開運童子のブログ -105ページ目

雨のあとに虹 その47

「お先に失礼します。」

久美子は言った。

「お疲れ様でした。」

ひとみは言って久美子を見た。久美子もひとみに一瞬視線を合わせた。だがふたりに余計な会話はなかった。

「失礼します。」

久美子は言うと

「明日ね。」

ひとみも言った。エスカレーターを降りて駅ビルの外に出た久美子は買い物をしてから部屋に帰る予定で商店街を歩き出した。

「これが経営計画書だよ。」

俊之は言って矢島に書類を差し出した。

「うん。」

矢島は。一言だけ言って書類に目を通した。

「異業種に参入したいのではないかと思って事業計画を作ってみたよ。」

俊之は当たり前のように言った。

「さすがお前はすべてお見通しだったか!」

矢島は言った。

「経営者が考える事は察しがつくよ」

俊之は言った。

「これを成功させれば俺は親父を少しだけ乗越えられそうな気がする。」

矢島は言った。

「そうだけど無理はいけない。」

俊之は言った。

「お前もそろそろおとうさんの因縁から抜け出る時だぞ。」

矢島は言った。

「それはそうだけどね。」

俊之は言った

「そろそろ以前の高村に戻れ!」

矢島は言った。

「僕はいつだって前向きだよ。」

俊之が言うと

「お前が人並みの幸福を追い求めても麗子さんは許してくれるはずだ。」

矢島は言った。俊之は少し考えて

「本当にそう思うか?」

と言った。俊之の心の中では何かが少しずつ変わり始めていたのだった。

 久美子は買い物を済ませて部屋に急いだ。特に何かをしないといけない用事は無いのだが今日は部屋でゆっくりしたかった。そんなに大きくない荷物を抱えて人通りが少なくなった時に物陰から30歳くらいの暗い影のある男が久美子に近づいてきた。一舜身がすくむ久美子だがすぐに毅然とした態度をとった。男は沢田だった。沢田は美子の横に来て低い声で

「高村俊之とは親しくしない方がいい」

と言うと久美子は

「どういうことですか?」

と言った。

「あの男はあなたにふさわしくないと思ってね。」

沢田が言った。無表情になって黙っていた。少しの間だけ沈黙していた久美子だったが

「私が誰とお付合いしようと私の自由ですよ。」

と言った。

「高村はお嬢さんとは別の世界に生きていますよ。」

沢田が言うと

「他人の指図は受けません。」

久美子は言った。その時の久美子には沢田に対して生まれてから初めての大きな怒りが込み上げてきたのだった。

「すまないけど今日はこれで失礼するよ。」

俊之が言った。

「お疲れ様です。」

みどりが言う。

「来週に顔を出します。」

俊之が言うとみどりは

「お疲れ様です。」

と言った。俊之は田崎の姿が見えないので

「田崎さんは?」

と言った。先ほどから気になっていた。

「取引先の鹿児島建設さんと打合せでそのまま直帰するそうですよ。」

みどりが言った。

「元気が無かったけど大丈夫だったようだね。」

俊之がほっとしたように言った。

「大丈夫ですよ。」

みどりは言った。

「それならひと安心だよ。」

俊之が言うと

「放っておけばすぐにいつもの田崎さんに戻りますよ。」

みどりはクールに言った。

雨のあとに虹 その46

 長島修一と別れた俊之は大通りを歩いていたが細い道に入って足を止めた。周囲には人影はないのだが

「昨夜はありがとう。」

俊之が言うといつのまにか物陰から翔太が姿を現した。

「何がですか?」

翔太は言ったが

「タクシーを呼んでくれたのは翔ちゃんだろう?」

俊之は言った。

俊之が言うと翔太は笑みを浮かべて

「タイミングが良かったですね。」

翔太が言った

「翔ちゃんだよね?」

俊之が言うと翔太は

「もう少し待ってください。」

と言った。

「少しでいいのかい?」

俊之が言うと

「年が明けたら全て解るようにします。」

翔太が言うと俊之は悟ったように

「楽しみにしているよ。」

と言った俊之は早足で歩き出していた。翔太は見送っていたがすばやく姿を消していた。俊之が歩くスピードを上げようとした時に携帯がメールを受信した。見てみると育子からだった。

「今度の競馬は胸騒ぎ予想の的中率が高くなりそうな予感がしますので私の予想でしっかり儲けて卓球の応援の後にはご馳走してください。」

と書かれたメールに

「競馬の予想を楽しみにしていますのでお互いにしっかり当てましょう。」

と俊之は返信をした。育子からすぐにメールが来て

「いつも遠慮しながら応援してくれるけどそんなに遠慮する事はないよ。」

のメールと書かれたを読み終えて俊之は

「久しぶりに会いたいので必ず応援に行きます。」

と返信した。そのあとに育子から来たメールには

「一所懸命試合をがんばります。」

と書かれてあった。俊之は

「無理をしない範囲で試合をがんばってください。」

とメールを送った。育子からは

「優勝を目指してがんばりますよ。」

とメールが来た。俊之は思い出したように

「育子さんと出会ってから一年になるのか。」

と言った。

 翔太は関口に電話を入れて

「いつまでも時間をかけられないな?」

と言った。

「早く捕まえましょうよ。」

関口は言った。

「現行犯でないと警察には突き出せないからな。」

翔太は言った。

「何とか犯人を捕まえたいですね。」

関口は言った。翔太の頭の中はまぐるしいスピードで回転していた。

「こんにちは。」

みどりは言った。

「こんにちは。」

俊之は言うと

「社長があとで顔を出してほしいそうですよ。」

田崎が言った。

「それはタイミングが良かった。」

俊之は言った。

「社長も高村さんを頼りにしているみたいですね?」

田崎が言うと

「僕も提案があるから少ししたら顔を出してみるよ。」

席に着いた俊之が言った。今日は少し元気がない様子の田崎が

「今夜少しでも時間がありますか?」

と言った。

「今夜は野暮用があってね。」

俊之は言った。

「そうですか。」

と残念そうに田崎は言った。ため息まじりで考え事をしていていつもの元気がない田崎を見て俊之は少し心配になった。

「何か悩んでいるみたいだね。」

俊之が言うと

「実はですね。」

言っただけで沈黙していた。

「何かあったの?」

俊之は横に居たみどりに言った。みどりは

「先日出会った彼女に失恋してイブはひとりぼっちだそうですよ。」

と言った。俊之は

「それであんなに思いつめているわけだね。」

と言った。

「飲みには誘われても付き合わない方が良いですよ。」

みどりは言った。

「どうして?」

俊之が言うと

「愚痴を言われるだけですからね。」

みどりはクールに言った。

「田崎さんもかわいそうだよね。」

言って俊之は田崎を見た。俊之はそんな田崎が人間的に好きであった。

雨のあとに虹 その45

「高村のおとうさんは遊び人で最後は消費者金融にかなりの借金を残して死んだと聞いた。」

矢島が言うと

「それはひどいおとうさんね。」

早苗は言った。

「高村や高村のおかあさんは借金取りが来て対応が大変だったそうだ。」

矢島が言うと

「おかあさんも大変だったのね。」

「最初はお母さんの親戚から縁を切られて次におとうさんの親戚からと寿序に絶縁状態になって最後に妹夫婦からも手切れ金を渡されて絶縁状態になってまった。」

「妹さんがいらしたの?」

早苗は言うと

「4つ年下の妹さんだ。」

矢島は言った。

「妹さんも冷たいわよね。」

早苗は怒るように言った。

「不幸は続くものでお母さんも心労がたたって後を追うようにこの世を去ってしまった。」

矢島が言うと

「高村は天涯孤独の身になったのね。」

早苗は言った

「そうだ!」

矢島は言った。

「会社を辞めたのはそれが原因なの?」

早苗は言った。

「それは解からない。」

矢島が言うと

「その辺に理由がありそうね。」

早苗は言った。

「いずれ時期が来たら聞いてみるつもりだ。」

矢島は言った。

「かわいそうだわね。」

早苗は言った。

「うちもあの時は経営が苦しかったから友人一人雇う余裕がなかったからな。」

矢島が言うと

「あの時はどこもみんな大変だったわね。」

早苗が言うと

「俺はとはあの時ほど経営者として情けなく思った時はない」

矢島は言った。

「世の中が一番苦しかった時ですものね。」

早苗は言った。

「高村はおとうさんの幻影を振り切らなければいけない。」

矢島は言った。

「強い意志が必要よね!」

早苗が言うと

「俺は2代目社長として親父を越えるために壁を乗越えなければならと思っている。」

矢島は強い口調で何かを決心したように言った。

「高村さんは私にはとても良い人に見えるけど店長はそう思っていないようですね。」

久美子は言った。

「そんな事はないわよ。」

とひとみは言った。

「何か高村さんに恨みがあるように見えますよ。」

久美子は思い切って言った。

「それは誤解よ。」

ひとみは誤魔化すように言った。

「そうですか。」

久美子が言うと

「当たり前じゃないの!」

ひとみは言った。久美子もそれ以上は何も言わなかった。