雨のあとに虹 その168
弘子はざわついた喫茶店で純一と会っていた。お坊ちゃん育ちで苦労知らずの純一は自惚れの強さが表情に出ていた。純一は弘子と向かい合って座っていた。ふたりはそれほど言葉を交わさないで弘子が封筒を出した。純一はそれを受取って
「悪いな。」
純一は言った。
「これが最後よ。」
弘子が言うと
「解ったよ。」
純一は言った。封筒をポケットにしまうと純一は立ち上がって喫茶店を出て行った。少し離れたところに座っていた牛島は弘子の前に来て座った。
「お前を脅迫しているのはあの男か?」
牛島が言うと
「石井園という造園業を営んでいる男よ。」
弘子が言った。
「本当にあの男がビデオを持っているのか?」
と牛島が言うと
「ビデオの内容を詳しく知っているから間違いはないと思うわ。」
弘子は言った。
「いずれその男を締め上げてやるよ」
牛島が言うと
「早く始末してよ!」
弘子は言ってと牛島をけしかけていた。
「動きにくくない?」
俊之は久美子に言った。俊之は振袖に限らず女性の着物は動きにくいように思っていた。
「大丈夫よ。」
久美子は言った。
「思ったより楽なのかな?」
俊之が言うと
「洋服のようにはいかないけどね。」
久美子は言った。散歩をしていたふたりが公園の先にバラ園と書いてあった看板をみつけて入ってみたのであった。薔薇と言っても種類は豊富でさまざまな花が咲き誇っていた。
「僕は花には詳しくないから種類が豊富なのには驚いたよ。
俊之が言うと
「私もそんなに詳しくはないよ。」
久美子は言った。
「こうして見ていると花はひとつひとつすべて違うみたいだね。」
と俊之は感心して花を見て言った。久美子はそんな俊之の手を握って
「こっちの花は大人の雰囲気があって素敵ね。」
と俊之とは違う感性で見て言った。そんなふたりはつかの間の時間を静かにゆっくりと確実に理解を深めて過ごしていた。今のふたりには時間がゆっくり流れているようであった。
「お疲れ様でした。」
ひとみは店の後片付けをしてテナントの外に出たところで偶然に目が合った警備員の横山勝義に言った。横山は
「今日は混んでいたようで大変だったね。」
と優しく言ってくれた。
「成人式だから若いお客さんが多かったですね。」
ひとみが言うと
「明日もがんばってよ。」
横山は言った。
「失礼します。」
ひとみは言って通用口から外に出た。
「気をつけてよ。」
横山の声を背にひとみは駅の改札を通ろうとしたが思いが頭を廻って足を止めていた。時計を見て時間を確認した。トラベルカフェの本社に顔を出そうかと考えたが止める事にした。時間的な余裕はあるのだが精神的な疲れがあったのである。携帯を取り出したひとみは
「明日朝一番に顔を出します。」
と短くメールを打ち込み送信していた。
ホームに着いた電車から俊之が降りて来た。久美子は実家に泊まって明日の午前中に戻って来る予定である。2時間ほど電車に揺られている間も久美子と過ごした時間を引きずったように俊之の心に大きく残っていた。改札を出ると携帯にメールの着信があった。俊之が見ると育子からだった。
「久美ちゃんと良い思い出が出来ましたか?」
と書かれていた育子のメールには優しさがあった。
「翔ちゃんも来てくれて楽しかったよ。」
俊之はメールを返信した。
「久美ちゃんにとっては一生の思い出になると良いね。」
育子が書いたメールに
「僕も同じ思いだよ。」
と書いて俊之は育子に返信した。