開運童子のブログ -86ページ目

雨のあとに虹 その104

「あまりお腹が空かないから料理はあるものでいいよ。」

榊原は夕食時に妻の榊原多恵子に言った。年末の忙しい時期だが子供がいないうえに親戚も少ない榊原は時間に余裕があった。

「最近あまり召し上がらないですね。」

多恵子は言った。

「少し疲れたのかも知れないね。」

榊原が言うと

「身体の具合が悪いのではありませんか?」

多恵子は言った。多恵子は榊原が以前から体調が良くないのを知っていた。

「大丈夫だよ。」

榊原は言った。

「大丈夫ですか?」

多恵子は言った。

「心配は要らないよ。」

榊原は言ったが多恵子は

「最近は顔色もよくないし少し痩せてきたようですよ。」

と榊原の顔色を見た。

「本当に大丈夫だよ。」

榊原は言った。

「それなら構わないけど。」

多恵子は言った。

「俺は高村に勝つまでは気を引締めないといけないからね。」

榊原は言った。多恵子は嫌な予感がしたが何も出来ないでいたのだった。

 俊之は駅を降りて足早に歩いていた。日が暮れるのが早い季節になって外はすっかり暗くなっていた。風が冷たいがコートやマフラーの下までは寒さが来ない。俊之は少しお腹が空いてきていた。鍋は久しぶりだから早く食べたいなどと思い歩くスピードが増してきた。その時俊之は背後に人の気配を感じていた。後ろから

「高村さん。」

と育子が言った。俊之は振向いて

「ちょうどよかった。」

俊之は笑みを浮かべて言った。

「こんばんは。」

育子が言うと

「これから部屋に帰るところだよ。」

と微笑みながら言った。

「どのくらい用意すれば良かったかな?」

育子は言いながら食材を入れた袋を見せた。

「久美ちゃんも用意するって言っていたよ。」

俊之が言うと

「それなら足りない分は彼女にお任せね。」

育子が言った。育子の明るい言葉に俊之はいつもパワーを貰っていたのである。

雨のあとに虹 その103

「それでは長島先生。」

俊之は言った。

「また来年だね。」

長島は言った。

「それでは良いお年を!」

俊之が言うと

「高村さんも良いお年を!」

長島が言った。喫茶店で打合わせをした後である。別れ際に

「新年は5日からですね。」

と俊之は言った。

「5日から平常だよ。」

長島は言った。

「矢島建設の事をよろしくお願い致します。」

俊之は言った。

「努力するよ。」

長島は言った。

「僕の正月は退屈するかも知れないですよ。」

俊之が言うと

「私も家族がなくて暇だから退屈したら飲みにでも行こうよ。」

長島が言った。

「私もいつもこの時期はやる事がなくてないので是非飲みましょう。」

俊之の言葉が長島まで届かないうちにふたりは別の道に別れ別れになった。長島とはいつもこういう付合いである。歩き出す俊之は足取りが軽かった。今回はいつもの年越しではないような予感が俊之にはあった。暇ではなく少しは何かがあるような予感がしていたのだ。そう考えていると俊之の携帯が鳴った

「高村さん!」

育子は言った。

「育子さん!」

俊之は言った。

「メールではなくて急に電話だったから驚いたでしょ?」

育子は言った。明るくて落着いた言葉遣いに育子の教養の高さがあった。いつも育子は俊之に元気をくれていた。その育子が珍しく電話をしてきたのである。

「少し驚いたよ。」

俊之は言った。

「たまには電話もいいかなと思ってね。」

育子は言った。

「電話の方が嬉しいよ。」

俊之は言った。

「突然だけど今夜会わない?」

育子は言った。

「いいけど大丈夫なの?」

俊之は言った。

「急に暇になったからね。」

育子は言った。

「夕方からなら時間が空くよ。」

俊之が言うと

「それなら彼女も連れて会おうよ。」

育子が言った。

「それはいいね。」

俊之は言った。

「それでは決まりね。」

育子は言った。

「これから久美ちゃんに声をかけてみるよ。」

俊之が言った。

「今日は寒いから高村さんの部屋で鍋でもしたいね。」

育子が言った。

「休憩に入ります。」

久美子は言った。

「はい!」

ひとみが言った。久美子は頷いて休憩室に入って行った。年末の忙しさが急にやってきて忙しい。明日を乗りきれば新年を迎えられるので今が大変な時なのだ。明日は夕方に閉店になり新年は2日からである。久美子が勤務予定を確認しているところに携帯が鳴った。俊之からである。

「急だけど今夜は時間あるかい。」

俊之は言った。俊之の急な誘いであるが

「お店が終わったあとはなら大丈夫ですよ。」

久美子が言うと

「それはよかった。」

俊之は言った。

「何かあるのですか?」

久美子は言った。

「僕の部屋で急遽鍋をしようという事になってね。」

俊之は言った。

「それはいいですね。」

久美子は言った。

「育子さんが来るから紹介するよ。」

俊之は言った

「それなら私が食材を買って行きます。」

久美子は嬉しそうに言った。

「食材は久美ちゃんに頼むよ。」

俊之は言った。

「俊さんはコンロや鍋を準備しておいてください。」

久美子は言った。久美子は喜んでいる様子であった。今夜は俊之を間に挟んで久美子と育子が顔を合わせることになる。やがてそれは愛情と友情を更に深める事になるのだった。

雨のあとに虹 その102

天門は時間が空いたので俊之の運気上昇を調べていたのである。年が明ければ新しい暦になる。正確に言えば節分が過ぎればいよいよ新年である。徐々に力を発揮していけば今までの冬の時期を脱出できるはずなのだ。それは俊之の本人の努力しだいで結果が変るのは言うまでもない事である。

「以前に紹介してくれた白仁春香さんとの仕事の相性も良い。」

天門は専門書を見ながらデーターを確実に分析していた。俊之は本人の努力だけではない周囲の人間を味方につける事ができる運気の上昇期に入っているのを天門は感じ取っていた。天門は俊之を興味深く見守っていたのには理由があった。天門は俊之には特別な運を感じていたのだ。自分の力だけでなく周囲の協力を得てそれを確実に結果に結びつけて周囲の人たちにも幸運が来る特別な運の持ち主である。天門は携帯を手に取った。相手が出ると

「急にどうされましたか?」

桑田が電話の向こうで言った。

「高村さんの事で漫画に載せてもらいたい部分が出来てね。」

天門は言った。

「高村さんの事なら絶対に乗せたいですね。」

桑田が言うと

「私も高村さんに助けられるひとりかものひとりかも知れないね」

天門は言った。

「もっと詳しく教えてください。」

桑田が言うと

「高村さんには何かを感じる事があります。」

天門は言いながら窓から夜空を見上げた。

育子は俊之にメールを打つ事にした。育子には元来直感や霊感が働いていた。それもかなり強いのだ。夕方くらいに虫の知らせとでも言う強い胸騒ぎを感じていた。俊之が何か危険な状態になっているような気がしてならなかったのだ。今ではその胸騒ぎもおさまっているが一時間ほど育子自身耐えられないほど大きな危険を感じていた。俊之に何かあったのだろうかと聞くのは少し恐いが聞かなければどうにもならなかったのだ。

「夕方にものすごい胸騒ぎを感じましたが高村さんに何か起こりませんでしたか?」

育子が送信したメールに俊之は

「少し危険な状態でしたが何も心配は要らないですよ。」

と返信した。育子はメールを見て

「何もなければ良いけれどとても心配になりました。」

育子は再度メールを送信した。

「さすが育子さんだ霊感が働くね。」

俊之は受信したメールを見て言った。居酒屋で話が盛り上がっている時に育子からのメールを受信したのだった。

「競馬の予想をしてくれた育子さんですね。」

久美子が言うと

「育子さんも今度誘って皆さんと親睦を持ちましょうよ。」

翔太が言った。

「是非やりましょう。」

関口は社言った。

「そもそも高村だけが若い女性にもてるのは不公平だからな。」

矢島が悪乗りして言った。

「社長は江紫組の件を教訓にしてください。」

田崎が言うと矢島が

「飲んだ酒がまずくなるような事を言うな。」

と怒ったふりをして言った。

「仲間って良いですね。」

と関口が言った。一同は夜更けまで盛り上がっていた。

「いらっしゃいませ。」

ひとみは言った。今日は朝から忙しかった。頼みの久美子は午後から出勤という状況でもあり他のメンバーでは混雑時の対応に慣れていない。呼吸が合わない状態とでわずか数秒のロスがお客さんを長く待たせることになるのだ。

「お砂糖とミルクはいかが致しましょう。」

小百合が言うと

「お願いします。」

若い男性客が言った。

「こっちの紅茶はまだですか?」

中年の女性が言いったのを受けて

「紅茶をお待たせいたしました。」

急に久美子が間に入って言った。

「堀川さん!」

ひとみが言って驚いているのを尻目に

「少しこちらでお待ちください。」

久美子が言って案内をするとお客の列が分散されてきた。

「もうそんな時間ですか?」

小百合が久美子に声をかけた。

「挨拶をしたのにみんながパニックしているからね。」

久美子は落ち着いて言った。

「これで何とかなるわね。」

ひとみはほっとして言った。