<艶が~る、二次小説>
俊太郎とのゴールデンウィークを堪能していた主人公。一方、もう一度玄武館付近にある剣道場へと足を運んだ翔太は、龍馬にそっくりな人物と出会い、オープンを間近に控えた秋斉は、慶喜に似た男性と一緒にいた女性との出会いがあった。そして、京都旅行二日目。映画撮影所へ向かった主人公たちの前に現れたのは…。
※俊太郎様の花エンドを攻略されていない方には、多少ネタバレになりますので、ご注意下さい!
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【古高俊太郎~花end後~】第20話
「うわぁ…すっごく素敵な旅館ですね」
「せやろ」
あれから何枚か襦袢と着物、それに似合った飾りなども揃えて貰いご両親に挨拶をしてまずは、今日お世話になる旅館へ辿り着いた。
そこは、京都らしい和の雰囲気たっぷりの素敵な旅館で、親同士も仲の良かった秋斉さんの家族ともよくここを訪れた事など、終始楽しそうな俊太郎さんの話に耳を傾けていた。
そして、受付を済ませ部屋へ案内されると、まず和風な玄関に迎え入れられ胸を高鳴らせながら部屋の中へ足を進める。
「いいですね!とっても…」
八畳くらいの和室の隣に同じく八畳ほどの洋室があり、とても寝心地の良さそうなベッドが置かれていて、その反対側には木の温もりいっぱいの露天風呂が設置されている。
「内風呂まで…」
「折角やし、帰って来たら一緒に入りまひょか?」
「えっ…」
俊太郎さんの温かい手の平が、私の肩をそっと包み込と同時にくすっと微笑む声が耳元を掠めていく。
「あんさんさえ良ければの話しやけど」
「わ、私も…一緒に入りたいって…思ってますよ…」
更に抱き竦められて、またすっぽりとその腕の中におさまってしまう。
(はっ!…またここで躊躇っていては…)
二人で露天風呂に入ることを想像するとやっぱりまだ緊張してしまうけれど、少しでも早く俊太郎さんの想いに答えたいと思い、自分の方から温かい胸に飛び込んでみる。
「…今夜こそは……」
そんな精一杯の言葉に、俊太郎さんは私の後ろ髪を優しく梳いてくれた。
「期待せんで待っとる」
「うっ…」
(やっぱり、伝わっているんだよね…)
また、無理はするな…と、言われたようで。
引っ込みがつかなくなってしまった手をそっと離し、次いで照れ笑いを浮かべる私に俊太郎さんはまた柔らかく微笑んだ。
それからしばらくの間旅館を堪能した後、今日の目的地である映画撮影所へと車を走らせた。
「ここが…」
「わても久しぶりに来たわ」
入口で受付を済ませると、私達はゆっくり中へと歩みを進め、次第にその姿を現す幕末を思わせるような建物に懐かしさが込み上げて来て、自然と歩く速度が緩み始める。
「何だか、あの頃に戻ったみたいですね」
「せやなぁ」
さすが京都の撮影所だけあり、時代劇で観るような建物が連っていて、近寄って観てもその本格的な造りに思わず感嘆の声を漏らした。
「すごい…」
歩みを進めるごとに、私達のように着物姿の男女もちらほらと見え始める中。
(やっぱり、俊太郎さんが一番素敵だなぁ…)
そんな風に思っていると、不意にまた肩を抱き寄せられた。
「ここでも皆、あんさんを見てはる」
「いいえ、私じゃなくて…」
何度も伝え合った言葉。
こういった人の多い場所では特に、周りの女性達の俊太郎さんを見つめる視線が気になってしまう。
本当は、そんなつもりは無いのだと思うのだけれど、俊太郎さんもその女性達の視線に目を向ける時があって…
一瞬でも、俊太郎さんの視線を受け取った女性に嫉妬心を抱いてしまうことがある。
それは、あの頃の記憶が残ったままだからなのか…。
「何を考えとるんや?」
「え、いえ…何も…」
更に私の肩を抱き寄せる俊太郎さんの胸に甘えるように寄り添ったその視線の先に、カメラを構える男性の姿が映りこんだ。
(……??)
思わず足を止めてそちらに目を凝らしていると、隣で俊太郎さんも同じようにその男性に目を向けている。
「似てはる…」
「あの人かも…。秋斉さんと品川駅の駐車場で見つけて以来、登校途中に偶然出会った…」
二人して視線を送っていたからか、男性もこちらに視線を向けながらしばらくその場に佇んだ後、ゆっくりと近寄って来た。
「やっぱりあの時の子か」
「え?」
「着物姿だし、随分と大人っぽく見えたから人違いだったらって思ったんだけど…」
「私のこと覚えていてくれたんですね…」
「こんな可愛い子を忘れる訳が無い。しかし、こんなところで会えるとはね」
慶喜さんに似た男性は、悪戯っぽい笑顔で私に微笑んでくれる。
(…こんなところで再び出会うなんて…)
「ところで、どうしてこんな所に?」
そう尋ねられ、彼氏である俊太郎さんに会いに京都まで来たことを簡潔に話すと、彼は少し残念そうに眉尻を下げた。
「そうか、やっぱり彼氏だったのか…」
「えっ?」
「いや。しかし奇遇だねぇ、俺も昨日京都へ来たばかりなんだ」
「けい…じゃない…あの、なぜ京都へ?」
思わず、「慶喜さん」と言いかけて、慌てて言い直す。
「じつは俺、これでもフリーのカメラマンで。今日から撮影が始まる俳優の取材もしているんだ」
「そうだったんですか…」
(やっぱり、芸能関係の仕事をしている人だったんだ…)
「そろそろ時間だな」
そんな風に思っていると、彼は腕時計を見やってまた私達に視線を戻し、これからその撮影が始まるから一緒に観に行かないか?と、声を掛けてくれた。
「俺と一緒なら、もっと間近で彼らを観ることが出来るしね」
「え、いいんですか?!」
「二人のデートの邪魔にならなければの話だけど」
俊太郎さんの柔和な微笑みを受け、私は目を輝かせながら大きく頷くと、「それじゃあ行こうか」と言って先を歩き出す男性の背中を追いかけようとして、不意にまた男性は立ち止まり。
「そういえば、まだ名前を聞いていなかったし、」と、言いながらこちらを振り返り、「俺も名乗っていなかったね」と、言って微笑んだ。
「俺は、一橋慶喜(よしのぶ)」
「一橋…」
「慶喜…?」
慶喜さんがそう名乗ってすぐに、私達は思わず彼の名前を呟いていた。
「…その反応はもう慣れてる。あの有名な徳川慶喜と同じ名前だからね」
「慶喜さん…」
「ケイキ?」
「あっ!」
今度は本当に呼びなれていた名前で呼んでしまった私の横で、俊太郎さんの笑いを堪えるような息を耳にするも、私は一生懸命言い訳をし始める。
「あ、あの!「慶喜」って、「けいき」とも読むじゃないですか!それで、以前お世話になっていた方が、同じ名前で…その…いつも「ケイキさん」って呼んでいたからつい…」
「そないむきにならんでもええのに」
「そうですけど…」
まだ笑いを堪えるようにしている俊太郎さんに顰めっ面を返すと、今度は慶喜さんから名前を尋ねられ、私達が順番に名乗った途端、慶喜さんは何かを考えるように眉を顰めながら呟いた。
「初めて聞いたはずなのに、何だか懐かしいような…」
そんな慶喜さんを見やり、俊太郎さんと目配せをし合いながら確信する。
“この人はあの慶喜さんに違いない”と。
・
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案内されるまま慶喜さんについていくと、一般の見学場所とは違う場所に辿り着き、何やら大勢のスタッフさんらしき人達が忙しそうにおのおの動き回っているのが見える。
「そろそろかな…」
そう言うと、慶喜さんは抱えていたカメラを構え、場所を移動しながら無言で撮影風景を撮り始めた。
「時々、テレビでメイキング集なんかも観ることがありますけど…」
「こない間近で観られるとは…」
どんどん離れて行く慶喜さんと、撮影風景を交互に見ていたその時、武士のような格好をした俳優さんが十数名、堂々とこちらへ歩いて来るのが見えて来て、
「しゅ、俊太郎さん…」
「ああ…」
その中に、あの人達にそっくりな人を見つけた。
(それに、あの人。昨日品川駅の待合室で見かけた男性と雰囲気が似てる…)
和装だからだろうか…少し遠いけれど、あの端整な顔立ちといい、少し荒くれっぽい格好といい。その凛々しい姿はまさしく、あの時代を生きていた彼らにそっくりだったのだ。
私達が見守る中、彼らは監督さんらしき人と打ち合わせを済ませた後、何度かテスト演技を終えて本番を迎えようとしていた。
「あの、これから本番なのでお静かに願いますね」
ADさんらしき男性達が、周りの人達に同じ言葉を投げかけ回ってから数分後。
いきなり殺陣のシーンが始まった。
「うわ…」
それは、時代劇で良く観る光景ではあったけれど、カットずつ進むせいか意外とすぐに終わり、また何度か同じシーンを繰り返している。
素人目線ではあるし、このシーンだけではあの二人の役どころが味方同士なのかどうかは分からないけれど、土方さんに似た男性が、高杉さんに似た男性と一緒に向かって来る他の役者さん達を斬り捨てて行く。
「初めて見る役者やけど…見事な殺陣さばきやな」
「そうですね…」
あの時代なら、敵同士だった二人。
絶対に、お互いを守り合うなんてしなかっただろう…。
「小野友哉と、永井遥輝」
「え?」
「知らなかったみたいだね。何やら、今年は新選組結成150周年らしく、春からスタートする新選組を描いた連続ドラマにも出演が決まっている」
いつの間にか私の隣にやってきていた慶喜さんが小声でそう言うと、俊太郎さんも囁くように、「それは楽しみどすな」と、言って慶喜さんを見やる。
「最近出て来た若手俳優でね」
「そう…なんですか…」
「取材中に聞いたんだけど、あの二人。本物の高杉晋作と土方歳三に似てるらしいよ」
楽しげに話す慶喜さんの横顔を見つめながら苦笑し、また彼らに視線を戻した。
(…どちらがオノさんで、どちらがナガイさんなんだろう?それに、この名前って…)
「あの、慶喜さん…あ、ごめんなさい!私ってばまた…」
「あはは、ケイキのほうが呼びやすいならそう呼んでくれても構わないよ」
「じゃ、お言葉に甘えて。慶喜さん…」
「何だい?」
「あのお二人の名前って、本名なのでしょうか?」
「どうだろう?俺もそのへんまでは詳しく無くて…」
「そうですか…」
(…もしも、ここにいる慶喜さんも、あそこにいる高杉さんと土方さんに似ている男性も…あの時代を共に生きた人だったとしたら…)
俊太郎さんと慶喜さんの間で、あの二人の撮影を見守りながら、私は高鳴る鼓動を抑えきれずにいた。
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*翔太SIDE*
龍馬さんと共にまた道場へ戻ると、すぐに控室で胴着に着替え子供達の邪魔にならないように身を置いた。
「翔太、これから始めるがえいか?」
「はい、お願します!」
ストレッチはもう既に終えていたらしく、それぞれが竹刀を構えながら龍馬さん達師範を前に、真剣な眼差しのまま殺陣型をし始める。
(…何だか懐かしいなぁ…こういうの…)
龍馬さん達と行動を共にする様になってすぐ、庭で素振りをする龍馬さんや同志の方々を見ていた俺に、「おんしもやるぜよ!」と、声を掛けてくれて。
俺が初めて竹刀を握ったということを話した時の彼らの呆気に取られたような顔が、今でも思い出される。
それからだった。
自分の身を守る為に、本格的に剣術を学び始めたのは…。
そんなことを思い出しながら、久しぶりに竹刀を振ってみる。
「お、さすが剣道を嗜んじょっただけのことはあるな!」
「ありがとうございます」
「いつからやっとったんだ?」
「二年ほど前から…」
「まだ二年やったがか」
その割には、筋がえいと言ってあの笑顔で微笑う龍馬さんに照れ笑いを返した。
(こんなやり取りも懐かしい…)
「けんど、どうも翔太と会うんは初めてやないように思えるんじゃが…」
「…俺もです」
「もしかしたら、以前どこかで会っちょったがかもしれんな」
「そう…ですね…」
「次は手合せや、一通り済んだら翔太の腕前も見せてくれ」
「はい!」
それから、しばらくして手合せが始まった。
師範の「始め」の声を受けて、子供たちの威勢の良い声と床を鳴らす音だけが響く中。三組目の手合わせが終わったその時、
「遅くなって申し訳ありません!」
ドアが開いてすぐ、爽やかな声がすると同時に俺は道場に入ってきた男性に目を奪われた。
(えっ…)
その人は、俺と同じくらいの短髪で、黒の七分袖のシャツにブルーデニムというカジュアルな格好で現れ、息を弾ませたまま「今後、こちらでお世話になる予定の沖田です」と、少し苦しげに微笑む。
「おお、今度こそ本人のようだな」
「え?」
「いや、こっちの話じゃ」
(沖田…?もしかして…)
「後は頼んだ」と、傍にいた師範に告げて道場を去って行く龍馬さん達の背中を見送りながら、心に一抹の不安が過った。
~あとがき~
こちらも、やっとこ全員の位置づけを描き終えました今のところ、収拾ついているだろうか?
慶喜さんと沖田さんと龍馬さんは、すぐに決まったんですけどどうしても、高杉さんと土方さんの職業に迷って(笑)
高杉さんと土方さんには、売れ始めたばかりの新人俳優になってもらいました
ここは、土方×沖田が俳優として新選組のドラマに出る!のが、スタンダードなのですが、その連続ドラマを演じる二人のうち、一人は討幕派の気持ちも描きたかったので、高杉さんが良いかと
それに、今年は本当に新選組結成150周年なんですよね!ちなみに、この後判るのですが、小野友哉が高杉さんで。永井遥輝が土方さんの芸名です
そして、翔太くんと龍馬さんの方には沖田さんが加わり、記憶が戻ると同時にお互いの想いを語って貰ったり、剣道で競い合ったりして貰う予定です
でもって、慶喜さんと一緒にいた女性と出会った秋斉さんのほうにも展開が。
これら全てと関わることになる主人公と俊太郎さんは…。
それと、旅館に戻ってからの二人だけの夜…。
俊太郎さんとお風呂に入れるのか(笑)
今回も遊びに来て下さってありがとうございました