雨のあとに虹・Part2 その7
「その女性を放してくれないか?」
俊之は静で毅然とした強い意志が伝わる声で犯人に言った。敏弘と視線が合うと俊之は下がるように合図した。敏弘は後ろ退くと
「ここは我々に任せてください。」
翔太は言った。
「あんたには関係ない事だろう!」
深澤久美子の首にナイフを突きつけたままの犯人は少し興奮気味で言った。身長は170センチの決して長身ではない俊之が周囲の人たちの目にはかなり大きく映っていた。俊之の均整がとれた身体が隙を見せていなかった。
「僕は総武グループの最高責任者だからその女性が人質になった事に対して責任がある。」
俊之が言うと
「近寄るな」
犯人は言った。
「僕はお客様の安全を確保する事が義務であり危険に会われたお客様を生命がけでまもらないといけ立場なのでね。」
俊之は言いながら犯人に少しずつ近づいて行った。
「あんたみたいな金持ちには俺の気持ちは解らないだろう?」
犯人が言うと
「君みたいな甘ったれた男の気持ちなど解りたくもないよ。」
俊之はあっさりと言った。俊之と犯人のやり取りは久美子や陽子にも聞こえたのである。立花は警察の到着が遅い事が気になっていた。ここ数年は110番通報してから警察官が到着するまでの対応が遅い事が社会問題になっていた。事件発生から時間が経っていて深澤久美子も精神的に限界にきているかもしれなかったのである。
「この女が死んでもいいのか?」
犯人が興奮してナイフを持つ手が動きそうになった時である。俊之が右手で小さく合図をすると。大きなクラッカーの音がして犯人は音がした方向に目を向けていた。俊之はその一瞬を見逃さずに素早い動きで犯人の傍へ駆け寄りると深澤久美子を翔太が居る方向へ突飛ばしていた。翔太は俊之の動きを見て深澤久美子をしっかり抱きとめていた。
「おとなしくしなさい。」
俊之が言うと
「うるせえ!」
犯人は言うとナイフを俊之の方へ振りかざしていた。
「仕方がない。」
俊之が言うと周囲にいた人たちは目を見張っていた。俊之が犯人の足を払って犯人が倒れた時に俊之は拳を犯人の画面に命中させていた。周囲の人たちは俊之の拳の動きが早くてよく見えてなったのであるが動体視力が優れている翔太には俊之の拳が犯人の鼻の頭で止まったように見えたのであった。いわゆる寸止めである。久美子も立花も陽子も俊之も動きは目で追えなかったのであり関の目にもよ解らなかった。
「痛てえ!」
急に犯人が鼻を抑えながら大声で言った。関口たち8人のメンバーは犯人をすぐに取り押さえると
「おとなしくしろ!」
関口は言った。
「痛てえ!」
犯人は言った。
「お前は大げさだぞ。」
関口は言った。
「痛てえ!」
犯人が言うと
「僕に見せてみろ!」
関口が言うとメンバーが取り押さえている犯人の顔を確認してから鼻を見た。
「痛てえ!」
犯人が言うと
「嘘をつくなよ。」
関口は言った。
「痛てえ!」
犯人が鳴き声で言った。
「鼻血も出ていないぞ。」
関口は言った。
「痛てえ!」
犯人は言うと
「高村さんがあのスピードで殴ったら鼻血どころか骨折だぞ。」
関口が怒ったように言った。敏弘が駆け寄って来ると安心したような表情をしたを見て
「嘘を言うのもいい加減にしろ!」
関口は犯人に言った。
「大丈夫か?」
敏弘が言うと
「うん。」
深澤久美子は翔太に抱止められたまま言った。
「お怪我はありませんか?」
俊之も深澤久美子の傍に駆け寄って来て言った。
「こちらは総武グループの最高責任者である高村俊之社長です。」
翔太が深澤久美子と敏弘に言った。
「私は大丈夫です。」
深澤久美子が言った。
「社長!」
立花が言って走って来た。
「俊さん!」
久美子も言って俊之に駆け寄って来た。
「これで一件落着だよ。」
俊之は言った。
「事なきを得て良かったです。
立花が言うと
「そういえば焼きそばをまだ食べていなかったよね?」
俊之はまじめな表情で言った。
雨のあとに虹・Part2 その6
「やっと僕たちの出番がきたようですね。」
笹川翔太が現れて人混みまで走って来た俊之をみつけて言った。呼吸ひとつ乱していない俊之は平然としていた。翔太が傍に来ると
「今はどのような状態なの?」
俊之は言った。
「膠着状態ですね。」
翔太が言うと
「怪我人はいないね?」
俊之が言うと
「それは大丈夫です。」
翔太は言った。
「人質は女性だね?」
俊之が言うと
「関口たちが犯人を取り囲んでいますので最悪な事態はないと思いますが人質の女性は精神的に疲れが出る頃です。」
翔太は冷静に分析をして言った。
「頼むから久美子を放してくれ!」
敏弘が犯人に言っている声が俊之の耳まで聞こえてきた。
「俊さん!」
久美子が言うと
「久美子さんは走るのが速いですね?」
翔太は言った。
「笹川さん!」
久美子が言って俊之の傍にくると
「遅れてすみません。」
立花が息を切らして言った。
「あの女性の方は久美子さんです。」
久美子が驚いて言うと
「深澤久美子さんですよ。」
立花は言った
「久美ちゃんと同じ名前の女性だね?」
俊之が言うと
「あの女性は久美子さんと同じ名前で今日の新社長就任記念の表彰者です。」
翔太が完結に言った。
「そういう事であるなら僕は社長として犯人からそのもうひとりの久美子さんを助けなければいけないね。」
俊之が言うと
「そう言うと思っていました。」
元気よく翔太が言った。
「僕が合図したらこのクラッカーを鳴らしてくれるかい?」
俊之が翔太に言ってクラッカーを渡すと人混みを分けて行った。
「俊さん!」
久美子が言うと
「大丈夫だよ。」
俊之は振り返って言った。
「高村さんが合図をしたらこのクラッカーを鳴らしてくれ!」
翔太が言うと
「解りました。」
関口久夫は言った。
「僕は人質の女性を保護する。」
翔太は言うとクラッカーを関口に渡した。
「早く捕まえましょう。」
関口は言うとメンバーいる場所まで戻って行った。夏の日差しが周囲の空気を暑くしているだけでなく緊張感で極限状態にも限界がきていた。
「社長も無理しないでください。」
早足で歩きながらもやっと現場に着いた陽子は祈るように大きな声で言った。
「今週は高村さんも忙しそうですが来週あたり3人で打合せをしませんか?」
田崎文夫は矢島建設の社長室でいつもの明るい声で言った。
「そうだな。」
矢島正一は言った。
「久しぶりに一杯やりましょうよ。」
田崎が言うと
「高村がうちの取締役に就任した記念に一杯やるのもいいな。」
矢島は言った。矢島建設の社長である矢島は180センチを超える長身にがっちりと重量感ある身体はまさに巨体であった。柔道3段の猛者であることは見た目で誰にでもすぐにすぐに解った。俊之の高校時代の同級生である矢島は20代のころから俊之の才能を見抜いて一目置いていたのであった。
「それでは夕方までに高村さんに連絡しておきます。」
田崎が言うと
「そうしてくれ!」
矢島は言った。
「任せてください。」
田崎が言うと
「これからはあいつも忙しくなるから今のうちに親睦を深めていかないといけないな。」
矢島は言うと声を出して笑ったのである。
雨のあとに虹・Part2 その5
「少しでも動いたらお前の生命はないぞ!」
犯人は深澤久美子の首にナイフを突きつけたままで言った。犯人は興奮状態であり周囲には入場客が遠巻きに深澤久美子と犯人を見つめて立っていた。
「俺が変わりに人質になるから久美子を放してくれ!」
敏弘は言ったが
「ダメだ!」
犯人は大きな声で言った。
「バカやまねはやめてくれ。」
敏弘が言うと
「どうせ俺の人生なんてこんなものだ。」
犯人は言った。
「落着いてくれ。」
敏弘が言うと
「俺の人生なんてどうにでもなれ!」
犯人は公興奮状態で叫んでいるだけで聞く耳を持たないのであった。20代前半と思える犯人自分の不幸を世の中のせいだと考えていた。34歳の敏弘から自分の世の中や不幸をのせいにするのは甘えた考えにしか思えないのであった。
「すぐに警察が来るから大丈夫だよ。」
敏弘が言うと深澤久美子は小さく頷いて目を閉じていた。30歳の深澤久美子は落着いて見えているが恐怖に年齢は関係ないのである。深澤久美子は時間が経つのが遅く感じられて頭の中は真っ白であった。
「クラッカーは野外だとそんなに大きな音ではないけど屋外は音が響くね。」
俊之が言うと
「何だか少し恐いですね。」
久美子はクラッカーを手にとって言った。
「私大きな音を想像すると手が動かなくて苦手です。」
久美子に同調して陽子が言った。
「女性はだれでもそうかもしれないね。」
俊之が言うと
「あの大きな音が苦手ですよ。」
久美子は言った。
「矢島は高校の卒業式にクラッカーを鳴らしたよ。」
俊之が思い出したように言っうと
「矢島さんがクラッカーを鳴らしたのですか?」
陽子は俊之に言った。
「そうだよ。」
俊之が言うと
「今では信じられませんね。」
久美子は言った。
「矢島は今でこそ人の良いおじさんだけど高校時代は悪だったからね。」
俊之は冗談交じりに言った。
「あの矢島さんがですか?」
久美子が言うと
「想像できないですね。」
陽子は言った。
「校長先生が腰を抜かすほど驚いていたよ。」
俊之が言うと
「そうだったのですか?」
陽子は言った。
「大変です。」
立花が言って慌てて走りながら部屋に入って来た。
「どうかしましたか?」
陽子が立花に言うと
「先ほど広場で若い男がナイフで女性を人質にとっていまして周囲は騒然としています。」
立花が言うと
「警察へ連絡はしましたか?」
俊之が確認をして言った。
「すぐに通報しました。」
立場が言うと
「解った。」
俊之は言った。
「あとは警察に任せましょう。」
立花が言うと
「このクラッカーを持って行くけど良いかい?」
俊之は言った。
「はい。」
久美子が言うと俊之は久美子からクラッカーを受け取って走出そうとしていた。
「社長!」
立花は言った。
「大丈夫だよ。」
俊之は言って走り出していた。
「俊さん。」
久美子が言うと
「無理をしないでください。」
陽子も言った。
「川嶋さんも久美ちゃんも気をつけないとダメだよ。」
俊之は走り背後にいる久美子と陽子に言った。俊之は頭脳明晰だけでなく運動神経もよく46歳と言う年齢にしては俊足であった。
「社長!」
立花は言って追いかけて来た。
「急ぐからあとでゆっくり来れば良いよ。」
俊之は言って走る速度を落とさなかった。
「待ってください。」
立花は言うだけで引離されていった。久美子も運動神経が良い方だが立花に追いつくのがやっとでありう俊之はずっと先を走っていた。陽子は最初から走る事を諦めて歩いていたのであった。