≪前腕の筋≫

上腕骨または前腕の骨から起こり、手の骨に停止し、手根または手指を動かす。一部は橈骨について回内、回外の運動を行う。

屈筋と伸筋に分類される。

前腕の筋は全体が前腕筋膜で包まれており、手根部では特に肥厚し、前面では屈筋支帯、後面では伸筋支帯をつくる。

腱の多くは手根部で滑液鞘に包まれ、それぞれ屈筋支帯、伸筋支帯の下を通る。

屈筋支帯は舟状骨、大菱形骨と豆状骨、有鈎骨との間に張る2~3cmの長方形の靱帯で、その下に手根管をつくる。したがって屈筋支帯は、手根管を通る腱を押さえて浮き上がらない様にしている。管内には正中神経が走っており、管内の腱鞘の炎症により腫脹すると、神経が圧迫されて障害を生じることがある。(手根管症候群


屈筋群は浅層と深層に分けられ、8個の筋がある。


[浅層]

●円回内筋

  【起始】

上腕頭 : 上腕骨内側上顆

尺骨頭 : 鈎状突起の内側 (尺骨)

  【停止】

円回内筋粗面(橈骨中央よりやや近位外側)

【支配神経】

正中神経 (C6、7)

  【作用】

肘関節の回内、屈曲

  【メモ】

上腕頭と尺骨頭の2頭があり、その間を正中神経が通過する。

橈骨体の外側に停止し、回内運動に関与する。また肘関節の屈曲にも働く。

●橈側手根屈筋

  【起始】

上腕骨内側上顆

  【停止】
第2、第3中手骨底 (掌側)

【支配神経】

正中神経 (C6、7)

  【作用】

手根の屈曲、外転

肘関節の屈曲補助

  【メモ】

第2、第3中手骨底に停止し、手根の屈曲と外転に関与する。

停止腱の外側に橈骨動脈が走り、脈拍が触知できる。


●尺側手根屈筋

  【起始】

上腕頭 : 上腕骨内側上顆

尺骨頭 : 尺骨上半部の後縁

  【停止】

豆状骨、第5中手骨底

【支配神経】

尺骨神経(C8、T1)

  【作用】

手根の屈曲、内転

  【メモ】

前腕の最内側を走り、停止腱は豆状骨に停止し、さらに第5中手骨底にまで伸びる。

手根の屈曲、内転に関与する。


●長掌筋
  【起始】

上腕骨内側上顆

  【停止】

手掌腱膜

【支配神経】

正中神経 (C6、7)

  【作用】

手根の屈曲

わずかな肘関節の屈曲

手掌の皮膚の緊張

  【メモ】

本筋のみが屈筋支帯の上を通る。

停止腱は手掌で扇状の手掌腱膜に移行する。手掌腱膜は手掌の皮膚と固く癒合するため、手掌の皮膚をつまみあげることはできない。

手根の屈曲と手掌の皮膚の緊張に関与する。


●浅指屈筋

  【起始】

上腕尺骨頭 : 上腕骨内側上顆、尺骨粗面

   橈骨頭 : 橈骨上部の前面

  【停止】

第2~5指の中節骨底

【支配神経】

正中神経 (C7、8、T1)

  【作用】

第2~5指の中節を屈曲

手根の屈曲

肘関節の屈曲補助

  【メモ】

上腕骨の内側上顆、尺骨粗面、橈骨上部前面から起こり、幅広く厚い筋腹をつくり4腱に分かれる。

腱は停止部の近くで深指屈筋の腱を通すために二分し、第2~第5中節骨底に停止し、中節を屈曲する。



[深層]

●深指屈筋
  【起始】

尺骨体前面、前腕骨間膜

  【停止】

第2~5指の末節骨底

【支配神経】

第2、第3指は正中神経 (C8、T1)

第4、第5指は尺骨神経 (C8、T1)

  【作用】

第2~5指の末節を屈曲

  【メモ】

浅指屈筋の深層で尺骨と前腕骨間膜から起こり、4腱に分かれて末節骨底に停止し、末節を屈曲する。

一般に末節のみを屈曲することはできず、中節も同時に屈曲させる。

浅指屈筋の腱と深指屈筋の腱は、指で共通の滑液鞘(腱鞘)に包まれており、運動時の摩擦が防がれている。しかし、この部位で腱が損傷を受けると、両者の癒着が起こりやすく、そのため拘縮などの機能障害を生ずることがある。

第2、第3指は正中神経、第4、第5指は尺骨神経が支配する。


●長母指屈筋
  【起始】

橈骨体前面、前腕骨間膜

  【停止】

母指末節骨底

【支配神経】

正中神経 (C6、7、8)

  【作用】

母指の基節、末節を屈曲

  【メモ】

前腕深層で深指屈筋の橈側にあり、橈骨前面と前腕骨間膜から起こり、母指の末節骨底につく。

母指の基節、末節を屈曲する。


●方形回内筋
  【起始】

尺骨下部前面

  【停止】

橈骨下部前面

【支配神経】

正中神経 (C6、7)

  【作用】

前腕の回内

  【メモ】

前腕下端にある扁平な方形の筋である。

通常の回内運動は方形回内筋が働き、より強い回内には円回内筋が加わる。