雨のあとに虹 その124
「総武のイメージキャラクターになってもらえないだろうか?」
正樹は言った。育子は
「私でイメージキャラクターが勤まるでしょうか?」
と言うと
「前向きに考えてみてください。」
正樹は言った。
「ありがとうございます。」
育子が言うと
「難しい縛りはないから安心してください。」
正樹は言った。
「総武グループのイメージキャラクターが出来るとは光栄です。」
育子が言うと正樹は父親が娘を見るような目で育子を見て
「育子さんのお人柄を総武に貸してくれればいいからね。」
と言った。
「がんばります。」
育子が言うと
「大丈夫ですよ。」
春香が言った。
「高村さんのお知合いに悪い人はいないからね。」
正樹が言って
「変な事をしませんので安心してください。」
春香は言った。正樹は穏やかな表情で俊之から久美子に視線を移して久美子から育子に視線を移した。
「高村さんも苦労したでしょ?」
春香は俊之を見て言った。
「そんな事はないですよ。」
俊之は言った。
「少しやせたみたいよ。」
春香が言うと
「当然の事だから苦労ではないですよ。」
俊之は言った。俊之と春香の視線があって少し時間が流れた。その静寂を破るように社長室のドアがノックされた。
「どうぞ。」
正樹が言うとドアが開いた。
「遅くなりました。」
翔太が言ってひとみと一緒に入って来た。
「お待ちしていました。」
正樹が言うと
「さあどうぞ。」
春香が言った。ひとみは俊之たちの方へ来ると周囲を見回した。
「私が総武グループの責任者である白仁正樹です。」
正樹は言った。
「石倉ひとみです。」
ひとみは正樹を目の前にして緊張を隠せないでいた。
「娘の白仁春香です。」
春香は言った。
「石倉ひとみです。」
ひとみが言うと
「向島春香の方は解りやすいかもしれないですね。」
春香言った
「その件については私も浅知恵でした。」
ひとみが言うと
「それは終わった事だよ。」
俊之は言った。正樹はひとみを見ると次に俊之を見て
「高村さんと石倉さんへお詫びをさせてください。」
正樹は言った。
「お詫びですか?」
俊之が言うと
「このたびの件は春香も関わっていた事を知って申し訳なく思っています。」
正樹は謙虚な姿勢で言った。正樹は俊之とひとみに深々と頭を下げていた。
「頭を上げてください。」
俊之が言うとひとみも
「どうぞ頭をお上げになってください。」
と言った。
「本当に申し訳ありませんでした。」
正樹が言うと
「それは終わった事にしませんか?」
俊之は穏やかな声で言った。
雨のあとに虹 その123
「こちらでございます。」
田中が社長室の前でドアを開けて会釈をした。俊之たち3人は中へ入った。その社長室の奥には総武グループの4代目当主であり総武企画社長の白仁正樹とそのひとり娘である春香が座っていた。正樹も春香も俊之たちを見るとふたりはすぐに席を立った。
「高村さん。」
春香が言った。
「春香でしたか?」
俊之が言うと
「すっかりご無沙汰しました。」
春香が言った。久美子も育子も黙って俊之と春香を交互に見ていた。
「春香さんに会えるのを楽しみにしていましたよ。」
俊之は言った。
「紹介します。」
春香が言うと俊之は
「はい。」
と言って正樹の方を見た。
「父の正樹です。」
春香が言うと
「白仁正樹です。」
正樹が言った。次に春香は
「高村俊之さんです。」
と言うと
「高村俊之です。」
俊之は言った。
「はじめまして!」
正樹が言って右手を差し出した。俊之は握手するように正樹の手を握り締めて
「こちらこそはじめまして!」
と言った。正樹は
「高村さんに会えてよかったよ。」
と俊之に丁寧な言葉使いで言った。正樹は65歳にしては精悍で若々しかった。
「私もお目にかかれて光栄です。」
俊之は言った。俊之と正樹は視線を合わせて頭をきちんと下げた。久美子も育子もふたりを見ていた。俊之は
「こちらは私の友人である京野育子さんです。」
と言うと育子は
「京野育子です。」
と言って頭を下げた。正樹は
「白仁正樹です。」
と言うと春香も
「白仁春香です。」
と言った。俊之は
「最後になりましたが堀川久美子さんです。」
と言うと久美子は
「堀川久美子です。」
と言って頭を下げた。
「白仁正樹です。」
正樹は久美子の目を見て笑みを浮かべて言った。春香も
「白仁春香です。」
と言って久美子の目をじっと見た挨拶が終わると春香が
「みなさん椅子にお座りください。」
と言って椅子を勧めた。一同が落ち着いたところで正樹は久美子に向かって
「久美子さんは内装のデザインをコーディネイトする仕事を目指しておられるそうですね。」
と言った。久美子は驚いて
「はい。」
と言うとのがやっとであった。
「総武の仕事やってみるつもりはありませんか?」
正樹は言った。
「総武グループの仕事ですか?」
久美子が言うと
「そうですよ。」
正樹は言った。
「私で出来るかしら?」
久美子が言うと
「無理しない範囲でどうですか?」
正樹は言った。久美子は
「とても光栄です。」
と言うと正樹は優しく微笑んで
「久美子さんが一生仕事をしても追いつかないほど山積みですよ。」
と言った。久美子は突然の事に驚きながら
「ありがとうございます。」
と言った。次に正樹は育子を見て
「育子さんは優秀な卓球の選手だと聞きました。」
と言った。育子は
「そんなに優秀ではないですよ。」
と緊張しながら言った。
雨のあとに虹 その122
3人は駅前を通り過ぎて公園の近くを歩いていた。人通りはあるが混雑はしていなかった。横に止めてある高級車の前に翔太が立っていて会釈をした。俊之が会釈をすると久美子と育子も同時に会釈をした。
「みなさんはこれから大丈夫ですか?」
翔太は言った。
「大丈夫だよ。」
俊之が言う高級車から運転手の田中が出てきて深々と頭を下げた。
「僕はもうひとりお連れしますので先に行ってください。」
翔太はそれだけ言うと翔太は足早に去って行った。
「みなさまこちらへどうぞ。」
田中は丁寧な言葉遣いで言った。
「ありがとう。」
俊之は言った。
「すみません。」
久美子が言って
「ありがとうございます。」
育子が言った。て3人が高級車に乗り込むと
「シートベルトは大丈夫ですか?」
田中が確認するように言った。田中が運転する高級車は静かに走り出していた。
「急に尾ごめんね。」
ひとみは小百合に言った。
「あとは私たちでやりますからお先にどうぞ。」
小百合が言うとひとみはほっとしながら店を後にした。ひとみはエスカレーターに乗って下に降りて行く。1階まで降りると待っていた翔太は
「急にお呼び立てしてすみません。」
と言って頭を下げた。ひとみは状況がよく理解できなかったが
「いいえ。」
とだけ言った。
高級車は都心部に向かって走っていた。高層ビルの近くに若者が集まるおしゃれな一角がある。昼夜賑わう街の中心にそびえたつ総武グループの本社である総武企画の本社を目指していたのである。総武グループは総武企画が司令塔で総武鉄道をはじめ総武バス・総武交通・総武ホテル・総武百貨店・総武ストアー・総武コンビニエンス・総武遊園地・総武ゴルフ・総武トラベル・総武スポーツプラザなど既存の鉄道会社の中でも抜群の財力で事業展開をしていた。この企業は収益もよく堅実が利益をあげていた。その4代目当主である白仁正樹は財界でもひときわ光る存在であった。その本社ビルにある地下駐車場に高級車が入っていた。俊之はその瞬間にすべてを悟っていた。自分たちを招いた人物も翔太の正体も理解したのであった。高級車から降りた俊之は
「そうだったのか?」
とだけ言った。田中進は黙って聞き流していた。久美子と育子は俊之を一瞬だけ見たがすぐに前を見て歩いていた。