雨のあとに虹 その120
俊之は矢島建設を出て駅前を歩いていた。半日で勤務が終わり思い思いに集団で帰る社員たちとは違いひとりで歩いていた。これから大学時代の旧友に会うのだがまだ時間に余裕があった。俊之はショッピングセンターを見ていたのであるがトレンドカフェに寄ってみるのもいいかも知れないと思った。エスカレーターに乗ろうとした時に俊之は足を止めた。
「翔ちゃん。」
俊之は背後に人の気配を感じて言った。翔太は俊之の背後に姿を現して
「急にすみません。」
とだけ言った。
「僕はかまわないよ。」
俊之は言った。
「明日の夜に時間が空いているようでしたら会ってほしい人が居ます。」
翔太にしてはやや緊張気味に言った。
「僕ならいいよ。」
俊之はいつもの口調で言った。
「久美子さんや育子さんもご一緒できますかね?」
翔太が言うと
「僕から聞いて見るよ。」
俊之は言った。
土曜日であり平日のラッシュ時ほどの混雑はないが駅前は人が多かった。俊之は新聞を買って見入っていた。約束の時間には早いのであるが時間に余裕を持つのは良い事だった。今日のスケジュールは競馬だけではないから精神的に余裕を持つ事も必要である。今の俊之にとって忙しいのは良い事でであった。俊之は改札口から少し離れたところに立っていたので人の流れを邪魔することはなかった。改札を出た育子が俊之を見つけて
「高村さん。」
とよく通る声で言った。
「育子さん。」
俊之は言った。
「おはよう。」
育子が言った。
「今日も霊感予想を頼むよ。」
俊之は言いながら育子を見た。ブレザーにスカートできちんとおしゃれをしている育子を見て俊之は目をみはった。女性は服装で変わると言うが目の前にいる育子は人気アイドルにも負けていないのだった。
「しっかり精神を集中させるから任せておいてね。」
育子は言った。育子は素直なところも魅力である。大学では男性に人気があるようだ。俊之が時計を見た時に
「すみません。」
久美子が言って走ってきた。
「おはよう。」
育子が言った。
「私が最後ですね。」
久美子が言った。俊之が久美子を見ると育子とは違う種類のスカートにブレザー姿だった。耳には俊之が贈ったイヤリングしていてとてもとおしゃれである。ふたりの女性が放つ華やかな雰囲気に俊之は圧倒されそうだった。
「僕が先に着いただけだから気にしないでいいよ。」
俊之は眩しいほどのふたりを交互に見て言った。
「今日は霊感が働かせるからね。」
育子が言うと
「本当ですか?」
久美子は嬉しそうに言った。
「朝から良い事があるような予感がしているからね。」
育子が言うと
「私が珈琲おごりますから的中させてください。」
久美子が弾んだ声で言った。
「ついでにハンバーガーもつけてね。」
育子は明るく言った。
「もちろんですよ。」
久美子は言った。久美子はすっかり育子と意気投合していたそんなふたりに
「混んでいるから気をつけてよ。」
俊之は保護者のように言った。
「高村ちゃん。」
私服警備員の前田が言った。
「おはようございます。」
俊之が言った。俊之の横にいた久美子と育子は前田に会釈をした。前田も会釈をしながら
「今日のレースは見ごたえがあるレースばかりだよ。」
と言った。場外馬券売場は混雑して女性を連れてくるのは適切ではないのであるが今日は特別だった。
「今日は新年最初だからしっかり当てたいですよ。」
俊之が言うと前田は久美子と育子を見た。
「こちらのお嬢さんは年末にお会いしましたね。」
前田は久美子に優しく言った。
「その節はご馳走様でした。」
久美子は前田に挨拶を言った。
「どういたしまして。」
前田は言った。
「今日は3人で出来ました。」
久美子が言うと前田は育子を見て
「こちらのお嬢さんははじめてだね。」
と育子に言った。
「よろしくお願いします。」
育子は言った。