雨のあとに虹 その121
「今日はレースを楽しんでね。」
前田は言った。
「高村さんとは競馬をするのは初めてですね。」
育子は俊之を見て言った。
「初めてですか?」
久美子は意外そうに言って俊之を見た。」
「そうだったね。」
俊之は言った。それを聞いて前田は
「今日は新年から一緒の競馬を楽しむわけだね。」
と言った。
「いつもは予想だけでしたからね。」
育子が言うと前田は
「霊感で馬券を的中させているのはお嬢さんですか?」
と感心したように言った。
「たまには女性と一緒に競馬をと思ってね。」
俊之が言うと
「運良く指定席が空いているからこっちへおいでよ。」
前田は優しく微笑みながら言った。
「すみません。」
俊之が言って
「先日もお世話になったのに良いのですか?」
久美子が言った。
「あとでトラブルにならないですか?」
育子も言った。
「大丈夫だからね。」
前田が言った。俊之たちは前田に促されて座った。
「すみません。」
育子が言って
「ありがとうございます。」
久美子が言った。
「本当に大丈夫ですか?」
俊之が言うと
「俺と高村ちゃんの中だからね。」
前田は言った。
「私は指定席に座るのが初めてですよ。」
育子が嬉しそうに言い久美子も
「私は競馬が2回目だけどとてもおしゃれですね。」
と感激して言った。前田は売店に行って
「こちらに珈琲と焼きそば三つ頼むよ。」
と言った。
「はい!」
と担当者が言った。
「俺につけといてね。」
と気前がいい前田が言った。場内は第1レースのファンファーレーが鳴っていた。
最終レースが終了して場内は歓声が上がっていた。これも育子の霊感が的中したのだった。荒れたところを当てたので3人とも利益が大きかった。
「育子さんは凄いね。」
俊之は言ったがそれ以外言葉が出ない状態だった。いつも育子に設けさせてもらっている俊之であるが今日もしっかり利益を出していた。育子の霊感が今日も健在であった。俊之は育子のおかげで競馬での収入も安定していたのである。
「今日は絶好調だったよ。」
育子は平然として言った。
「凄いですね。」
久美子は驚いて言った。
「これはいつもの事よ。」
育子が言うと
「私は育子さんを尊敬します。」
久美子が言った。育子の霊感はすでに実証済みだったが今日の効果は絶大だった。3人は換金をして場外馬券売場から帰る予定だった。前田が俊之たちの傍に来て
「しっかり当てたかい?」
と言った。
「おかげさまで当てましたよ。」
俊之が言うと
「お世話になりました。」
久美子が言って育子も
「ご馳走様でした。」
と言った。
「毎週やっているからいつでも遊びにおいでよ。」
前田が言うと
「今度も霊感を働かせますよ。」
育子が言った。
「それは頼もしいね。」
前田は笑顔で言った。
「今日もお世話になりました。」
俊之は言った。
雨のあとに虹 その120
俊之は矢島建設を出て駅前を歩いていた。半日で勤務が終わり思い思いに集団で帰る社員たちとは違いひとりで歩いていた。これから大学時代の旧友に会うのだがまだ時間に余裕があった。俊之はショッピングセンターを見ていたのであるがトレンドカフェに寄ってみるのもいいかも知れないと思った。エスカレーターに乗ろうとした時に俊之は足を止めた。
「翔ちゃん。」
俊之は背後に人の気配を感じて言った。翔太は俊之の背後に姿を現して
「急にすみません。」
とだけ言った。
「僕はかまわないよ。」
俊之は言った。
「明日の夜に時間が空いているようでしたら会ってほしい人が居ます。」
翔太にしてはやや緊張気味に言った。
「僕ならいいよ。」
俊之はいつもの口調で言った。
「久美子さんや育子さんもご一緒できますかね?」
翔太が言うと
「僕から聞いて見るよ。」
俊之は言った。
土曜日であり平日のラッシュ時ほどの混雑はないが駅前は人が多かった。俊之は新聞を買って見入っていた。約束の時間には早いのであるが時間に余裕を持つのは良い事だった。今日のスケジュールは競馬だけではないから精神的に余裕を持つ事も必要である。今の俊之にとって忙しいのは良い事でであった。俊之は改札口から少し離れたところに立っていたので人の流れを邪魔することはなかった。改札を出た育子が俊之を見つけて
「高村さん。」
とよく通る声で言った。
「育子さん。」
俊之は言った。
「おはよう。」
育子が言った。
「今日も霊感予想を頼むよ。」
俊之は言いながら育子を見た。ブレザーにスカートできちんとおしゃれをしている育子を見て俊之は目をみはった。女性は服装で変わると言うが目の前にいる育子は人気アイドルにも負けていないのだった。
「しっかり精神を集中させるから任せておいてね。」
育子は言った。育子は素直なところも魅力である。大学では男性に人気があるようだ。俊之が時計を見た時に
「すみません。」
久美子が言って走ってきた。
「おはよう。」
育子が言った。
「私が最後ですね。」
久美子が言った。俊之が久美子を見ると育子とは違う種類のスカートにブレザー姿だった。耳には俊之が贈ったイヤリングしていてとてもとおしゃれである。ふたりの女性が放つ華やかな雰囲気に俊之は圧倒されそうだった。
「僕が先に着いただけだから気にしないでいいよ。」
俊之は眩しいほどのふたりを交互に見て言った。
「今日は霊感が働かせるからね。」
育子が言うと
「本当ですか?」
久美子は嬉しそうに言った。
「朝から良い事があるような予感がしているからね。」
育子が言うと
「私が珈琲おごりますから的中させてください。」
久美子が弾んだ声で言った。
「ついでにハンバーガーもつけてね。」
育子は明るく言った。
「もちろんですよ。」
久美子は言った。久美子はすっかり育子と意気投合していたそんなふたりに
「混んでいるから気をつけてよ。」
俊之は保護者のように言った。
「高村ちゃん。」
私服警備員の前田が言った。
「おはようございます。」
俊之が言った。俊之の横にいた久美子と育子は前田に会釈をした。前田も会釈をしながら
「今日のレースは見ごたえがあるレースばかりだよ。」
と言った。場外馬券売場は混雑して女性を連れてくるのは適切ではないのであるが今日は特別だった。
「今日は新年最初だからしっかり当てたいですよ。」
俊之が言うと前田は久美子と育子を見た。
「こちらのお嬢さんは年末にお会いしましたね。」
前田は久美子に優しく言った。
「その節はご馳走様でした。」
久美子は前田に挨拶を言った。
「どういたしまして。」
前田は言った。
「今日は3人で出来ました。」
久美子が言うと前田は育子を見て
「こちらのお嬢さんははじめてだね。」
と育子に言った。
「よろしくお願いします。」
育子は言った。
雨のあとに虹 その119
「この新規店舗出店は来月からになりそうだ。」
社長室で矢島は言った。新規事業のひとつで輸入雑貨店の出店について俊之に説明をしていた。
「計画書の予定で良いと思うよ。」
俊之は言った。
「問題はないか?」
矢島が言うと
「本業の利益の中でやるのであれば問題はないよ。」
俊之は言った。
「無理な借り入れはダメだと言いたいわけだな?」
矢島が言うと
「だからダメだったとしても利益が相殺されるだけだからね。」
俊之は的確に考えを言った。
「お前は賛成してくれるな?」
矢島は念を確認するように言った。
「賛成も何もないさ。」
俊之は言った。
「僕はいつも言うように本業を圧迫しなければかまわないと思っているよ。」
俊之は言った。
「今年はお互い飛躍したいよな。」
矢島が真剣な目で言った。
「僕もそう願っているよ。」
俊之は矢島と視線を合わせて言った。
「これから休憩に入ります。」
久美子は言って休憩室へ入った。休み明けは疲れると言うがそうでもなかった。いつものペースで仕事ができるのが精神的にも楽な時があるのだ。久美子は座って珈琲を飲もうとした時に携帯が鳴った。出ると育子からだった。
「久美ちゃん今大丈夫?」
育子が言うと
「今休憩中だから大丈夫ですよ。」
久美子は言った。
「明日はバイトあるの?」
育子は言った。久美子は育子の声を聞くと勇気付けられるのだった。育子は周囲を元気にさせるパワーを持っているように久美子には思えた。
「本当は出勤の予定でしたけど休みになりました。」
久美子が言うと。
「そうなの?」
育子は言った。
「その代わり翌日が出勤です。」
久美子が言うと
「それなら決まりね。」
育子は言った。
「どうかしましたか?」
久美子が言うと
「高村さんを連れて競馬へ行こうよ。」
育子は言った。明日は新年最初のレースが予定されていた。
「本当ですか?」
久美子が言うと
「たまには良いでしょ?
育子は言った。
「とても嬉しいです。」
久美子は嬉しそう言った。
「楽しみだわ。」
育子が言うと
「俊さんの予定は聞いていないですけど大丈夫かな?」
久美子が言うと
「明日は暇のはずだから大丈夫よ。」
育子は確信したように言った。
「それなら是非行きましょうよ。」
久美子は嬉しくなって弾むような声で言った。
「お互いしっかり当てようね。」
育子が言った。育子が久美子を励ます事によって俊之やひとみまで良い意味での影響を受ける事になるのである。