【前回のあらすじ】


大阪での療養を言い渡され、隊を離れる決意をした沖田。そんな中、寺田屋に身を置いていた龍馬と翔太は薩長同盟成立の喜びを分かち合っていた。しかし、そんな幸せな時間もつかの間、幕府からの刺客に襲われ、左手を負傷してしまう龍馬。それでも、翔太と、三吉、お龍の行動により、龍馬はその命を取り留めた。一方、慶喜は長州征伐に向けて動き出していたのだった。


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【十六夜の月】 第31話


大阪行きを決意してから、約二月半。

お凛さんの親戚の方が使用していたとされる別邸を借りることになり、そこを新居として新たな時間を紡いでいた。


その間、近藤さんは長州へ二度目の訪問を果たし。監察方の島田さんに長男が誕生して、御目出度い報告を受けたかと思えば、その数週間後。谷さんの訃報を耳にしたりと、新撰組は依然として迷いの途から抜け出せずにいた。


「…総司さん?」


縁側で独り胡坐をかき、陽に照らされながら青空を見上げる沖田さんの背中に声を掛けた。ゆっくりと振り返ったあの優しい眼差しを受けて、そっと隣に寄り添う。


「翔太郎は?」

「母乳をあげたら寝てしまいました」

「お疲れ様です」

「いえいえ」


この、「お疲れ様です」と、いうさりげない一言が嬉しい。いつも、私への気遣いを忘れないでいてくれる沖田さんとの会話が、疲れた心と体を癒してくれる。


それでも、こんな日は稀で。

ほとんどは、沖田さんの部屋で床に臥せていることが多くなっていた。


「ようやく、春の心地良い風を感じられるようになりましたね」

「ええ。あ…」


私の言葉に囁くように答え、何かに気付いたようにとある方向を見つめる沖田さんの視線の先を辿った。


「雀が…」

「ほんとだ。可愛い…」


二羽の雀が仲良さそうに、ちゅんちゅんと地面を啄みながら戯れているのを目にして、互いに微笑み合う。


そして、再び視線を雀に戻し、その可愛らしい動きを見つめていた。その時、不意に右手に優しい温もりを感じると同時にそっと引き寄せられた。


次いで、肩に添えられた大きな手によって更にその距離は縮まり。私は、誘われるままにその胸に頬を預ける。


「…夫婦でしょうか」

「親子かもしれないな。どちらにせよ、幸せそうに見え…る…」


肩から手を外し、こちらに背を向けながら咳き込み始める沖田さんの背中を優しく擦ると同時に、雀達の羽ばたく音を耳にした。


咳はどんどん荒くなり、足元にある桶を手にし、顔を埋める沖田さんの背中をただ、擦り続けることしか出来ない。


「逃げて…しまいましたね。今日はとても気分が良かったんだけどな…」


苦しげに咳を堪えるように言うその声は、ひどく掠れていて。口元を赤く染め、弱々しく呼吸を整える沖田さんの顔を覗き込んだ。


「そろそろ部屋に戻った方が…」

「いや、もう少しだけ…」


手渡した手拭を受け取り、口元を拭いながら困ったように微笑う沖田さんの、懇願するような瞳を見つめ返す。


家茂さまと同じように、沖田さんのことも気にかけて下さっている良順先生からは、薬をちゃんと飲み続けていれば死を遠退けられるだろうという励ましの言葉を頂いた。けれど、確実に“覚悟”の日が近づいているとも告げられていた。


「桶を変えて来ますね」



こんなことも、日常の一つになりつつあった。本当の意味で、家族だけの時間を得られたことに感謝しながらも、確実に体力を奪われつつある沖田さんや、四カ月を過ぎたばかりの翔太郎を育てることに不安は尽きないまま。


時に、翔太くん達のことを思い浮かべると同様に、新撰組の進む道がどうか成功へと導かれていますようにと、願わずにはいられなかった。




台所から新しい桶を持って戻ってきた私に、沖田さんは手の平をこちらに向けたまま、もう片方の人差し指を口許に添えた。


(…静かにここで待て、ということ?)


小首を傾げて見ていると、沖田さんはにっこりと微笑みながら視線を下に向けた。その視線の先、一羽の雀が沖田さんのすぐ傍にまで近寄って来ていたことに気付く。


「うわぁ…」


ゆっくりとその場に腰を下ろし、穏やかな瞳で雀を追う沖田さんを見つめた。それは、時に無邪気な子供のような輝きを見せる。


(可愛い…)


何度か沖田さんの膝元を跳ねた後、雀は一声発してその場を飛び去った。次いで、すぐに「また、逃げられてしまいました」と、言って私に苦笑を零す沖田さんに微笑み返す。


「でも、すごいですよ!総司さん」

「あんなに近くで雀を見たのは初めてでした」

「良かったですね」

「はい」


膝の上に乗せたままだった桶を持って立ち上がり、先程と同じ場所に腰を下ろして桶を手渡すと沖田さんは、受け取った桶を足元に置いてまた空を見上げる。


「今年の桜は観に行けそうだ…」

「…っ…」


満面の笑顔で私を見つめる沖田さんに、ぎこちない微笑みを返した。また心がずきずきと痛み始めるも、


「今年だけじゃなくて、来年も再来年も…ずっと一緒ですから…」


そう、切りだしていた。


沖田さんはそんな私の言葉に小さく頷いて、隣の部屋で眠っている翔太郎を見やった。


翔太郎が成長して剣の道を選んだその時、教えてあげたいことが山ほどあるのだと言う、沖田さんの想いを知ってからは以前よりも食事に注意を払うようになり…


ずっと、ずっと一緒にいられますようにと、それだけを願ってきた。


そんな想いを抱えながら、沖田さんの手に指を絡め、もう片方の手で腕に寄り添いそっと肩に頬を預けた。


短くも長い沈黙。

先に口を開いたのは沖田さんからだった。


「最近、よく夢を見るのです」

「夢を?」

「土方さん達と共に京へと上洛した時の…」


絡められたままの指先に力が込められ、すぐに沖田さんの本音であろう囁き声を耳にする。


「生きることが、こんなにも苦しいものだとは思いもしなかった」

「………」

「いつこの夢が潰えても良い。そう、思っていましたが…」


いざ、隊を離れた時の空しさは私の想像以上だったに違いない。けれど、あえて私は肩に頬を預けたまま、必ず隊へ戻れると信じていることを告げた。


「いつかまた京へ戻って、土方さん達と肩を並べている総司さんの勇姿を、翔太郎にも見せてあげたい」

「………」

「知ってました?翔太郎、少しずつ寝返りをうとうとしている時もあるんですよ」


寝返りがうてるようになったら、はいはいをし始め、次第に自分の力で大地を踏みしめる時が来る。


その時、翔太郎にとっても、私にとっても唯一無二の存在である沖田さんが、自分らしく生きている。こんな状況だからこそ、その日を夢見ずにはいられない。


「とても辛いと思いますけど…今は…」

「刀を奪われるだけでなく。このような、当たり前の幸せさえ感じられなくなる日が来る…」

「…っ…」


低く抑えたような声に肩を震わせ、ゆっくりと顔を離して沖田さんを正面から見つめると、その瞳は伏せられ曇り始めた。志半ばで夢を諦めなければならなかった沖田さんの心情を考えれば、当たり前の言動だと思う。それでも、私は沖田さんを見つめながら心の声を伝える。


「総司さんが、どれだけの覚悟を背負っているか…考えただけで胸が苦しくなる…」

「………」

「私も、総司さんがいなくなった時のことを…想像すると…怖くて。でも、私を守るって…死がお互いを別つまで一緒にいようって言ってくれたから…私は…その日が来るまで傍にいるって決めた」


(…っ…)


不意に肩を抱き寄せられ、


「…んです」


沖田さんの胸元に顔を埋めたまま呟いた。息も出来ないほどの抱擁に、やっとのこと口元を解放すると更にきつく抱きしめられる。





「………」


私を抱きしめる手が、耳元を掠める息遣いが震えている。こんなにもはっきりと気持ちを伝えたのは、あの時以来だった。


沖田さんが、私を迎えに来てくれたあの日。私を支えて下さいませんか?と、言って私を見つめる瞳が薄らと白く光って見えたことを思い出す。


あんなに強く生きようとしていた沖田さんが今、こんなにも死を恐れている。



“生き続けたい”



どんな言葉をもってしても、どんなに想いを込めて抱きしめても、決して時を止めることは出来ない。生き続ければ、大きな試練を乗り越えなければならないし、それの繰り返しだろう。


(それでも、私は…)


両肩に手の平の熱を感じたまま、ほんの少しだけ距離を保ち、視線を感じてゆっくりと顔を上げた。


「ずっと、総司さんの傍にいて…」

「………」


沖田さんの、赤みを帯びた目元や耳たぶを見やり、頬を伝う涙を親指の腹で優しく拭う。


「…愛し続けますから」


泣いたように微笑う沖田さんを見つめながら、ありったけの笑顔で微笑み返した。


沖田さんに嫁いだ時から、看取る覚悟を決めていた。沖田さんと出会い恋をしたのも、一度は諦めながら結ばれたのも、きっと全てが必然だったに違いない。


“私は、この人を支える為に生まれてきた。”


烏滸がましいと思われようと、これからもそう信じて強く生きてゆきたい。自分の胸に誘うように沖田さんを抱き寄せ、いつまでもその細い腕を擦り続けていた。


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あれから、三カ月半の月日が流れた。


夏の暑さに時折、気怠そうにしていることもあるけれど、沖田さんの体調は、ほとんど通常通りの生活を送れるほどにまで回復していた。


そんな中、慶応二年七月二十日。


胃の不調などを訴えて床に臥せる日が続いていた将軍・徳川家茂さまが、療養の甲斐も無く、脚気により死去された。享年21歳、その早すぎる死に誰もが哀悼の意を捧げた。


その約一ヶ月前の六月七日。幕府は再び長州へと攻め入り、馬関海峡での戦争で、長州藩相手に敗退を余儀なくされたとの報告を受ける。


家茂さまを死に追いやったのは、この第二次長州征伐(馬関戦争)によるものだったのではないか。


同時に、その相手が龍馬さんや高杉さん達であることを知った私は、複雑な想いを抱きながらも、やっぱり翔太くん達の安否が気になり。どうか、無事でいて欲しいと願うばかりだった。




「今日の夕焼けは特に綺麗だなぁ…」


そう言って、翔太郎を抱いたまま、ゆっくりと縁側へと歩みを進める沖田さんの背中を追い掛け、すぐにその隣に寄り添うようにして翔太郎を見つめた。


「あ、寝ちゃいそう…」

「この寝てしまいそうな感じが、また可愛いんですよね」

「ふふ、やっぱり総司さんの腕の中はどんなゆりかごよりも心地良いのかな」


とうとう眠ってしまった翔太郎を愛しそうに見つめる総司さんの、柔和な瞳が徐々に私に向けられる。お互いに微笑み合う中。初めて沖田さんが翔太郎を抱いた時も、すぐに泣き止んだことを思い出していた。その時、


「そうだ、久しぶりに一緒にお風呂に入りませんか?」

「え…」

「家族三人で…」

「あ、はい……はいッ!」


沖田さんからの突然の言葉に、最初はきょとんとしてしまったけれど、そんな一言が嬉しくて私は満面の笑顔で大きく頷いた。


世の中が大きく変化し始めていることを感じながらも、親子水入らずで満開の桜を観に行けたり、沖田さんが生まれた日にお祝いしたりと、家族だけの思い出も紡ぐことが出来た。


たとえ、つかの間の幸せだとしても…

共に今を生きていることに、心から感謝していた。


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*翔太SIDE*


寺田屋事件後。

すぐに夫婦となった龍馬さんとお龍さんが、薩摩での療養から戻ったのは約二ヶ月後のこと。


龍馬さんの傷の回復を喜んだのもつかの間。再び、大きな試練が俺達の前に立ち塞がった。


争いだけは避けたかった。と、誰もが思っていた最中の幕府軍との戦争。龍馬さんの一言で、亀山社中のみんなは、新たな戦いを受け入れた。


その結果、高杉さん率いる奇兵隊と、龍馬さん率いる亀山社中の活躍により、桁違いの幕府軍を敗退させることが出来たのだった。


そして、俺もその中の一人として、日本を守る為に今、自分が出来ることを精一杯熟していた。




夕刻。


お龍さんらと共に夕食の手伝いを終え、龍馬さんを呼びに部屋へと向かう途中。縁側に胡坐をかいて座り込みながら、空を見上げていた龍馬さんに寄り添うようにして声を掛けた。


「こんなところで、どうしたんですか?」

「…夕焼け空が、綺麗じゃ思うてな」

「そうですね…」


微笑み合い、本来の目的を告げ台所へ戻ろうとして、ふと呼び止められる。


「翔太…」

「はい?」

「あ…いんや、なんちゃーない(何でもない)。すまんのう、今すぐ行くき」


そう言いながらも、龍馬さんは左手首の傷痕を見つめたまま。俺は、そんならしくない龍馬さんが気になり、隣に腰を下ろしながら思っていたことを尋ねてみた。


「薩摩も、長州も…戦がしたいのですか?」

「そうやない。幕府を倒すがは、戦しか方法が無いがやと思っちゅうだけじゃ」


俺の問いかけに、龍馬さんは瞳を細めながら悲しげに呟いた。毎晩のように、遅くまで続く作戦会議などのせいもあり、かなりやつれて見える。


龍馬さんが塞ぎ込んでいる理由の一つは、既に始まってしまった戦争のせいもある。でも、一番の理由は…


池内蔵田(いけ くらた)さんが、長崎から薩摩へ小型帆船ワイルウェフ号にて航行中、大嵐に見舞われてその尊い命を奪われていたことが原因だと思われた。


自分亡き後、亀山社中を継がせるつもりだったという龍馬さんにとって、内蔵田さんの死は特に受け入れがたいものだったに違いない。その報告を得てすぐに泣き崩れた龍馬さんの、掠れた涙声が今も耳から離れないでいる。


「いがみ合いからはなんも生まれんちや。やき(だから)、いつか必ずこの日本(にっぽん)を変えちゃるき」


空を見つめる龍馬さんの、どこか寂しげな横顔を見やった。


(大政…奉還…)


「龍馬さん…」

「………」

「大丈夫ですよ。龍馬さんなら絶対に出来る…」


やっと、あの龍馬さんらしい柔和な瞳と目が合う。


「俺には分かる。いや、信じています…龍馬さんが、今の日本を変えてくれると…」

「翔太…」


これは、もう決まっていることだ。それによって、幕府側の人間や、薩摩藩や長州藩達がどのような道を辿ることになるのかまでは分からないが、大政奉還の日が近いということだけは判明している。


そして、龍馬さんが再び狙われる日も…


(その時こそ、失敗は許されない。必ず龍馬さんの命を守らなければ…)


と、そんなことを考えていた時。


「そないところで何をしてはるんどす?」


少し怒ったような声を耳にして、龍馬さんと共にそちらを見やると呆れたような顔でゆっくりとこちらへ歩いて来るお龍さんを見とめた。


「おう、待たせてすまんぜよ!今、行くき」

「すみません!呼びに来たのに、俺まで一緒になって…」


慌てて腰を上げる俺達に、お龍さんの遠慮ない声が掛けられる。


「何を話してはったんかは分からしまへんけど、いっつも二人で話してはって…」

「今度、おまんにも詳しく話すき」

「今度やのうて、今夜ゆっくり話して頂きます」

「こ、今夜かえ?ちょ、お龍!ちょびっと待っちょってくれ…」


澄ましたように言って、足早にその場を後にするお龍さんの後を追い掛ける、龍馬さんの背中を見つめながら、思わず苦笑を漏らした。


(もう、尻に敷かれているのか…)


そんなお龍さんも、沈みこんだ龍馬さんを心配そうに見守っていたのを知っている。もしかしたら、龍馬さんを元気づける為にわざといつも通りに接しているのかもしれない。


二人の後を追い掛けようとした。その時、背後から聞こえて来る苦しげな声に思わず足を止めた。


(この声は高杉さん?また、辛そうに咳き込んでるな…)


振り返り、声の聞こえて来る方へと歩みを進めると、少し離れた部屋から出て来た高杉さんを確認した。次いで、襟元を正しながらこちらへ歩いて来る高杉さんに声をかける。


「大丈夫ですか?」

「おう…」

「長引いてますね、風邪…」


高杉さんは、俺の言葉に苦笑を零し、龍馬さんと同じように夕焼け空を見上げた。その横顔は、どこか憂いを浮かべているように見える。


「今まで、龍馬さんと話していたんです。ここで…」

「何を話していたんだ」

「日本の…未来について」


ほんの少しこちらへ視線を傾ける高杉さんに、これまでのことを簡潔に伝えた。そんな俺に高杉さんは、片眉を上げながらいつもの自信に満ちた笑みを見せる。


日本を守るのは、俺達なのだと。


「高杉さん…」

「まぁ、お前ならば言わずとも分かっていると思うが…うっ…」


不意に口元を手で覆い、こちらに背を向けながら咳き込む高杉さんの背中を見やった。その咳は、先ほどよりも強く、


「た、高杉さ…」

「大丈夫…だ」


そう言い返されるも、黙っていられずにその大きな背中を擦っていると俺が来ないのを心配したのか、戻って来た龍馬さんの驚愕した表情を目にした。


「どういたがじゃ!?」


龍馬さんが、苦しげに咳き込みながら蹲る高杉さんの目前に跪き、必死に体を支える中。ゆっくりと顔を上げた高杉さんの口元を微かに染めている赤に、思わず目を見開いた。


「た、高杉…おまん…」

「はは、とうとう見つかって…しまったか…」


龍馬さんの驚愕の声に答えると、今度はその鋭くも虚ろな視線が俺に向けられる。


「労咳だとさ」


(え…)


さらりと言う高杉さんから目が離せないまま、俺は、息をするのも忘れそうな程のショックを受けた。


(労咳って、あの沖田総司と同じ…嘘だろ…)


「労咳、じゃと?」

「もう長くはもたんそうだ」


龍馬さんの唖然としたままの視線を受けて、高杉さんはゆっくりと立ち上がりながら答える。すると、龍馬さんは跪いたまま高杉さんを見上げ懇願するように言った。


「ほなら、こない場所で戦っちゅう場合やないろう?!」

「己の生き方に悔いは無い」

「けんどのう!」

「この命尽きるまで!」


(…!!)


叫ぶように言う高杉さんのその向こう、龍馬さんの悲しげに大きく見開かれた瞳を見やる。


「俺は、友と共に戦うと決意したのだ」



“長州の為に。そして、日本の為にな”



そう言って薄らと微笑むと、高杉さんは一瞬片手を軽く上げてその場を後にした。俺は、その去ってゆく背中を見送って、俯いたままの龍馬さんの隣に腰を下ろした。


「イギリス行きを断ったのは、そのせいだったんですね」

「どういてじゃ。どういて、あいつが…」


長次郎さんや、内蔵田さんが亡くなった時。誰よりもその死を悼み、涙を流していた龍馬さん。辛い現実に直面する度に、覚悟の眼差しを目にしてきた。


「わしも、心を決めたぜよ」


その眼差しは龍の如く。

次いで耳にした決意の言葉に、心を震わせずにはいられなかった。




【第32話に続く】




~あとがき~


沖田さんとの花見や、龍馬さんの薩摩療養&新婚生活は…番外編で書きたいと考えています!まずは、本編を書き終えることあせる


こっから先も、翔太SIDEや、慶喜SIDEなども交えてラストまで書いていきたいと思ってますッ。


にしても、お風呂…

沸かしてあげたい(笑)


夕飯…

作ってあげたい(笑)


でもって、例のごとく…

翔太サイドは、龍馬伝のキャストが浮かんでしまいましたハート


そして、同じ夕焼け空を見ていた。

春香と、翔太。


今回も、お粗末さまどした汗