『養生訓』 腫れものへの灸(巻八53) | 春月の『ちょこっと健康術』

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「癰疽(ようそ)や諸々の瘡腫物が初めてできたときに、早いうちに灸をすると、腫れあがらずに消散することがある。たとえ化膿しても、毒が軽くなって、早く癒えやすい。

 うなじより上にできたものには、じかに灸をしてはいけない。その場合は、三里と気海に灸をするとよい。およそ腫れものができてから、七日を過ぎてしまったときは、灸をしてはいけない。

 この灸法は、『三因方』のほか、諸方書に出ている。医者に相談して、灸をすべきである。」


癰疽(ようそ)は、癰と疽に分けられますが、いずれも悪性の膿を中に含むできもの。癰は、浅く小さなものが集まって、全体として大きくなったもの。疽は、範囲が狭いけれど、深くて骨にまで達するもの。


『黄帝内経』 の『霊枢』には「癰疽篇」があり、治療が遅れて悪化させると死に至るものとされ、↓次のようなものがリストされています。

・ のどにできるもの … 猛疽(もうそ)

・ くびにできるもの … 夭疽(ようそ)

・ うなじにできるもの … 脳爍(のうしゃく)

・ 肩のつけねにできるもの … 疵癰(しよう)

・ 腋の下にできるもの … 米疽(べいそ)

・ 胸にできるもの … 井疽(せいそ)

・ 膺(乳房部)にできるもの … 甘疽(かんそ)

・ 脇にできるもの … 敗し(はいし)

・ 股脛にできるもの … 股脛疽(こけいそ)

・ 尾てい骨部にできるもの … 鋭疽(えいそ)

・ 大腿の内側にできるもの … 赤施(せきし)

・ ひざにできるもの … 疵疽(しそ)

・ 足脛にできるもの … 兔齧(とげつ)

・ 内踝にできるもの … 走緩(そうかん)

・ 足の上下にできるもの … 四淫(しいん)

・ 足傍にできるもの … 厲癰(れいよう)

・ 足指にできるもの … 脱癰(だつよう)


↑これらを見ると、糖尿病による壊疽も含まれているように思います。「癰疽篇」には、切って膿を排出するとか、変性している部分を除去するなどの表現があり、外科的な治療法にも言及されていることがわかります。


現代では、おできも含め、皮膚膿瘍と総称されます。皮膚膿瘍ができたとき、初期段階でお灸をすれば、軽くてすむということ。実際、お灸には白血球を集める作用が確認されていますので、効果があるはずです。


うなじより上に関しては、「うなじに灸をしない」 にその理由が述べられています。三里はもちろん足三里 のこと、気海肥満に効く(かもしれない)ツボ に登場していますが、気を補うのに使われるツボです。


『三因方』は、「医学生の読むべき書」 にリストされ、「医書の長所短所をみること」 にも登場しています。『三因方』は俗称で、正しくは『三因極一病証方論』 、南宋の医家、陳言の著です。「三つの病因をはっきりと掌握することができたら、 治療法はおのずと決まる」として、病気の原因を外因・内因・不内外因に分けました。


『養生訓』の原文はこちらでどうぞ→学校法人中村学園 『貝原益軒:養生訓ディジタル版』


春月の『ちょこっと健康術』-すみれ