開運童子のブログ -31ページ目

おしらせ!

 年末年始はバタバタしていまして

「雨のあとに虹・Part2」はお休みになります。

1月5日から再開しますので

よろしくお願い致します。


雨のあとに虹・Part2 その11

「久美子は夏休みに何処かに行くの?」

北西大学の同級生である椿純子が学食で言うと

「まだ決まっていないよ。」

久美子は言った。

「早く決めた方が良いわよ。」

純子が言うと

「せっかくの夏休みだから何処かに行きたいけれどね。」

久美子は言った。キャンパスは夏休みが近い事もあって学食でも話題はひとつであった。久美子も定食を食べながら純子とゆっくり出来るのも今のうちで夏休みになれば純子とはしばらく会ないのが寂しかった。

「久美子は知っている?」

純子が唐突に言うと

「何が?」
久美子は純子を見て言った。

「サッカー選手の三田人志が一日コーチで来ているみたいよ。」

純子は言った。

「三田人志選手はプロサッカーチームマイスター東京の所属だったよね?」

久美子が三田について知っている事を言うと

「久美子は詳しいね。」

純子が驚いて言った。

「時々テレビにも出ているから知っているだけよ。」

久美子が言った。久美子はサッカーにはそれでほど詳しくなかったのである。

「君が元気になったので良かったよ。」

俊之が言った。俊之は岡村と中村が帰ったあとも榊原と社長室にいたのであった。

「癌になって俺も考えさせられたよ。」

榊原が言うと

「何を考えたの?」

俊之は言った。

「もう人生に先ががないと思った時に人を裏切ったり陥れたりしてまで出世をしてどうなるのだろうと

思うと俺の夢とはなんと小さい事なのかと思ったよ。」

榊原が言うと

「欲はあっても言いけれど大事なのは実現するための方法がフェアであるかどうかと言う事だよ。」

俊之は言った。

「確かにそうだよな。」

榊原が言うと

「君も変わったね。」

俊之は微笑んで言った。

「フェアでないと勝利は勝利でなくなり敗北に変わるね。」

榊原は以前とは別人のような表情で言った。

「君も僕と同じ年齢だからいくらでもやり直しが利くよ。

俊之は言った。

「高村は偉いな。」

榊原が言うと

「これからフェアな方法をとればいいよ。」

俊之は言った。

「これからで間に合うだろうか?」

榊原が呟くように言った。

「間に合うように君の人生が時間は延びたのだと思うよ。」

俊之は言った。

「山口の言っている事は掴みどころがないですね。」

菊池が言うと

「菊池くんは格闘技に詳しいですか?」

唐突に桜田は言った。

「格闘技では柔道をやっています。」

菊池が言うと

「そうですか?」

桜田は言った。

「警部は空手でしたね。」

菊池が戸惑ったように言うと

「そうではなくて専門的な事に詳しいのかを知りたかったのです。」

桜田は言った。

「それなら詳しくないですね。」

菊池は言った。

「詳しくないないですか?」

桜田は言った。

「テレビで見たりする程度ですよ。」

菊池が言うと

「闘真拳と言う名前を聞いた事はありますか?」

桜田が菊池に言った。

「闘真拳は知りませんね。」

菊池が言うと

「闘真拳を日本で取得している人はわずか3人だけです。」

桜田はプライドの高さ誇るような声で言った。

「その闘真拳がどうかしたのですか?」

菊池は理解に苦しんで桜田に言った。

もうひとつの物語・5月の風

初夏という季節になると頬をかすめる風がとても心地よい。日差しは強いがカラッとした暑さである。私はいつものようにその珈琲ショップに入っていった。私は2週間ほど珈琲ショップに顔を出す事ができないでいたのである。こんなに間をあけるのはおそらく初めての事だったと私は気づいていた。私は人混みから逃れるように駅ビルに入り エスカレーターを上がると珈琲ショップの入口に立った。空いているようで席は空いていた。入口からカウンターまで行くのにそんなに時間はかからなかった。女性の店長さんがこちらを見て会釈をすると私も会釈を返した。視線を合せるが言葉は交わさなかった。

 席に座って珈琲カップを手にすると一口含んだ珈琲を舌の上で味を確かめた。その時の私は彼女の事が脳裏を過ぎるのを止める事が出来なかった。あれからひと月以上が経っていた。彼女は南の国での生活に慣れてきた頃だろうと私は感じていた。彼女の事だからきっと元気に過ごしているはずである。そう思って私が大きく息を吸い込むと人影がそばに近づいて来たのに気づいた。

「少しご無沙汰でしたね。」

店長さんが言った。

「仕事が詰まっていて来られなかったよ。」

私は短く言うと

「彼女が辞めたからもういらしてくれなくなるのではないかと思っていました。」

店長さんは言った。

「そんな事はないよ。」

私が言うと

「いらしてくださってよかった。」

店長さんが言うと私は店長さんを見た。視線が合って数秒の時間が流れた。

「彼女が辞めたからこそ僕はこの店に来なければいけないのですよ。」

私が言うと店長さんは考えるように目を大きく動かせてから

「どうしてですか?」

と言った。店長さんが解らないのも無理はなかった。

「いつの日か彼女が思い出という忘れ物を取りに来た時にそれを渡すのは僕だからね。」

私が言うと店長さんは微笑んでいた。

店にお客が入ってきてざわついてくると

「失礼します。」

店長さんは言ってカウンターへと戻って行った。私は店内を見回して彼女の顔を思い浮かべていた。彼女のあとに入った女性の店員さんと目が合うと会釈をしてくれた。私も会釈を返して店員さんと視線を合わせていた。インドネシアの暑さは日本以上だと聞いた。そんな熱い太陽の下で彼女は日本を遠くから見ているかもしれない。

「失礼します。」

若い女性が言って私を見た。

「どうぞ!」

私も言って若い女性を見ると彼女は私の横に荷物を置いて座っていた。四つの季節が過ぎる頃には今が過去になり未来が今になるはずである。今も思い出のひとつとして心のアルバムにしまっている彼女との思い出は私に少しの後悔と少しの安らぎと淡い過去をくれた。今はそれでいいと思っている。いつまでも過去を見ていてはいけないがみきは過去の延長でもある。

「これは彼女から来たメッセージです。」

気付かぬうちに私の横に戻って来た店長さんが言って小さな封筒を差し出してくれた。

「彼女から僕にメッセージですか?」

私は言うとその封筒を受取っていた。

「封筒の中身はあとで呼んでください。」

店長さんが言うと私はその封筒をしまっていた。珈琲が飲み終わる頃に私はいつもの日常に戻っていた。つかの間の時間が心を振動させて思い出へと誘ってくれたが時間が過ぎて現実へと戻してくれていた。


「彼女が入れた珈琲と私が入れた珈琲とどちらがおいしいですか?」

店長さんは言った。難しい質問に私は答えを探して言葉を選んでいた。

「舌から伝わる感触なら店長さんです。」

私が言うと

「それは嬉しいわ」

店長さんは静かに微笑んでくれた。

「プラスアルファーの何かがあるのが彼女です。」

私は言ったがはっきりとは解らない何かがそこにあった。

「ごちそうさま。」

私が言うと

「ありがとうございます。」

店長さんが言っても新人の店員さんも私に笑顔を向けてくれた。

「来週もまた来ます。」

私は言うと背中を向けて店の外へ出ていた。封筒の中身はそれとなく解っていた。南の国から来た封筒の中身には独特の香りがあった。