雨のあとに虹 その137
「長島先生。」
俊之は改札口から長島が出て来るのを見つけて言った。未来との交渉はすぐにまとまっていた。これからは長島との交渉に入るのだった。今日中にやっておかなければならない事が多かった。
多い。
「高村さん。」
長島は言うといつものように俊之を見つけて右手を上げた。
「急にすみません。」
急にアポイントをとった事に恐縮して俊之が言うと
「私はわないよ。」
長島は言った。
「少し急いでいましてね。」
俊之が言うと
「高村さんが急ぐのだから余程の事だろうね?」
長島はいつものように穏やかな声で言った。
「珈琲でも飲みましょう。」
俊之は長島をとの交渉を頭に描いて言った。
弘子は周囲をキョロキョロしながら落着きなく歩いていた。オフィス街ではそれが特に目立つのである。顔を合わせると都合が悪い人でもいるようにすれ違う人や周囲にいる人の顔をすぐにチェックしていた。誰が見ても普通の状態ではないと気づくはずである。指定されたコンビニの前に立つと不安を隠せない表情をむき出しにしていた。弘子は緊張しながら立っていると30歳より少し若い手前のやり手に見える女性が
「斉藤弘子さんですね。」
と言った。弘子は
「斉藤です。」
と言っただけである。弘子の緊張はかなりのところまで来ていた。
「石倉ひとみです。」
ひとみは言った。
「石倉ひとみさんとおっしゃるのですか?」
弘子は言った。
「斉藤さんにどうしてもお聞きしたい事がありまして無理を承知でお時間をいただきました。」
ひとみは言うと
「私にどんな事を聞きたいと言うの?」
弘子が言うと
「あちらのホテルの喫茶店に行きませんか?」
ひとみはホテルを指差して言った。少し離れた所で関口が翔太に携帯で連絡をしていた。
「ひとみさんが斉藤弘子と接触しているのは本当なのか?」
翔太は確認をして言った。
「間違いありません。」
関口は言った。
「何かあってもひとみさんには怪我のないように頼むぞ。」
翔太は言った。
田所は役員室を出てから自分の席で頭をフル回転させて考えていた。山本は自分の行動のすべてを知っていたようである。自分がとった行動が役人に解るはずはないと考えていた。田所は自分が他人の悪い点を周囲に話せばその悪い点が話題になって自分の悪い点からは注意が遠ざけられると考えていた。それは田所の浅知恵であるが田所本人はそこに気づいていなかったのである。
「田所課長。」
まどかが言うと田所は我に返ったように
「何か?」
と言った
「山本取締役から連絡がありましたよ。」
まどかが言った。
「どんな連絡があったのかな?」
田所が言うと
「お席が明日から取締役の隣に移られるそうですね。」
まどかが言った。
「明日から席が移るとは聞いていないぞ。」
田所は言うが
「みんなで席替えを手伝うように支持されていますのでお手伝いしますね。」
まどかが言うと
「それなら僕もお手伝いしますよ。」
中村が言った。
「私も手伝うように直々に支持を受けましたよ。」
須藤が駆け寄って来て言った。須藤の言葉を聞いて男性社員も女性社員も駆け寄って来て全員で田所の移動を手伝い始めていた。田所の頭だけがオーボーヒートしているのだった。