雨のあとに虹・Part2 その10
「それでは総武遊園地と三友商事に総武緑化と三友商事の業務提携締結の調印をお願い致します。」
総武企画の社長室で恵子が言って書類を出すと陽子が俊之に書類を渡して俊之が社印をついた。三友商事側からは社長の岡村恒久と経営企画部長の榊原和馬に推進課長の中村光二が来ていた。それぞれが必要な書類に社印をついたあとであった。
「高村社長。」
榊原が言うと
「あらたまって何ですか?」
俊之は言った。
「これからは試合相手ではなくチームメイトとして協力させて貰うよ。」
榊原が言うと
「僕も君の力を借りてみんなの期待に応えられるように努力をするよ。」
俊之も言った。榊原が先に手を差し出して俊之が手を出してふたりは握手をした。
「これからは両社の利益のために協力体制を磐石にしたいよね。」
岡村が少し大きな声で言った。
「総武は海外のコネクションが弱いので是非力を貸してください。」
俊之が岡村に言うと
「任せてください。」
岡村は言った。
「よろしくお願いします。」
俊之が笑顔で言うと
「これからの商社は物を売っているだけではダメできちんと実業にも関わっていきたいと考えていますよ。」
岡村は言った。
「これからは担当レベルのやり取りになるね。」
榊原が言うと
「うちは専務の立花が管理本部長と言う立場で関わる事になると思うよ。」
俊之は言った。
「うちは中村がやるよ。」
榊原が言うと
「よろしくお願いします。」
中村は俊之を見て言った。
「遅れて申し訳ないけれどすぐ来るはずだから待ってください。」
俊之が言い終わるとドアをノックする音が聞こえて
「遅れてすみません。」
立花が入って来て言った。
「君は鼻を殴られて痛いと言ったがレントゲンでは何の損傷もなく皮膚も特に問題はないとの所見が医者から出ているがどうですか?」
一見するとエリート官僚に見えるキャリア組の警部である桜田陽一郎は犯人の山口武生に言った。桜田の横に居る巡査部長の菊池雄介はキャリア組ではなく44歳に警部の桜田に比べると38歳で巡査部長のポストでは出生は遅れているが現場経験は豊富であった。
「本当ですよ。」
山口は言った。
「嘘を言ってはダメだぞ。」
菊池が言うと
「あの時に何か大きな力が鼻に集中して物凄い激痛が走ったのは本当です。」
山口は言った。
「お前は22歳にもなっていい加減な事を言うなよ。」
菊池は大きな声でいいながら山口に掴みかかりそうになると
「暴力はいけないよ。」
桜田は冷静な口調で菊池に言った。
「はい。」
菊池が言うと
「おかしいよと思わない?」
桜田は言った。
「何がですか?」
山口が言うと
「レントゲンや精密検査でも君の鼻に限らず殴られた形跡はどこにもない。」
桜田は言った。
「そうですか?」
山口が言うと
「むしろ数人の若者たちに押さえつけられた擦り傷の方が大きく残っているのにそ傷は痛くなくて鼻の頭に物凄い激痛が走ったとは不自然だよ。」
桜田は言った。
「本当ですよ。」
山口が言うと
「まだ加減な事を言うのか!」
菊池が大声で言った。
「やめなさい。」
桜田は冷静に言うと
「本当ですよ。」
山口は言った。
「君が言っている事は不自然だね。」
桜田が言うと
「信じてください。」
山口は必死になって言った。
「君の言う事が本当だとしすると鼻を殴られた場合には多少なりとも出血をするはずだがそれも形跡がない。」
桜田は言った。
「嘘ではありませんよ。」
山口が言うと
「現場に駆けつけた警察官も周囲の人たちも出血はなかったと証言しているのもおかしいよね?」
桜田は無表情で言った。
雨のあとに虹・Part2 その9
「疲れただろう?」
敏弘が深澤久美子に言った。今夜は武遊園地の中に新装オープンした西武ホテルの最上階の部屋に俊之の計らいで宿泊する事になったのであった。
「少し疲れたけれどこの夜景を見たら疲れがとんでしまったみたい。」
深澤久美子が敏弘に言った。
「今日はいつもより早い時間の新幹線で来たから疲れているはずだよ。」
敏弘は言った。
「今日は良い事があったから疲れは飛んでしまったわ。」
深澤久美子が言うと
「それにあんな事がったのに気丈だね。」
敏弘は深澤久美子を気遣って言った。
「恐い思いもしたけど今日は良い事もあったし高村社長は優しい人で私と同じ名前の堀川久美子さんは若いけど素敵なお嬢さんだし今日は良い出会いがあったわ。」
深澤久美子は言った。
「堀川久美子さんはモデルにして良いくらい美人だね」
敏弘が言うと
「素直な女性よね?」
深澤久美子は言った。
「若いけどしっかりしているね。」
敏弘が言うと
「そうでしょ?」
深澤久美子が微笑んで言った。
「まさか高村社長が犯人を捕まえるとは思わなかったよ。」
敏弘が言うと
「社長にしては勇敢だったね。」
深澤久美子は言った。
「高村社長は他の社長とは違っているよ。」
敏弘が言うと
「そんな事を言うと他の社長さんに失礼じゃないの?」
深澤久美子が言った。
「思った事を正直に言っただけだよ。」
敏弘が言うと
「正直すぎるわよ。」
深澤久美子は言った。
「責任逃れする経営者が多い中で毅然とした態度で犯人に接するとはなかなか出来ないよ。」敏弘が言うと
「そうかも知れないね。」
深澤久美子は言った。
「堀川久美子さんも秘書の女性も心配そうだったし立花さんは声も出なかったからね。」
敏弘が言い終わると
「高村社長と久美子さんはお付合いしているみたいね?」
深澤久美子は言った。
「まさか。」
敏弘が言うと
「それに秘書の女性も高村社長に気があるみたいよ。」
深澤久美子が言った。
「考えすぎだよ。」
敏弘が言うと
「これだから男の人はだめね。」
深澤久美子は言った。
「そうかな?」
敏弘が言うと
「鈍感な人が多いのよ。」
深澤久美子は言った。
「どうしてそんなことが解るの?」
敏弘が言うと
「女の感かな?」
深澤久美子は言った。
「女の感?」
敏弘が言うと
「女の感は当たるのよ。」
深澤久美子は微笑んで言った。
「それを言われると困るよな。」
敏弘は困った顔で言った。
「だから男の人はダメなのよ。」
深澤久美子が言うと
「高村社長も大変だね。」
敏弘は言った。
「夜景が綺麗ね。」
久美子は窓外に広がる遊園地を中心とした夜景を見て俊之に言った。
「夜景を見るのは年越しの時以来だね。」
総武ホテルの最上階のビップルームで俊之は言った。最初は俊之も久美子も自分の部屋へ帰る予定であったがハプニングが起こって新社長就任記念セレモニーやキャンペーンガールの久美子と同じ名前の女性が日被害に会うという非常時に予定は大きく狂っていた。
「こんなに良い部屋にはなかなか泊まれないから今日はラッキーだったのかもしれない。」
久美子が言うと
「立花さんが総武グループのトップが総武ホテルに泊まったことがないとは経営に支障が出ると言って気を利かせてくれたからね。」
俊之は言った。
「立花はさんは嘘を言うのが下手ね。」
久美子は微笑んで言うと
「それが立花さんの良いところだよ。」
俊之は言った。
「川嶋さんも有能な女性ね。」
久美子が言うと
「秘書として申し分がないよ。」
俊之は言った。
「立花さんや川嶋さんも泊めてあげたかったね。」
久美子が言うと
「僕も勧めたけれどそうもいかないようだね。」
俊之は言った。
「深澤久美子さんは幸せになるといいね。」
久美子が言うと
「僕も応援するよ。」
俊之は微笑んで言った。
「遠距離恋愛は寂しいし辛いはずですよ。
久美子が自分の事のように言った。
「東京と大阪なら2週間に1度行き来をするのがやっとだと思うよ。」
俊之が言うと
「私たちで応援して同じ名前の久美子さんには幸せになってもらいましょうよ。」
久美子は言った。
「好感がもてる良いカップルだね。」
俊之が言うと夜空には着陸寸前の飛行機が高度を下げていくのが見えたのであった。
雨のあとに虹・Part2 その8
「いらっしゃいませ!」
店長の石倉ひとみは朝から対応に追われていた。珈琲ショップトレンドカフェは忙しさに一区切りつく時間帯のはずであったが今日は大入りであった。
「休憩の時間ですよ。」
小百合にがひとみに言うと
「もう少ししてから休憩にするからいいわ。」
ひとみは言った。
「お客さんがたくさん入って今月はかなり売上げが高いですよね?」
小百合は言うと
「それはありがたいけれど堀川さんがあまり来られなくなったからローテーションに入れるバイトを増やさないとダメね。」
ひとみは言った。売上げが上がっても手放しで喜んでばかりもいられないのであった。ここ数ヶ月間の売上げは良いので本社からは注目されているが店長ともなるといろいろ考える事が多くなってきていた。
「堀川さんはテキパキとして仕事が速いですよね?」
小百合は言った。
「堀川さんはとても優秀よ。」
ひとみが言うと
「なかなか堀川さんのような人材は見つからないですよね。」
小百合は言った。ひとみは久美子が活躍の場を広げていくのを嬉しく思う反面寂しくもあったのである。
「今日は、すっかりご迷惑をおかけしてすみませんでした。」
キャンペーンガールの久美子も含めた食事会で俊之は深澤久美子と敏弘を交互に見て言った。
「そんな事はありません。」
深澤久美子が言うと
「良い思い出のはずが悪い思い出になりましたね。」
俊之は言った。
「それは気にしないでください。」
深澤久美子が言うと
「僕はただ必死でした。」
敏弘は言った。
「私は人質ではなかったですが身体に震えがきました。」
久美子が言うと
「今日はお詫びを兼ねて遊園地の敷地内の総武ホテルに無料招待させていただきますのでゆっくりしてください。」
俊之は言った。
「それはありがとうございます。」
深澤久美子は言った。
「無料パスは明日も使えるように担当に支持しておきました。」
俊之が言うと
「今日は悪い事もあったけど良い事もありました。」
深澤久美子は言った。
「少しでも良い思い出を作ってください。」
久美子が言うと
「今日は嬉しい事があったので将来は忘れられない日になりそうです。」
深澤久美子が言うと
「何もここで社長さんにお話しなくてもいいよ。」
敏弘が言うと
「失礼でなかったらお話を伺えませんか?」
俊之が言った。
「私も失礼でなければ聞きたいです。」
久美子も言ってふたりを見ると敏弘は深澤久美子に頷いた。
「私たち遠距離恋愛だったのですが観覧車の中でプロポーズされました。」
深澤久美子は言った。
「それはおめでとうございます。」
俊之が言うと
「素敵ですね。」
久美子は言った。
「総武からも何かプレゼントをさせていただきますよ。」
俊之が言うと
「そんな事までしていただくと緊張します。」
深澤久美子は言った。
「ぜひプレゼントをさせてください。」
俊之が言うと
「幸せにね。」
久美子は言った。
「ありがとうございます。」
敏弘が言うと
「今日は忘れられない日になりました。」
深澤久美子は言った。窓外は夕日が沈みかけて夏の短い夜が迫っていた。