雨のあとに虹 その223
「町島さん。」
俊之は言った。いつのまにか町島がピストルを持って立っていたのである。
「お前さんとは久しぶりだな。」
町島は俊之と目を合わせて軽く会釈をしてから牛島に言った。
「ご無沙汰しています。」
牛島は言った。
「わしはこちらの高村さんには恩がある。」
町島が言うと
「この男に恩ですか?」
牛島は言った。
「今後は一切高村さんとその周囲の人たちには手を出さない。」
町島が言うと
「こちらにも事情があってね。」
牛島は言った。
「手を出す奴がいたらわしが命がけで助けると約束したばかりだよ。」
町島は言った。
「それは解りますけどね。」
牛島は言った。
「今回はわしの顔を立てて黙って引いてくれないか?」
町島は牛山に向かって言った。
「別に約束はしていないですよ。」
俊之が言うと
「牛山が引いてくれなければ江紫組が裏道会を全力で潰すだけだ。」
町島は俊之を遮るように言った。
「江紫組が裏道会を潰す?」
牛島が呟くと
「江紫組の強さは牛山も解っているはずだな。」
町島が言ったあとに沈黙が流れていた。やがて
「町島の兄貴に言われては仕方がないな。」
牛島は言った。
「そうしてくれるか?」
町島が言うと
「今回は兄貴の顔を立てて穏便に引きましょう。」
牛島は言ってひとみを俊之の方へ向けた。
「すまないな。」
町島が言うと
「高村さんの方に行ってください。」
ひとみの縄を解いた牛島が言った。
「はい!」
ひとみは言うと目の前での光景が信じられないまま俊之の方へ歩いて来た。
「店長。」
久美子は言った。久美子も映画で見たような光景が目の前で繰り広げられて緊張が極限まで来ていた。「その斉藤弘子さんに友人が80万円騙し取られていましてね。」
俊之が言うと町島は牛山に目で合図をした。
「これは現金と今日の慰謝料です。」
牛島はポケットから札束を取り出して言うと若い衆に持たせていた。若い衆はその札束を俊之のところに持って来て
「どうぞ。」
と言った。
「元金だけで結構です。」
俊之が言うと
「今回は貰っておいてください。」
町島は言った。
「それではいけないですよ。」
俊之が言うと
「ここはわしの顔を立ててくれないか?」
町島は言った。
「慰謝料はあすなろ会に寄付しますよ。」
俊之が言うと
「これで手打ちですね。」
町島は言った。
「お互い恨みっこなしと言うことにしましょう。」
牛島は言った。
「一番かっこいいところを牛島さんに持っていかれましたね」
関口が言うと
「町島さんは役者が一枚上だったな。」
翔太は言った。
「これで一服できますよ。」
関口は安心して言った。
雨のあとに虹 その222
「着きましたよ。」
木村が言うと純一は周囲を見回した。
「寂しい場所だね。」
純一は言った。
「ここは賃貸料が安いですからね。」
木村が言うと
「街灯がないから暗いね。」
純一は言った。
「出てください。」
木村が言うと純一は外に出て大きく息を吸っていた。純一は急に背中から激しい痛みを感じていたが理由は解らなかった。しだいに一箇所だけではなく背中全体に痛みが広がっていた。二箇所三箇所と痛みが激しくなってきていた。それが激痛に変るのにそれほど時間がかからなかった。
「俺に何をした。」
純一は言った。
「堅気のくせにやくざのまねをして金銭を脅し取ろうとしやがったな。」
木村が言うと
「お前俺を刺したな。」
純一は言った。
「おとなしく堅気でいればこんな事にはならなかったぞ。」
木村が言うと純一の背中からナイフが引き抜かれていた。
「俺を騙したな。」
純一は言ったあとに熱い液体が背中を大量に流れているのを感じていた。それが血液と気付いた時には純一の意識は少しずつ遠くなって道路に音を立てて倒れ込んでいた。
「その女性を返してもらいに来たよ。」
俊之は言った。
「簡単に返すとでも思っているのか?」
牛島が言うと
「それでも返してくれないと困るのでね。」
俊之は言った。
「それはできない相談だな。」
牛山が言うと
「君たちがしている事は犯罪だからきちんと法の裁きを受けなくてはいけないね。」
俊之は言った。
「その必要はない。」
牛山は言うと上着のポケットからピストルを出して銃口を俊之に向けていた。久美子が俊之を庇うように俊之の前に出ると
「久美ちゃん危ない。」
俊之は言って久美子を庇っていた。
「俊さんこそ危ないです。」
久美子が言うと
「かわいそうだがふたりの愛もそこまでだな。」
牛山が俊之に銃口を向けて引金を引こうとした瞬間に大きな銃声が聞こえて牛山が右手に持っていたピストルが中に舞っていた。
「誰だ!」
牛山は言って右手を押さえていた。
「すまないがそこまでにしてくれないか?」
聞き覚えのある声がしてそこに全員が声の主を見た。
「今の銃声はなんだ。」
関口がスピーカーと同時に接聞こえた銃声に緊張感を覚えて言った。
「黙って聞いていよう。」
翔太は落着いて言った。
雨のあとに虹 その221
「この女ではないのか?」
牛山が弘子に言った。
「ぜんぜん違うわよ。」
弘子が言うと
「何を早とちりしているのだ。」
牛島は言った。
「私の言うことを最後まで聞かないからいけないのよ。」
弘子は迷惑そうに言った。
「仕方がないな。」
牛島は言った。
「どうしますか?」
若い衆が言うと
「その久保田直子と言う女は日を改めて始末しろ!」
牛島が言うと
「はい。」
若い衆は言った。
「問題はこの女だな!」
牛山は縛られているひとみを見て言った。
「石井純一さんですね。」
ビジネスマンのような服装であるがどこか別の空気を漂わせた木村誠一が純一に言った。駅から離れた喫茶店の前である。
「そうです。」
純一が言うと
「斉藤さんは急に忙しくなりまして事務所まで来て欲しいそうです。」
木村は言った。
「事務所までですか?」
純一が言うと
「お金は事務所で渡すとおっしゃっています。」
木村は言った。
「事務所はどこなの?」
純一は警戒もなく言うと
「車でご案内しますよ。」
木村は言った。
「着きました。」
田中は言った。湾岸沿いにある倉庫の前であった。俊之が見ると関口たち6人がオートバイに跨っているのが見えていた。
「行こう。」
俊之が言うと
「はい。」
翔太は言った。
「私も行きます。」
久美子も言って出て来た。関口たちの前まで3人は歩いて行くと関口たちはヘルメットを外していた。
「ひとみさんは?」
翔太が言うと
「その倉庫の中です。」
関口は先にある大きな倉庫を指差して言った。
「ここなら大きな音を出しても周囲には聞こえないし周囲には何もないな。」
翔太が言うと
「僕と久美ちゃんで行って来るよ。」
俊之は言って久美子と視線を合わせていた。
「はい。」
久美子は短く言った。
「ふたりでは危険ですよ。」
関口が言うと
「大丈夫だよ。」
俊之は言った。
「私は俊さんが一緒だから大丈夫です。」
久美子が言うと
「これをつけて行ってください。」
翔太が言ってワイヤレスマイクを俊之に着けた。
「僕が名前を呼んだらみんなで来てくれないか?」
俊之が言うと
「いつでもスタンバイしています。」
翔太は言った。
「どうぞ!」
木村がドアを開けると純一は助手席に座っていた。男の運転で自動車はすぐにスピードを上げていた。
「恐いかい?」
俊之は倉庫の前まで来て久美子に言った。
「俊さんと一緒だから大丈夫です。」
久美子は静かに言った。ふたりが倉庫の前に来るとドアが開いて弘子と牛島が出て来ていた。その後ろから縛られて口をふさがれたひとみと若い衆が一緒に出て来た。
「お前ら誰だ!」
牛島は俊之に言った。