開運童子のブログ -61ページ目

雨のあとに虹 その169

「田崎さん、」

俊之が言うと

「はい。」

田崎が元気よく言って俊之の前に来た

「雑貨店の収益は赤字だけど宣伝や高品質なサービスは継続してください。」

俊之は的確に言った。

「高村さんの言うとおりに継続します。」

田崎は言った。

「矢島にはすべて了解をとってあるからね。」

俊之が言うが

「これからも週に1度はきちんと顔を出してくれますよね?」

田崎は心配になって俊之に言った。

「もちろんそうするよ。」

俊之は言った。

「それはよかった。」

田崎が言うと

「矢島建設も今が大事な時期だからね。」

俊之は言った。

「それを聞いて安心しました。」

田崎はホッとしたように言った。

「おはようございます。」

久美子は言った。今日は遅いローテーションの出勤である。

「おはようございます。」

小百合も言った。

「昨日はお店が混雑しませんでしたか?」

久美子が言うと

「すごく混んだわよ。」

小百合は言った。

「はやりね。」

久美子が言うと

「特に振袖とスーツを着た成人式帰りの若い人で一杯だったよ。」

と言いながら小百合は久美子を見た。

「何だか想像できますよ。」

久美子が言うと

「さすが堀川さんね。」

小百合は言った。

「店長も大変だったでしょ?」

久美子が言うと

「成人式おめでとう。」

小百合は言った。

「大人の仲間入りね。」

いつの間にか横に来ていたひとみが言った。

俊之は矢島建設を後にした。昼過ぎの街は活気があるようで静かさをも持ち合わせていた。サラリーマンやOLたちが職場に戻ったあとは人が少なくなっている。俊之は待合わせの喫茶店に入って行った。店内を見回すと久しぶりに見る懐かしい顔があった。その顔の主である大倉みずきが俊之に右手を上げて合図をした。俊之はみずきを見て歩いて行った。

「遅くなりました。」

俊之はみずきの前に座って言った。

「久しぶりね。」

みずきは言った。

「2ヶ月半ぶりですね。」

俊之が言うと

「元気だった?」

水木は言った。60代半ばのみずきは同年代の女性に比べると若さと元気にあふれていた。言葉にもハリがあった。

「最後にみずきさんに会った翌週からいろいろな事が起こり始めましたよ。」

俊之が言うと

「珈琲ショップで若い女性と出会いました。」

俊之が言うと

「それは凄いわね。」

みずきは言った。

「友人の矢島が経営する建設会社の顧問になりました。」

俊之が言うと

「凄く運気が上がったわね。」

みずきは驚いて言った。

「そして総武グループのトップに立つことになりました。」

俊之が言うと

「天門先生の開運法のおかげね。」

みずきは言った。

「天門先生には感謝していますよ。」

俊之は久美子と出会った時の事を思い出しながら言った。

「勝って兜の緒を締めよと言う諺を忘れないでね。」

みずきは俊之に人生論を説いて聞かせるように言った。俊之はみずきのアドバイスも参考にしているから通常では考えつかない発想も出来る時があった。

「迷った時には参考にしていますよ。」

俊之は言った。俊之はみずきに感謝していた。みずきは天門とは分野で占い師として活躍していた。

「ひとつ迷っている事がありましてね。」

俊之は何かを決心したように言った。

雨のあとに虹 その168

弘子はざわついた喫茶店で純一と会っていた。お坊ちゃん育ちで苦労知らずの純一は自惚れの強さが表情に出ていた。純一は弘子と向かい合って座っていた。ふたりはそれほど言葉を交わさないで弘子が封筒を出した。純一はそれを受取って

「悪いな。」

純一は言った。

「これが最後よ。」

弘子が言うと

「解ったよ。」

純一は言った。封筒をポケットにしまうと純一は立ち上がって喫茶店を出て行った。少し離れたところに座っていた牛島は弘子の前に来て座った。

「お前を脅迫しているのはあの男か?」

牛島が言うと

「石井園という造園業を営んでいる男よ。」

弘子が言った。

「本当にあの男がビデオを持っているのか?」

と牛島が言うと

「ビデオの内容を詳しく知っているから間違いはないと思うわ。」

弘子は言った。

「いずれその男を締め上げてやるよ」

牛島が言うと

「早く始末してよ!」

弘子は言ってと牛島をけしかけていた。

「動きにくくない?」
俊之は久美子に言った。俊之は振袖に限らず女性の着物は動きにくいように思っていた。

「大丈夫よ。」

久美子は言った。

「思ったより楽なのかな?」

俊之が言うと

「洋服のようにはいかないけどね。」

久美子は言った。散歩をしていたふたりが公園の先にバラ園と書いてあった看板をみつけて入ってみたのであった。薔薇と言っても種類は豊富でさまざまな花が咲き誇っていた。

「僕は花には詳しくないから種類が豊富なのには驚いたよ。

俊之が言うと

「私もそんなに詳しくはないよ。」

久美子は言った。

「こうして見ていると花はひとつひとつすべて違うみたいだね。」

と俊之は感心して花を見て言った。久美子はそんな俊之の手を握って

「こっちの花は大人の雰囲気があって素敵ね。」

と俊之とは違う感性で見て言った。そんなふたりはつかの間の時間を静かにゆっくりと確実に理解を深めて過ごしていた。今のふたりには時間がゆっくり流れているようであった。

「お疲れ様でした。」

ひとみは店の後片付けをしてテナントの外に出たところで偶然に目が合った警備員の横山勝義に言った。横山は

「今日は混んでいたようで大変だったね。」

と優しく言ってくれた。

「成人式だから若いお客さんが多かったですね。」

ひとみが言うと

「明日もがんばってよ。」

横山は言った。

「失礼します。」

ひとみは言って通用口から外に出た。

「気をつけてよ。」

横山の声を背にひとみは駅の改札を通ろうとしたが思いが頭を廻って足を止めていた。時計を見て時間を確認した。トラベルカフェの本社に顔を出そうかと考えたが止める事にした。時間的な余裕はあるのだが精神的な疲れがあったのである。携帯を取り出したひとみは

「明日朝一番に顔を出します。」

と短くメールを打ち込み送信していた。

ホームに着いた電車から俊之が降りて来た。久美子は実家に泊まって明日の午前中に戻って来る予定である。2時間ほど電車に揺られている間も久美子と過ごした時間を引きずったように俊之の心に大きく残っていた。改札を出ると携帯にメールの着信があった。俊之が見ると育子からだった。

「久美ちゃんと良い思い出が出来ましたか?」

と書かれていた育子のメールには優しさがあった。

「翔ちゃんも来てくれて楽しかったよ。」

俊之はメールを返信した。

「久美ちゃんにとっては一生の思い出になると良いね。」

育子が書いたメールに

「僕も同じ思いだよ。」

と書いて俊之は育子に返信した。

雨のあとに虹 その167

「少しは調子が良くなったのではないですか?」

多恵子に言われた榊原は

「仕事をしていないから身体に負担がかからないようだね。」

と言った。病室は静かであった。静かなのは当たり前であるが静かな病室に一日中いると榊原は時間や曜日の感覚もなくなってきていた。

「先生が明日か明後日には手術の日取りを決めてくださるそうですよ。」

多恵子が言うと

「俺もいよいよだな。」

榊原は力なく言った。

「そんな事はありませんよ。」

多恵子が言うと

「手術が成功する保障はないだろう?」

榊原は言った。

「手術をすれば良くなると先生もおっしゃっていましたよ。」

多恵子が言うと

「本当に手術をすれば俺は治るのか?」

榊原は言った。

「ありがとうございます。」

久美子は翔太に感謝の言葉を言った。

「いつもすまないね。」

俊之が言うと

「気にしないでください。」

翔太は言った。

「遠くまで来てくださってすみません。」

久美子が言うと

「僕も久美子さんの振袖姿を写真に撮るのを楽しみにしていましたよ。」

翔太は楽しそうに言った。

「嬉しいですけど悪い気がして複雑です。」

久美子が言うと

「僕こそお邪魔ではなかったかと反省しています。」

翔太が冗談半分に言った。

「そんな事はないさ。」

俊之が言うと

「実は関口も久美子さんの振袖姿を見たいと言いましてね。」

翔太はおどけて言った。

 直子は弘子に電話をかけた。通じないのは解っているが翔太に言われたとおりに電話をかけてみたのだ。電話はすぐに留守電に切り替わっていた。

「ふっ!」

直子はため息をした。少し考え込むようにしていたが

「それでは撮影に入ります。」

スタッフが大きな声で言った。直子は携帯電話をポケットに入れてスタッフの指示に従って下町の河川敷を歩き出した。

 千晴は俊之のマンションまで来ていた。部屋の前に来てインターフォンを押そうかと迷っていた。部屋の中には俊之が居る気配はなかった。どこかに出かけているようである。帰ろうとした時に隣の部屋のドアが開いて絹枝が出て来ると鍵をかけていた。絹枝は千晴を見て

「高村さんは出かけているみたいよ。」

と言った。

「そうですか。」

千晴は言うと

「帰ってきたら伝えておくわよ。」

絹枝が言うと

「急ぎではないのでまた来ます。」 
千春は言って千晴はすぐに歩き出していた。

「僕はこれで失礼しますよ。」

翔太は言って立去ろうとすると

「もう行ってしまうの?」

と久美子が言った。

「どこかで食事でもどうだい?」

俊之が言うと

「このあと野暮用がありましてね。」

翔太は言った。

「そうなの?」

俊之が言うと

「残念です。」

久美子は言った。

「失礼します。」

翔太は言うと振り返って歩き出した。

「ゆっくりできれば良いのにね。」

久美子が残念そうに言うと

「いずれ翔ちゃんとゆっくり会う時間を作るよ。」

俊之は言った。