館花紗月の言動のパターンは非常に複雑で不可解です。

明るく楽しく渡直人をストーキングしているかと思えば突然怒り出してみたり、はたまた真剣な態度で迫ってきたり、ある時は闇をちらつかせ、そしてまたある時は愚直なまでに渡直人の役に立とうとするなど、その言動のパターンは極めてバラエティに富んでいます。

今回からは館花紗月の言動を区分し、それらの意味について考察してみようと思います。

本作品の紹介はこちらです


言動のパターンの区分

作中で館花紗月が示した言動のパターンは、ざっくり以下のように区分されると考えます。

明るく軽いストーカーパターン

真剣なアプローチパターン

お役立ちパターン

怒りパターン

喜びパターン

畑荒し抵触パターン


これから、しばらくはそれぞれのパターンの意味について考察していきます。

今回は、「明るく軽いストーカーパターン」について考察してみます。


明るく軽いストーカーパターンについて

1巻から2巻にかけてよく見られるパターンです。ゆらゆらという擬音語を伴い、渡直人に明るく軽く付きまとったりします。渡直人の後ろ3メートルをずっと付けてみたり、ラーメン屋でさり気なく渡直人の隣の席に座っていたり、はたまた風邪を引いた渡直人の布団に潜り込んでみたりと、コミカルかつ場合によってはちょっと危ないアプローチを仕掛けてきます。


意味について

この行動の意味は、大きく4つあるんじゃなかろうかと思います。以下、それぞれについて述べてみます。


第1の意味:渡直人に再会した喜びの現れ

館花紗月は第1話にて渡直人と再会する以前から何らかの手段で渡直人の動向を把握し続けていたものと思われます。渡タマヨの家の近くに越してきたのも渡直人の動向を正確に把握し続けてきた結果でしょうし、2巻第1話において、彼女の部屋で渡直人から怒鳴られ、1人取り残された後の発言においては、この6年間ずっと一緒だったと深い関心を抱き続けてきたことが示唆されています。

しかし、6年間動向を把握しつつも渡直人と接触できなかったことは館花紗月にとって大きなフラストレーションであったでしょうし、満を期して渡直人の前に現れ、そして言葉を交わせたことは大変な喜びだったと思われます。再会し言葉を交わせた喜びにより、暴走気味となり、また、彼女の対人関係能力の特質(前回の記事他者との適切な心理的間合いを取ることが困難な場合あり)により、ともすれば過剰とも取れる行動につながっているものと思われます。


第2の意味:渡直人の傍にいるため

館花紗月の取り敢えずの目的は、渡直人の傍にいることなのでしょう。渡直人と恋人同士になりたいのでしょうし、その他の願いもあるのかもしれませんが、渡直人の傍にいること自体が彼女にとっての喜びのように思われます。

4巻での渡直人の臨時バイトの後の駅前階段のシーンでの「幼馴染としてならそばにいていいってこと?」にも、渡直人の傍にいることに対する喜びがにじみ出ています。

ただ、畑荒しの件もあり、渡直人から拒否されがちなことも彼女は理解しています。拒否されても応えないように明るく軽く振る舞うことで、深刻さを軽減しようとしているのかなと思います(館花紗月としても、拒否されることを何とも思っていない訳ではありません。1巻第1話において、渡家に出現した時に渡直人から「出て行け!」と怒鳴られた際、鍬を持つ手は震えていましたし、同巻第3話においては学校で出くわした渡直人から、渡直人の不在中、鈴白に危害を加えるなと言われ、愕然とした感じで無表情になっています。畑仕事を手伝い、また、鈴白の相手をすることにより渡直人が買い出しに行けるようにするという館花紗月の善意を疑われたことが悲しかったのかなと思われます。2巻第2話において、風邪をひいた渡直人の部屋を出、畑の草取りをしている時も、「共栄植物」の話を鈴白にしながら落ち込んだ様子を見せています。渡直人に受け入れられない、彼女が望んでいる共栄的な関係になれないことが悲しいのかもしれません)。

明るく軽く振舞っていれば、渡直人もその都度気兼ねなく拒否できてフラストレーションも蓄積されず、また、館花紗月も応えてない感じでアプローチを繰り返し、結果的に傍にいることができるのかなと思われます。


第3の意味:渡直人への選択肢の提示

前回述べたように、館花紗月は自分の気持ちや願望を明確に言葉として渡直人に伝えることはほとんどありません。好意のある態度を示し、それに気づいて欲しいという、いわば待ちの姿勢がほとんどです。館花紗月にとって、明るく軽い態度というのは好意の婉曲的な表明であり、渡直人に対しての誘いであり、そして選択肢を示すものだと考えます。


例えば、館花紗月は1巻において石原紫とのホームセンターでの買い出しから戻った渡直人に「私も直くんとデートしたいな」と言うものの、動揺する渡直人に対して「なんてね」と言って真剣さを打ち消し、彼に断る理由も与えています。

(多分、ホントはすごくデートしたい)

下校時に傘を忘れた渡直人に傘を差し出し、「私は相合傘でもいいけど」と軽い感じで誘いをかけます。また、2巻においては風邪をひいた渡直人のお布団に忍び込みます。選択肢を示された渡直人は館花紗月をデートに誘ってもいいし、館花紗月と身を寄せ合って相合傘で帰ってもいいのです。お布団に潜り込む行為は、渡直人とならば、その先のことも拒まないといった彼女の覚悟、あるいは願望を踏まえた選択肢の提示なのかもしれません。言葉の上だけなのかもしれませんが、1巻第2話において、渡直人に対してその手の誘いをかけています(ただ、2巻において更衣室を覗かれ赤面したり、3巻において渡直人に胸を触らせた時も相当に恥ずかしがっていたところから、実際はそれほど軽い訳ではなく、普通の恥じらいの感覚は持っているものと思われます)。

渡直人に対して、断ることへの抵抗感を与えないようにしつつ、彼に幅広の選択肢を提示するということも、この態度の意味するところの一つかと考えます。


第4の意味:親近感の向上と優しさの享受

「第2の意味:渡直人の傍にいること」の延長線上の話になりますが、明るく軽い態度を取り続け、渡直人の傍に居続けることで、渡直人の館花紗月に対する親近感を向上させていくことも大きな目的だと思われます。

交際にはまだ至らぬまでも、結局、渡直人にとって館花紗月との関わりは必要不可欠なものになっています。館花紗月が毎朝畑のお手伝いに来ることで、彼女の存在は渡直人にとって日常となっており、来なかったら文句を言うようになりました。館花紗月のもう関わらない宣言に対しては、寂しいこと言うなよと駅前の雑踏の中であっても場所も構わず抗議します。館花紗月が多くの時間、渡直人の視野にあって彼の館花紗月に対する潜在的な好意を刺激し続け、何かにつけて渡直人をサポートし信頼関係を育んできたことにより、渡直人の中ではまだ十分に意識化は出来ていないのかもしれませんが、館花紗月との関係は大切なものになっていったのでしょう。

また、渡直人のそばに居たら、まだ頻度は少ないものの、何かのきっかけで彼から優しくしてもらい、また優しい言葉や感謝の言葉を掛けて貰えることも館花紗月にとって掛け替えのない喜びなのでしょう。2巻においてスカートが風でめくれそうになったのを助けて貰った後や、5巻において雨の中、バイト帰りに鈴白のプランターを仕舞ったことについて渡直人からお礼を言われた後、1人で頬を赤らめ喜んでいます。

(一人でひっそりと噛みしめる喜び)

これらの表情は、作中の館花紗月の描写において、前述の5巻での駅前階段でのシーンと並んで最も幸せそうな印象を受けます。一人でひっそりと喜びを噛み締めているのが、ある意味とてもいじらしく可哀想ではありますが

現状では渡直人は石原紫と交際してしまっており、館花紗月が望んでいるであろう交際相手としての立ち位置は得られないものの、幼馴染として渡直人の傍にあり、彼から時折優しさを受け取れることは、今の彼女にとっての最大級の幸せなのでしょう。


最後までお読み頂きありがとうございました。



最初のうち、本ブログはノー画像でやろうと考えておりましたが、今後はいくらかでも多くの方に本作品の魅力を理解頂き、また、微力ながらも広告に役立てればと若干の画像を掲載させて頂きます。ご了承くださいm(_ _)m



↓↓本作品の講談社紹介サイト↓↓

ヤンマガ公式サイト

第1話も無料で読めます。


現在までの投稿及び今後の計画を以下に示します。


1章 館花紗月の「謎」について

その1:館花紗月の家庭の謎

             ・その1

             ・その2

             ・その3

その2:6年前の畑荒しの謎

             ・その1

             ・その2

特別編:渡直人の考えについて

その3:館花紗月の特徴的な行動について

その4:館花紗月の言動の謎

            ・明るく軽いストーカーパターン

            ・真剣なアプローチパターン

            ・お役立ちパターン

            ・怒りパターン

               ・その1

               ・その2

               ・その3

               ・その4

               ・その5

            ・喜びパターン

            ・畑荒し抵触パターン

その5:渡直人への態度について

その6:渡直人への感情について

その7:館花紗月の目的とは?(暫定

2章 渡直人について

その1:館花紗月への行動のパターン

その2:館花紗月への感情について

 

3章 館花紗月と渡直人の関係性について

 

4章 「××」について