今回は館花紗月の特徴的な行動パターンのひとつである、お役立ちパターンについて考察します。

館花紗月はとにかく渡直人の役に立つ行動を取ろうとします。渡家の畑の手伝いは1巻から極めて献身的に行なっています。彼女の農業に関する知識やスキル、そして精力的な努力なしでは畑の維持は相当に困難なんだろうなと思われます。

その他にも、傘を貸したり鈴白の水着を買うのに付き合ったりもします。役立つことで渡直人の好感度を上げ、恋人への昇格を狙っているのかな?とも思われますが、渡直人と石原紫との接近もサポートしてしまっているので、必ずしも利己的な動機に基づくものではなさそうです。いつもながら訳がわかりません。ということでこの行動は一体何なのか?について考えてみます。


お役立ちパターンの列挙

館花沙月の渡直人へのお役立ちパターンについてざっと列挙してみます。


1石原紫が委員会の買い出しの依頼をしに渡家に来た際、反対しようとする鈴白をなだめて行けるように仕向ける。

2 渡直人が買い出し中、庭の草取りを大方終わらせる。

3 ホームセンターで渡直人と石原紫を目撃するも、渡直人と鈴白が仲直りしたのを見届け、一人その場を去る。

4 渡タマヨに家を出て行けと言われた渡直人に対し、タマヨの意図や頼み方についてアドバイスする。

5 ホームセンターで買った野菜の種を渡直人に渡す。

6 下校時に渡直人に傘を貸し、自分はひっそりと濡れて帰る。

7 風邪をひいた渡直人に薬(座薬)を差し入れる。

8 渡直人の部屋を追い出された後であっても畑の草取りをする。

9 渡直人が鈴白の水着を買いに行くのに付き合う。

10 石原紫に渡直人が館花紗月と交際しているんでしょ、キスもしてたし、と言われガクガクしている際に、誰とでも挨拶代わりにキスをする系の女だと謎言い訳をした後に石原紫にキスをし、窮地を救う。その後、鈴白とその場を外し、渡直人と石原紫が2人で話せるようにする。

11 藤岡先輩と石原紫がかつて交際していたなどのことで落胆する渡直人を元気付けようと恥ずかしがりながらも胸を触らせる。

12 石原紫が一時的に行方不明になり、徳井から迎えに行くよう言われた渡直人の縋るような表情を思い出し、石原紫が藤岡先輩に連れ去られそうになっている現場に突入、藤岡先輩を後ろから蹴り倒し、また警察に通報する素振りを見せることにより藤岡先輩を撤退させ、石原紫を救出する。

13 石原紫に告白され、どう答えるか悩んでいる渡直人に対し、「どんなに迷っても、どんな答えを出しても、誰にもそれを責める権利なんてないんだから」とアドバイスする。

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(励まし)

14 渡直人と石原紫の動物園デートの際、鈴白を一時的に引き離し、2人きりになる機会を作る(デート中、ストーカーしてましたが)

15 花火の夜に大雨が降り出したため、バイト帰りに渡家にやって来て庭の野菜にシートをかけ、鈴白のプランターを家にしまう。


ざっと並べてみましたが、確かに館花紗月自身の利となる行動もあります。畑の手伝いは、渡家に日常的に出入りするための口実を得られ、また、食料も得られるので、館花紗月自身にとってもメリットは大きいと思われます。もちろん、渡直人にとっても畑仕事に長けた館花紗月の助けを得られることは大変助かっています。

しかし、意外と石原紫との関係を深めるお役立ち行動が多いことが分かります。2人きりになる機会を作ってあげますし、藤岡先輩との対決は、館花紗月が一人でカタをつけたようなものです。渡直人が石原紫から告白されて悩んでいる時も、やめとけば?みたいなことは一切言わず、誠実にアドバイスしており、渡直人の以後の行動を後押ししています。

館花紗月は言葉にこそ出しませんが、渡直人に対して明らかに好意を抱いており、より深い関係となることを欲しているはずですが、渡直人の石原紫との関係の進展を後押しするのは何故でしょうか?

そして、大して見返りが得られていないのに、極めて誠実に、ともすれば自己犠牲的に役立とうとするのは何故でしょうか?


考察

このお役立ちパターンの理由を解く言動として挙げられるのが以下の館花紗月の発言です。

①1巻第3話「直くんの役に立ちたいだけだもん」

②2巻第1話「直くんの望む通りにするよ」

③2巻第5話の電車の中のシーン「私はこっちでいいよ 見ているだけでいい」「直くんのことをよく見て 直くんが困ってたら助けてあげる」(また、その後の渡直人の「それって、罪滅ぼしのつもりかよ、それとも、それとも いや、なんでもない」という渡直人の発言も重要と思われます)

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(意味深な、そして不穏な台詞)

④5巻第6話にて石原紫との会話において、渡直人への気持ちを尋ねられた際の「直くんが望むならそれでいい、それが私の意思」という回答


①、②そして④の発言から察するに、館花沙月にとっては、彼女自身の願いを叶えるよりも、渡直人の願いの成就を手助けするほうが優先されています。彼女の気持ちは二の次というよりも考慮されません。何故に?については、2つの理由が考えられます。


理由その1 渡直人への圧倒的な愛情

おそらく、館花紗月は渡直人のことが真剣に好きなのでしょう。騙し騙されのラブゲームをして渡直人の好意を引き出そうといった小賢しいことを彼女は考えないと思われます。

渡直人のことが圧倒的に好きなため、彼のために尽くしたいと真剣に願っているのでしょう。その結果、館花紗月が肉体的に、そして精神的に苦しんだとしても、渡直人の願いは優先されるのです。渡直人が石原紫と交際を始めてしまい、本来ならば苦しくて仕方ないはすなのに、渡直人から与えられた幼馴染という地位に甘んじ、その関係が渡直人の意思だと自己に言い聞かせ耐えています、ストイックさ、そしてある種の覚悟すら感じられます。

3巻において、館花紗月は徳井から渡直人のことが好きなのと問われ、「彼女になりたいとか、そういうんじゃないから」と答えていますが、彼女が渡直人に抱いている気持ちは、好きだとか彼女になりたいだとか、そういった甘っちょろい、生半可なものではないということを言いたかったのではないでしょうか。

石原紫は、④の発言の裏に、館花紗月の渡直人に対する壮絶な愛情を感じ取ってしまったのでしょう。だからこそ渡直人との関係を深めることにあそこまで焦ったのだと思われます。


理由その2 傍にいることができる間の献身

これはもう完全に私の妄想です。勘でしかありません。そこんとこ割り引いて下さい。今まで以上にお目汚しな内容なんでホント読まなくてもいいです。


③の発言は見開き黒塗り台詞という超重要シーン扱いです。館花紗月は、渡直人と鈴白の側に来ることを断った後にこの台詞を口にしています。その後、渡直人は、館花紗月との関係を、いつ壊れてもおかしくない脆いものだと感じています。館花紗月の存在の儚さを感じてしまうシーンです。

③の発言以外においても、館花紗月の存在の儚さは作中においてしばしば顔を覗かせます。

館花紗月は、いつかまた渡直人の傍を去らなければならず、渡直人や鈴白と並んで座るような、極端な言い方をするならば、擬似的な家族のような関係にはなれないと言いたかったのではないでしょうか。私はいつかいなくなるので部外者に徹します、でも困ったことがあったら真っ先に助け、そしてまた部外者の席に帰ります、そしてその時が来たらあなた達の前から姿を消します。深入りしてたら別れの時に寂しくさせちゃうから距離を取らざるを得ませんといった意図の発言のように感じられます。

いつか居なくなってしまう立場なので自分から付き合って欲しいなどと贅沢は言えないけれど、傍にいることのできる間は少しでも大好きな渡直人の役に立ちたい。少しでも渡直人の幸せに貢献できたのならば、例え報われなくてもそれはそれで構わない、居なくなってしまう前に、少しでも私のことを良い人間だと記憶に留めて欲しい、といった意図から献身的な行動を取るのかなと想像してしまいます。とても悲しい想像ですが


以上、お役立ちパターンの考察でした。


最後まで読んで頂きありがとうございました。



これまではノー画像でしたが、今後は本作品の魅力を伝え、微力ながらも広告に役立てればと若干の画像を掲載させて頂きます。ご了承くださいm(_ _)m



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第1話も無料で読めます。



現在までの投稿及び今後の計画を以下に示します。


1章 館花紗月の「謎」について

その1:館花紗月の家庭の謎

              その1

              その2

              その3

その2:6年前の畑荒しの謎

              その1

              その2

特別編:渡直人の考えについて

その3:館花紗月の特徴的な行動について

その4:館花紗月の言動の謎

               明るく軽いストーカーパターン

               真剣なアプローチのパターン

               お役立ちパターン

               ・怒りパターン

               ・喜びパターン

               ・畑荒し抵触パターン

その5:渡直人への態度について

その6:渡直人への感情について

その7:館花紗月の目的とは?

2章 渡直人について

その1:館花紗月への行動のパターン

その2:館花紗月への感情について

 

3章 館花紗月と渡直人の関係性について

 

4章 「××」について