し家族に見えるけど、
主にハルの病気をめぐってギリギリのところがあって、その影響をモロに受けてるのが姉ちゃんなんだろな。
職場での、イジメまではいかないけど、敵意むき出しの女バトルも恐ろしかった……
うちはそんな状況に陥ったことはないが、ありえそうと思ってしまう。
私、恋人、友人 以外は敵。みたいな。
私の知り合い以外はどうでもいいんです、それがスタンダード。みたいな。
そういう狭い世界観の人間もいるしね。

あと、シゲル。
不幸女すぎる……
特に最後。どーしてそこを選んじゃうのかなぁ!?
相手はただ頼りたいだけで、”うまくやってる俺”幻想に浸っている、上手く物事処理できない男なのに。
そこから逃げるのに真島選んでしまうのも。
幸せを求めているように見えて、実は不幸でいるのが好きなのかも。
見た目のせいで、ストレートな恋愛がしにくかった、っていうコンプレックスのせいで、
ちょっと恋愛感ずれちゃったのかなぁ。
もしくはダメ男好きとか?
何から何まで世話焼いてあげたい!みたいな?

2,3巻はいいんだよね。
それもありかな?楽しいかな?と、応援してしまう。
んでも、4巻でイキナリ、リアル展開に。
真島はまあ、かなりファンタジーな存在だから放っておいて、
シゲルの選択がリアル。
べったべたに自分を必要とされて無いと耐えられないし、何より、体の関係をメインに考えてしまう人なんだろう。
と、いうのは、ヨリを戻したのがバレて、真島とケンカするときに、
「でもわたし寝るわよ!」的なことを言ってしまうから。
寝る以前に会うな、という話なんだけども、シゲルはそこしか言わないもんだから。
この、スッキリ終わらない感のドラマ作りが、うーん、よしながふみ。

女子の細かい心理劇もなかなかぴりぴりしていて良かった。
たとえば、本を借りるエピソード。
ずぼらな人と、神経質な人の話。
ずぼらな人は性格で、悪気は無い、けど、迷惑。
こういう人描くの上手いよね、よしながさん……
人から借りてるものくらいは気を遣って欲しい、と思うけど、それが出来ない、
出来ないということが、神経質な人には理解しにくくて、もやもやしてしまう、という。
どっちも悪くないケド、この微妙なすれ違い。

または、女子の買い物のお話。
それぞれ好きな物が違うから、結局別々に買い物した方が楽しかった、という。
これは、あるかも。
それぞれが、いい気持ちで過ごすためには別行動も必要なんだけども、
一緒にいること=仲がいい 一緒にいない=そんなに仲良くない
っていう、えらい単純な図式についつい縛られてしまうのは、すごい分かる。

よしながさんはきっと、頭が良くて観察眼のあるひとなんだろう。
自分の経験や、フラストレーションを感じたこと、
そして、その原因が単なる個体差で、善意、悪意とは無関係な性格上の違いだってことも
理解したうえで、こういう話になるんだろうな。

ハル太についてもね。
難病を克服した人間で、しかもさっぱりしてて好かれる人柄、
って前提があっても、それを裏返すと、空気読まずに、周りを萎縮させてしまうところがある面を描いたり、
死が常に目前にちらついてるのはどういう状態なのかまで描いたり。
ただの明るい、理想的なキャラに仕上げず、
かつ、主役といえども容赦の無い描写。
相変わらず、キャラにクールだ(笑)

それにしても、大奥もこれも、狂気じみたものを書くときの落とし方や表現が怖いひとだ。
ってゆーか、目が怖い。
イッちゃった目を描くのが上手すぎる。







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続き。

クール漫画の代表格のような、ハードSFを描いている時、1コマだけ怪しいコマはあった。
東亜重工を取り囲む植民者たち。
おやっさんと捨造の驚いた顔。
あれは、笑った……

しかし、弐瓶勉のギャグセンスは想像を絶するものでした。

ブラム学園。

はじめて、その言葉を目にした時、どれほど驚いたことか……
そして、いざ読んだ時、どれだけびびったことか……
あの、クールな絵柄そのまま、建設物の超デザインもそのままに、
セーフガードがサッカー勝って喜んでるわ、ブルマ穿いてるわ、
シボさんパンチラだわ、霧亥が鼻血吹くわ。
それも、超絶カラーのヨーロッパアートコミックの画面で。
死ぬほど驚いた。
このひとこんなん描けるのか!??
まさか、作者本人が超絶技巧を駆使して、こんなあほなものを描くとわ。

甘 か っ た ……!

ブラム学園は続いたのです。
今度は修学旅行編。
和風の超建築という、それこそ、押井守あたりでも描きそうな、クールな舞台。
カッコよすぎる。
で、繰り広げられる、女子の服だけ溶かす光線。
まいっちんぐ!
……
すげぇ。
超絶技巧を駆使したしょうもなさ。
いまどき、こんなあほな展開する漫画あるのか?
ファンの予想を空中一回転、アクロバティックに越える弐瓶。

甘 か っ た ……! !

(萌)ブラム学園。
やっちまいました。
弐瓶さん。
今度は絵柄すら変えて、萌ブラム。
そういう流行は嫌いな人かと思っていたのに。
もう、予想を裏切るとか、そんなレベルじゃない。
このひとは何者なんだ。なぜこんなことが出来るんだ??
こんな、可愛い絵も描けたのか!ってのも衝撃だったけども、
こんな方向性のものを描くとは夢にも思わなかった。

こんな裏切り方をする漫画家を他に知らない。
凄すぎる。
そのうち、うっかりギャグマンガ描いたらどうしよう。
すごく面白そう。
あれだけクールな作風ながら、こんな真逆の、超絶ギャグセンスを持っていたとは。
弐瓶さんが好き過ぎる。
どこまでも追いかけて行きたい。

ちなみに、このマボロシの3作品は夏に単行本に纏められるそうな。
来年はアニメ映画になるはずだけども、果たして進んでいるのかは疑問。
そして、この良さを生かせるのか、不安すぎる。
押井監督のアヴァロンの技法で作ってもらうのが一番合ってると思うんだけど。
もしくは、ギレルモか誰か、海の向こうに売るしかないな。

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BLAME 9 (9) (アフタヌーンKC)/弐瓶 勉
¥630
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BLAME! 弐瓶勉。
一番好きなSF漫画。
漫画これだけあれば満足なくらい&、最も読み返しているもの。

無軌道に建設される都市群に覆い尽くされた世界。
混沌として秩序を失った世界で、
秩序を取り戻すため、霧亥は旅を続ける。

SFは絵だ!
最も地でいく漫画じゃないかと。
全編を覆い尽くす建築物群のスケールの大きさ、対する人のあまりの矮小さ。
霧亥はずば抜けた戦闘能力を持つのに、世界の混沌に対してはあまりにも無力で、
ひたすら歩き回るしかない。
そこがいい。
点くらいにしか見えない大きさで、基本的にとにかく歩いていく。
それがこの漫画の良さの全て。

超構造物が延々と続く初期、ヨーロッパを彷彿とさせる建築群が現れる後期、どっちも好きだなぁ。
空はなく、まともな植物も動物も無く、ただ無機質な建築物が続く画面。
この閉塞感。
このシリーズが描かれたいた時代は、まさにそんな感じだった。
初期の霧亥のキャラクターも、まさに、あの時代の若者。
無口で、反抗心を仄かに示すけども、抗いようが無いから、結局はひとつの目的のために
動き続けなければいけない。
はじめに犬女に、いいように使われ、ヨシオやてっつぁんにうまいこと使われ、
シボさんにも利用されるという、利用されまくる霧亥。
彼の異常な戦闘能力に隠されそうですが、すっげー利用されてます。
相当、周りにないがしろにされてます。
だがそこがいい。

そもそも、霧亥のキャラはギャグと紙一重なところが最大な魅力なわけで。
強さがハンパなさすぎて、時々吹きそうになる。
特に、ラスト、溶岩に溶けてから再構成されて復活するところ。
溶岩に溶けても死なない時点で凄かったが、復活してやたらめったら銃を撃ちまくって、
反動で腕が折れて骨が出るところ。
せっかく治ったのに、敵もいないのに腕を折る男。
おそらく、シボさんを救えなかった無力感から来る怒りで、暴走した、というシーンだと思うんだけども、
その無茶ッぷりが理解しきれなかった……

無口で常にクールで、ギャグは一切無し。
一応、人間的なものだけども、おそらく核爆弾より強いと思われる。
その、無敵ヒーローッぷりが、結構紙一重。
だけど好き。
カッコいい。
8巻あたりかな?二挺拳銃で戦うシーンは本当にかっこよかった。
ベストオブバトルシーン。
銃バトルが本当カッコいい漫画。
とんでも銃だけど、カット割りも上手いし、見た目良ければいいじゃない、で問題なし。

そして、そんな無敵に近い主人公なのに、怪我しまくり、やられまくり。
ヒロインのシボさんも含め、情け容赦のない世界。
そこがまたいい。
スプラッターだけども。

一応目的はあるんだけど、色々なエピソードが挟まれていくのも好き。
1~3巻まで、霧亥が色々な人を助けるところ、シボさん、東亜重工を巡る物語、
レベル9の話。
見所たくさん。

東亜重工のとこも好きだけども、
なにげに、レベル9と建設者のエピソードが一番好きかも。
ヨーロッパのシュールな絵本みたいで。
しゃべる建設者が凄く可愛いし、なにより、このエピソードの時だけ、画面が白いんだよね(笑)
めずらしく、余白の美しさを生かした書き込みで、その画面が好き。

キャラクターはなにげにドモチェフスキーが好きです。
唯一(?)人間ぽいキャラで。
まともな人間はひとりも出てこない話ですが、彼だけは、女性体になにやら憧れがあるらしく、
シボさんを手元に置こうとしたり、プセルを攻撃できなかったり。
だけど、最後ぼろぼろになって死んじゃうし。
キャラクターへの容赦のなさが凄まじい。

白黒の本編も、カラーも、およそ日本人のセンスとは思われない美術センスが本当に好き。
カッコよすぎる。
元ネタはまさにヨーロッパアーティストらしいんだけども、うまく自分風に昇華しつつかつ、
カラーセンスも抜群。
こんなヒトもいるんだねぇ。
日本人で唯一、アメコミの会社と契約し、ヨーロッパアートコミックに参加しちゃうわな。そりゃ。
最近もますます磨きがかかっております。

あーカッコいい。
それしか出てこない。
スプラッタ好きじゃないけど、グロも嫌いだけど、基本的なカッコよさで読み返してしまう。
物語のハードさ、言語センスの良さ(東亜重工、端末遺伝子、生電社、乾人、諸々)、クールさ。
そしてこの人、ものすごいギャグセンスを秘めているという、アクロバティックさ。
次に続く。

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百鬼夜行抄16 [眠れぬ夜の奇妙な話コミックス] (眠れぬ夜の奇妙な話コミックス) (眠れぬ夜の奇妙な話コミックス)/今 市子
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百鬼夜行抄。今市子作。

飯島律はこの世のものでない妖怪を見ることが出来る。
しかし、見るだけである。巻き込まれないように生きるだけ。
律と、妖怪と、家族の物語。

このシリーズの最大の魅力は、リアルな古き良き日本の風景と、妖怪退治をしないこと。
超重要。
これは妖怪がたくさん出てきて、人に悪さもするけれど、
「悪い妖怪どもめ!死ね!」「あほな人間どもめ!死ね!」
という話ではないのです。
主人公の律は妖怪が見えるし、時には撃退できることもあるけど、基本的にはただ見えるだけ。
妖怪と人間は、同じ世界に住んでいるけど、存在が違うから、基本的にノータッチ。
自然災害のようなもの、というスタンスが、アニミズムが脈々と息づく日本の物語で心地いい。

それでいて、片落ちの理想郷話(人間も妖怪も仲良く生きていこうねきゃっきゃ)などというあほな展開にはならず、
あくまで交われないという、厳然とした事実があるのが非常に秀逸。

物語は、ホラーとユーモアが渾然一体となってる。

とにかく怖い!
”描かない恐ろしさ”というか。
血だらけの足だけ書いてあったり、手だけ出てきたり、
あと、身代わり人形もめちゃくちゃ怖かった。
日本的怖さのツボを押さえすぎ。

それと、日本のべたべたな人間関係が恐ろしすぎる。
近所の口さがない噂とか、何年か前の女性感というか。
たとえば、お見合いをすっぽかされたときにおばさんが口にする、
「お見合いの席をすっぽかすということは、相手だけでなく家族や友人まで踏みにじるということ」
とか、
30過ぎて会社辞めて実家戻ってきた娘に対して、
「あんたも30過ぎて会社にいづらくなってってわけ?しばらくうちにいなさい」
とか。
この台詞、親切そうな感じで言ってるのがまた怖い。
昔はこういう考え方が一般的だったのかな?
30過ぎたら女は会社に居づらいとか、いつの時代なんだ…
お見合いの席スルーとかだって、実は仕方が無い理由があったのに、
それを考えもしないで、家族や友人まで馬鹿にしたとか、怖すぎる。


しかし、ギャグというか、ユーモアの部分に、卓越した技をお持ちで。
天然っぽくてかなり面白い。
ボケ役がたくさんいるんだけど、それぞれいい味出してる。
大食い、おとぼけ青嵐&鳥が一番面白いけど、
既刊で一番受けたのは、スズメのお宿がモチーフの話の、
「全自動洗濯機の箱を開けたら、本当に全自動洗濯機で心底驚いた」
ってのが一番笑った。
これだけ抜き出しても何が面白いのか微妙かもしんないが。

キャラクターもすごくいい。
主人公がしっかりキャラだってるのが最大のポイントかも。
受身で、周りに振り回され捲くってるんだけど、
クールで冷静なところや、人間社会にうまく交われないところとか、なかなか奥深し。

基本的に男がほとんど出てこないのも特徴。
主人公は律ひとりだけ、主役格の男は、彼の数パターンが出てくるだけ。
おじいちゃんが主役の回や、最近は開おじさんも出てくるけど、
このふたり、顔が律とそっくりで、性格も似ていて、妖怪に対する接し方が最大の違いという、
いわば律パラレルな存在で。
よっぽど、”律”ってキャラクターが気に入ってるのかな?
デザイン含めいいキャラだと思うけど。

あと、女性陣のたくましさも素晴らしいです。
優しくておっとりしたお母さんが一番好き。
こんなお母さんの元で育ちたい(笑)
現実的でエネルギッシュなおばあちゃんや、クールボケという、美味しい酒豪な司ちゃんも好き。
晶ちゃんはイマイチ。
出たての、元気キャラのときは好きだった。
三郎さんの恋愛関係を引き釣り過ぎて、痛々しい。
最も精神的の弱いキャラだよね。

周りを彩るキャラクター群、特に妖怪シリーズがファニーでキュート。

律の護法神の青嵐は、命だけは守ってくれるけど、
怪我やその他はノータッチ。
家来の鳥2匹も、役に立ちたい気持ちは山盛りたくさんだけど、基本的に役立たず。
シリアスに傾くと、鬼灯さんのごとく、人間と遊んでるつもりで、命を秤にかけていたり。

そして、着物や、律の家などの描き方。
この雰囲気が最高。
作者は、こういう家庭で育ったのかな?と思わせるくらい、レトロな生活がリアル。
着物の細かいところも、ものすごく正確に描いてあって、「すげー」とか思わず思ってしまう。

唯一気になるとすれば、話が分かりにくい、あやふやすぎることがあるってとこ。
作者がかなり混乱したまま仕上げてしまったんじゃないか??
って時がある。
あと、最近は、妖怪の存在が認められすぎてて、それがなんだかなぁ、と思う。
初期は、お母さんは見えない人だったし、主に律ががつがつ妖怪ワールドと接しているだけで、
その他は、見えない、よく分からないスタンスだったのに、
最近は、お母さんをはじめとして、妖怪が居て当たり前の世界に。
あやふやさが魅力なのに、家族ぐるみで妖怪とのお付き合いはいかがなものか。

とはいえ、話のレベルが一定に保たれてるところは凄過ぎ。
16巻まで出てるけど、多少の劣化はあれ、酷すぎて読めないものがない。
話がごちゃごちゃしていて分かりにくい部分はあるけど、
それがうまくストーリーの味になってるし。

何より、レトロな雰囲気で、自然と妖怪と人間の共存、みたいな、幻想的な雰囲気の物語として
オンリーワン。
ずっと続いて欲しい。

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一気に三巻までまとめちゃうぜ。

江戸時代。
男性だけが罹患する奇病の流行で、男性比率がが五分の一まで減ってしまった。
将軍の血を繋ぐために、男性ばかりを集めた大奥が作られる。

これは、油断してるとヤラレます。
出た時期や、作家さんの特性もあって、一見すちゃらかBLモノなんだけども、
中身がガチンコジェンダーSF&、メロドラマ。
相当ぐっさりくる。

もしも、男性が極度に減ってしまったらどうなるのか?
その突拍子も無い前提によって起こるドラマが壮絶。
1巻はわりとファニーで、女将軍が、大奥の色んな男の人に手を出しーの、
奇妙な習俗がどうの、という、いわば紹介編。
主人公の吉宗サマ(女)がなかなかいいキャラで、このひとの話が気になってしょうがない。
一見、好き放題やってるんだけど、実は相当考えてる。
また、城下町で、男がいないためにこどもを作ることの出来ない女たちの必死さがまた、胸を打つ。
この描写で、ドキ☆男だらけの大奥、ではなく、真摯な話なんだな、ってのが印象付く。

2,3巻はガラリと変わって、何故大奥が出来たのか?
これがめっちゃ壮絶。
男だけが死ぬ奇病が流行り始めた頃で、(この病気の描写がまた異様に怖いんだけど)、
将軍家光が病で亡くなってしまい、
その娘に密かに子供を生ませて、血を繋ごうとして生まれたのが大奥。
ここで主役の家光(女)と、有巧(ありこと)の人生が壮絶。

主役は一応、アリコトさまらしいんだけど、
美形だったがために、春日局に計られて、強引に大奥入りさせられてしまう。
お坊さんだったのに、無理矢理遊女を抱かされて、部下を殺されて、そのまま閉じ込められてしまうという。
先に大奥入りしたひとに苛められるわ、従者は苛め&レイプされるわ、
家光はクレージーだわで散々。
だけど、家光も実はもの凄く可哀想な人間なんじゃないか?と気がついた頃から彼女に恋をし、
一時の安息生活に入る。

この二人の恋がドラマチックなんだけど、イマイチ動機が理解しきれなかった。
激しい同情と、持ち前の慈悲深さから、でいいのかな?
苦労してるのは自分だけじゃない、家光こそが被害者だ、と思うことでこんなに激しい恋が出来るんだろうか。

ま、ともかく、1年くらいは幸せだったんだけど、
こどもが出来ないことからまた悲劇が。
好きな人の前から身を引いて、次々と他の男に任せられるのを、ただにこにこ見ているしかないという地獄。
恐ろしすぎる。

んで、家光さんも、はじめはちょっと神経イッちゃってるおそろしー人なんだけども、
実はもの凄い悲劇の主人公で、
まず、出身は、本物の家光が通りすがりの町娘をレイプしたことで生まれた子。
城の奥で匿われて、お母さんとそれなりに幸せな日々を送っていたのに、
家光が死んだことから、世継ぎを生むために春日局に連れて行かれる。
このとき、お母さんと従者は殺され、無理矢理連れ去られる。
母を殺した春日局に頼って生きていくしかないという現実。
猫可愛がりで甘やかされるけど、公にはいないことになっている存在だから、城の一部のものしか、家光のことを知らない。
それをよく理解しておらず、隙を見て抜け出した城内でレイプされてしまう。
そして、こどもを生むけど、こどもはすぐに死んでしまう。
こういう、鬱屈した状況と、春日局のトコトン甘やかす教育で、激しく歪んだ性格に。

で、アリコトが現れて、少し性格は落ち着くけど、
一番の役目がこどもを生むことだから、次々と他の男をあてがわれる。
上様上様とかしずかれているのに、生存意義がこどもを生むことだけ。
悲惨すぎる……

で、元凶のような春日局も、ものすごく苦労して生きてきた過去があり、
アリコトの後任の男たちにもドラマがあり。

もしも男がいなかったらどうなるのか?
ってことの、城下町の真摯なドラマも考えさせられてしまうし、
大奥内の人間模様の凄まじさもすごい。
よしながさんは話の落としどころが怖すぎる。
人間心理の一番恐ろしい部分というか。

特に怖かったのは、何気にお楽かも。
アリコトにこどもが出来ないから、顔が似ているってだけで、城下町から連れられてきたひとなんだけど、
明るくて馬鹿で、浅い野心を持っていて、
こどもが出来たから調子に乗り始めた途端、首を折って半身不随になってしまうという。
さっきまで調子に乗ってたのに、次のページではごはんもまともに食べられないという。
この意味不明なジェットコースターが超怖い。
史実に基づいているんだか、オリジナルなのかわからないけど、
キャラクターに対するこの冷徹さ。
しかもこのひと結局、病気になって死んじゃうしね。

あまりのジェットコースタードラマにのめり込んで読んでしまうけど、
おおまかな骨子としては、メロドラマなのかなぁ。
昼ドラとか、風の木の歌みたいな、凄まじい人間関係と心理対決みたいな。

だけど、世界改変っぷり、そこから作り出される新たな社会機構と諸問題という点で、
ファンタジーよりもSFって言っちゃっていいと思う。
ジェンダーSFは色々あるけど、日本の江戸を舞台にしてしまうっていう荒業はこれぐらいなんでは。
思わぬところから、とんでもない作品が来た!ってとこで。

ふと冷静になると、みんな不幸で凄まじい過去と現在を生きていて、っていう濃ゆさにうっとなるけど、
洒落のような男大奥がジェンダーSF&激しいドラマを生み出していく、
その手腕が圧巻。
続きが気になりすぎる。

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四畳半神話大系/森見 登美彦
¥1,764
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あの時、違うサークルに入っていれば、薔薇色の学生生活が送れたはずだった。
花の大学2年間をしょうもないこと全力追求に費やしてしまった学生の、
異次元並行世界4話。

ふむっ、まあまあ、森見節。
太陽の塔よりもPOP,夜は短しよりはへたれな大学モノ。
主人公のだめっぷり、奇天烈な諸々サークル、怪しげな人々、
これぞ森見なへたれ節。
は、良かったけども、らぶりんガール成分が足りず、最終話が味気なく、
構成が半分くらいだるかった。
故に、諸手を挙げて、おもろかったとは言いがたし。

やっぱり、ヒロインの存在が弱かったのが一番の弱点かなぁ。
強烈に可愛い女の子が書けるのが、森見さんのいいところなのに。

明石さんや、羽貫さんは出てくるし、可愛らしいんだけども、もの凄い脇役で、あまり名場面がない。
明石さんの「むにゅっとしてました」はかなり可愛いんだけども、そこだけというか。
主人公と上手くいく必然性が低く、第一話はともかく、後半ではなんで上手くいくのか
納得いかないものもあり。

羽貫さんは、夜は短し、であの出番の少なさの割には強烈な印象だったのに、
出番の多いこの本では、イマイチ印象が薄い。
なんでだろ。
正体不明感が足りなかったのか、存在の必然性が薄かったのか。
主人公を部屋にお持ち帰りしてしまうエピソードも、どきどきというよりは、なんか居心地の悪い感じだった。
セクシー担当、みたいな役割が、森見ワールドと馴染まなかったのかな。

それと、並行世界ネタの半分成功、半分失敗、のところ。
チャレンジ精神はいいし、どんな選択をしても、結果的には同じだよ、というテーマ共にいいんだけども、
同じ文章の繰り返しは、つい読み飛ばしてしまう。
頑張って書いたのは分かるんだけど。
このへんを上手に焼きなおしたのが有頂天家族かな。
似たような文章の繰り返しは出てきたけども、全く同じ文というわけでもなし、
何より、文章自体の面白さが抜群だった。
なんて試行錯誤の分かりやすい作家なんだ。

奇天烈なサークルの中身が激しく気になったので、それぞれのサークル話が出てきたのは良かった。
”みそぎ”と、”福猫飯店”が特に面白かったかな。
”みそぎ”は、いかにもありそうな、普通のサークル感だったし、
”福猫”は、あ~るとかに出てきそうな、奇天烈学園モノのノリなんだけども、はっちゃけぷりが森見節で素敵だった。
”図書館警察”とか、”印刷所”とか。
なんかありそうに思えてしまう不思議(笑)
名前的に期待していた”ほんわか”が、ただの宗教サークルだったのは拍子抜けしたな。
ありそうだけども、なんかもっと面白いネタが欲しかった。

あと、最終話の、四畳半を延々渡り歩く話は、暗いし、さもしいし、つまらなかった。
この話が、全体の締め役になって、
どんな選択をしてもあんまり変わらないんだなぁ、今を楽しもう、って結論に繋がるのは分かるんだけども、
登場人物ひとりで、延々四畳半生活が続くのはちょっと……
笑えるならともかく、妙にリアルで、厳しい生活だし。
もう一話、POPな話で締めてたら、良かったんだけど。

キャラクターは、小津くんと樋口さんが良かったな。
小津くんは非常にムカつくわけだけども、最終話、なんだか、裏の支配者、みたくなりつつ、
あくまで主人公を手助けしてくれるとことか、ちょっといい奴だった。
身近にはいて欲しくないケド(笑)
正体不明の妖怪感がいい。
でも、準主役といってもいいキャラクターだから、もう一味あっても良かったな。
完全に嫌いにはならないけど、どこか憎めないやつ、ってほどの愛嬌も無かったから。

樋口さんの強烈っぷりは良かった(笑)
有頂天家族読んだ後に読んだから、うっかり、赤玉先生の息子だったらどうしよう、って思ってる(笑)
イギリスへは行ってなさそうだから、それはないかなぁ。
常に浴衣で、とらえどころなし、なんにもして無いわりには、みんなに生活の面倒を見てもらってる。
こういう人嫌いじゃない。
ジャック・タチのぼくの伯父さんみたいだよね。
生産性はゼロだけども、その人柄で、穏やかにみんなに面倒見てもらってる、ていう。

話は、代理代理戦争が一番好きかなぁ。
しょうもなさといい、樋口さんと城ヶ先先輩のキャラといい、阿呆で良かった。
ちょっと、ネタがホルモーっぽい。
しょうもない上、由来の分からない伝統が延々続いているという。
このへんの発想の飛びっぷりは万城目さんに軍配が上がるけど、ほんとにありそうな森見節も好き。
悪戯合戦も、大学生ならば一度はやったことがあるに違いない。
うちん時は、洗濯機にお茶ッ葉淹れられた、ってのがあった(笑)
「でも水だったから、お茶にならなかったんすよねぇ」とか言ってた(笑)
浴衣を桃色に染める、ってのはいいねぇ。

太陽の塔、これ、夜は短し、有頂天、
と、書いていることはほぼ同じなのに、ちょっとした違いで、こうも変わるんだなぁ、てのが一番面白く思ったところ。
特に、夜は短し、とこれは似てるよね。
四畳半のメインは、へたれ大学生の妄想としょうもない生活が若干リアル寄りに、
夜は短しは、大学生活のネタがよりダイナミックかつ、
キャラクタも小説らしく、ファンタジックになったところが一番の違いだろか。
森見さん的には四畳半を大分気に入ってるみたいだけど、それは自分の生活がかなり入り込んでるからだろな。
リアルな思い出をまぶしてるんだと思う。
あと、モテない京大生には激しく愛されてるらしい、これ(笑)

明るくなりきれない、締め切りの四畳半の匂いが漂ってくるようなところがイマイチ。
でも、学生生活や、妖しげなファンタジー性はとてもお気に入り。
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きつねのはなし/森見 登美彦
¥1,470
Amazon.co.jp
薄暗い屋敷に潜み、奇妙な取引を欲する男。
正体不明の通り魔。
僅かに交錯しながら展開する、狐を巡る幻想譚。

うーん。
面白かったし、十分好みの系統の物語だったけど、ワンスパイス物足りなかった。
たぶん、好みか、好みじゃないかのわずかな分かれ目。

森見さんは、この手の、関連するけれども、少しずつ食い違っていくパラレル的な連作短編が好きなのかな?
だけど、内容的には、これまでの本とは異なるもの。
ファニーな、駄目大学生の物語ではなく、奇妙で薄暗く、妖しくも美しい幻想譚。
夏目漱石の夢十夜や、内田百閒の冥途みたいな雰囲気だけども、あそこまでぶっ飛んではいない。
基本的には狐をめぐる短編で、どれも舞台は同じだけれども、
少しずつ設定が異なっていて、主人公も違う。
その僅かな違いが、すっきりしない怪談のような違和感を持って味がある。

蓮芳堂のなつめさんが素敵。
森見さんは女性を描くのが本当に上手い。
もの凄く強い憧れがあって、夢のように愛らしい女性像を書くんだと思う。
物静かで、丁寧な言動のなつめさんは、1作目では重々しくも罪深い過去と動機を持ち、
最終話では、怪異の源である屋敷の主人ということになっている。
この人のことを想像すると、なかなかぞわぞわしていい。
儚くも恐ろしい幽霊や妖怪みたい。
話は完全に重なっているわけじゃないけど、各話が同じ世界だと仮定すれば、
なつめさんは始めは古道具屋だったのに、最後には狐に捕われて、屋敷の主人になっちゃったのかな?とか、
藪の中みたいに、人それぞれですれ違っていく話だと仮定すれば、
ある人にとっては被害者、ある人にとっては加害者の存在なのかな?
とか、色々想像できる。
もちろん、各話が完全に独立していると考えて、この話では被害者、この話では加害者、
と完全に割り切って考えてもいい。

話的には、通り魔の話が一番好きかな。
身近な人物で感情移入しやすいし、高校生達の秘めやかな秘密が恐ろしくも面白い。
管狐(と思われる妖異)をめぐる幼馴染たちの秘密、主人公が実は犯人だった、というオチ、
良質の怪談だと思う。

はっきりとは書いてないけど、最終話でおそらく答えとして用意されてる、
怪異の源の話もいい。
狐の妖怪の話はたくさんあるけれど、理由や目的がいまいちハッキリしないところや、
陰惨ではないにしろ、人間側に容赦のない不幸が起こるのも良かった。

やっぱり、唯一物足りないのはセンスかなぁ。
森見さんが40か50くらいで、こういうの書いたらもっといい味が出るのかも。
はっきりと、これが物足りない!と言い切れないくらい、淡い違いなんだけども、
現代作家でいうと、川上弘美の龍宮くらいの雰囲気があればもっと良かったなぁ、と思う。
文章自体の詩的な美しさだとか、怪異の幻想性の高さだとか。
もう一歩踏み込んで、美しすぎて怖いような、純粋すぎて切ないような雰囲気があれば良かったかなぁ。
とはいえ、個人的な趣味なので、実際そうなって面白いかどうかは未知数。

ともあれ、森見さんはこういうのも書けるのか、というのは嬉しい収穫。

ザ・万歩計/万城目 学
¥1,260
Amazon.co.jp

万城目学のエッセイ集。

ホルモー、鹿男の発想の元は?どんなふうにして小説を書いてきたのか?

小説よりもぶっ飛んだ作家の日常。


ただのエッセイとしては、特別にうまいわけではない。

文章はちょっと冗長だし、すっとぼけた話の飛躍は、小説ならともかくエッセイだと肩透かし感がある。

だけど、大好きな万城目さんの生の声だからこそ、読者にはたまらない本。


万城目さんの好きなところは、希代のほら話作家なところ。

つまり、どこまで本気かわからない作家性。

ネタなんだか、大真面目なんだか、素っ頓狂で人を食った話を、大風呂敷で展開するという。

人を選びそうな物語テーマの割りに、ギャグとして面白いから、色んなひとに受け入れられる。


ホルモーにしろ、鹿男にしろ、やたらに壮大なファンタジーが物語の芯ではあるけれど、

そこまでそれを本気で書いてるかわからないところがいい。

ファンタジーを真剣真摯に書き連ねているんじゃなくって、

ネタ、笑い話のひとつとして展開しているような、どこまで本気かわからない匙加減がほんっと絶妙で、

このひとだけの天才的な才能だと思ってる。


よく、生来の作家と、努力型の作家がいる、なんて書いてきたけど、

このひとはストレートに天才肌。

それが、このエッセイ読んでよくわかって嬉しかった。

少し遅咲きだったのが不思議だったけど、単に書き始めるのが遅かっただけの話らしい。

本格的に作家を目指して2年でデビュー、ランキング上位に上り詰めたっていうんだから。

もちろん、その2年間や、仕事しながら書いていた時代、相当苦労してたんだろうとは思う。

でも、同じように苦労しても、10年以上経ってようやくデビュー出来るひとがぼろぼろいる世界だから、

2年足らずでこの状態は、相当な才能の持ち主。


高校の頃から、突拍子も無い飛躍した発想の持ち主だったらしく、

その上、やたらに旅行好きで行動力があり、人がしないような経験をばんばんしているところにびっくり。

鹿男の発想元がモンゴルにあったとは。

鹿男自体突拍子も無い話だけど、

万城目さんの、モンゴルでトナカイと共に暮らした日々のほうが、

スケールでかすぎて現実感が無い。

椎名誠的冒険を、ちょっと近所行ってきましたレベルでさらっとこなしてしまう万城目さんは新人類だと思う。

小説より、作家の実生活の方がドラマチックとかってどういうこと!?

そりゃあ、こんな体験を積んでる人なら、突拍子も無い話書くわ、と思ってしまった。


ただ心配なのは、この人は才能がありすぎて器用貧乏になってしまいはしないか、ということ。

天才型の作家より、ともすると努力型の作家が売れてしまうのは、

より大多数の人に合せた、サービス満点の話を不断の努力で書き上げるからで、

構成力あり、人物造詣良し、発想力抜群のこの人の場合、

まとまりすぎて普通の話に陥ってしまったり、さらっと読めすぎてしまう話になりはしないか心配。

ホルモー六景とかね。

もちろんすごく面白かったけど、普通に一冊書けそうな内容を6つの短編にして、

さらっと書くことはなかったんじゃないかと。

本人がどうしても書きたいというより、周りの評判があんまり良かったから、外伝を書いて見ましたという感じで、

薄味に仕上がってしまってた。

勿体無い。

このエッセイ集だって、面白かったけど、ボイルドエッグのためにブログ書くより、

鹿男みたいに充実した話を展開していく方が、作家としてこのひとのためになるはず。

せっかく本も売れてるし、妙に小さい仕事をちょこちょここなさなくても、

しっかりした物語を確実に生み出していくほうで実績稼げばいいのに。


まぁ、新人さんだからね…

専業で食べてくために、しっかり仕事こなしていくことはいいことだと思うんだけど、

もしも作家にマネージャーがいるなら、自分の売り方にもう少し気を遣って欲しいな、と。


森見さんだったら、”面白きことは良きことかな”って一貫したテーマがあるし、

硬質な文章、時代がかった風味をこよなく愛すること、

っていう、どうしても書きたいもの、がよくわかるけど、

万城目さんの場合は、自分のそういう衝動を少し誤魔化しても

それなりに楽しめるものが書けてしまう事、

お世話になった出版社のために、ちょこちょこ仕事をこなせてしまうことが心配。

鹿男、ドラマ効果もあってか売れてるけど、似たタイプの作家としては森見さんに一歩リードされてしまってるし。


この二人の最大の違いは、どうしても書きたいテーマがあるか、ないか、なんだよねぇ。

万城目さん、ものすっごく面白いから、ただの楽しませるためだけのエンタ作家にはならずに、

どうしても書きたいこと、万城目さんにとって必然性のあることを書いて欲しい。

次作はどんなのがくるのかな?

もう書いてるみたいだからすごく楽しみ。

サリオは作家の好みがすごくうるさい方だけど、

万城目さんはものすごーく大好きな作家さんだから頑張ってほしいなー。