雨のあとに虹 その139
「やっと講義が終わったね。」
久美子が言った。久美子は純子と一緒にキャンパスを歩いていた。純子は眠気との闘いのようで午後の講義はほとんど頭に入っていないようである。
「眠いな。」
純子が言った。
「しっかりレポートも提出しないといけないからあまり寝ないでよ。」
久美子は言った。久美子は自分の事のように純子を心配していたのである。年末にあのような事があったので心配であったがそちらの方は大丈夫だった。レポートを書いて単位を取得するには講義を聞いておかないとあとが大変である。まさか留年を覚悟しているわけでもないだろう。と久美子は思った。
「大丈夫だよ。」
純子は言った。
「今が一番のがんばり時よ。」
久美子が言うと
「今日だけだよ。」
純子が言った。
「それなら良いけどね。」
久美子が言うと
「今度からしっかり講義を聞くからね。
純子は言った。
「3年になったら就職活動もあるから忙しくなるよ。」
久美子は自分自身にも言い聞かせるように言った。キャンパスを歩いて午後のひと時を過ごす独特な雰囲気が久美子は好きだった。久美子の本業は大学生であるが勉強も遊びも恋も何でもしたいと思っているうちに普通の女子大生とは違う体験をしている自分が不思議であった。久美子は押されて俊之にパスタをこぼしたあの日から何かが始まったような気がしていたのである。
「これお返しします。」
ひとみは言った。榊原には紙に包まれている改造モデルガンを渡した。
「使わなかったのか?」
榊原は言った。喫茶店の中で渡すのだから目立たないようにしていた。
「別な物を使ったわ。」
ひとみは平然と言った。
「それでもあいつは怪我ひとつしなかったようだな?」
榊原は言った。榊原でもそのくらいは容易に想像できたのである。
「私がミスしましたからね。」
ひとみは言った。
「君がミスをしたのか?」
榊原が言うと
「ミスして良かったです。」
ひとみは言った。
「それはどう言う事だ。」
榊原が言うと
「もう少し私は後悔するところでしたよ。」
ひとみは榊原の目を睨むように見て言った
「高村に恨みがあったはずじゃないのか?」
榊原が言うと榊原の言葉を無視してひとみは
「麗子さんが死んだのは高村さんのせいではなかったからです。」
と言った。
「高村がロンドンで新しい恋人を作ったからだぞ。」
榊原が言うと
「それには斉藤弘子さんが絡んでいますね。」
ひとみは言った。
「どうしてそれを知っている。」
榊原が言うと
「あなたはただ高村さんを憎んで私を利用しただけですね。」
ひとみは言った。榊原はひとみの言葉を聞くと
「俺は高村に勝ちたい。」
と言った。
「それだけなの?」
ひとみが言うと
「それだけだ。」
榊原は言った。
「それは無理だわ。」
ひとみは榊原の目を見て言った。
「それはどういう意味だ。」
榊原が言うと
「高村さんとあなたでは最初から勝負にならないわ。」
ひとみが言うと榊原は
「みんなで同じ事を言いやがってふざけるな。」
と言った。榊原の顔色はさらに悪くなっていた。
「器がちがうのよ。」
ひとみは言った。
「みんなで器が違うと言うがどういう事だ。」
榊原が言うとひとみは
「本当に解らないの?」
と榊原を見て言った。
「俺だった高村に負けない努力をしているぞ。」
榊原は口調を荒げて言った。
「あなたはずるい方法を駆使しても高村さんに勝てないでしょ?」
ひとみが言うと
「そのうちに勝って見せるよ。」
榊原は言った。
「高村さんはずるい事をしなくてもきちんと周囲が守り立ててくれる。」
ひとみが言うと
「そう見えるだけだろう?」
榊原は言った。
「高村さんのためには何かをしたくなるそんな魅力がある人なのよ。」
ひとみが言うと
「俺にはそれが無いというのか?」
榊原は言った。ひとみは
「無いわよ。」
とはっきり言った。
「俺はひとりでも高村に勝つさ。」
榊原が言うと
「まだ解らないの?」
ひとみは言った。
「勝ってみせるよ。」
と言う榊原に
「それが無理なのよ」
ひとみは言った。
「どうして俺があいつに勝てないと言えるのだ。」
榊原が言うと
「高村さんは総武グループのトップに立つから無理なのよ。」
ひとみが最後の一言を言った。
「そんなバカな事があるか!」
榊原が言うと
「バカな事ではないわよ。」
ひとみは言った。
「どうしてあいつが総武のトップになるのだ。」
榊原が言うと
「白仁春香さんに認められたみたいね。」
ひとみが言った。
「どうして白仁春香さんが高村を知っているのかが解らない。」
榊原が言うと
「今は姓が変わって以前は向島春香さんと名乗っていたみたいね。」
ひとみが言った。榊原はそれを聞いて
「あの向島春香かが白仁春香だったのか?」
榊原は言うと頭の回転がしだいに遅くなっていた。
雨のあとに虹 その138
純子は居眠りを始めていた。久美子は大川教授の声に耳を傾けていたが純子を気にすると講義に集中できなくなっていた。大川教授は学生の質問を受けて気さくに話をするようになっていた。久美子は手を上げて
「ひとつ質問しても良いでしょうか?」
と言った。大川教授は
「新年最初の質問は知的な美人さんからだね。」
と言った。久美子は
「美人さんは余計ですよ。」
と言うと
「何でも遠慮なく聞きなさい。」
大川教授は冗談を交えて言った。純子が久美子の横で大川教授の声を聞いて目が覚めたようである。我に返ったようにしている純子を横目に見て
「この130ページの説明ですと漠然としていますので具体例をあげて説明をお聞きできればと思います。」
久美子が室内によく通った声で言うと
「それはすまなかったね。」
大川教授は言った。
「お呼びでしょうか?」
貴志は言って役員室に入って来た。
「君に確認したい事があってね。」
山本は貴志の目を見て言った。
「どのような事でしょうか?」
貴志が言うと
「この帳簿を見なさい。」
山本が言った。貴志は
「帳簿ですか?」
と言って山本を見た。
「おかしくないかね。」
山本が言うと貴志は山本から目を逸らした。貴志は帳簿を捲ってみた。この帳簿が山本が持っている事が貴志には理解できなかった。
「この内容は須藤さんがやったものです。」
貴志は言ったあとの言葉が出ない。
「これはが本当の帳簿のようだね。」
山本は言った。
「本当の帳簿は別にありましてこれは間違った帳簿で処分をしようと思っていたところです。」
貴志が言うと
「現在経理で保管している帳簿は改ざんされていると理解して良いね。」
山本はきっぱりと言った。貴志は硬直したように動けないでいた。
「それにはいろいろと理由があります。」
貴志はやっとの事で言うと
「かなりの金額が横領されているね。」
山本は言った。
「それに加えて取引先に接待を要求してかなりの金額を懐に入れているのも確認が取れているだけで10社以上あります。」
いつの間にか須藤が山本の後ろから出て来て言った。
「責任をとってもらうぞ。」
山本は言った。須藤は
「帳簿にないものは私の方でデーターを集めます。」
と言った。
「これから負の資産は整理するからな。」
山本の最後通告するように言った。
俊之は公園のベンチに座っていた。約束の時間より早く着いたが景色を見て時間を過ごすのも良いと思っていた。時計を見るとまだ多恵子は来るまでには時間がある。新年早々にいろいろな事があったが今年はしなければいけないことがたくさん山積みであった。ひとつずつ順番にこなしていこうと考えていた。横で
「高村さん。」
と多恵子に言われて我に返っていた。
「多恵子さん。」
俊之が言うと
「遅くなりました。」
多恵子は言った。
「どうぞ座ってください。」
俊之は多恵子にベンチに指差して言った。
「何か解ったのですか?」
多恵子は言った、多恵子は早く知りたいと心がはやる一方で不安もあったのである。
「こちらのカルテを見ていただければ一目瞭然です。」
俊之は言いながらカルテが入った封筒を渡した。
「失礼します。」
多恵子は言うと封筒を開けて目を通した。そのわずかな時間が俊之にはとても長いように感じられたていた。
「健康診断では異常が解ったはずですよ。」
俊之が言うと
「やはり予感が的中しました。」
多恵子はあきらめたように言った。
「今からでも治療すれば少しでも良くなると思いますよ。」
俊之は言った。
「主人は言う事を聞くでしょうか?」
多恵子が言うと
「僕だった入院すると言ったらどうですか?」
俊之は言った。
「高村さんは入院するはずだと私が言うのですか?」
多恵子が言うと
「僕をライバル視しているから少しでも効果があると思いますよ。」
俊之は言った。
「私が出来る事は全部やってみます。」
多恵子は自分の夫と俊之を比べるように見て言った。
「勝つとか負けるとかという問題ではないと言ってください。」
俊之は言った。
「私も高村さんと同じ考えです。」
多恵子は言った。
「すべて生命があってはじめて成立することですよね?」
俊之は言った。
「あと人は何をしようとしているのか解らなくなりそうです。」
多恵子が言うと
「死んでしまってはその先には何もないと言ってください。」
俊之は諭すように多恵子に言った。
「ありがとうございました。」
多恵子は言うと立って俊之に会釈をした。
「お大事にしてください。」
俊之も言うと立って会釈をした。
「失礼します。」
と言って背中を向けて去って行く多恵子を俊之はただ見つめていた。
雨のあとに虹 その137
「長島先生。」
俊之は改札口から長島が出て来るのを見つけて言った。未来との交渉はすぐにまとまっていた。これからは長島との交渉に入るのだった。今日中にやっておかなければならない事が多かった。
多い。
「高村さん。」
長島は言うといつものように俊之を見つけて右手を上げた。
「急にすみません。」
急にアポイントをとった事に恐縮して俊之が言うと
「私はわないよ。」
長島は言った。
「少し急いでいましてね。」
俊之が言うと
「高村さんが急ぐのだから余程の事だろうね?」
長島はいつものように穏やかな声で言った。
「珈琲でも飲みましょう。」
俊之は長島をとの交渉を頭に描いて言った。
弘子は周囲をキョロキョロしながら落着きなく歩いていた。オフィス街ではそれが特に目立つのである。顔を合わせると都合が悪い人でもいるようにすれ違う人や周囲にいる人の顔をすぐにチェックしていた。誰が見ても普通の状態ではないと気づくはずである。指定されたコンビニの前に立つと不安を隠せない表情をむき出しにしていた。弘子は緊張しながら立っていると30歳より少し若い手前のやり手に見える女性が
「斉藤弘子さんですね。」
と言った。弘子は
「斉藤です。」
と言っただけである。弘子の緊張はかなりのところまで来ていた。
「石倉ひとみです。」
ひとみは言った。
「石倉ひとみさんとおっしゃるのですか?」
弘子は言った。
「斉藤さんにどうしてもお聞きしたい事がありまして無理を承知でお時間をいただきました。」
ひとみは言うと
「私にどんな事を聞きたいと言うの?」
弘子が言うと
「あちらのホテルの喫茶店に行きませんか?」
ひとみはホテルを指差して言った。少し離れた所で関口が翔太に携帯で連絡をしていた。
「ひとみさんが斉藤弘子と接触しているのは本当なのか?」
翔太は確認をして言った。
「間違いありません。」
関口は言った。
「何かあってもひとみさんには怪我のないように頼むぞ。」
翔太は言った。
田所は役員室を出てから自分の席で頭をフル回転させて考えていた。山本は自分の行動のすべてを知っていたようである。自分がとった行動が役人に解るはずはないと考えていた。田所は自分が他人の悪い点を周囲に話せばその悪い点が話題になって自分の悪い点からは注意が遠ざけられると考えていた。それは田所の浅知恵であるが田所本人はそこに気づいていなかったのである。
「田所課長。」
まどかが言うと田所は我に返ったように
「何か?」
と言った
「山本取締役から連絡がありましたよ。」
まどかが言った。
「どんな連絡があったのかな?」
田所が言うと
「お席が明日から取締役の隣に移られるそうですね。」
まどかが言った。
「明日から席が移るとは聞いていないぞ。」
田所は言うが
「みんなで席替えを手伝うように支持されていますのでお手伝いしますね。」
まどかが言うと
「それなら僕もお手伝いしますよ。」
中村が言った。
「私も手伝うように直々に支持を受けましたよ。」
須藤が駆け寄って来て言った。須藤の言葉を聞いて男性社員も女性社員も駆け寄って来て全員で田所の移動を手伝い始めていた。田所の頭だけがオーボーヒートしているのだった。