『養生訓』 二月と八月の灸(巻八48) | 春月の『ちょこっと健康術』

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「いいかも?」というものをお持ち帰りくださいませ。

「脾胃が虚弱で、食が滞りやすく、下痢をしやすい人は、陽気が不足している。こういう人には、ことに灸がよい。火気(かき)をもって土気(どき)を補えば、脾胃の陽気が発生して、よく循環して盛んになり、食も停滞しないで、食欲も進み、元気が増す。

 毎年二月と八月に、天枢、水分、脾兪、腰眼、三里に灸をするとよい。京門と章門にも、交互に灸をするとよい。脾兪と胃兪にも、かわるがわる灸すべきである。

 天枢への灸は、もっとも効果的である。脾胃が弱く、食が滞りやすい人は、毎年二月と八月に灸をするがよい。臍から両側にそれぞれ二寸、または一寸五分でもよい。交互に灸をするとよい。

 艾しゅ(がいしゅ)の多少と大小とは、その人の気力に合わせて定めることだ。虚弱な人や老衰の人には、艾しゅを小さくし、壮数も少なくする。

 天枢などに灸をするときは、気の虚弱な人には、一日一穴か二日に一穴、四日で両穴になる程度でよい。一度に多くして、熱痛を我慢してはいけない。日数がたってから、灸をするのでもよい。」


は、消化吸収を担当していますので、これが弱いと、食べたものがつかえて、食滞(消化不良)を起こしやすく、下痢もしやすくなります。そして、そういう人は、大なり小なり冷えがあり、陽気が不足気味。なので、それをお灸で補うとよい…という主張です。


「火気で土気を補う」というのは、五行の相生関係 によるもの。脾胃は五行の土に属していて、火は土の母ですから、火気を補えば土気も増えることになり、脾胃を強くできる。単に、冷えがあるから、お灸で温めるのではないんですよ。


旧暦の2月2日にすえるお灸を、二日灸、如月灸、ふつかやいとなどと呼び、この日にすえると効能が倍になって、病気をせず、災難をのがれ、長寿を保つとされたそうです。また、8月2日にすえるお灸も、二日灸と呼ぶようです。


小林一茶の句に、「かくれ屋や猫にもすへる二日灸」というのがあります。二日灸は、このように春の季語になっているくらいですから、かなりポピュラーだったのではないでしょうか。


ここに登場したツボは、↓のとおりです。

天枢  … おなかの状態をととのえるツボ

水分 … その名のとおりからだの水分量を調節するツボで、へそから親指幅1本分上にあります

脾兪・胃兪  … 脾胃をととのえるツボ

腰眼 … 腰痛治療によく使うツボで、骨盤をつくっている腸骨の一番高いところの上にあります

足三里  … このブログでもおなじみの養生保健のツボ

京門 … 腎をととのえるツボで、第12肋骨の先端にあります

章門 … 脾をととのえるツボで、第11肋骨の先端にあります


天枢の位置に関して、『養生訓』の現代語訳には、よく「ヘソから両側二寸(6cm)または一寸五分(4.5cm)」と書かれているかと思いますが、(   )内の6cmと4.5cmというのは正しくありません。


鍼灸で使うツボの位置は、1寸は親指の幅、2寸は人差し指・中指・薬指の3本を合わせた幅、3寸は親指以外の4本を合わせた幅というように、患者さんのからだの大きさと相対的に決められるからです。


お灸をするときの、艾しゅ(がいしゅ)の大きさや壮数、刺激の度合いなどについては、「衰弱した人・老いた人の治療」「艾しゅの大きさ」「艾しゅの大きさの加減」「毎日すえる灸の効用」 などに、すでに述べられていましたね。


『養生訓』の原文はこちらでどうぞ→学校法人中村学園 『貝原益軒:養生訓ディジタル版』


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