<艶が~る、妄想小説>
艶物語 「十六夜の月」 第3話
いよいよ…歴史的にも有名な池田屋事件へ…。
今回から、ちいとばかし…切なくなります
資料を基に、池田屋事件をかなり忠実に描いてみました…。
(お話の中に斬り合うシーンが出てきますご注意ください)
私なりの沖田さんと主人公とのお話…。
また良かったら、読んでやってくださいませ…。
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それから、渋る土方さんに声をかけ、三人で投扇興をして楽しんだ。
沖田さんのはしゃぎっぷりに土方さんは、やれやれというような顔をして見ていたが、私はそんな二人を交互に見ながら、いつまでもこんな平和な時が続けばいい…そんな風に思っていた。
「そろそろ帰るぞ…」
「えっ…もう、そんな頃合いですか…」
沖田さんは、土方さんを見ながら残念そうに呟いた。
楽しい時間はあっという間に過ぎていくものだけれど、沖田さんとの時間は特に早く感じられる。帰り支度をし始める二人を見ながらふと、寂しさで心が揺らいだ。
そして、二人を揚屋の玄関先まで見送ると、寂しそうに俯く私に沖田さんは声をかけてくれる。
「今夜も、楽しかったです。また、いつか会いに来ますね」
「私のほうこそ、楽しかったです…次、会える日を楽しみにしています」
「……総司」
照れながら俯く私たちを見ながら、土方さんがポツリと呟いた。
「この際だ、抱いてやれ」
「えっ?!」
「次はいつ来られるか分からねぇからな…」
突然の土方さんの言葉に、沖田さんは一瞬、ぎょっとして私を見やる。
土方さんはそんな私たちを見ながら、ふっと笑うと、踵を返し大門のほうへ歩き出した。
「……ひ、土方さん…ちょっと…」
彼は、去って行く土方さんに声をかけようとして口ごもると、また私を見て俯いた。私も、そんな彼の困った顔を見つめ俯くことしか出来ずにいる…。
そんな中、先に口を開いたのは彼からだった…。
「あ、あの……春香さん…」
「はい…何でしょう?」
「いえ、やっぱり何でもありません…」
「あの、沖田さん…」
照れて苦笑する彼の手を、私は思いきってそっと握り締めた。
この温かい手、爽やかな笑顔…。
本当は、いつも傍で彼を感じていたい。
そんな気持ちでいっぱいになっていく…。
「なるべく早く会いに来てくださいね…私、ずっと待ってます」
「春香さん…」
「だから、その時までお気をつけて…」
そう言って微笑むと、彼の温かい手が私の手を包み込み、そっと抱き寄せられる。
一瞬のことに、私は戸惑いの声を漏らしたが、すぐに彼の温かい腕の中にすっぽりとおさまると、ふわっとした安心感でいっぱいになった。
「……もう少しだけ…こうしていても良いですか?」
耳元で囁かれ、心臓が大きく跳ねた。
彼の温もりと、優しい囁きに胸をドキドキさせながらも広い胸に寄り添う…。
このまま…時が止まってしまえばいいのに……。
そんな風に思っていた時だった。
大門が閉まる刻になり、私たちは名残惜しげにお互いの身体をゆっくりと離すと、また照れくさそうに微笑み合う。
「じゃ、また…」
彼は一礼すると、後ろ髪を揺らしながらこちらに背を向け歩き出した。消えかかった提灯と、月明かりに照らされながら、私は彼の姿が見えなくなるまで見送ったのだった。
それから、三ヶ月の時が流れ…季節は初夏を迎えた。
会えない日々が続き、彼に会いたい気持ちは日増しに募っていく…。
(……沖田さん、元気かな…)
いつものようにお座敷に出る準備をし、置屋から揚屋へと歩いている途中、ふと空を見上げると、そこには三日月と一番星が並んで輝いていた。
「綺麗な三日月…」
私は足を止め、三日月と一番星を交互に見上げながら彼のことを考える…。
(沖田さんも、この夜空を見上げているかも…)
せめて、彼と同じものを見ることが出来たら…。
でもきっと、沖田さんも、土方さんも、他の隊士の方々もきっとお仕事が忙しいのだろう…。そう思うようにして今夜も、彼への想いをしまい込み笑顔でお座敷へと急いだのだった。
一方、その頃。
治安維持組織である新撰組は、徳川慶喜率いる京都守護職の元、洛陽動乱(池田屋事件)に備え万全を期すと共に、英気を養っていた。
そして、その数日後の六月五日。
新撰組は、長州藩や土佐藩などの尊皇攘夷志士たちが集う池田屋に襲撃をかけようとしていた。
他の隊士たちも、それぞれが散り散りになって近藤さんの襲撃合図を待ち、長州藩士や土佐藩士らが頻繁に出入りしていた丹虎(四国屋)方面を探索し廻っていた土方さん達もまた、その役割を果たすために命がけで動いていた。
「いいか、決して怯むな」
三条通入り口付近を固めていた永倉さんが隊士たちに声をかける。その中には、沖田さんと藤堂さんの姿もあった。
「総司、無理はするなよ」
「……大丈夫ですよ」
藤堂さんに声をかけられ、沖田さんは笑顔で答えると刀の鞘に手を置き近藤さんの合図を待っていた。
そして、裏庭から戻った近藤さんと共に、彼らは一番に池田屋へと乗り込んで行ったのだった…。
まず、中に入ってすぐに池田屋主人と出くわした。
会合に遅れて来た客人だと思い込んでいた池田屋主人は、鎖帷子に身を固めた彼らを見て驚愕し、うろたえながらとっさに裏階段を上りだした。その狼狽ぶりを見た近藤さんは、ここには何かあると判断してすぐに三人に声をかける。
「まずは上だ…」
そう呟いた近藤さんの横で、沖田さんは軽く咳き込み始める。
「ゴホッ…ゴホッ…」
「大丈夫か?辛そうだぞ…」
永倉さんの心配そうな顔を見つめながら、沖田さんは、大丈夫ですから…と、また微笑んで見せた。
「お前達は、ここで待機だ。総司は俺と一緒に来い」
「はい」
すぐさま裏階段を上がって行く近藤さんの後ろを、沖田さんも追いかける。そして、二階の部屋へと突入すると、近藤さんが大声を張り上げた。
「御用改めである。手向かいいたすと容赦なく斬り捨てる!」
突然の登場に、その場にいた浪士たちは狼狽したが、20人近くいた浪士の中の一人が沖田さんに刀を向けて切りかかってきた。
けれど、浪士が切りかかるよりも先に、彼は一刀で瞬時に切り捨てる。
「くそぉぉお!」
それが引き金となり、戦端が開かれた。
他の浪士たちが刀を抜き払い向かってくるが、一人二人と斬り払っていく。
「総司、ここは頼んだぞ!」
「はい!」
二階を沖田さんに任せた近藤さんは、一階へ足を運ぶと一番奥の大広間へ行き襖を勢い良く開いた。
「御用改めである、手向かい致すと容赦なく斬り捨てるからそう思え!」
かん高い声でそう叫ぶと、一人二人と切り捨てる。二階より多い浪士の数にも怯まず、彼は大声を張り上げながら切り結んでいく。
「始まったな…」
男達の声は、裏庭で控えていた原田さん率いる隊士たちの耳にも入り、それが合図かのように屋敷内へと入り込んでいくと、屋敷内の明かりを一斉に消していった。
暗がりの中、一階の中庭では藤堂さんが、そして、土間付近では永倉さんが戸外や表口へ逃げようとする浪士たちを次々と斬り捨てていた。
「でぇあああ!」
藤堂さんが威勢の良い声を出して切り結んでいた時、ほんの少しの油断からなのか、額を斬られよろよろと後ろに倒れ込んだ。
「平助!」
倒れ込んだ藤堂さんを庇いながら、永倉さんは鬼のような形相でその浪士を切り捨てる。
「平助!大丈夫か!?」
「……ああ、すげぇ血で前が見えねぇけどな…お前こそ…その指、大丈夫か…」
「えっ?」
永倉さんは、苦痛に眉を顰めている藤堂さんを心配しつつも、敵と切り結んでいた際に負傷した自分の指を見つめて、「気がつかなかったぜ…」と、呟いた。
そこへ、裏庭付近にいた原田さんたちが応戦し、二人を見守りながら浪士たちと切り結ぶ。
「おい、お前ら大丈夫か?!」
「……ああ…まだ死ぬ…訳には…いかねぇよ…」
原田さんの問いかけに、藤堂さんは苦笑しながら答えた。
そして、原田さんは二人の傷跡を交互に見やると、永倉さんに近藤さんの居場所を尋ねる。
「で、近藤さんは?」
「大広間だ!」
「新八、平助は頼んだぜ」
「ああ、佐之も気をつけろよ!」
藤堂さんの額の傷は深く、流血も酷かった為、永倉さんと共に一時離脱することになり、原田さんたちは近藤さんの元へと急いだ。
そして、二階で一人浪士たちを相手にしていた沖田さんは、天井の低さに阻まれながらも一心不乱に戦っていた。
壬生の狼、沖田…と、言いながら逃げていく浪士が多い中、残った五人の浪士たちは彼と対峙している。
そのうち、浪士の一人が彼に斬りかかるが、剣術においては天才的と言われている彼の前では歯が立たず、瞬時に切り捨てられた。
そして、残りの四人にも同じように斬りかかろうとしたその時だった…。
「うっ……」
彼は苦しそうな声を漏らし、激しく咳込むと、息も絶え絶えになりながら自分が斬り捨てた浪士の上に倒れ込んだ。
「ゴホッ…ゴホッ…うっ…」
「い、今のうちだ…逃げるぞ…」
一人の浪士がそう呟くと、すでに戦意を喪失させていた他の浪士たちも、その場を逃げるように立ち去っていく。
「ま、待てっ…」
虚ろな目で彼は必死に起き上がろうとしたが、息が出来ないほどの苦しさにその場を動けずにいた。
「はぁ…はぁ…くっ……息が…」
丁度その頃、土方さん率いる隊が池田屋の入り口付近に到着していた。
「いくぞ…」
土方さんの一声で、他の隊士たちは一斉に一階を目指して走り込むと、孤軍奮闘していた近藤さんたちを加勢し、応戦した。
~あとがき~
私なりに、池田屋事件を調べて想像して書いてみました
歴史にそって書いていくと、どう描いても同じ展開になっちゃいますが
調べながら書いてたら、ものすごく楽しかったです
…次回から切なくなっちまいます…。
ここから先はもう、完全なる私のオリジナル妄想話に…
かなり切なくなるんですけど…。
また良かったら、遊びにきてくださいませ
今回も、読んでくださってありがとうございました