<艶が~る、妄想小説>
艶物語 「十六夜の月」第1話 *沖田総司編*
私なりの…沖田さんの艶物語
今回は、ちいとばかし切なくなるかもしれません…。
続きものになります
良かったら、読んでやって下さいませ
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季節は初春を迎え、桜の木に小さく蕾が実り始めた頃。
いつものように置屋の玄関先を掃除していた時だった。
ひゅーっと、春一番のようなものすごい風に煽られ、思わず目を瞑り風が吹いてくる方向に背を向けた。
「す、凄い風……あ、目にゴミが入っちゃった…」
言いながら、目を擦っていると前から誰かが近づいてくるのが見え、片目を凝らすと、そこには隊の羽織を纏った沖田さんがいつもの笑顔で立っていた。
「春香さん、こんにちは」
目を擦りながら挨拶を返すと、彼は私の顔を覗きこみながら心配そうに声をかけてきた。
「……大丈夫ですか?」
「あ、はい…ちょっと目にゴミが入ってしまって…」
「擦らないほうが良いですよ。ちょっと、見せて下さい」
そう言いながら、彼は私の両頬に触れるとゆっくり顔を近づけ覗きこんできた。その温かい手の温もりを感じつつ、済んだ瞳に見つめられ思わず目を見開いてしまう…。
「あ、あの…お、沖田さん」
「え……あ、すみません」
彼は私の頬に触れていた手を放し、ほんのり頬を赤く染め俯いた。そして、しばらく二人の間に沈黙が流れると、お互いに俯きながらどちらからともなく口を開く。
「……あの」
二人同時に発した言葉が、ユニゾンのようになり顔を見合わせて笑い合う。
「ありがとう、沖田さん。いつの間にかゴミも取れたみたいです」
「そうですか…良かった」
「今日は、また見回りをしていたのですか?」
「はい、最近はこの辺りも物騒になってきましたからね…」
そういえば、つい最近…この辺りでスリや喧嘩が頻繁にあったということを秋斉さんから聞いていた。その度に、沖田さんたちが出向いているのだと思うと、本当に心強いと思うのだった。
「沖田さん達の活躍、これからも期待してます」
その言葉に彼は少し複雑な顔をしたけれど、隊の皆にも伝えておきますと言って微笑んだ。そして、またお座敷へ遊びに来て欲しいことを伝えると、彼は照れ笑いをしながら、是非伺いますと言ってくれたのだった。
「……さて、とても名残惜しいのですが…土方さんを待たせると後が大変なので、今日のところはこのへんで…」
「ふふ…そうですね」
お互いに苦笑し合うと、彼は踵を返し大門の方へと歩き出した。
「あの、沖田さん…」
私は、その背中に声をかけると、彼は立ち止まりゆっくりとこちらを振り返る。
「……はい、なんでしょう?」
「あの……お気をつけて…」
「春香さんも、風邪など引かないように」
そう言うと、彼は後ろ髪を揺らしながら、こちらに背を向けて静かに歩き出した。私は、その背中が見えなくなるまで見送ると、また玄関先のゴミを掃き始める…。
(今度は、いつ会えるかな…)
さっきまで傍にあった彼の笑顔を思い出しながら、そんなふうに思っていた時だった。
「春香はん、そっちはもうええから中へ入り」
屋内から秋斉さんの声がして中へ入ると、彼はお湯で温められた手拭を私に差し出した。
「うわぁ、あったかい。ありがとうございます!秋斉さん」
「冷えた身体を温めんとな」
彼は笑顔で言うと、また忙しそうに早歩きで去って行った。
(でも、さっきの沖田さんの手の温もりには敵わないなぁ…)
沖田さんと初めて会ったのは、いつだっただろう。
新撰組の隊士の皆さんと何度かお座敷に足を運んでくれて、私たちは少しずつ仲良くなっていった。
壬生浪士組改め、新撰組一番隊隊長、沖田総司。
あの有名な、天才剣士本人だった…。
それに気が付いたのは、ごく最近だったが……。
私は、いまだに信じられずにいるのだった。
いつもは、優しい笑顔で私に接してくれているけれど、本当の沖田総司は顔を隠したままなのかもしれない。
人を躊躇い無く切る、情け無用な天才剣士。
聡明で、純粋な心を持つ優しい青年。
どちらが、本当の彼なのだろう?
きっと、私なんかが入り込めない世界がある…。
それは、知りたくもあり…知らないほうが良いとも思う。
いつだったか…。
偶然、彼が見知らぬ浪士たちと切結んでいる場面に出くわし、彼の鬼のような顔を目にしたことがあった。こんな表情もするのか…と、動悸が襲いとても怖くなったこともあったけれど…。
私は、あの無邪気な笑顔が大好きで、出来ればいつも見ていたいと思っている。
そして、いつか…彼に私の気持ちを受け止めて貰いたい…。
何より、彼が危険な目に会わないように…。
そう、願わずにはいられなかった。
~あとがき~
艶が本編を意識しつつ、またまたもう一つのサイドストーリーを書いてみました。
沖田さんの切なさ…。
違う形で描ければいいなぁ~なんて思ってます