雨のあとに虹 その167
「少しは調子が良くなったのではないですか?」
多恵子に言われた榊原は
「仕事をしていないから身体に負担がかからないようだね。」
と言った。病室は静かであった。静かなのは当たり前であるが静かな病室に一日中いると榊原は時間や曜日の感覚もなくなってきていた。
「先生が明日か明後日には手術の日取りを決めてくださるそうですよ。」
多恵子が言うと
「俺もいよいよだな。」
榊原は力なく言った。
「そんな事はありませんよ。」
多恵子が言うと
「手術が成功する保障はないだろう?」
榊原は言った。
「手術をすれば良くなると先生もおっしゃっていましたよ。」
多恵子が言うと
「本当に手術をすれば俺は治るのか?」
榊原は言った。
「ありがとうございます。」
久美子は翔太に感謝の言葉を言った。
「いつもすまないね。」
俊之が言うと
「気にしないでください。」
翔太は言った。
「遠くまで来てくださってすみません。」
久美子が言うと
「僕も久美子さんの振袖姿を写真に撮るのを楽しみにしていましたよ。」
翔太は楽しそうに言った。
「嬉しいですけど悪い気がして複雑です。」
久美子が言うと
「僕こそお邪魔ではなかったかと反省しています。」
翔太が冗談半分に言った。
「そんな事はないさ。」
俊之が言うと
「実は関口も久美子さんの振袖姿を見たいと言いましてね。」
翔太はおどけて言った。
直子は弘子に電話をかけた。通じないのは解っているが翔太に言われたとおりに電話をかけてみたのだ。電話はすぐに留守電に切り替わっていた。
「ふっ!」
直子はため息をした。少し考え込むようにしていたが
「それでは撮影に入ります。」
スタッフが大きな声で言った。直子は携帯電話をポケットに入れてスタッフの指示に従って下町の河川敷を歩き出した。
千晴は俊之のマンションまで来ていた。部屋の前に来てインターフォンを押そうかと迷っていた。部屋の中には俊之が居る気配はなかった。どこかに出かけているようである。帰ろうとした時に隣の部屋のドアが開いて絹枝が出て来ると鍵をかけていた。絹枝は千晴を見て
「高村さんは出かけているみたいよ。」
と言った。
「そうですか。」
千晴は言うと
「帰ってきたら伝えておくわよ。」
絹枝が言うと
「急ぎではないのでまた来ます。」
千春は言って千晴はすぐに歩き出していた。
「僕はこれで失礼しますよ。」
翔太は言って立去ろうとすると
「もう行ってしまうの?」
と久美子が言った。
「どこかで食事でもどうだい?」
俊之が言うと
「このあと野暮用がありましてね。」
翔太は言った。
「そうなの?」
俊之が言うと
「残念です。」
久美子は言った。
「失礼します。」
翔太は言うと振り返って歩き出した。
「ゆっくりできれば良いのにね。」
久美子が残念そうに言うと
「いずれ翔ちゃんとゆっくり会う時間を作るよ。」
俊之は言った。