雨のあとに虹 その229
「今日の三友商事との打合せは薬師寺さんと立花さんが行くそうですよ。」
社長室で陽子が俊之に言った。
「午後一番に開始だったよね?」
俊之は言った。
「その予定です。」
陽子が言うと
「僕も行けないことはないから行こうかな?」
俊之は言った。
「今日はふたりにお任せになられたらどうですか?」
陽子が言うと
「たまには任せた方が良いかな?」
俊之は言った。今日の陽子はいつもと違って別人のような雰囲気を漂わせていた。
「午後からは今期の決算作業などがあって周囲はバタバタすると思います。」
陽子が言うと
「そうだったね。」
俊之は言った。
「会社に居ても落着きませんから天気も良い事ですし近くの公園でゆっくりなさったらどうですか?」
陽子が言うと
「たまにはゆっくりどこかを散歩してみるかな。」
俊之は窓外を見て言った。
「堀川さんはこの洋服などはどうでしょう?」
立花は総武企画の応接室で言った。
「素敵なデザインですね。」
久美子が言うと
「とてもおしゃれで素敵ですよ。」
立花は言った。
「この洋服は全体に大人の雰囲気があって所々かかわいいところもあって素敵ですね。」
久美子が言うと
「そうでしょ?」
立花は言った。
「これにしようかな?」
久美子が言うと
「この洋服で撮った写真を遊園地の主要なところにおけばイメージアップ間違いなしですよ。」
立花が少し大げさに言った。
「本当にモデルが私で大丈夫ですか?」
久美子が心配になって言うと
「もちろん大丈夫ですよ。」
立花は言った。
「それならよかった。」
久美子が言うと
「堀川さんしかモデルが出来る女性はいませんよ。」
立花は大きな声で言った。
「はじめまして!」
春香はHARUKA-SHIRANIのオフィスで直子に対面して言った。
「久保田直子です。」
直子は緊張して言うと
「白仁春香です。」
春香は言った。
「このたびはすっかりお世話になりました。」
直子が言うと
「詳細は笹川さんから聞いています。」
春香が言った。
「不思議なご縁ですね。」
直子が言うと
「今回の件ではご迷惑をかけました。」
春香は丁寧な口調で言った。
「私が馬鹿だったのですからから気にしないでください。」
直子が言うと
「本来なら未然に防げたはずなのですよ。」
春香は言った。
「あれは暴力団がバックにいたからどうにもならないですよ。」
直子が言うと
「斉藤さんが詐欺をしている証拠を掴むためにあなたには被害者になってもらったというのが真実です。」
春香が言った。
「そうだったのですか?」
直子が言うと
「笹川さんが未然に防げないはずはありませんからね。」
春香は言った。
「笹川さんは凄い人のようですね?」
直子は少し驚いて言った。
「その代わりと言っては失礼ですがHARUKA-SHIRANIとモデル契約を結べないかしら?」
春香は言った。
「私で言いのですか?」
直子が言うと
「パリやミラノにも行く事になるけど良いかしら?」
春香は微笑んで言った。
「それは嬉しいです。」
直子は戸惑いながらも嬉しさを隠せずに言った。
雨のあとに虹 その228
「お母さん。」
警察から出て歩きながら千晴が言うと
「どうしたの?」
静江も歩きながら言った。
「この事はおじさんにはまだ黙っていようよ。」
千晴が言うと
「そうよね。」
静江は言った。
「少なくても今は言わない方がいいよ。」
千晴が言うと静江は少し考えて
「当分は連絡をしない方が良いわね。」
静江は言った。
「お父さんとおじさんは法律的には縁が切れているわけだからね。」
千晴が言うと
「そうよね。」
静江は言った。
「おじさんは大きな会社の社長になるみたいだから迷惑をかけない方がいいよ。」
千晴が言うと
「会社の立場があるものね。」
静江は言った。
「以前にお父さんがおじさんを切り捨てたけどそれは間違っていなかったね。」
千晴が言うと
「どうしてそう思ったの?」
静江は言った。
「おじさんにとってはお父さんを切り捨てる手間が省けたでしょ?」
千晴は強い口調で言った。
「それを因果応報って言うかもしれないわ。」
静江は言った。
「お前は少しずつ社長らしくなってきたな。」
いつものショットバーで増田は言った。
「そんな事はないさ。」
俊之は言った。
「天下の総武グループのトップだぞ。」
カクテルに口をつけた増田が言うと
「今は引継ぎ段階だからね。」
俊之は言った。
「首都圏大学の和泉晃一教授がお前の会社の担当を褒めていたぞ。」
増田が言うと
「彼は立花という管理本部長だよ。」
俊之もコップに口をつけて言った。
「良い補佐役だな。」
増田が言うと
「若いけど彼はやり手だよ。」
俊之は言った。
「ビジネスがうまくいくようにサポートしておくよ。」
増田が言うと
「いつもすまないね。」
俊之は言った。
「そういう事だから段取り通りにやってね。」
育子は電話の向こうで久美子に言った。寝る前の寛いだ時間であった。
「うまくいくようにがんばります。」
久美子が言うと
「結果はやってみなくては解らないけどね。」
育子は言った。
「不安ですけど自分の役目を確実にやるしかないですよね?」
久美子も決心したように言った。
雨のあとに虹 その227
「風が少し暖かいわね。」
ひとみが言と
「ここ数日間暖かくなってきましたね。」
久美子は言った。ふたりは休憩時間にしては珍しく屋上に来ていた。
「もう3月なるのね。」
ひとみは空を見上げて言った。
「ここ数ヶ月時間が経つのが早かったですね。」
久美子が言うと少しだけ南風が久美子の頬を流れていた。
「いろいろあったけど冬はいつまでも続かないわよ。」
ひとみは言った。
「すぐに春が来て花も咲き小鳥もさえずりますね。」
久美子が言うと
「良い詩ね。」
ひとみは言った。
「誰が書いたか覚えていないですけどこの言葉だけは不思議に覚えていいます。」
久美子は言った。
「春が来ない冬はない。」
ひとみが呟くように言うと
「どこかで聞いたような説得力がある言葉ですね。」
久美子は言った。
「麗子さんが口癖だった言葉よ。」
ひとみは麗子の顔を思い浮かべて言った。
「まさにその通りですよ。」
久美子は言った。
「堀川さんもそう思うの?」
ひとみが言うと
「冬の寒さにじっと耐えて苦しさを克服した者だけが春を迎えた時に喜びに出会えるのだと思います。」
久美子が言った。
「その言葉は凄く含蓄があるわね。」
ひとみが言うと
「高校での担任の先生が言っていました。」
久美子は言った。
「その担任の先生も辛い冬を乗り越えて春を迎えたのね。」
ひとみが空を見て言うと
「この青さはいつまで続くのかしら?」
久美子も空を見上げて言った。
「どこまでも続いているといいけどね。」
ひとみは言った。
「私たちの子供もその子供もさらにそのまた子供もずっと先になってもこの綺麗な青空が見られるといいですね。」
久美子は目に涙を浮かべて言った。
「急にどうしたの?」
ひとみもいつの間にか目に涙を浮かべて言った。
「最近は暗い話題が多いから少しでも明るい話題があるといいですね。」
久美子が言うと
「私も堀川さんと同じ気持ちよ。」
ひとみは言った。ふたりが見上げた空は透き通るように青かった。
「ご馳走様でした。」
歩きながら育子は言った。
「お腹がいっぱいになったかい?」
俊之も隣で歩きながら優しく言った。
「決勝戦が終わった時間がお昼過ぎだったからね。」
育子は言った。お昼の混雑した時間帯のあとに俊之が育子を連れてレストランに入り先ほど出て来たばかりであった。駅までの通りは木があって自然も多くふたりはゆっくり散歩をしていた。
「そろそろ春だね。」
俊之が言うと
「春と言えば高村さんと出会ってちょうど1年だね。」
育子は言った。
「月日が経つのは早いね。」
俊之が言うと
「あの日も今日のように雲ひとつない快晴だったよ。」
育子は言った。
「出会ったのは夜だよ」
俊之が言うと
「そうだったね。」
育子は言った。
「僕は痴漢に間違われたね。」
俊之が言うと
「それも不思議な縁ですよね。」
育子は言った。
「確かに不思議な縁だね。」
俊之は思い出すように言った。
「あれからいろいろな人に出会って特にこの数ヶ月は凄く魅力的な人に出会えたからね。」
育子は言った。