雨のあとに虹 その220
「遅くなってごめんね。」
久美子が言って俊之の背中を触った。
「早かったね。」
振り向いた俊之が言いながら時計を見ると約束の時間までには余裕があった。駅の改札口を出た所ではサラリーマンの帰宅にはまだ早くて人通りも多くはなかった。
「少し散歩してから食事にしようよ。」
俊之が言うと
「それなら公園の中を歩いてレストランに行きましょう。」
久美子は言った。
「そうしよう。」
俊之が言ってふたりは駅前の大通りを歩き始めていた。久美子が俊之の腕をしっかり掴んでいた。俊之は久美子を見た。北風が吹いて少しだけ落ち葉が待っていた。ふたりが歩いていると田中が運転する社用車がふたりの横に来て静かに止まっていた。
「高村さん。」
社用車の助手席から珍しく翔太が顔を出して言った。
「どうしたの?」
俊之が言うと
「大変です。」
翔太が少し慌てて言った。
「僕も行くよ。」
俊之はすぐに何かがあった事を悟って言った。
「すぐに乗ってください。」
翔太言うと
「うん。」
と俊之が言って乗ろうとすると
「私も行きます。」
久美子は言った。ふたりは急いで社用車に乗るとドアが閉まってすぐにスタートをした。
田中が運転する社用車はスピードを上げていた。
「それでひとみさんは無事だね。」
俊之は翔太に言った。
「無事です。」
翔太が言うと
「それはよかった。」
久美子は言った。
「今は関口たちがバイクであとを追っています。」
翔太がいうと
「とにかく僕たちもそこに行こう。」
俊之は言った。
「今すぐに何かがある事はないと思います。」
翔太が的確に言った。田中が運転する社用車はスピードを上げているが田中の運転技術は高かった。周囲の自動車を交わして走っていた。
「どうしてひとみさんが絡んでいるのだろうね?」
俊之が言うと
「斉藤弘子が詐欺をしたお金は裏道会に流れていいます。」
翔太が言うと
「そうだろうね?」
俊之は言った。
「直子さんが騒ぐと周囲の被害者も騒ぎ出して今度こそ警察沙汰になって斉藤弘子は逮捕されます。」
翔太が言うと
「それはあたり前の事ですよね?」
久美子は言った。
「それでは困るので口をふさごうとしているのでしょう?」
翔太が言うと
「どうしてひとみさんと直子さんを間違えたの?」
俊之は言った。
「直子さんと待ち合せでいた場所にひとみさんが現れたので組員が間違えたと思われますいます。」
翔太が言うと
「弘子さんは直子さんの顔を知っているのでしょう?」
久美子は言った。
「斉藤弘子はいい加減なところがありますからね。」
翔太が言うと
「ひどい女性ね。」
久美子は言った。
「早くひとみさんを助けよう。」
俊之が言うと
「麗子さんもお金を騙されていた可能性がるのですよね?」
久美子は言った。
「そうです。」
翔太が言うと
「それで解ったわ。」
久美子は言った。
「ひとみさんはその部分を確かめたかったのかもしれません。」
翔太が言うと
「店長は俊さんを誤解していたから心のどこかで謝罪しきれなかった部分にけじめをつけたかったのかも知れないですね。」
久美子は言った。俊之は久美子の顔を見ていた。
雨のあとに虹 その219
「今日は急になお願いにも関わらずありがとうございました。」
立花は久美子に頭を下げて言った。
「私こそいろいろとありがとうございました。」
久美子は恐縮して言った。
「次は高村さんがいる時に来てください。」
立花は言った。総武企画の正面玄関で田中が社用車のドアを開けると
「待ってください。」
陽子が言って息を切らしながら走って来るのが見えた。
「川嶋さんまで慌ててどうしたの?」
立花が言うと
「私は秘書の川嶋洋子です。」
陽子は会釈をして言った。
「堀川久美子です。」
久美子が言うと
「立花さんに言えない事は私に言ってください。」
陽子は言った。
「ありがとうございます。」
久美子が言うと
「女同士で仲良くしましょう。」
陽子は言った。
「ありがとうございます。」
久美子が言うと
「お車でどうぞ。」
立花が言って久美子を社用車に招き入れていた。久美子が社用車に乗と田中は静かに社用車をスタートさせていた。
「久美子さんはまだ若いのね。」
陽子が言うと
「1年間カナダに行くのはかわいそうですよね?」
立花は言った。
「からかってはダメですよ。」
陽子が立花に言った。
「もうすぐ現れますよ。」
翔太が言うと
「はい。」
直子は言った。
「大丈夫ですか?」
翔太が言うと
「私逃がしませんよ。」
直子が強い口調で言った。今は珈琲ショップで落着いて見張れるのでリラックスできるのである。
「そんなに大袈裟ではないですよ。」
翔太は言った。
「でも緊張しますよ。」
直子が言うと
「みんなで押さえ込んでから警察に突き出します。」
翔太が静か口調で言うと弘子が歩いて来るのが見えた。弘子は誰かと待合わせをしている様子で周囲を見回していた。弘子は時間が気になったようで時計を見ていた。
「そこのあなた。」
ひとみが言って弘子の前に立ちふさがっていた。
「あんた誰なのよ?」
弘子が言うと
「これから一緒に来てよ。」
ひとみは言った。
「どうして私があなたと行かなければいけないのよ。」
弘子が言うと
「聞きたい事があるのよ。」
ひとみが強い口調で言った。
「どうして私があんたに指図されなくてはいけないの?」
弘子が言うと周囲を歩いていた人たちは立止まってふたりを見ていた。
「少し様子を見ましょう。」
翔太が言うと
「はい。」
直子は言った。その短い時間に若い男がひとみと弘子の話を仲裁しているような光景に変っていた。ひとみはその男に言われて落ち着きを取り戻したようである。
「何とかおさまったようですね。」
翔太が安心して言った。ひとみは少しだけ会話を交わすと弘子と一緒にその男の自動車に乗り込んでいた。
「笹川さん。」
直子が言うと
「ちょっと待てよ。」
翔太が言って飛び出していたが自動車はスピードを上げて走り去って行った。その自動車のあとを関口たちのバイクが追って行った。
雨のあとに虹 その218
「静江と純一くんの所を出てしまったのか?」
俊之は千晴から聞いて言葉を選んで言った。やや込んでいるファミレスの中で俊之は千晴を見た。
「大丈夫よ。」
千晴が言うと
「何が大丈夫なの?」
俊之は言った。
「お母さんは税理士の資格があるのでいくつかの会社と契約を結んで仕事が来ているみたいよ。」
千晴が言うと
「純一くんはどうしているの?」
俊之は言った。
「お父さんはこれからだよ。」
千晴が言うと
「厳しいね。」
俊之は言った。
「自分が努力する事によってはじめて世間知らずから脱皮できると思うよ。」
千晴は厳しい言葉で言うがしっかり物を見ていた。
「純一くんの会社も経営が苦しいようだね。」
俊之は言った。
「特に梅雨明けからの半年くらいは大変だったみたい。」
千晴が言うと
「総武造園が純一くんから仕入れをする事だって出来るよ。」
俊之は言った。
「おじさんは黙って見ていればいいのよ。」
千晴が強い口調で言った。
「純一くんも大変だろうね?」
俊之が言うと
「お父さんはこの試練を乗り越えられないと経営者としてだけでなく人間として最低になるからね。」
千晴は言った。
「そうするけどね。」
俊之が言うと
「今は静観していてよ。」
千晴は言った。
「純一くんに困った事があったらいつでも僕のところに来るように伝えてくれないか?」
俊之が言うと
「おじさんは相変わらず人がいいね。」
千晴は言った。
「たとえ静江と別れても純一くんは縁があって知り合った人だからね。」
俊之が優しく言うと
「お母さんも時間が経てばおじさんに会いに来ると思うよ。」
千晴は言った。
「静江にいつか会いに来るように伝えてよ。」
俊之は静江の顔を思い浮かべて言った。
「今は無理だから少ししたらね。」
千晴は言った。
「それでいいよ。」
俊之が言うと
「おじさんの優しい言葉も伝えておくね。」
千晴は言った。
「いつでも遠慮しないで会いに来るように伝えなさい。」
俊之が言うと
「私は時々会いに来るからね。」
千晴は言った。
「それより早く食べよう。」
俊之が言うと
「思ったより時間が過ぎたね。」
千春は言った。俊之は千晴に気づかれないように腕時計を見そっと見ていた。