雨のあとに虹 その133
俊之はパソコンを操作していた。ウエブの検索はもちろんであるがメールのチェックもしていた。時には自分の部屋で落着いて操作するのも楽しいものである。
「先日に天門先生が出された本でも見てみよう。」
俊之はとひとり事を言いながら操作していた。天門が専門家向けに出した本格的な本である。少し間静寂があったが携帯が鳴っていた。俊之が見ると久美子からだった。
「久美ちゃん。」
俊之は言った。
「話をして大丈夫ですか?」
久美子は俊之の状況も気遣って言った。
「大丈夫だよ。」
俊之は言った。
「俊さんに話しておいた方が良いと思ったので話しますね。」
久美子が言うと
「どんな事なの?」
俊之は言った。
「私が俊さんにミートソースを溢した事を覚えていますか?」
久美子が言うと
「覚えているよ。」
俊之は言った。
「あの時は誰かに押された気がしたのだけれどよく解りませんでした。」
久美子が言うと
「僕も誰か手を見たけど解らなくなったよ。」
俊之は言った。
「あれは店長が近所に住む親しい主婦に頼んで私を突飛ばして貰ったそうです。」
久美子が言うと
「それであの騒ぎの中で突飛ばした人が居なくなった理由が解ったよ。」
俊之は言った。
「あの時に店長から俊さんと親しくするように支持を受けました。」
久美子が言うと
「そうでもなければ20歳の久美ちゃんが46歳の僕に親しくするはずがないよね?」
俊之は言った。
「そんな事はないですよ。」
久美子は俊之にミートソースを溢した時の事を思い出しながら言った。
「ひとみさんはどうして久美ちゃんにそんな支持を出したの?」
俊之が言うと
「私が俊さんと親しくして急に冷たくしたらと俊さんが傷つくと思ったそうです。」
久美子は言った。
「それは傷つくよね。」
俊之が言うと
「俊さんでも傷つきますか?」
久美子は言った。
「しばらくは立ち直れないだろうね。」
俊之は言った。
「私たちが出会ったのは偶然ではなくて必然だったのですね。」
久美子が言うと
「それでも今はそれで良かったよ。」
俊之は言った。
「私も同じ気持ちです。」
久美子は嬉しそうに言った。
「確かにひとみさんに誤解を受けた事は残念な事だったけどね。」
俊之が言うと
「それは榊原さんに原因があるわけですね。」
久美子は言った。
「今は誤解も解けたからこれで良かったと思うよ。」
俊之が言うと
「そうですよね?」
久美子は言った。
「何か強い力が働いたみたいな状態だね。」
俊之は天門の言葉を思い出して言った。
「私も不思議な力のようなものを感じました。」
久美子が言うと
「ひとみさんは縁結びの神様だと思って感謝しようよ。」
俊之は言った。俊之は久美子が考えている事と同じ事を言葉にしのだった。
「店長もずっと辛かったのでしょうね?」
久美子が言と
「僕がもっとしっかりしていればよかったね。」
俊之はひとみの心情に配慮して言った。
「そんな事はないですよ。」
久美子は優しく言った。その夜は誰にも平等にやってきて時間が静かに過ぎていった。携帯の向こうにいる久美子を俊之は愛しく思った。久美子は俊之をあらためて慕っていた。時々訪れる静寂がふたりの距離を縮めていた。時として時間は早くなったり遅くなったりしていた。
矢島建設のフロアーは活気に満ちていた。田崎は矢島から抜擢を受けて新規事業の責任者になり課長に昇格していたのである。今では活気付く社員の中でも田崎は将来の有望株になっていた。
「それでは早速そちらに伺わせていただきます。」
田崎は言って電話を切った。横にいたみどりが
「30分ほどしたら社長室に来てほしいそうです。」
と言った。
「あとで行きます。」
田崎は元気よく言った。年末の田崎とは別人のよう成長した田崎にみどりは驚いていた。
雨のあとに虹 その132
「みなさんお疲れ様でした。」
手塚が挨拶をしてパトロール隊は散会となった。数人のメンバーは一礼をしたあと俊之は
「次回は来週にならないと参加できないのでよろしくお願いします。」
と言った。
「無理しないでいいよ。」
手塚は言った。
「参加できないですみません。」
俊之が言うと
「参加できる時に参加してくれればいいよ。」
手塚は言った。俊之は手塚と目を合わせると携帯が鳴った。着信表示を見ると天門からだった。
「先生。」
俊之が言うと
「高村さんだね。」
天門が言った。
「新年おめでとうございます。」
俊之が言うと
「今年もよろしくお願いします。」
天門が丁寧に言った。
「何かあったのですか?」
俊之が言うと
「例の開運の本だけどね。」
天門は言った。
「桑田先生から電話はありましたがまだお目にかかっていませんけどね。」
俊之が言うと
「他の部分で長引いたようでね。」
天門は言った。
「最近は連絡がないので心配していました。」
俊之が言うと
「いよいよ高村さんの取材が始まると思うよ。」
天門は言った。
「それは僕も楽しみですよ。」
俊之は言った。
直子はひとり部屋の中で考え事をしていた。斉藤弘子という女は信用がおけない雰囲気を持っている。傍にいない人の悪口を平気で言ったりするのだ。こういう人は話す内容に嘘が多い場合がほとんどだ。今は自分がどんなに悪く言われているか?と心配にあるのである。考えてみれば貴志という男も信用出来ない男である。三友商事の部長だと聞いたので信用した直子であるがとても有能な商社マンには見えない。俊之のように商社マンでなくても気品がある男も居れば貴志のように気品がない商社マンもいいのだと直子は考えていた。
「高村さんは三友商事の社員だったのではないかしら?」
直子はひとり呟いた。いずれにしても弘子がお金の話をしてから直子は弘子に対しても貴志に対しても不信感が大きくなっていた。
雨のあとに虹 その131
「また明日ね。」
ひとみが言うと
「明後日は大学の抗議があるからお休みです。」
久美子は言った。エスカレーターで1階まで降りて来たところである。
「それは大丈夫よ。」
ひとみは言って改札口の方へ行った。久美子は駅前の通りで買い物をして帰る事にした。交差点で信号を待っていると
「ちょっと彼女」
キャッチと呼ばれる男が声をかけてきた。
「急ぎますのですみません。」
久美子が言うと
「良い仕事があるけど興味ない?」
男はさらに言った。
「興味ないです。」
久美子が言うとは信号が青になった。久美子が歩き出すと男はしつこくついて来た。久美子はそのまま歩くスピードを緩めずにいると
「黙っているなよ。」
男は本性を現して言った。
「興味ないと言ったはずですよ。」
久美子は言った。
「待てよ。」
男が言って久美子の腕をつかもうとした時である。
「お待たせ。」
人相の悪い服装で髪は茶髪にして耳ピアスの関口が立っていた。
「あっ!」
久美子が言うと関口は
「俺の彼女にお前なにやっている!」
と大きな声で」言った。男は急に静かになって
「何にもしていません。」
と言った。
「変な事をするとぶっ殺すぞ!」
関口が言うと男は急に静かになって
「すみません。」
と言った。
「殺されたくなかったら消えろ!」
関口が言うと
「解ったよ。」
と言って男は駅の方へ戻って行った。
「あいつ行きましたね。」
関口が言うと
「ありがとうございます。」
久美子は言った。
「それじゃ気をつけてね。」
関口は言って立ち去ろうとした。久美子は
「今度お礼をさせてください。」
と笑顔で言った。久美子に言われると嬉しさを隠せない関口であった。
「また明日ね。」
育子は同じ卓球部のゆき乃に言った。
「明日からがんばろうね。」
ゆき乃は言って手を振った。駅前でゆき乃と一緒に歩いていた。ゆき乃と違って少し時間に余裕がある育子は都心のおしゃれな店を見て回ろうと育子考えていた。少しだけおしゃれな気分を味わって気分をリフレッシュして明日からは始まる本格的に大学生活に備えるのだ。当分は卓球の練習で忙しくなるのが育子には解っていたのである。今日はつかの間の休息と言えば大げさであるがメンバーと楽しく過ごしたあとであった。駅前はいつものように賑わっていた。育子が赤信号で待っているとキャッチの男が声をかけてきたのである。
「ちょっと良い。」
男が言うと
「何か?」
育子は言った。
「良いバイトがあるけどどうだろう?」
男は軽いのりの言葉で言った。
「興味ないです。」
育子は言った。ここまでの育子は久美子と同じであった。
「そんな事言わないで話を聞いてよ。」
男が言うと信号が青に変わった。育子は歩き出して
「他の女性に声をかけてください。」
と言った。男は急に怒りを表情に出して
「かっこつけるなよ。」
と言った。育子は男を無視して交差点を渡っていた。
「かっこはつけていません。」
育子は言って男を無視し手歩いていた。男は
「ふざけやがって!」
男が言うと
「別にふざけていないよ。」
育子は言った。男は怒った表情で育子の手首を掴もうとした。その瞬間に育子は逆に男の手首を掴んで締上げていた。
「痛てえ!」
男が悲鳴に近い声を出した。
「ふざけていないって言ったでしょ?」
育子が言うと
「痛てえ!」
男はさらに大きな声で悲鳴を出した。
「あなたのやっている事は道路交通法違反だって知っている?」
育子は言うが力を緩めていない。
「解ったよ。」
男が言った。周囲を歩く人たちが不思議そうに育子たちを見て通り過ぎて行った。
「だったら見苦しいから行きなよ。」
育子は言って男の手首を締め上げている力を緩めた。それでも男の手には激痛が走ったままであった。
「育子さん。」
翔太が言って走って来た。手を押さえた男を見たあとに育子を見た。
「珈琲でも飲みに行こうよ。」
育子が平然と言うと翔太は
「育子さんは合気道の有段者でしたね。」
と言った
「この男がしつこいからよ。」
育子は言った。育子は外見に似合わず逞しかったのである。
「それはよかった。」
翔太は安心して言った。