読書感想:『スピリットベアにふれた島』ほか2011年課題図書
2011年課題図書の中で気になったものを数冊読んでみました。称賛批判合わせて感想書きたくて仕方なくって、ようやく書いたら超長くなったよ!スピリットベアにふれた島 (鈴木出版の海外児童文学―この地球を生きる子どもたち)/ベン マイケルセン¥1,680Amazon.co.jp『スピリットベアにふれた島』(ベン・マイケルセン著 原田勝訳/鈴木出版)暴力事件を起こした15歳の少年コール。「サークル・ジャスティス」という裁判制度に参加した彼は、刑務所に入る代わりに無人島で1年間の一人暮らしをすることになる。“スピリットベア”という語感に、何よりもまず惹かれました。シロアメリカグマの別称なんだそうな。私はゲド然りトルフィン然りソー然り、「傲慢だったり独善的だったりした人が、取り返しのつかない出来事に打ちのめされ改心する」というシチュエーションが好きでして、この物語もかなり好みです。人を信じず、自分の非を認めることもしなかったコールが、自然やアメリカ先住民の精神に触れ変わっていく。その贖罪の過程が丁寧に描かれています。コールがスピリットベアに倒されてから救助されるまでの描写は圧巻。空間的にはほとんど動かないにも関わらず、かなりのページが割かれています。巣から放り出された鳥を眺め、はじめて自分以外の存在に心を配る。地面に横たわりながら、腕だけを動かしミミズやネズミを捕えて食べる。死ぬことを恐れ、覚悟し、生きることに目覚める一瞬一瞬の臨場感。「すごい」と思った。スピリットベアはもちろん、コールを取り巻く大人たちにも目を引かれます。特に保護観察官のガーヴィ。些細な場面なんですが、コールが病院で彼の名を呼んだ時、すぐに傍まで来てくれたのが、なんだかやたらと私の琴線を刺激しました。アタウがいいキーアイテムになっていると思う。信頼の証、かつ受け継がれる精神の象徴のような気がする。ケーキの話も良かった。罪を犯した少年の話。でも重いと言うよりスピリチュアルな印象を受けたし、ぐんぐん読み進めていけました。『ブラザー・ベア』に通じるような……あの映画も好きだ。犬どろぼう完全計画/バーバラ オコーナー¥1,575Amazon.co.jp『犬どろぼう完全計画』(バーバラ・オコーナー著 三辺律子訳/文溪堂)アメリカ・ノースカロライナ州に住む少女ジョージナ。父親が突然家を出ていってから、母と弟と3人、車での生活がはじまった。そんなみじめな生活を打開しようと、ジョージナはある計画を思いつく、それは「犬をどろぼうする」というものだった!はたしてこの計画はうまくいくのか? そして、最後に彼女が出した結論とは?(Amazonより)一言で言うと、ホームレスになってしまった母子の物語。つらい状況なんだけど、基本的には、なんとか現状打破しようとするジョージナの奮闘ぶりを楽しむ話かな。随所にハラハラする場面があったし、カーメラとのやり取りにはあたたかいものを感じました。現実的で現代的な家族像が描かれていると思います。ただ何がショックだったかって、自分が「大人目線で本を読むようになった」事実に気付いたことだよ……。車中生活のストレスから、ジョージナが「もっと母親らしくしてよ!」とお母さんを責めるシーンがあるんですが、この台詞を読んで私、ジョージナにイラッとしてしまったんですよ。子どもが、母親の動揺した姿を見たくない、頼れる存在であってほしいと思うのはわかる。でも、夫が失踪して、家に住むためのお金を貯めなきゃいけないのに一日の食費を調達するのに精いっぱいで、頼れる人もいないし、子ども2人を学校に行かせなくてはならない。この状況で、若いお母さんが悠然と振る舞うのは無理だろう、と。お母さんの苦労をわかってあげようよ、と、思ってしまったんです。あと、ちょっと納得いかなかったのがラストのモノローグ。新しい家に住むことになったジョージナが、これでまた前と同じように親友と遊べるようになる、と思いを巡らせるところ。ジョ、ジョージナきみは…お風呂に入れず、毎日同じ服を着ていた自分を避けて別の友だちと過ごすようになった子と、何事もなかったかのように付き合おうと言うのか。私の心が狭いだけか?(笑)こども電車/岡田 潤¥1,365Amazon.co.jp『こども電車』(岡田潤著/金の星社)午後9時。こども電車の最終電車が発車する。こども電車はこどもの夢や希望を運ぶ電車。こどもならだれでも乗れるはずなのに、いつしかこども電車に乗れなくなる子がいる。本当の自分をいつわっている子。心に傷を負っている子。こども電車は今日も走り続ける。一人でも多くのこどもを乗せるために。(Amazonより) 今回の課題図書の中で一番期待していた作品です。銀河鉄道のようなモチーフ、ファンタジーと現実が交錯するプロット、子ども時代の特別さを感じさせるストーリー。うん、私の好きな要素が詰まっている。はずなのに、読んでみると駄目だった。なんか駄目だった。いや、いい話なんですよ。こども電車を通して深まる友情。夢と希望にあふれつつ、いじめという現実も描いている。ホロリとさせる話です。でも、上手く物語に入り込めない。満たされない読後感。展開がどうのと言うんじゃなく、物語全体に、こう、ハリボテ感があると言うか。ツクリモノをツクリモノだと感じさせない、読者にとっての真実に成り得る虚構を生み出すのが作家の腕の見せ所だと思うのですが、このお話はツクリモノの域を出ていない。だからどんなにいいことを書いていても心に響かないんだと思う。たぶんこの作者さんは「小学生の現実」を知らないまま、「自分の想像の中の今時の小学生」を書いたんじゃないかなあ。あれだ……『ハッピーバースデー』と同じ臭いがするんだ。少なくとも私は、車掌さんが銀髪の美青年で名前が夢の介…ってところで失笑を禁じえなかった。作者は水墨画家とのことですが、もうちょっと設定と文章を磨いて話を作って欲しかったです。「こども電車」という着想はすごく好きなだけに、残念。※こっから省エネ感想天風の吹くとき/福 明子¥1,365Amazon.co.jp日本の風土を感じさせる作品。空中砦の街も、日本のどこかにありそうな気がしてくる。夏の祭りの、力強くもの悲しい雰囲気。いいなあ、こういうの。リアリズムだと思って読んでたら、クライマックスがファンタジック描写になって少し驚きました。どうなんだろう、飛ぶとまではいかなくても、子どもなら条件が揃えば浮き上がることって可能なんだろうか。ヤマトシジミの食卓/吉田 道子¥1,260Amazon.co.jp老人と子どもの交流モノにはつくづく弱い。身元不明のおじいさんを家に泊めてあげる、かんこたちの“ゆるさ”に和みました。さらりと書かれているお父さんの心情にドキリとした。本当のおじいさんが亡くなった時から抱えていた後悔を、風助さんによって払拭出来たのかな。「ヤマトシジミの食卓」の正体(?)も、のどかでいて少し郷愁を感じさせる。素敵です。クジラと海とぼく/水口 博也¥1,470Amazon.co.jp夢を持て、そして諦めるなというメッセージ以前に、作者のクジラへの思いが伝わってきて微笑ましくなりました。この本を読む限り、自分が好きだと思ったことを実直に追い求めている人のようで好感が持てます。そういう人の語る話は無条件で好きなんだ私は。作者の半生記でありながら、海への憧れを感じさせると共にウンチクも織り交ぜられていて面白かったです。そしてイラストが綺麗。見開きの口絵に見とれてしまいました。