雨のあとに虹 その157
「お前の用件は解ったよ。」
増田は快く言った。
「こんな時だけお願いしてすまないね。」
俊之は言った。俊之はすぐに増田が引受けてくれた事に驚いていた。増田は金銭が絡まない頼み事は引受けない事でも有名であった。
「安心して俺に任せておけ。」
増田は言った。
「君は人脈があるから頼もしいよ。」
俊之が言うと
「それにしても良かった。」
増田は言った。
「何が?」
俊之が言うと
「やっと俺を頼って来たな。」
増田は言った。
「君の力を借りられて助かるよ。」
俊之が言うと
「俺たちは日本でトップの首都圏大学を出て政治家や官僚はもちろん医者に弁護士を始め教授などいろいろな分野に学友がいるからな。」
増田は言った。
「そうとも言えるね。」
俊之が言うと
「困ったらいつでも頼って来いよ。」
増田は言った。
「お前が三友商事に入ってから一度も俺を頼って来ないのを不思議に思っていたよ。」
増田は相変わらず持論を言った。
「僕たちだけでは世の中を支えられないさ。」
俊之が言うと
「お前も相変わらずだな。」
増田は言った。
「世の中はみんなで支えて成立っているからね。」
俊之は持論を言った。
「そういう考えもあるだろうな。」
増田は言った。
「考えは人それぞれだよ。」
俊之が言うと
「お前が三友商事を辞めたあとは時給の800円のバイトもしたそうじゃないか?」
増田は言った。
「三友商事を辞めていろいろな仕事をしたよ。」
俊之が言うと
「そんな事をしなくても会社くらい俺が紹介してやったぞ。」
増田が俊之に一目置いているように言った。
「時給800円のバイトをしたから見えたものもあるよ。」
俊之は言った。
「そういうものか?」
増田が言うと
「彼ら彼女らから教わったものも大きいと思うよ。」
俊之は言った。増田の眉が動いて
「お前がそれで良かったのなら何も言わないよ。」
増田は静かに言った。
「今回君に力を借りる条件だけどね。」
俊之が言うと
「そんなものいらないよ。」
増田はあっさりした顔で言った。増田にしては金銭を要求しないのは珍しい事である。
「そうはいかないよ。」
俊之が言うと
「いらないよ。」
増田は言った。
「これは会社とは別に個人的にお願いするのだから受取ってほしい。」
俊之が言うと
「それではひとつだけ良いか?」
増田は言った。
「どんな条件なの?」
俊之が言うと
「今後は親友として心を開いた付合いをしようじゃないか?」
増田は言った。
「僕なら構わないよ。」
俊之が言うと
「交渉成立だ。」
増田は言ってカクテルを飲み干した。
「パソコンでレポートの資料を添付ファイルで送ったからちゃんと見てよ。」
久美子はパソコンを操作しながら携帯で純子に言った。
「ありがとう。」
純子が言うと
「しっかり勉強してね。」
久美子は言った。
「まだ外だからあとで確認するね。」
純子が言った。純子はザワザワした所に居るようである。
「私が書いたレポートの元になった資料だからね。」
久美子は言った。
「それらはすごく役立つね。」
純子は言った。
「あとで参考にしてね。」
久美子は言って携帯電話を切った。時計に目をやるとすでに23時を過ぎていた。久美子はパソコンを見ていると自分の世界に少しだけ刺激が与えられるような錯覚を覚えていた。少しの時間をパソコンで情報を検索していた久美子であったが静寂を破って久美子の携帯が鳴った。久美子が出ると
「遅い時間にすまないね。」
俊之が言うと
「私なら大丈夫ですよ。」
久美子が言った。
「少し電話で話していいかい?」
俊が言うと
「ちょうど勉強が終わったところだからいいですよ。」
久美子は言った。
「久美ちゃんの成人式は実家の方でするの?」
俊之は言った。俊之は久美子から詳しい事を聞いていなかったのである。
雨のあとに虹 その156
「何度足を運んでいただいても融資は難しいですよ。」
折原は純一に言った。
「だからそこを何とかできませんか?」
純一が言うと
「連帯保証人か担保がないと無理ですよ。」
折原は言った。
「三友銀行さんのような大きな」金融機関なら助けてくれても良いでしょ?」
純一が言うと
「当行も慈善事業ではないのでご理解ください。」
折原は言った。
「ダメですか?」
純一は言った。
「不良債権になるのが恐いものでね。」
折原は言った。純一はため息をついて応接室のから見える窓外の景色を見た。
俊之は翔太と直子のふたりと別れて15分ほど電車に乗って都心とは反対側の駅で降りた。駅から10分ほど歩いて小さな雑居ビルに入と大手の保険会社の代理店をしている会社の入口に俊之は立っていた。俊之の顔を見ると
「高村ちゃん。」
と前田は言った。
「急にすみません。」
俊之が言うと
「高村ちゃんが平日に訪ねて来るとは珍しいね。」
前田が言った。前田は平日には保険の営業をして競馬開催日には場外馬券売場の警備員をしていた。
「実は前田さんに協力をお願いしたくて来ました。」
俊之が言うと
「内容にもよるけど高村ちゃんの頼みなら何でも協力するよ。」
前田は機嫌良く言った。
「私はこれから用事があるから先に上がるわね。」
ひとみが久美子に言った。
「お疲れ様でした。」
久美子は言いながらひとみに近づいて行った。
「あとは3人に任せたわよ。」
ひとみは小百合にももうひとりの女性店員にも言った。
「大丈夫ですよ。」
小百合は言った。
「店長プレゼントありがとうございます。」
久美子がひとみに改めて御礼を言った。
「そこ代わりに成人式の写真を見せてよ。」
ひとみは妹を見るような目で久美子を見て言った。
俊之は夜のビジネス街の一角にあるビルのエレベーターに乗った。最上階にはおしゃれなバーがあった。このバーにひとりで入って行くのは久しぶりであるが初めてではない。以前にはよく来ていた。俊之が入って行くとまだ客の数は少なく空いている席に案内されて座った。周囲を見て俊之は久しぶりに三友商事に時代に戻ったような錯覚を覚えていた。そんな雰囲気に溶け込んだように俊之と同年代の男がバーに入って来た。俊之が30代後半に見えるのと違いその男は年相応に見えた。俊之が右手を上げるとその男はやって来て俊之の前に座った。
「高村とは久しぶりだな。」
その男は言った。
「増田くんとゆっくり会うのは3年ぶりだよ。」
俊之が言うと
「少し痩せたようだが元気そうだな。」
増田康文は懐かしそうに俊之を見た。
「高村さんは来週こちらに来ますか?」
田崎は社長室に入って来ると矢島に言った。
「来遊は一度顔を出すはずだ。」
矢島は言った。
「そうですか?」
田崎が言うと
「用件がある時には直接高村の携帯に電話をしても構わないぞ。」
矢島が言うと
「やっぱりそうした方が良いですよね?」
田崎は言った。
「遠慮するな。」
矢島は言った。
「携帯に連絡します。」
田崎が言うと
「あいつはきちんとサポートしてくれるはずだ。」
矢島は大きな声で言った。
雨のあとに虹 その155
「金額はいくらなの?」
俊之は直子に言った。
「80万円です。」
直子は言った。空いていた席に座って話をしていると店内のざわつきが消されてしまうほど俊之は真剣に直子の話を聞いていた。俊之は弘子とは直接の面識はなかったが詐欺師である事は間接的に知っていた。
「振込みの控えがありますから直子さんが警察に被害届を出せば立件が出来ます。」
翔太は事前に確認しておいた事を言った。
「それならばすぐに斉藤弘子を訴えればあとは警察が捕まえてくれますよ。」
俊之が言うと
「すみません。」
翔太が言った。
「どうしたの?」
俊之が言うと
「それは事情があって出来ない状態です。」
翔太は言った。
「事情ってどういう事なの?」
直子が言うと
「言って良いですか?」
翔太は俊之の目を見て言った。
「構わないよ。」
俊之が言った。
「2週間泳がせましょう。」
翔太が言った。
「泳がせるとはどういうことですか?」
直子が言うと
「斉藤弘子との言い争いで麗子さんが転落した事が解ってきました。」
翔太は言った。
「どんな言い争いなの?」
俊之が言うと
「斉藤弘子のマンションの踊り場で麗子さんと斉藤弘子が言い争ったのを複数の人が目撃しています。」
翔太は言った。
「そのあとに麗子さんが転落死したという事だね?」
俊之が言うと
「話を総合すると間違いありません。」
翔太は言った。
「それにしても直子さんにとって80万円は大金だよ。」
俊之は言って考え込んだ。
「私はそれで良いですよ。」
直子は言った。
「それで良いのですか?」
翔太が驚いて言うと
「それが高村さんのためになるのならね。」
直子は言って微笑んだ。
「ついでにもうひとつ協力をしてもらえると助かりますがお願いできますか?」
翔太まじめな顔で言った。
弘子は湾岸の倉庫が立ち並ぶ一角に入っていった。外見は普通の倉庫に見えるが中に入ると一般の企業が持ち主ではないのがすぐに解る内装であった。
「あんたの会社もそろそろ危なくなってきたようだね?」
任侠の世界に通じているのが人目で解る仕立ての良いスーツを着た男が言った。
「心配はいらないですよ。」
弘子が言うと
「油断は禁物だぞ。」
男は言った。
「牛島さんは慎重ですね。」
弘子が言うと牛島慶三は
「あんたが無用心なだけだと思うよ。」
弘子を見て言った。
「意外とみんなは気付いていませんよ。」
弘子が言うと牛島は
「その大丈夫もあてにならないな。」
と言った。
「心配はいらないですよ。」
弘子が言うと
「10年以上前に三友商事の高村と言う部長の彼女にも見破られたではないか?」
牛島は表情を崩さずに言った。
「あの時は運が悪かっただけよ。」
弘子は悔しそうに言った。
「あんたがあの女を突き落したところを撮影していたオタク坊がいたね。」
牛島が言うと
「あれは突き落したのではなくて不慮の事故で・すよ。
弘子が言った。
「そのビデオが出てきたら警察の判断は変わるだろうな?」
牛島が言うニヤリと笑った。
「その及川友宣は婦女暴行で今は拘置所ですからね。」
弘子は安心した方に言うと
「それで今のうちに詐欺で荒稼ぎか?」
牛島が言うと
「何の事かしら?」
弘子はとぼけた。
「そのオタクが釈放になったら始末しておいた方がいいな。」
牛島は怒ったような目をして言った。