雨のあとに虹 その47
「お先に失礼します。」
久美子は言った。
「お疲れ様でした。」
ひとみは言って久美子を見た。久美子もひとみに一瞬視線を合わせた。だがふたりに余計な会話はなかった。
「失礼します。」
久美子は言うと
「明日ね。」
ひとみも言った。エスカレーターを降りて駅ビルの外に出た久美子は買い物をしてから部屋に帰る予定で商店街を歩き出した。
「これが経営計画書だよ。」
俊之は言って矢島に書類を差し出した。
「うん。」
矢島は。一言だけ言って書類に目を通した。
「異業種に参入したいのではないかと思って事業計画を作ってみたよ。」
俊之は当たり前のように言った。
「さすがお前はすべてお見通しだったか!」
矢島は言った。
「経営者が考える事は察しがつくよ」
俊之は言った。
「これを成功させれば俺は親父を少しだけ乗越えられそうな気がする。」
矢島は言った。
「そうだけど無理はいけない。」
俊之は言った。
「お前もそろそろおとうさんの因縁から抜け出る時だぞ。」
矢島は言った。
「それはそうだけどね。」
俊之は言った
「そろそろ以前の高村に戻れ!」
矢島は言った。
「僕はいつだって前向きだよ。」
俊之が言うと
「お前が人並みの幸福を追い求めても麗子さんは許してくれるはずだ。」
矢島は言った。俊之は少し考えて
「本当にそう思うか?」
と言った。俊之の心の中では何かが少しずつ変わり始めていたのだった。
久美子は買い物を済ませて部屋に急いだ。特に何かをしないといけない用事は無いのだが今日は部屋でゆっくりしたかった。そんなに大きくない荷物を抱えて人通りが少なくなった時に物陰から30歳くらいの暗い影のある男が久美子に近づいてきた。一舜身がすくむ久美子だがすぐに毅然とした態度をとった。男は沢田だった。沢田は美子の横に来て低い声で
「高村俊之とは親しくしない方がいい」
と言うと久美子は
「どういうことですか?」
と言った。
「あの男はあなたにふさわしくないと思ってね。」
沢田が言った。無表情になって黙っていた。少しの間だけ沈黙していた久美子だったが
「私が誰とお付合いしようと私の自由ですよ。」
と言った。
「高村はお嬢さんとは別の世界に生きていますよ。」
沢田が言うと
「他人の指図は受けません。」
久美子は言った。その時の久美子には沢田に対して生まれてから初めての大きな怒りが込み上げてきたのだった。
「すまないけど今日はこれで失礼するよ。」
俊之が言った。
「お疲れ様です。」
みどりが言う。
「来週に顔を出します。」
俊之が言うとみどりは
「お疲れ様です。」
と言った。俊之は田崎の姿が見えないので
「田崎さんは?」
と言った。先ほどから気になっていた。
「取引先の鹿児島建設さんと打合せでそのまま直帰するそうですよ。」
みどりが言った。
「元気が無かったけど大丈夫だったようだね。」
俊之がほっとしたように言った。
「大丈夫ですよ。」
みどりは言った。
「それならひと安心だよ。」
俊之が言うと
「放っておけばすぐにいつもの田崎さんに戻りますよ。」
みどりはクールに言った。