雨のあとに虹 その238
「高村さんに本当の事を言えずに過ごした期間は察する事が出来きます。」
翔太が言うと
「それではカナダはどうしたの?」
俊之はまだ状況を理解していなかった。
「本当に信じていたのですか?」
久美子は言った。
「国際交流活動に行くと言っていたよね?」
俊之が言うと
「私が俊さんを置いてひとりでカナダに行く事を思っていたのですか?」
久美子が俊之の目を見て言った。
「信じたよ。」
俊之が言うと
「本当にカナダに行こうかしら?」
久美子は言った。
「高村は鈍感だな。」
矢島が言うと
「俊さんはまだ私をよく理解していないです。」
久美子はと冗談を言った。
「私が高村さんと久美子さんが出会うきっかけを作ったという事は麗子さんも圧祝福しているということではないかと思うの。」
ひとみは言った。
「きっと祝福していますよ。」
陽子が言うと
「だからふたりとも幸福になってもらわないと困ります。」
ひとみは言った。
「これで立花さんたちにきちんと連絡が出来ます。」
陽子が言うと
「何を連絡するの?」
俊之が言うと
「実は父や山本さんもここに来たいと言っていたのです。」
春香は言った。
「みなさん仕事があって無理でした。」
陽子が言うと
「薬師寺さんや立花さんも来たいと言っていました。」
翔太は言った。
「榊原さんも来たがっていましたよ。」
ひとみが言うと
「桑田先生は締め切りがあって来られなかったよ」
天門は言った。
「未来さんは私の代わりにあすなろ会に居てもらっています。」
木暮が言うと
「高村さんには久美子さんがゲートを通るところは見せられないからね。」
育子は言った。
「未来さんよりは木暮理事長が適任だと思いましてね。」
直子が言うと
「これは芝居だから久美子さんはゲートを通れないよ。」
矢島は言った。
「飛行機の予約はしていないですからね。」
育子は言った。
「田崎さんには教えていないのですか?」
翔太が矢島に言うと
「あいつに教えたらせっかくの芝居が台無しだよ。」
矢島は大声で言った。
「お芝居も終わりましたのでみなさんバスで帰りましょう。」
春香が言うと
「バスで帰るの?」
俊之は言った。
「これだけ人がいて電車で帰るのはきついでしょ?」
春香は微笑んで言った。
雨のあとに虹 その237
「久美ちゃん。」
俊之は驚いて言った。
「驚きましたか?」
翔太が言うと
「飛行に乗ったはずではなかったのか?」
俊之は驚いて言うと通路の先を見たままであった。通路の先には久美だけではなくひとみも一緒に立っていた。
「今しかないですよ。」
翔太は言って俊之の背中を押すと
「うん。」
俊之は言って久美子の方へ歩き出していた。
「早く行かないとダメよ。」
ひとみは久美子が手にしていたカートを変りに持って言うと久美子に微笑んで言った。
「はい。」
久美子は言って俊之の方に向かって歩き出していた。俊之は一定の速度で歩いているが久美子は少しずつ早歩きになって最後は駆け足になっていた。少しずつ俊之の姿が近づいて来ていた。久美子は勢いをつけると全力で俊之に向かって思いっきり身を預けていた。俊之も全身で久美子を受止めていたふたりの心臓が高鳴って俊之は久美子の背中に手を回していた。
「久美ちゃんはカナダへ行ってはだめだ。」
俊之は言った。
「俊さん」
久美子はそれだけ言うのがやっとであった。
「久美ちゃんがカナダで1年間活動する事は久美ちゃんにとっては良いキャリアになる。」
俊之が言うと
「はい。」
久美子は言った。
「それは僕も解っているよ。」
俊之が言うと。
「はい。」
久美子は言った。
「僕の傍にいても何かが出来ると思う。」
俊之は言った。
「はい。」
久美子は少しずつ涙声になっていった。
「僕はこんな人間で何も出来ないかもしれない。」
俊之が言うと
「はい!・」
久美子は声にならない声であった。
「それでも久美ちゃんのこれからの人生は僕が責任を持つからずっといつまでも僕の傍にいてくれないか?」
俊之が言って少しの時間ふたりは動かなかった久美子の背中が小刻みに震えているのを俊之は自分の手を通して感じていた
「俊さん言うのが遅いですよ。」
久美子は言った。
「ごめんね。」
俊之が言うと
「飛行機が飛んでいかないとそんな大事な言葉が言えないなんてずるいです。」
久美子は言葉にするのがやっとの泣き声で言った。
「これからは何があっても僕についてきて欲しい。」
俊之が言うと
「はい。」
久美子ははっきりした声で言った。
「世界中の人が敵になっても僕の久美ちゃんへの気持ちは変らないよ。」
俊之が言うとその言葉を待っていたように
「世界中の人が敵になるとは大げさだな。」
矢島が言った。
「矢島。」
俊之は驚いて矢島の声がする方向を見た。
「少なくても俺たちはお前の味方だぞ。」
さらに矢島は言った。俊之の目に映ったのは矢島だけではなかった。春香に育子と天門に先ほど声をかけてきた木暮がいた。陽子に直子がいて翔太が笑顔で立っていてひとみもカートを引いて歩いて来た。
「みんな揃ってそうしたの?」
俊之が言うと
「怒るなよ。」
矢島は言った。
「怒らないよ。」
俊之が言うと
「お前の事だからいつまでも自分の気持ちを久美子さんに言えないだろうと思ってね。」
矢島は言った。
「笹川さんから相談を受け受けました。」
直子は言った。
「みんなで一芝居させてもらいました。」
翔太は言った。
「お前が久美子さんに自分の気持ちを打明けられるよう仕組ませてもらったぞ。」
矢島が言うと
「これは私が考えたシナリオだよ。」
育子は言った。
「演技指導は私でしました。」
直子が言うと
「そんな事を言ってもみんな仕事がるでしょ?」
俊之が言うと
「仕事をしている場合ではないよ。」
天門は言った。
「次期総武グループのトップが告白する場面を見逃せないわよ。」
春香が言うと
「私も高村さんの運気を上げる責任があるからきちんと見届ける義務があるからね。」
天門は言った。
「一番辛かったのは久美子さんだよ」
矢島は言った。
雨のあとに虹 その236
俊之がデッキから戻ってロビーに来るとそこには翔太が立っていた。
「翔ちゃん。」
俊之は短く言った。
「久美子さんは行ってしまいましたね。」
翔太が言うと
「僕はだめな男だよ。」
俊之は言った。
「どうしたのですか?」
翔太がいうと
「人には勇気を持てとか最後まであきらめるなと言いながら僕は久美ちゃんを引き留める事が出来なかった。」
俊之は言った。
「それは仕方がないですよ。」
翔太は言った。
「飛行機が点になって見えなくなった時に僕は思った。」
俊之は言った。
「何を思われたのですか?」
翔太が言うと
「久美ちゃんをカナダに行かせるべきではなかったよ。」
俊之は言った。
「久美子さんも来たくなかったと思いますよ。」
翔太が言うと
「僕のそばに居てほしいと言うべきだったよ。」
俊之は言った。
「それでしたら今から正直に言ったらどうですか?」
翔太が微笑んで言った。
「今からと言っても久美ちゃんはすでに飛行機の中にいるよ。」
俊之は言った。
「この通路の先を見てください。」
翔太が言うと
「通路の先に何かあるのかい?」
俊之は言った。
「僕には高村さんにとって一番大事な女性が立っているように見えますけどね。」
翔太が言うと俊之は翔太が言った通路の先をじっと見た。