開運童子のブログ -112ページ目

雨のあとに虹 その26

「あまりおしゃれな店には縁がないのですね。」

俊之は言った。初めて向かい合って座るので少しだけ緊張をしている。おしゃれなレストランと言えるか解らないが低い音量でクラシックが流れていた。

「とても素敵なお店ですよ。」

久美子は言った。アルバイトの時にはワイシャツの制服とジーンズという服装だがセーターにスカート姿の久美子を見て俊之は違う一面を見た思いで次の言葉を捜した。そうなのだ。まだお互い詳しい事はよく知らない。

「こうしてゆっくり話をする始めてだね。」

俊之が言うと久美子は

「いつもはザワザワしているお店の中でしたものね。」

と言った。

「偶然とは言え縁とは不思議なものだね。」

俊之は言った。

「唐突ですけど俊さんのお年はいくつですか?」

久美子が言った。

「僕は46歳だよ。」

俊之が言った。

「46歳ですか!」

久美子が驚いたように言った。

「すっかりおじさんの年だよね?」

俊之は言うと。

「そんな事はありませんよ。」

久美子は言った。

「そうならいいけどね。」

俊之は言うと

「もっとお若く見えますよ。」

久美子は言った。

「それはありがとう。」

俊之は言った。

「30代の後半くらいかと思いました。」

久美子が言った。」

「気だけ若いからかな?」

俊之が言った。

「私はいくつに見えますか?」

久美子が言う。

「20歳くらいかな?」

俊之が言う。

「正解です。」

久美子は言った。

「それは当たってよかったよ。」

俊之が言うと

「年が明けると成人式です。」

久美子が言った。俊之はあらためて久美子を見た。しっかりと目線を合わせてきているところが久美子の人間性を思わせた。大人の部分と幼さが同居して形容しきれない女性の雰囲気を出している。俊之は久美子にどう見えるのか少しだけ不安があった。俊之は久美子を分析していた。

 久美子は目線を合わせてきた俊之から目線をそらさなかった。大手商社で見かける精悍な顔をしている。特別なおしゃれはしていないが決して地味ではないスーツを着こなしている。ネクタイとワイシャツのいセンスもよかった。俊之はデザインの趣味が良いと久美子は評価していた。髪型も俊之の若さを演出していた。落着いた言葉使いをしているので好印象を与えてくれる。俊之は心にシャッターを下ろす事が多いのように感じたのはなぜだろうか?俊之は打解けて話をする人は少ないのかもしれない。言葉を崩さないのはそのためだろうか?久美子は俊之を観察しながら俊之に少しずつ恋に近い気持ちを覚えていった。

「目の前に女性がいると食べ物がおいしね。」

俊之が言った、決して上手ではないが俊之の精一杯の言葉である。

「私と一緒でも食事がおいしいですか?」

久美子が言う。

「もちろんだよ。」

俊之が言った。

「本当に?」

久美子が言うと

「久美ちゃんだからおいしいのかも知れないよ。」

俊之が言った言葉の途中でふたりの視線が合った。

雨のあとに虹 その25

 俊之が電話を切るとタイミングよく電車がホームに入って来た。俊之は都心へ帰る急行に乗ると空いていた席に座って窓外を見た。いろいろな考えが俊之の頭をよぎっていた。翔太や未来にのせられて久美子を誘ったがこれでよかったのだろうか?久美子は自分の事をどう思っているのだろうか?自分はただの中年男だ。最近は中年男が若い女性にストーカーまがいの事をするのをニュースで多く聞くようになっている。自分はあのような惨めな姿をさらけ出したくはない。もちろん夢を見る事は自由だがその夢が壊れた時には潔く目の前にある現実を認めるべきだ。当然自分は久美子に恋するのは自由である。しかし久美子が自分に恋するとは限らない。もし、久美子と恋人になってもいずれ年相応の男が現れて久美子が自分から去って行くかもしれない。その時の覚悟をしなければならないと考えていた。大げさだが地獄に落ちる覚悟をしなければ久美子に近づいてはいけないのだ。窓から見える景色は午後から夕暮れに変わり夕闇が近づいてきた。都心のビルの谷間を電車はスピードを上げていった。

「お客様こちらへどうぞ!

小百合が言ったあとにお客さんが空いてきたが人の気配を感じて

「いらっしゃいませ。」

と久美子が言た時である。

「こんにちは。」

俊之が目の前に立って言った。

「早かったですね。」

久美子が言う。

「タイミングよく電車が来たからね。」

俊之が言った。

「ご注文は何になさいますか?」

久美子が言い。

「ブレンド珈琲をひとつね。」

俊之が言った。

「彼氏が来たね。」

小百合が横に来て久美子に小声で言った。

「やめてよ。」

久美子も小声で言った。

「ブレンド珈琲お待たせ致しました。」

小百合が言う。

「ありがとう。」

俊之は言った。俊之は珈琲を受取って空いている席に座った。

「赤くなっているよ。」

小百合に言われて

「やめてくださいよ。」

と久美子が言った。俊之に聞こえなかったか久美子は心配でもあった。席に座った俊之はゆっくりと珈琲を飲みながら寛ぎながら考えていた。おしゃれな店と言っても自分はそんなにたくさん知っているわけではないのだ。知合いのいる店のに行った方が良いだろうか?20歳くらいの女性はどんな店に行けば喜んでくれるのだろう?翔太に聞いておけば良かったと俊之は思った。翔太ならこういう事には非常に頼りになる。久美子に喜んでもらえるかどうかは解からないが落着いて食事をして会話が楽しむ時間が持てれば良いと俊之は考えていた。

雨のあとに虹 その24

「どうですか?」

久美子が言うと

「さっき帰ったよ。」

小百合が言った。

「それはよかった。」

久美子はほっとして言った。

「良い顔をしているのにね。」

小百合は言った。

「でも目つきが普通じゃないでしょ?」

久美子が言った。

「ストーカーみたいな事をしなくても良いのにね。」

小百合が言った。

「どうしてここが解ったのかしら?」

久美子は言った。

「ストーカーなんてそんなものよ。」

小百合はあっさり言った。

「少し恐いですね。」

久美子が言うと

「前日パスタをこぼした中年の方がましよね?」

小百合が俊之の事を言った。

「俊さんの事?」

久美子が言うと

「あの中年がもっと若ければいいのにね。」

小百合が遠慮なく言った。

「近いうちに彼女をデートに誘ってみたらどうですか?」

翔太が言った。

「早く誘いなさいよ。」

未来も言った。

「誘った方が良いのかな?」

俊之が言うと

「それは当たり前でしょ?」

未来が言った。

「ぼくはこれから野暮用がありますのでね。」

翔太は言うと足早に去って行った。

「翔ちゃん!」

俊之が言うと翔太は右手を上げた。

「急に来て急に居なくなったね。」

未来は翔太の後姿を見て俊之に言った。

「翔ちゃんはいつも突然現れて突然去っていくからね。」

俊之が言った。

「これから彼女を誘ったらどうなの?」

未来に言われて

「そんな事を言われると僕は本気になりそうですよ。」

俊之は言った。ふたりは駅の雑踏まで来たが日は完全には沈んでいなかった。

「もしもし。」

久美子が電話に出て言った。ちょうど休憩が終わる直前にかかってきたのだった。

「久美ちゃん!」

俊之は言った。

「俊さん。」

久美子は言った。久美子は俊之からの電話に少し驚いていた。

「電話で話しても大丈夫かい?」

俊之が言うと

「休憩中だから大丈夫ですよ。」

久美子が言った。

「それはよかった。」

俊之は言った。

「今何処からですか?」

久美子が言った。

「少し遠くに来ているけどこれから戻るところだよ。」

俊之が言うと

「遠くなのに電話をもらって嬉しいです。」

久美子が言った。

「急だけど時間があったら食事でどうだろうと思ってね。」

俊之は言った。

「本当ですか?」

久美子が言う。

「本当だよ。」

俊之が言うと

「それなら1時間後くらいでこちらへ来られませんか?」

久美子が言った。

「そちらのトラベルカフェにかい?」

俊之が言う。

「その時間なら仕事が終わりますから珈琲でも飲みに来てください。」

久美子が言うと

「1時間後に会おうよ。」

俊之は言った。

「待っていますね。」

久美子は言って電話を切った。今の久美子は俊之からの誘いに嬉しさでいっぱいになっていた。久美子はまたいつ及川が襲ってくるかという不安があったのだが俊之の誘いがあった事は遠まわしに寂しいから会いたいと言われたようで母性本能をくすぐられたような気持ちだったのだ。俊之の声は及川への不安を和ませてくれていた。俊之は中年なのにどこか可愛いところあるのを久美子は知っていた。それと同時に先ほど及川が店に来たこともあり不安と嬉しさが複雑に久美子の頭を交差していた