雨のあとに虹 その155
「金額はいくらなの?」
俊之は直子に言った。
「80万円です。」
直子は言った。空いていた席に座って話をしていると店内のざわつきが消されてしまうほど俊之は真剣に直子の話を聞いていた。俊之は弘子とは直接の面識はなかったが詐欺師である事は間接的に知っていた。
「振込みの控えがありますから直子さんが警察に被害届を出せば立件が出来ます。」
翔太は事前に確認しておいた事を言った。
「それならばすぐに斉藤弘子を訴えればあとは警察が捕まえてくれますよ。」
俊之が言うと
「すみません。」
翔太が言った。
「どうしたの?」
俊之が言うと
「それは事情があって出来ない状態です。」
翔太は言った。
「事情ってどういう事なの?」
直子が言うと
「言って良いですか?」
翔太は俊之の目を見て言った。
「構わないよ。」
俊之が言った。
「2週間泳がせましょう。」
翔太が言った。
「泳がせるとはどういうことですか?」
直子が言うと
「斉藤弘子との言い争いで麗子さんが転落した事が解ってきました。」
翔太は言った。
「どんな言い争いなの?」
俊之が言うと
「斉藤弘子のマンションの踊り場で麗子さんと斉藤弘子が言い争ったのを複数の人が目撃しています。」
翔太は言った。
「そのあとに麗子さんが転落死したという事だね?」
俊之が言うと
「話を総合すると間違いありません。」
翔太は言った。
「それにしても直子さんにとって80万円は大金だよ。」
俊之は言って考え込んだ。
「私はそれで良いですよ。」
直子は言った。
「それで良いのですか?」
翔太が驚いて言うと
「それが高村さんのためになるのならね。」
直子は言って微笑んだ。
「ついでにもうひとつ協力をしてもらえると助かりますがお願いできますか?」
翔太まじめな顔で言った。
弘子は湾岸の倉庫が立ち並ぶ一角に入っていった。外見は普通の倉庫に見えるが中に入ると一般の企業が持ち主ではないのがすぐに解る内装であった。
「あんたの会社もそろそろ危なくなってきたようだね?」
任侠の世界に通じているのが人目で解る仕立ての良いスーツを着た男が言った。
「心配はいらないですよ。」
弘子が言うと
「油断は禁物だぞ。」
男は言った。
「牛島さんは慎重ですね。」
弘子が言うと牛島慶三は
「あんたが無用心なだけだと思うよ。」
弘子を見て言った。
「意外とみんなは気付いていませんよ。」
弘子が言うと牛島は
「その大丈夫もあてにならないな。」
と言った。
「心配はいらないですよ。」
弘子が言うと
「10年以上前に三友商事の高村と言う部長の彼女にも見破られたではないか?」
牛島は表情を崩さずに言った。
「あの時は運が悪かっただけよ。」
弘子は悔しそうに言った。
「あんたがあの女を突き落したところを撮影していたオタク坊がいたね。」
牛島が言うと
「あれは突き落したのではなくて不慮の事故で・すよ。
弘子が言った。
「そのビデオが出てきたら警察の判断は変わるだろうな?」
牛島が言うニヤリと笑った。
「その及川友宣は婦女暴行で今は拘置所ですからね。」
弘子は安心した方に言うと
「それで今のうちに詐欺で荒稼ぎか?」
牛島が言うと
「何の事かしら?」
弘子はとぼけた。
「そのオタクが釈放になったら始末しておいた方がいいな。」
牛島は怒ったような目をして言った。