雨のあとに虹 その232
「少し不自然な言い方だったかしら?」
俊之がいない社長室で陽子は育子と立花に言った。
「そんな事を僕に聞かれてもね。」
立花は言った。
「立花さんはその場に居なかったのよね?」
育子が言うと
「僕は自分の事でいっぱいでしたよ。」
立花は言った。
「慣れない事だから仕方がないですよ。」
育子がふたりに言った。
「不自然でしたかね?」
立花が言うと
「気付かれなかったかと緊張の連続でしたよ。」
陽子は言った。
「いくら高村さんでも気付いていないと思いますよ。」
育子が言うと
「それはよかったです。」
立花は言った
「問題は明日ですよ。」
育子が緊張を顔に出して言った。
「こうしてゆっくり季節を感じる時間をもてるのは良い事だね。」
俊之は言ってもうすぐ咲くはずの桜の蕾を見ていた。
「桜が咲いて季節が変って進学や就職に移動があって別れもありますね。」
久美子は言った。
「別れの季節なのか?」
俊之が言うと
「出会いと別れは切ない言葉ですね。」
久美子は言った。
「できれば別れは無い方がいいけどね。」
俊之が正直な気持ちを言ったのである。
「田崎。」
矢島は社長室から降りてくると田崎に言った。
何でしょうか?」
田崎は元気に言った。
「明日は野暮用があって会社に来ないが頼むなぞ。」
矢島が言うと
「明日はいないのですか?」
田崎は驚いて言った。
「明日は特に昼前後は携帯も通じないからな。」
矢島は言った。
「明日の件だけどね。」
天門が電事務所で鈴木に電話をかけて言った。
「明日は何かありましたでしょうか?」
鈴木は戸惑ったように言った。
「用事があって空港まで行くので終日動きがとれないよ。」
天門は言った。
「電話はどうですか?」
鈴木が言うと
「お昼前後は出られないよ。」
天門は言った。
「承知しました。」
鈴木は言って手帳にメモをした。
雨のあとに虹 その231
「お待ちしていました。」
受付で立花が言うと
「遅くなってすみません。」
育子が言った。
「遅くてよかったですよ。」
立花が言うと
「どうしてですか?」
育子は言った。
「先ほど高村さんと堀川さんが帰られましたのでね。」
立花が言うと
「それはよかった。」
育子は言った。
「もう少しでニアミスでしたよ。」
立花が言うと
「私が早かったら作戦がうまく行かなくなるところだったね。」
育子が言うと
「そうでしたね。」
立花は言った。
「タイミングが良かったですね。」
育子が言うと
「実はひとつお願いがありましてね。」
立花は言った。
「私で出来る事なら何でも言ってください。」
育子が言うと
「総武スポーツプラザのイメージキャラクターをお願いできないでしょうか?」
立花は言った。
「私がイメージキャラクターですか?」
育子が言うと
「来期の総武はイメージ戦略に力を入れる予定です。」
立花は言った。
「面白そうですね。」
育子が言うと
「お願いします。」
立花は言った。
「私がキャラクターでも大丈夫ですか?」
育子が言うと
「京野さんでなければダメですよ」
立花は言った。
「桜の蕾が大きくなっているね。」
久美子が言って指を指すと俊之はそれをしっかりと見ていた。田中に頼んで郊外の公園まで社用車に乗って来たのである。本当は私的に社用車を使ってはいけないのであるが田中の方から特別にと言ってくれたのだった。俊之は田中の言葉に甘えていた。
「いつの間にか桜の季節になったね。」
俊之が言うと
「年が明けてからいろいろあって時間が経つのが早かったね。」
久美子は言った。
「僕は久美ちゃんと出会ってから時間が経つのが凄く早かったよ。」
俊之は言いながら近くのベンチに座ると久美子も俊之の隣に座った。
「私と出会ってからちょうど4ヶ月ですね。」
久美子が言うと
「そうだね。」
俊之は言った。
「秋の紅葉の季節でしたね。」
久美子が言うと
「久美ちゃんにミートソースを溢された日から僕には少しずつ良い事が訪れたよ。」
俊之は言った。
「私もあの日からいろいろと良い事がありました。」
久美子が言うと
「あの日から何かが変ったと思うよ。」
俊之は言った。
「葉っぱがとてもきれい。」
久美子は言いながら足元に落ちていた名もない葉っぱを手に取って見た。
「久美ちゃんとこうして一緒に過ごせるようになったのもあの事がきっかけだったね。」
俊之も久美子が手にした小さな葉を見ながら言った。空は青く雲ひとつない快晴であった。
雨のあとに虹 その230
「途中で帰るのは少し気が引けるね。」
俊之は陽子と昼食をとりながら言った。
「午後は今期の整理があって正樹オーナーとのやり取りで忙しくなります。」
陽子は言った。
「そうだったね。」
俊之が言うと
「4月の以降になれば嫌でも高村さんに立ち会っていただく事になります。」
陽子は言った。
「僕は今の段階では引継ぎの立場で社長に正式な就任をしていないからね。」
俊之が言うと
「今日はゆっくりなさってください。」
陽子は優しく言った。
「たまには公園を散歩してみようかな?」
俊之は言った。
「明日は私と堀川さんは休みだからよろしくお願いします。」
ひとみが言うと
「明日はふたりともお休みですか?」
小百合は驚いて言った。
「こちらにもいろいろ事情があるのよ。」
ひとみは言った。
「いろいろとは何ですか?」
小百合が言うと
「堀川さんを空港まで見送りに行くのよ。」
いたずらっぽくひとみが言った。
「堀川さんは何処か旅行にでも行くの?」
小百合が言うと
「1年間カナダに行くのよ」
ひとみは言った。
「本当ですか?」
小百合が言うと
「大石さんは知らなかったかしら?」
ひとみは言った。
「知りませんでしたよ。」
小百合が言うと
「そういう事にしておきなさい。」
ひとみは言ってから微笑んでいた。
「この食事でお口に合いますか?」
立花が久美子に言った。
「とてもおいしいです。」
久美子は素直な気持ちを言った。
「シンプルな料理をおいしいと言ってくださる久美子さんのその素直な表情が総武遊園地のイメージにぴったりですね。」
立花も素直な気持ちを言った。総武の社員食堂で俊之と陽子が出たあとに久美子と立花が入って来ていたので顔は合わせていなかった。
「そんなに褒められると恥ずかしいですよ。」
久美子が言うと
「これ以上変な事を言うと高村さんに叱られますね。」
立花は言うと笑顔を見せた。
「それでは今日はこれで失礼します。」
俊之が言うと
「お疲れ様でした。」
陽子は言って会釈をした。
「明日は僕が野暮用で出社出来ないですよ。」
俊之が言うと
「明日は一日中バタバタしていますので明後日にお待ちしています。」
陽子は言った。
「今日はお時間をとっていただいてありがとうございました。」
立花が言うと
「こちらこそありがとうございました。」
久美子は言った。
「本来ならエレベーターまでお見送りをしなければいけないのですが今日はここで失礼致します。」
立場が言と
「お気になさらないでください。」
微笑みながら久美子は言った。
俊之を乗せたエレベーターは降下していた。広いエレベーターに俊之がひとりだけ乗っていた俊之が階数表示を見ているとすぐ下の階でエレベーターが止まっていた。俊之がボタンの傍へ行くとドアが開いて久美子が入って来た。
「久美ちゃん。」
俊之が言うと
「俊さん。」
久美子も俊之を見て言った。
「どうしうたの?」
ふたりが同時に言った。