開運童子のブログ -74ページ目

雨のあとに虹 その130

「久保田直子です。」

少し緊張気味で直子は言った。ホテルの一階にある高級な喫茶店は落着いていて話がしやすいのである。40歳代半ばに見える斉藤弘子は

「斉藤弘子です。」

と言った。

「はじめまして!」

直子が言うと

「こちらこそ。」

弘子は言った。

「今日はよろしくお願いします。」

直子が言うと

「貴志さんから軽くお話を聞いています。」

弘子は言った。

「それならお話は早いですね。」

直子が言うと

「久保田さんは女優さんですってね?」

弘子は言った。弘子は全身にどことなく危険な雰囲気を漂わせていた。

「私が専属モデルになれるお話は本当でしょうか?」

直子は心配そうな表情を浮かべて言うと

「貴志さんから聞いてなかったの?」

弘子は言った。

「大まかには聞いています。」

直子が言うと

「私は顔が利くから大丈夫よ。」

弘子は言った。

「それなら安心しました。」

直子が言うと

「そのためには少しお金がかかるけどね。」

弘子は含みを持たせたて言った。

「お客様はこちらへどうぞ。」

久美子が言うと

「お次のお客様お待たせ致しました。」

ひとみが次の客に言った。

「店長と堀川さんは息がぴったり合っていますね。」

小百合は驚いて言った。

「セットはこちらのお客様です。」

久美子が言うと

「次もすぐにできるからね。」

ひとみはいつになく気分は明るく言った。久美子に打明けた事で心に痞えていたものが取れたようであった。

「ブレンドお待たせ致しました。」

久美子も気分よく明るい声で言った。

「私にはふたりのまねはできないな。」

小百合はふたりを見て言った。

「この時間ではパトロール隊の必要はないかな?」

手塚が言うと

「せっかく集まったのだからやりましょう。」

俊之は言った。

「そうだよね。」

メンバーのひとりが言うと

「僕たちが時間に関係なく大々的にパトロールをする事で抑止力になると思いますよ。」

俊之は言った。

「それではみんなでパトロールしよう。」

手塚が言った。集まった町内の人たちも一緒に巡回する予定であるが絹江も一緒にいるところがパトロール隊の雰囲気を和ませていた。

「それでは公園を回るルートでパトロールしましょう。」

手塚が号令をかけるように言った。

雨のあとに虹 その129

「榊原が癌ですか?」

俊之は言った。ベンチに座って話をするふたりは周囲にはどこにでも夫婦に見えていた

「おそらく間違いないと思います。」

多恵子はあきらめているように言った。

「それはおかしな話ですね。」

俊之が言うと

「最近は痩せてきてかなり無理をしているのが解ります。」

多恵子は言った。

「三友商事は年に1度強制的に健康診断があるはずです。」

俊之が言うと

「いつも秋に行われますね。」

多恵子は言った。

「そんな状態なら検査で異常が見つかるはずです。」

俊之が言うと

「自分だけでうまく医者と話をして会社には報告をしていなかったようです。」

多恵子は言った。

「病気を治す方が先決のはずだ。」

俊之は榊原の心境が計りかねて言った。

「主人は高村さんだけを追いかけていました。」

多恵子が遠くの空を見るように言った。

「僕の方でも確認してみますよ。」

俊之は立ち上がって言った。

「あれは店長がさせたことだったのですか?」

久美子は驚いては言った。久美子はひとみから聞いてもそんなには驚いてはいなかった。以前から心のどこかで予感のようなものが久美子にはあったのである。休憩時間は終わるまでには時間があった。

「そうだったのよ。」

ひとみは言った。

「あの時は押されたのは解りましたけどね。」

久美子が言うと

「私が知合いのお願いしてわざと堀川さんを突き飛ばして高村さんに珈琲をこぼさせてきっかけを作ったのよ。」

ひとみはすまなそうな顔をして言った。ひとみの言葉は淡々としていたがそうしなければ久美子に話す事はできなかった。

「私が俊さんと親しくしてある時期が来たら冷たく嫌う事によって俊さんが傷つくと思ったのですか?」

久美子が言うと

「榊原さんがそう言ったから何となくそのまま行動したけどね。」

ひとみは言った。

「そうですか。」

久美子が言うと

「そんなに単純ではなかったわね。」

ひとみは久美子を見て言った。

「榊原さんも女心が解らないのですね。」

久美子は言った。

「私も冷静さがなかったけどね。」

ひとみが言うと

「俊さんや笹川さんもみんな同じですね。」

久美子とひとみは目線を合わせて言った。そのまま見詰め合っていたがどちらからともなく微笑み出していた。

「そろそろ休憩が終わる時間ね。」

ひとみ時計を見て言った。

「私が先に戻っています。」

久美子が言った。

「私はここで失礼します。」

多恵子が俊之に言った。

「僕の方でも何か解ったらお知らせします。」

俊之が言うと多恵子は公園のベンチを立って歩き出した。多恵子の後姿をじっと見送る俊之であったが先ほどから人の気配があったのに気づいていた。

「もういいよ。」

俊之が言うと翔太が木の後ろから出て来た。

「高村さんがこれを必要になったと思いましてね。」

翔太は言うと封筒を俊之に差出した。俊之は

「ありがとう。」

と言って封筒を開けて書類を読んでいた。

「早く入院しないと間に合わないですよ。」

翔太は言った

「多恵子さんはもっと早く言ってくれればよかったのにね。」

俊之が言うと

「健康診断で異常が見つかっても会社には報告していなかったようです。」

翔太は言った。

「放っておいたみたいだね。」

俊之が言うと

「今は個人情報の扱いには慎重ですから病院も本人としか話をしなかったようです。」

翔太は言った。

「ありがとう。」

俊之が言うと

「とんでもありません。」

翔太は言った。

「それにしてもよくこの情報を手に入れられたね。」

俊之が驚いて言った。

「それは蛇の道は蛇ですよ。」

といたずらっぽく笑って言った。

雨のあとに虹 その128

俊之と久美子にとっていつになく心地よい朝をふたりで迎えた。久美子が目を覚ました時には当たり前のように自然な形で目が覚めたていた。俊之のために朝食を作るのは楽しいと思えるのは久美子が持つ不安が少しずつ消えている事を意味していた。俊之が目を開けた時には今までにはない安らぎを感じていた。家庭を持つとはこういう事なのだと思えるほど自然な空気が周囲に漂っていた。

「おはよう。」

俊之が言った。久美子は俊之の声に振り向いて

「今日は珈琲がおいしくできましたよ。」

と言った。

「いい香りだね。」

俊之は言うと珈琲の香りに酔っていた。

「春香さんがご馳走してくれた料理はボリュームがあったから野菜を増やしたよ。」

久美子が言って差し出した野菜やフルーツは俊之の目を引いた。

「おはようございます。」

久美子が言うとひとみも

「おはよう。」

と言った。久美子が出勤した時にはひとみは仕事に取り組んでいた。ふたりは周囲には何事もなかったように振舞っているが久美子もひとみも昨夜になって突然総武の白仁正樹に会った時の事は鮮明に脳裏をよぎっていた。ひとみは自分が大きな誤解をしていた事に加えて改めて榊原の策略に利用されていた事に気づいて悔しい感情が込上げてきた。だからと言って榊原だけが悪いわけではない。ひとみは貴志と田所に面識はないが斉藤弘子には麗子が亡くなった直後にはよく会って話をしたのだった。斉藤弘子が何かを企んでいるのかは解らなかった。

「開店の時間になりましたよ。」

久美子が言うと」

「そうだったわね。」

ひとみは我に返って言った。

「すぐにオープンですよ。」

小百合が言った。

「それではみなさんよろしくお願いします。」

ひとみが言うとフロアーに音楽が流れてお客が入って来た。

 俊之はゆっくりと静かな公園を散歩していた。俊之にはこれからしなければならない事が多くなっていた。矢島の仕事はしないといけない。総武のトップになれば相当な覚悟をして望まないといけない。春香はともかく父親の正樹にあそこまで言われて俊之は断れなかったのである。俊之が総武のトップになる事を承諾したのは短い時間の中で考えての答えであった。あの場にいた全員が証人と言える状況で俊之は総武に来る事を明言した。これからどのような状況になるかは今ここで考えても答えは出ないのだ。俊之は目の前にあるベンチに腰を下ろして目を瞑っていた。俊之に少しだけゆったりした時間が流れていたのである。

「高村さん。」

と自分を呼ぶ声に我に返った俊之は頭を上げた。目の前に立っている上品な女性が榊原の妻である多恵子であった。

「これはご無沙汰しております。」

俊之はすぐにいつもの笑顔を作って言った。

「私も真相が知りたいです。」

久美子は休憩時間になるとひとみに言った。

「堀川さんには直接関係がないのよ。」

ひとみが言うと

「私にも関係があります。」

久美子は言って珈琲を口につけた。

「堀川さんも嫌な思いをするかも知れないのに良いの?」

ひとみが言って紅茶を飲むと

「そんなのは構いません。」

久美子は言った。

「春香さんや育子さんも早く真相が知りたいでしょうね?」

ひとみが言うと

「俊さんや店長を辛い目にあわせた原因をみんなが知りたいと思っているはずです。」

久美子は言った。

「堀川さんは強いわね。」

ひとみが言うと

「俊さんや店長に比べれば軽いですよ。」

久美子は言った。

「春香さんは責任を感じているみたいね。」

ひとみが言うと

「こうして何人もの人が苦しい思いをしていたのですね。」

久美子は言った。狭い控え室にいたふたりはお互いを見つめていた。

「長い時間だったわ。」

ひとみが言うと

「先を見て前向きに考えましょう。」

久美子が的確に言った。