雨のあとに虹 その237
「久美ちゃん。」
俊之は驚いて言った。
「驚きましたか?」
翔太が言うと
「飛行に乗ったはずではなかったのか?」
俊之は驚いて言うと通路の先を見たままであった。通路の先には久美だけではなくひとみも一緒に立っていた。
「今しかないですよ。」
翔太は言って俊之の背中を押すと
「うん。」
俊之は言って久美子の方へ歩き出していた。
「早く行かないとダメよ。」
ひとみは久美子が手にしていたカートを変りに持って言うと久美子に微笑んで言った。
「はい。」
久美子は言って俊之の方に向かって歩き出していた。俊之は一定の速度で歩いているが久美子は少しずつ早歩きになって最後は駆け足になっていた。少しずつ俊之の姿が近づいて来ていた。久美子は勢いをつけると全力で俊之に向かって思いっきり身を預けていた。俊之も全身で久美子を受止めていたふたりの心臓が高鳴って俊之は久美子の背中に手を回していた。
「久美ちゃんはカナダへ行ってはだめだ。」
俊之は言った。
「俊さん」
久美子はそれだけ言うのがやっとであった。
「久美ちゃんがカナダで1年間活動する事は久美ちゃんにとっては良いキャリアになる。」
俊之が言うと
「はい。」
久美子は言った。
「それは僕も解っているよ。」
俊之が言うと。
「はい。」
久美子は言った。
「僕の傍にいても何かが出来ると思う。」
俊之は言った。
「はい。」
久美子は少しずつ涙声になっていった。
「僕はこんな人間で何も出来ないかもしれない。」
俊之が言うと
「はい!・」
久美子は声にならない声であった。
「それでも久美ちゃんのこれからの人生は僕が責任を持つからずっといつまでも僕の傍にいてくれないか?」
俊之が言って少しの時間ふたりは動かなかった久美子の背中が小刻みに震えているのを俊之は自分の手を通して感じていた
「俊さん言うのが遅いですよ。」
久美子は言った。
「ごめんね。」
俊之が言うと
「飛行機が飛んでいかないとそんな大事な言葉が言えないなんてずるいです。」
久美子は言葉にするのがやっとの泣き声で言った。
「これからは何があっても僕についてきて欲しい。」
俊之が言うと
「はい。」
久美子ははっきりした声で言った。
「世界中の人が敵になっても僕の久美ちゃんへの気持ちは変らないよ。」
俊之が言うとその言葉を待っていたように
「世界中の人が敵になるとは大げさだな。」
矢島が言った。
「矢島。」
俊之は驚いて矢島の声がする方向を見た。
「少なくても俺たちはお前の味方だぞ。」
さらに矢島は言った。俊之の目に映ったのは矢島だけではなかった。春香に育子と天門に先ほど声をかけてきた木暮がいた。陽子に直子がいて翔太が笑顔で立っていてひとみもカートを引いて歩いて来た。
「みんな揃ってそうしたの?」
俊之が言うと
「怒るなよ。」
矢島は言った。
「怒らないよ。」
俊之が言うと
「お前の事だからいつまでも自分の気持ちを久美子さんに言えないだろうと思ってね。」
矢島は言った。
「笹川さんから相談を受け受けました。」
直子は言った。
「みんなで一芝居させてもらいました。」
翔太は言った。
「お前が久美子さんに自分の気持ちを打明けられるよう仕組ませてもらったぞ。」
矢島が言うと
「これは私が考えたシナリオだよ。」
育子は言った。
「演技指導は私でしました。」
直子が言うと
「そんな事を言ってもみんな仕事がるでしょ?」
俊之が言うと
「仕事をしている場合ではないよ。」
天門は言った。
「次期総武グループのトップが告白する場面を見逃せないわよ。」
春香が言うと
「私も高村さんの運気を上げる責任があるからきちんと見届ける義務があるからね。」
天門は言った。
「一番辛かったのは久美子さんだよ」
矢島は言った。