雨のあとに虹 その103
「それでは長島先生。」
俊之は言った。
「また来年だね。」
長島は言った。
「それでは良いお年を!」
俊之が言うと
「高村さんも良いお年を!」
長島が言った。喫茶店で打合わせをした後である。別れ際に
「新年は5日からですね。」
と俊之は言った。
「5日から平常だよ。」
長島は言った。
「矢島建設の事をよろしくお願い致します。」
俊之は言った。
「努力するよ。」
長島は言った。
「僕の正月は退屈するかも知れないですよ。」
俊之が言うと
「私も家族がなくて暇だから退屈したら飲みにでも行こうよ。」
長島が言った。
「私もいつもこの時期はやる事がなくてないので是非飲みましょう。」
俊之の言葉が長島まで届かないうちにふたりは別の道に別れ別れになった。長島とはいつもこういう付合いである。歩き出す俊之は足取りが軽かった。今回はいつもの年越しではないような予感が俊之にはあった。暇ではなく少しは何かがあるような予感がしていたのだ。そう考えていると俊之の携帯が鳴った
「高村さん!」
育子は言った。
「育子さん!」
俊之は言った。
「メールではなくて急に電話だったから驚いたでしょ?」
育子は言った。明るくて落着いた言葉遣いに育子の教養の高さがあった。いつも育子は俊之に元気をくれていた。その育子が珍しく電話をしてきたのである。
「少し驚いたよ。」
俊之は言った。
「たまには電話もいいかなと思ってね。」
育子は言った。
「電話の方が嬉しいよ。」
俊之は言った。
「突然だけど今夜会わない?」
育子は言った。
「いいけど大丈夫なの?」
俊之は言った。
「急に暇になったからね。」
育子は言った。
「夕方からなら時間が空くよ。」
俊之が言うと
「それなら彼女も連れて会おうよ。」
育子が言った。
「それはいいね。」
俊之は言った。
「それでは決まりね。」
育子は言った。
「これから久美ちゃんに声をかけてみるよ。」
俊之が言った。
「今日は寒いから高村さんの部屋で鍋でもしたいね。」
育子が言った。
「休憩に入ります。」
久美子は言った。
「はい!」
ひとみが言った。久美子は頷いて休憩室に入って行った。年末の忙しさが急にやってきて忙しい。明日を乗りきれば新年を迎えられるので今が大変な時なのだ。明日は夕方に閉店になり新年は2日からである。久美子が勤務予定を確認しているところに携帯が鳴った。俊之からである。
「急だけど今夜は時間あるかい。」
俊之は言った。俊之の急な誘いであるが
「お店が終わったあとはなら大丈夫ですよ。」
久美子が言うと
「それはよかった。」
俊之は言った。
「何かあるのですか?」
久美子は言った。
「僕の部屋で急遽鍋をしようという事になってね。」
俊之は言った。
「それはいいですね。」
久美子は言った。
「育子さんが来るから紹介するよ。」
俊之は言った
「それなら私が食材を買って行きます。」
久美子は嬉しそうに言った。
「食材は久美ちゃんに頼むよ。」
俊之は言った。
「俊さんはコンロや鍋を準備しておいてください。」
久美子は言った。久美子は喜んでいる様子であった。今夜は俊之を間に挟んで久美子と育子が顔を合わせることになる。やがてそれは愛情と友情を更に深める事になるのだった。