雨のあとに虹 その184
「急にローテーションを変えてにごめんね。」
ひとみはカウンター越しに居る久美子に言った。
「お互い様ですよ。」
久美子は言った。
「お客様はこちらへどうぞ。」
ひとみが言うと
「お待たせしました。」
久美子が次の客に言った。
「もうこんな時間になるのね。」
ひとみが時計を見て言った。
「私もお願いする事があると思いますから気にしないでください。」
久美子は明るく言った。
サラリーマンの帰宅時間にはまだ早いが駅のホームは混雑していた。貴志は体調が悪いと嘘を言って会社を早退すると駅のベンチに座って
「子会社なんて冗談じゃないぞ」
と大声で叫んでいた。周囲に人が集まって来て駅員を呼びに行く女性もいた。
「気味の悪い人ね。」
近くを通った女子大生が横にいる友達に向かって言った。
「三友商事と三友商情報システムでは人間のレベルが違うのが解らないのか?」
貴志は焦点が合わない目で遠くを見て言った。ホームに電車が入って来るのが見えると貴志は立ち上がって歩き出した。ベンチに座っていた大学生に見える若者の足を貴志は踏んでいたが無視するように口のなかで何かを言いながら歩いていた
「おじさん俺の足を踏んでおいて誤らないのかよ。」
若者は追いかけてきて貴志に言った。
「何を!」
貴志は大きな声を出して若者を見た。
「きちんと誤れよ。」
若者は怒りに任せて貴志を突飛ばして言った。貴志は下半身のバランスを崩して
「お前に謝る必要はない。」
と言うと
「おじさんふざけるなよ。」
若者は力任せに貴志を駅のベンチに叩きつけるようにと貴志を力強く押していた。不意を突かれた貴志は加速度をつけて反対側のホームまで行って倒れた。
「何をする!」
貴志は言うと
「誤らないからだろ!」
若者は力を込めて貴志を殴っていた。
「若造の癖に何をする。」
貴志は言ったがホームの先端で身体のバランスを崩していた。貴志の身体がホームに落ちると通過列車が少しだれスピードを落としてホームに入って来た。
「あぶない!」
駅員が大声で叫ぶと同時に列車の運転手はブレーキをかけた。電車は100メートルほど通過して止まったが貴志の身体は原型を留めていなかった。
「高村さんを見直しました。」
恵子が社長室で言った。桑田が帰って立花が管理本部へ戻ったあとに恵子が俊之と陽子を目の前にして座っていた。
「僕の何に驚いたの?」
俊之が言うと
「あの手回しの良さですよ。」
陽子は言った。
「あれは増田という大学の同期生に頼んだから出来た事だよ」
俊之が言うと
「それでも凄いですよ。」
恵子は言った。
「僕だけの力ではあそこまで出来なかったよ。」
俊之が言うと
「これからががんばって交渉をします。」
恵子が俊之の目を見て言った。
雨のあとに虹 その183
「高村が君に教えたのか?」
榊原がベッドの上で言うと
「一度榊原さんを見舞ってほしいと言われました。」
ひとみは言った。
「あいつは解らない奴だ。」
榊原が言うと
「高村さんが解らないとはどういう事ですか?」
ひとみは言った。
「俺はあいつを陥れようとした男なのに好意的にしてくれるからな。」
榊原が言うと
「その事ですか?」
ひとみは言った。
「俺なら相手を憎むと思うけどな。」
榊原が言うと
「私も同じ事を考えました。」
ひとみは言った。
「君も同じ事を考えたのか?」
榊原が言うと
「私は高村さんを刺そうとしたのに何も言わずに普通に接してくれています。
ひとみは言った。
「あいつがみんなに好かれる理由が今になって解ったような気がするよ。」
榊原が言うと
「今後になって解ったの?」
ひとみが皮肉を込めて言った。
「どうしてあいつは俺に怒りを表さないのだろうね。」
榊原が言うと
「例の堀川さんが高村さんの友人から興味深い事を聞いてきたわ。」
ひとみは言った。
「堀川さんは君が高村に親しくするように仕向けた大学生の娘だな」
榊原が言うと
「高村さんは本来ならば中絶されるべきところをおじいさんの鶴の一声でお母さんが中絶を思い止まって高村さんが生まれそうよ。」
ひとみは言った。
「高村にそんな過去があったのか?」
榊原が驚いたように言うと
「だからこうして生きている事が奇跡だって高村さんが言ったそうよ。」
ひとみは言った。
「生きている事が奇跡とあいつがいったのか?」
榊原が呟くように言うと
「そんなに多くのを望む事はないとも言ったそうよ。」
ひとみは言った。
「一見して何の悩みもないように見える万能選手にもそんな暗い過去があったのか?」
榊原は小さくと呟いた。
「これから休憩に入ります。」
久美子が言うと
「ゆっくりしてね。」
小百合は言った。休憩室に入った久美子は軽く食事をとろうと椅子に座ると
「今度の休みは海へ行って近くの観光名所にも行ってみたいな。」
久美子は言いながら雑誌をめくって観光名所を見ていた。久美子はつい数ヶ月前に俊之と出会った時の事を脳裏に浮かべて雑誌のページを捲っていた。
「総武化学と首都圏大学の提携に総武緑化と三友商事の提携ですか?」
立花が復唱して言った。俊之の傍に陽子に恵子と立花に桑田が居た。少し離れて数人の役員が会議室に座っていた。今回の打合せはトップシークレットであった。
「僕の出た首都圏大学で真水をゼリー状にして持ち運びそれを解凍して元に戻す技術がほぼ完成している。」
俊之が言うと
「それは凄い技術ですね。」
立花は言った。
「その技術を総武が使用させてもらえるように交渉をしたいと考えている。」
俊之は大きな声で言った。首都圏大学の技術を総武が独占的に使用する契約を結び総武化学が完成しつつある海水を真水にする技術と連携させる事を俊之は考えていた。それが実現すればアフリカなどで困っている国を総武が中心になって助ける事が出来るのである。海水を真水に変えてさらにゼリー状に変えて内陸へ運んで解凍する技術は世界中で実現出来た国はないのだ。一度ゼリー状になった水を解凍すると蒸発率が下がるためにやり方しだいでは砂漠に水田を作る事も可能になる
「それでアフリカへの窓口を三友商事にさせるという事ですね?」
恵子が言うと
「そうだよ。」
俊之は言った。
「実現すれば凄い事になりますね。」
立花は言った。
「首都圏大学へのアプローチは僕の同期生に教授を紹介してくれるように頼んであるよ。」
俊之が言うと
「数年後には自然を破壊しないでホテルや遊園地をはじめトラクションに自然公園やスポーツ施設などを総武が独占して開発出来ますね。」
立場は感心したように言った。
「だから総武としては三友商事との提携は渡りに船だったね。」
俊之が言うと
「総武が三友商事に利用されたのではなくて総武が三友商事を利用するのですね?」
恵子は言った。
「そのためには総武遊園地の仕入れを三友商事に変更しても支障はないはずだよ。」
俊之は的確に言った。
「凄いプロジェクトだ。」
桑田は関して唸るように言った。
雨のあとに虹・その182
貴志が出勤して来ると村山がその方を見た。
「おはようございます。」
ぎこちない声で貴志は言った。
「おはようございます。」
とその村山言った。村山は挨拶を会話はなかった。
「親会社から来たあいつ本当に何も出来ないバカだよ。」
村山は田沼に言った。
「それだからうちに飛ばされたのだろうね?」
田沼は言った。
「いい迷惑だよね。」
村山が言うと
「あれで俺たちより給料が高いらしいね。」
田沼は言った。
「ふざけるなって言ってやりたいね。」
村山は言った。貴志の耳に村山の会話が聞こえてきた。貴志は今になって日ごろの自分がした行動に反省をしているのであったがそれはすでに遅かった。
「会社まで押しかけてすみません。」
桑田は恐縮して言った。
「構いませんよ。」
俊之は言った。
「お時間をとっていただいてありがとうございます。」
桑田が言うと
「今日の取材は会社の方が良いと言い出したのは僕ですから気楽に取材してください。」
俊之は言った。
「広い社長室なので私が緊張しますよ。」
桑田は言った。桑田が描く漫画の参考にと俊之も協力しているところであった。
「近々に天門先生とお会いする予定ですよ。」
俊之が言うと
「天門先生とのツーショットの写真も撮りたいけどそれは後日にしましょう。」
桑田は言った。取材が始まったのを陽子は横で楽しそうに見ていた。
「いらっしゃいませ。」
小百合が言うと
「お客様こちらへどうぞ。」
久美子がと言った。これから少しずつ混雑してくる時間である。
「店長はどうして午後から出勤になったの?」
小百合が言うと
「急用が出来たみたいよ。」
久美子は言った。
「混んできたけど大丈夫かな?」
不安そうに小百合が言うと
「いつものように落着いてやれば出来きるよ。」
久美子は言った。
「そうよね。」
小百合が言うと
「私だって最初はパニックだったからね。」
久美子は言った。
ひとみは病院の廊下を歩いていた。近年の病院はバリアフリーが当たり前になっていた。病室はナースセンターで親切に教えてもらったのでひとみもすぐに解った。ひとみは病室の前に立って軽くドアをノックした。
「小谷さん。」
山本は役員室に入ってきたまどかに言った。
「はい!」
まどかは言った。
「田所くんを知らないかね?」
山本が言うが
「今日は出勤していないようですね。」
まどかは言った。
「休むと連絡はあったかね?」
山本が言うと
「朝は受付をしていましたので解りません。」
まどかは言った。
「困ったものだな。」
山本は言った。
「桑田先生も特別に今日の打合せに立ち会いますか?」
俊之は桑田に言った。
「それは興味深いですね。」
桑田が言うと
「ぜひ同席してください。」
俊之は言った。
「私が参加して支障はありませんか?」
桑田が言うと
「それは構いませんよ。」
俊之は言った。
「それならしっかり取材をさせていただきます。」
桑田が言うと
「極秘事項もありますので公にされると困る部分があります。」
俊之は言った。桑田にも俊之が言いたい事は理解できた。
「それは書きませんので安心してください。」
桑田が言うと
「それでしたら午後の打合せを始めます。」
俊之は言った。
「このボイスレコーダーは使かわないようにしますよ。」
桑田は言ってボイスレコーダーを鞄にしまった。