雨のあとに虹 その196
俊之はひとりで道を歩いていた。そんなに遅い時間ではないので遠回りをして夜のすんだ空気を吸って寒さに少しだけ震えながら考え事をしていた。あと1ヶ月で久美子がカナダに言ってしまうのである。自分はどうしたら良いのだろうかと思っていても答えは間単に出て来なかった。久美子の将来を考えれば可能性を自分が潰しても良いものかと心の中で呟くもうひとりの自分がいた。今の静江がそうであるように久美子にも後悔する時が来るような気がしていた。俊之が歩く道は人通りが少なかった。人相がよくない6人組みの若者たちがいつの間にか俊之の傍に来てひとりの男が
「ちょっとおじさん。」
と言ったが俊之は無視して歩き続けていた。
「待てよ。」
もうひとりの男が言うと
「僕はおじさんと名前ではないよ。」
俊之は言って歩き続けていた。
「ふざけやがって!」
最初に声をかけた男が俊之に殴りかかろうとしたが俊之は身を交わしていた。
「それに年上の人に対しては敬語を使うものだよ。」
俊之はあくまで冷静に言った。
「落ち着いていられるのも今のうちだぜ。」
メンバーの中に居た男が言うと
「僕に何の用だい。」
俊之は男の目を見て言った。
「早く金を出しなよ。」
最初に声をかけた男が言いながらナイフを取り出すとナイフが街灯の明かりで光った。
「断る。」
俊之が言うと
「おじさんは怪我をしたいみたいだな。」
最初に声をかけた男は怒りを顔に出して言った。
「残念ながら君たちにお金を払う理由はないからね。」
俊之が言うと
「ふざけるな!」
もうひとりの男は言って俊之に殴りかかって来た。俊之は軽く避けると男の腹部に拳をあてた。その拳が男の腹部に激痛を走らせていた。
「素人を相手に本気になってはいけないのだが仕方がない」
俊之が言うと我慢していた男は
「痛てえ!」
と言って大きな悲鳴を上げた。
「こちらも生命がかかっているからね。」
俊之は表情を崩さずに言った。いつもの俊之なら手加減をしたのだが今の俊之は拳に力が込められていた。
「このやろう!」
他の男が俊之に殴りかかって来たが俊之は避けると足を引っ掛けて男を転ばすと腹部に拳を当てていた。
「痛てえ!」
男は言うと気を失った。残る4人が俊之を睨みつけていると関口と関口の仲間10人慌てて走って来た。
「高村さん!」
関口は慌てて言った。
「関口さんは彼らに近づかない方がいいよ」
俊之が言うと関口は4人の男を見て
「こいつらには負けないですよ。」
と言った。
「ナイフを持っているよ。」
俊之が言うと関口たちが
「お前は覚悟しろよ!」
関口が言うと4人に対して一気に殴りかかっていった。
雨のあとに虹 その105
「俺たちが一緒にいたら高村が変な誤解をするかな?」
矢島は冗談を言った。矢島が常連客である料亭は今日も繁盛していた。
「俊さんなら意外と冷静に分析すると思います。」
久美子は言った。
「久美子さんもあいつをよく理解しているね。」
矢島が言うと
「俊さんはあまり感情に走らないですね。」
久美子は言った。
「あいつは高校の時からそうだったよ。」
矢島が日本酒を手に持って言った。
「もう少し感情を外に出してもいいと思います。」
久美子は言った。
「あいつもまだ精神的な部分が回復していないようだね。」
矢島が言うと
「精神的な部分は回復に時間がかかると聞きました。」
久美子は持っている箸を置いて言った。
「私とふたりの時には心配はいらないけどね。」
矢島が言うと
「私が心配しているのは今度の事です。」
久美子は言った。
「今後の事?」
矢島が言うと
「俊さんは大丈夫でしょうか?」
久美子が心配して言った。
「笹川さんが仕掛けた事だよね」
矢島が言うと
「精神的な負担が大きいと思います。」
久美子は言った。
「あいつなら大丈夫だよ。」
矢島は久美子の目を見て言った。
「本当に大丈夫でしょうか?」
久美子は心配して言った。高校時代から俊之の親友である矢島が言った言葉が久美子を少しだけ安心させていた。
「静江はここを出てどうするというのだ?」
純一が言うと
「税理士として生計を立てます。」
静江は完結に言った。
「千晴の養育費は今の俺には払えないぞ!」
純一が言うと
「すでに決めた事です。」
静江は言った
「一方的に言うなよ。」
純一は自宅の居間が自分の家ではないような錯覚を覚えて言った。
「養育費がなくても私にはきちんとした収入があるから心配は要りません。」
静江は言った。
「話し合おう。」
純一が言うと
「私もOL時代のように広い世界を見て見たいです。」
静江は言った。
「俺と一緒に居たら広い世界は見られないと言うのか?」
純一が言うと
「狭い世界は窮屈だし心の狭い男には何の魅力もないからですよ。」
静江はきっぱりと言った。純一は心の中で何かが音を立てて崩れていくのを感じていた。
「やり直せないのか?」
純一が言うと
「私はやり直したくない心境です。」
静江は感情を出さずに言った。
雨のあとに虹 その194
「ここで降ろしてください。」
俊之が言うと
「解りました。」
田中は言った。田中が運転する社用車は信号を渡ってスムーズに止まると
「お疲れさま。」
俊之は言って社用車を降りた。
「お疲れ様でした。」
田中が言うと俊之は軽く右手を上げた。信号が青になって社用車はスムーズに走り出していた。俊之は歩き出していた。後ろから
「おじさん。」
と千晴が言うと俊之は振向いていた。
「千晴。」
俊之が言うと千晴は微笑んで
「ちょうどよかった。」
と言った。
「何かあったのかい?」
俊之が言うと
「おじさんに報告があったからね。」
千晴は言った。
「報告を受けることがあったかな?」
俊之がよく解らない表情で言うと
「少し暗い時間があるでしょ?」
千晴は言った。
「大丈夫だよ。」
俊之は言った。
「どこかで珈琲を飲もうよ。」
千晴が言うと
「僕も珈琲を飲みたかったよ。」
俊之は言った。
「それなら早く行こう。」
千晴は言って俊之の腕を掴んでいた。
「それではあとで連絡をします。」
翔太は久美子に言った。
「いつでも良いから連絡をください。」
久美子が言うと
「それじゃ!」
翔太は言った。青信号で動き出した人混みの中に消えていく翔太を見て
「いつも急に現れてすぐに消えるのね。」
久美子は言った。心が落着いて歩き出した久美子に
「久美子さん。」
矢島が驚いて言った。
「矢島さん。」
久美子も驚いて言うと
「こんな所で偶然だね。」
矢島は優しく言った。久美子には矢島の巨体がとても頼もしく見えたのだった。
「急にどうしたの?」
俊之はパスタを食べる千晴に向かって言った。
「急にではなくて以前から出ていた話だよ。」
千晴は言った。少しざわついた店であったが周囲に話が漏れなくてよかった。俊之は珈琲を口に持ってくと
「それで純一くんと静江は離婚する事が避けられない状態になったわけだね。」
俊之は言った。
「もう印鑑を押したかもしれない?」
千晴はあっさりして言った。
「純一くんの事業もそんなにうまく言ってないとは知らなかったよ。」
俊之は言った。俊之の頭には純一の心配もしていると知って
「おじさんが心配する事はないと思うよ。」
千晴が言うと
「僕で力になるのなら何でもするよ。」
俊之は言った。
「あれはお父さんが天狗になったから人がついて来なかっただけよ。」
千晴が言うと
「今からでもやり直しは出来るよ。」
俊之は言った。
「お母さんは税理士として自立するから心配はいらないよ。」
千晴が言うと
「純一くんは大変な状態だから何とかしてあげたいね。」
俊之は言った。
「今更遅いよ。」
千晴が言うと
「そんなにあっさり決めて良いのかな?」
俊之は言った。
「意外とあっさり決まったよ。」
千晴が言うと
「ふたりは高校の同級生だよ。」
俊之は言った。
「それは私も知っているよ。」
千晴が言うと
「長年一緒に過ごした年月が純一くんと静江の絆を強くしなかったのだろうか?」
俊之は不思議そうに言った。
「高校の同級生だったからダメになったのよ。」
千晴は言った。
「同級生だからだめになったというのかい?」
俊之が言うと
「お父さんは大人になってからの失恋の経験がないから相手がいるのが当然と思っている。」
千晴は言った。
「そうかもしれない。」
俊之が言うと
「お母さんはあとになってからいろいろな人と出会って今では後悔しているみたい。」
千晴は言った。
「それはめぐり合わせ戸言うものだよ。」
俊之が言うと
「溝は深くなったから今では埋まらないよ。」
千晴は言った。
「寂しい話だね。」
俊之が言うと
「お父さんがおじさんにした事がお母さんも私も許せないからね。」
千晴は強い口調ではっきりと言った。
「千晴は若いのに冷静な心で見ているね。」
俊之は言った。