雨のあとに虹 その19
「もしもし」
俊之は携帯を取って言った。
「遅い時間にすみません。」
久美子が言うと俊之が
「気にしなくていいよ。」
と言った。
「1日に2度も電話をしてしまって迷惑ではないですか?」
久美子が言うと
「堀川さんのような若い女性が電話をしてくる事が少ないので光栄だよ。」
俊之が言った。
「堀川さんと丁寧に言われると変な感じがして自分の事ではないようです。」
久美子が言うと
「それでは久美ちゃんって呼ぼうかな?」
俊之が言った。
「そう呼んでください。」
久美子は少し明るい声で言った。
「これからそう呼ぶよ。」
俊之が言うと
「私は俊さんと呼びますね。」
久美子が言った。
「何だか照れるね。」
俊之が言うと
「親しみがあって良いでしょ?」
久美子は言った。
「ところで少し元気がないみたいだけどどうかしたの?」
俊之が言うと
「今日は嫌な事があったのでとても不安なので電話をしてしまいました。」
久美子が言った。
「嫌な事って?」
俊之が言った。
「大学の学食で見知らぬ男の人が私に声をかけてきました。」
久美子が言うと
「ぜんぜん顔を知らない男だったの?」
俊之が言った。
「知らない人ですけど同じ大学の人みたいです。」
久美子が言う。
「最近はおかしな男も多いからね。」
俊之は言った。決して先を急がずに久美子が言うのを待った。
「そのあと友達の純子と買い物をして食事をしました。」
久美子が言う。
「おしゃれな店が多いから楽しいだろうね?」
俊之が言う。
「多いですね。」
久美子は言った。
「僕もたまには行こうかな?」
俊之が言った。
「そのあとに純子と別れて大通りからひとつ横道に入った時にですね。」
久美子が言って息を呑んだ。
「その時に男が久美ちゃんに何かしたようだね。」
俊之は察して言った。
「急に抱きつかれて腰にナイフを突きつけられました。」
久美子が言うと
「それは危なかったね。」
俊之が言う。
「その時に別の男の人に助けられたので助かりました。」
久美子が言うと
「それはよかった。」
俊之が言った。
「背が高い男性で空手が段だそうです。」
久美子が言うと
「それは頼もしいね。」
俊之が言った。
「笹川さんとおっしゃる男性です。」
久美子が言うと
「翔ちゃんと同じ名前だ。」
俊之が言う。
「誰がですか?」
久美子が言うと
「僕の知り合いにも笹川と言う人が居るのでね。」
俊之が言った。
「笹川さんは警察を呼ばずにその人を解放したのでこの先も不安が消えないです。」
久美子が言うと
「いつもの翔ちゃんのやり方と同じだ。」
俊之が言った。
「今になって恐くなって眠れなくなって電話をしてしまいました。」
久美子が言った。
「恐くなったらいつでも気軽にかけてきていいからね。」
俊之が言うと
「そうさせてください。」
と久美子が言った。
「ひとりで悩まないで電話をしてきてよ。」
俊之が言った。
「遅くまでありがとうございました。」
久美子が言った。俊之は電話を切って俊之は少し鼓動が早くなるのを自覚した。
「相手は親子ほども年が違う女の子だというのに僕は何を考えているのだろう?」
俊之は独り言を言って嬉しさを隠せなかったのであった。
雨のあとに虹 その18
「いや!」
久美子は声を出した。急に男が抱きついてきてナイフを久美子の腰にあてた。駅からの帰り道で人通りが少なくなってきた時であった。周囲には通行人がいない大通りから横にそれた小道であった。
「静かにしろ!」
男が言った。
「やめて!」
久美子は抵抗しながらも声を出した。男はナイフを久美子の腰にあてたままだった。その時である。
「やめろ!」
と別の男の声がし男は地面に叩きつけられた。
「痛てえ!」
と男が声を悲鳴のような声を上げるのにそんなに時間はかからなかった。久美子は男を見た。男が腹部を押さえて倒れているのが久美子の目に映った。 久美子は何が起こったのか解らなかった。倒れた男を見るとそれが大学で久美子に声をかけてきた男だった。その男を抑えつけていたのは翔太であった。
「大丈夫ですか?」
翔太が言った。
「はい。」
久美子が言うと
「この目つきが悪い男があなたのあとをつけていたのでね。」
翔太が言うと
「その人は大学で声をかけてきた人です。」
久美子は言った。
「おとなしくしてろよ。」
と言った翔太の迫力に男は抵抗できなかったのである。
「高村さんもこれから楽しく僕たちと仕事しましょうよ。」
すっかり酔った田崎が言った。
「僕もそのつもりだよ。」
俊之は言った。
「社長も参加できればよかったけどね。」
みどりが言った。
「矢島は忙しいから仕方がないよ。」
俊之が言うと
「せめて途中から来てくれても良いのに!」
みどりが言った。居酒屋で楽しい苦騒ぐのは俊之だけではなく田崎もみどりも久しぶりだったようだ。
「うちの会社も高村さんのような人が来てくれて楽しくなりますね。」
田崎が言うと
「高村さんが社長の同級生なのがやりやすいわね。」
みどりが言った。俊之は田崎とみどりにすぐに打ち解けていたのだった。
雨のあとに虹 その17
「長く話してしまってすみません。」
久美子は言った。
「いや!気にしなくていいよ。」
と俊之が言った。
「突然で驚きませんでしたか?」
久美子が言うと俊之は
「少し驚いたけどね。」
俊之が言う。
「また電話しますね。」
久美子が言った。
「時間がある時には僕からもかけるよ。」
俊之が言った。会話が終わって久美子は通話を切ったあとに
「どうだった?」
純子が覗き込んで言った。
「普通の会話だよ。」
久美子が言うと
「それは解るけど」
純子は言った。
「会話を聞いていたくせに!」
久美子が言う。
「そうだけどね。」
純子は不満そうに言った。
「純子が電話かけろって言うからかけたけのよ。」
久美子が言うと
「ずいぶん緊張していたね。」
純子が言った。それを聞いて久美子は
「それはあたり前じゃないの!」
と言った。
「その人と仲良くしていると就職に有利かもしれないよ。」
純子が言うと久美子は怒ったように
「何を言っているの!」
と言った。久しぶりの緊張感に久美子の心臓は鼓動を早めていた。都心のおしゃれな街に溶け込んだ久美子と純子が大人の女性として映っているひと時であった。
「高村さんの電話の相手は女性みたいでしたね。」
田崎が言った。
「そうだよ。」
俊之は平然として言った。
「今日はデートの予定だったのですか?」
と田崎は心配になって言った。
「そんな事はないよ。」
俊之が言うと
「ちょっと意味深のご様子でしたよ。」
田崎が言った。
「ちょっとアクシデントがあってね。」
俊之が少し照れて言った。
「やっぱり訳ありだったのですね。」
田崎に言われて
「そんなに人生は甘くないよ。」
俊之が言った。
「恋ってある日突然やって来るものですよ。」
と田崎が偉そうに言うと
「でも相手は20歳くらいの女性だよ。」
と俊之が言った。それを聞いていたみどりが
「意外性があるのが恋ですよ。」
と会話に入ってきて言った。
「そうですよ。」
と田崎が言った。
「そうかな?」
俊之が言うと
「年齢って関係ないですよ。」
田崎が言った。
「男の人はどうして形にこだわるのですか?」
とみどりが言うと
「別にこだわってないけどね。」
俊之が言った。俊之は早速社員に溶け込んだように見えるのであった。久美子が電話をしてきた事は俊之の心を少しだけ和ませていた。そして矢島建設の会社の社員とも初めて親しみをもつ事ができた瞬間でもあった。
「誰なの?」
船山えりは言ったが周囲は静まり返っている。大通りを通れば良いのに近道をして寂しい道を歩いていた。自分の足音とは別に足音が聞こえたえりは恐くなって走り出した。