雨のあとに虹 その104
「あまりお腹が空かないから料理はあるものでいいよ。」
榊原は夕食時に妻の榊原多恵子に言った。年末の忙しい時期だが子供がいないうえに親戚も少ない榊原は時間に余裕があった。
「最近あまり召し上がらないですね。」
多恵子は言った。
「少し疲れたのかも知れないね。」
榊原が言うと
「身体の具合が悪いのではありませんか?」
多恵子は言った。多恵子は榊原が以前から体調が良くないのを知っていた。
「大丈夫だよ。」
榊原は言った。
「大丈夫ですか?」
多恵子は言った。
「心配は要らないよ。」
榊原は言ったが多恵子は
「最近は顔色もよくないし少し痩せてきたようですよ。」
と榊原の顔色を見た。
「本当に大丈夫だよ。」
榊原は言った。
「それなら構わないけど。」
多恵子は言った。
「俺は高村に勝つまでは気を引締めないといけないからね。」
榊原は言った。多恵子は嫌な予感がしたが何も出来ないでいたのだった。
俊之は駅を降りて足早に歩いていた。日が暮れるのが早い季節になって外はすっかり暗くなっていた。風が冷たいがコートやマフラーの下までは寒さが来ない。俊之は少しお腹が空いてきていた。鍋は久しぶりだから早く食べたいなどと思い歩くスピードが増してきた。その時俊之は背後に人の気配を感じていた。後ろから
「高村さん。」
と育子が言った。俊之は振向いて
「ちょうどよかった。」
俊之は笑みを浮かべて言った。
「こんばんは。」
育子が言うと
「これから部屋に帰るところだよ。」
と微笑みながら言った。
「どのくらい用意すれば良かったかな?」
育子は言いながら食材を入れた袋を見せた。
「久美ちゃんも用意するって言っていたよ。」
俊之が言うと
「それなら足りない分は彼女にお任せね。」
育子が言った。育子の明るい言葉に俊之はいつもパワーを貰っていたのである。