開運童子のブログ -103ページ目

雨のあとに虹 その53

「本当に高村に勝てると思ったのか?」

矢島が田崎に言った。

「社長のように格闘技をやっているようには見えませんでしたよ。」

力なく田崎は言った。

「馬鹿だな。」

矢島は言った。

「どうしてですか?」

田崎は言った。

「高村は高校の時から拳法をやっているのを知らなかったか?」

矢島が言った。

「本当ですか?」

田崎が言うと

「闘真拳という格闘技の中でも最強と言われた拳法だ」。

矢島は言った。

「それなら早く言ってくださいよ。」

田崎は言った。

「言っていなかったか?」

矢島はとぼけたように言った。

「社長より強いじゃないですか。」

田崎は言うと。

「俺より強いは余計だ。」

矢島が苦笑いて言った。

「僕から電話をするよ。」

俊之が言うと

「急がないから明日で良いですよ。」

久美子が言った。

「すまない。」

俊之が言うと

「それより早く着替えて風邪を引かないようにしてください。」

久美子が言った。

「ありがとう。」

俊之は言って電話を切った。それを待っているように

「高村!寒いから早く帰るぞ。」

矢島が言った。

「そうだね。」

俊之が言った。

「風邪引くと大変だからな。」

矢島が言うと

「田崎さんの頭も冷えたようだから風邪を引かないうちに帰ろうか。」

俊之が冗談半分に言いながら田崎を見た。

「本当にすみませんでした。」

田崎は恐縮して言った。

「気にするな。」

矢島が言った。

「男とはこういう付合いも必要だよ。」

俊之が田崎と視線を合わせて言った。

「早く着替えを出してくれ。」

矢島は帰って来るなり早苗に言った。

早苗は急いで玄関に行くと濡れた矢島の巨体がそこにあった。上着はそんなに濡れていないがワイシャツやズボンは凄く濡れている。

「そんなに濡れてどうしたのですか?」

早苗は驚いて言った。

「高村と田崎が噴水に落ちてしまった。」

矢島は言った。

「高村さんと田崎さんがですか?」

早苗は驚いて言った。

「田崎が女性にふられて高村はそれを忘れさせて元気付けようとしたようだ。」

矢島が言うと

「そんな事があったの?」

早苗は言った。

「高村が田崎に自分を殴らせようとしたが田崎のパンチが当たらない。」

矢島が言うと

「子供みたいな事をしたのね。」

早苗は言った。

「そんな事をしていたら勢い余って噴水に落ちたらしい。」

矢島は言った。

「それであなたも付合って噴水に飛込んだのですか?」

あきれたように言う早苗に

「当たり前だ。」

矢島は言った。

「あきれた。」

早苗が言うと矢島は

「それが男の友情というものだ。」

と言った。

「子供みたいね。」

早苗が言うと

「女には解からないだろうな!」

と悪びれる様子もなく矢島は言った。

「高村さんがそんな事をするなんて以外だったわね。」

早苗は言った。

「そうか?」

矢島は言うと早苗は

「高村さんは頭脳派だから体育会系な的な事はしないと思っていたけど違うのね。」

と言った。

「あいつは見かけ以上に男っぽいぞ。」

矢島は言った。

「意外な面もあるのね。」

早苗が言うと

「それがあいつの良いところだよ。」

矢島は言った。

「今頃は一人暮らしの高村さんは今頃どうしてるのかしら?」

早苗は高村を思い浮かべて言った。

「どうしてだ?」

矢島が言うと。

「ひとり暮らしだから着替えは大変でしょうね。」

早苗の一言で矢島は黙り込んだ。

雨のあとに虹 その52

「それでどうするの?」

久美子は言った。

「明日の夕方付き合ってくれる。」

純子が哀願して言った。

「それはいいけど大丈夫なの?」

久美子は言った。純子の事が久美子には自分の事のように思えて辛くなった。

「大丈夫よ。」

純子はあっさりと言った。

「それならいいけどね。」

久美子が言うと

「明日に電話するから!」

純子は言った、

「相手の男の人は無責任で最低だわ。」

久美子は言った。

矢島は頭を休めるためにゆっくり夜の散歩を決め込んだ。急いで家に帰っても俊之が作成した計画書の数字が頭をよぎるだろう。こういう時には何も考えずに一杯やりたいが最近はメタボで医者からアルコールを慎むように注意されている。矢島は俊之のようにスタイルがよくないのである。そのせいか最近ではスタイルを気にするようになっていた。

「我慢して散歩しながら帰ろう。」

矢島はそう呟いて歩き出して前を見ると噴水の方でふたりの男が座って話をしているのが見えた。見ると俊之と田崎であった。

「お前たちどうしたというのだ。」

矢島は驚いて言った。俊之は矢島の声に振り向いた。田崎も矢島の方を見た。

「矢島か?」

俊之が言い

「寒中水泳か?」

と矢島は言った。

「実は田崎さんが失恋から立ち直れないそうだから付き合っていてね。」

俊之は言った。矢島は

「そうか。」

言うとふたりを真似してコートと上着を脱ぎ捨て噴水の方へ歩いて行った。そして豪快に飛込んで一泳ぎして帰って来た。

「お前まで付き合うことはないさ」

俊之が言うと

「お前たちだけずぶぬれで俺はこのままというわけにもいかないだろう?」

矢島は言った。

「お前らしいな。」

俊之が言った。

「社長も僕のためにすみません。」

田崎が涙声になって言う。

「気にするな。」

矢島は言った。

「気にする事はないさ」

俊之は言った。

「俺はお前の社長だからな。」

と矢島も言った。

「そうだよ。」

俊之は言った。

「高村さん!」

田崎はそこまで言うと言葉が出なかった。

「男同士で悲しみを共有しなくてはね。」

と俊之が言った。

「本来は俺がしなければいけないのにすまないな。」

矢島が言う俊之は

「気にするな。」

俊之は言った。

「お前ずぶ濡れだぞ。」

矢島が言うと

「これも仕事の範疇だよ。」

俊之は言った。言い終わるを待っていたように俊之の携帯が鳴った。

「久美ちゃんかい?」

俊之は電話に出て言った。

「今電話大丈夫ですか?」

久美子が言うと

「ごめんね。」

俊之は言った。

「どうかしたのですか?」

久美子が言うと

「噴水に落ちたところなんでね。」

俊之は言った。

「噴水ですか?」

久美子は言った。

「あとでかけなおしてもいいいかい?」

俊之が言うと。

「何かあったのですか?」

久美子は言った。

「失恋した仲間と悲しみを共有してね。」

俊之は言った。

「悲しみを共有ですか?」

久美子は言った。久美子には状況が解らなかったのである。

「友人悲しみを忘れようとしていたらバランスが崩れてしまってね。」

俊之は言った。

「男の人って子供みたいなところがあるのね。」

久美子はあきれたように言うが俊之は

「男にはこういう事も必要だよ。」

と無邪気に言った。

雨のあとに虹 その51

「田崎さんはひとりで飲んでいたの?」

俊之は言った。

「友達と一緒でしたよ。」

田崎は言った。田崎は飲んではいたが酔えなかったらしい。俊之にも失恋の経験はあるので気持ちは解かるがこればかりは仕方がないのだ。ここは自分で立直るしか方法がない。

「田崎さんはまだその彼女が忘れられないみたいだね?」

俊之は言った。

「それはあたり前じゃないですか。」

田崎は言った。俊之は田崎の言葉を聞いくと広場の前にある噴水の方へ歩いていった。立止まってコートを脱ぎマフラーを取ってスーツの上着まで脱いだ。

「僕に殴りかかってきてごらん。」

俊之は唐突に言った。

「そんな事をしてどうしたのですか?」

田崎は驚いたように言った。

「いいから殴りかかって来なさい。」

俊之は言った。

「本当に殴りますよ。」

田崎が言うと

「僕は全て避けるからからね。」

俊之が言った。

「それでは遠慮なく攻撃しますよ。」

田崎は言うなり本気で俊之に殴りかかっていった。

「こんなに細かい手法を考えつくとはさすが高村だな。」

矢島は言った。矢島は珈琲を飲みながら社長室で頭の中で考えていた。俊之の作成した経営計画は堅実でありながらしっかり先手を取った手法が目立っていた。これは外部から見ると投資金額が多いように見えるが結果的には少ない投資で済むはずである。

「まだやりますか?」

警備員の高柳卓造が矢島に声をかけると

「続きは明日にするよ。」

矢島は言った。

 久美子は俊之に電話を入れる約束をしたが今日は仕事が忙しいかもしれない。遠慮しようかとも思っていた。久美子は最近感が働くようになっていた。何となくそんな気がすると当たるのである。そうだ純子に電話をしてみよう。気分転換の意味もあってすぐに電話をかけた。

「もしもし。」

純子が言った。

「私だけど。」

久美子が言った。

「久美子ちょうどよかった。」

純子が言った。

「どうしたの?」

久美子は言った。

「相談があってね。」

純子が言う。

「どんな相談なの?」

久美子は言った。久美子は嫌な予感がしていたのだった。

「パンチがぜんぜん当たらないぞ。」

俊之が言った。田崎は俊之を目掛けて本気でパンチを打つのであるがぜんぜん当たらないのだ。ほんの少しの差でかわされてしまう。俊之はまるで拳法の達人のように軽く身をかわしていく。田崎は息が上がっているのに俊之は呼吸ひとつ乱していないのが田崎を焦らせていた。

「これでどうだ。」

田崎は言ってパンチを出すが俊之の動きの方が速いのである。

「早く彼女の存在を頭から消さないといつまでたってもパンチは僕に当たらないよ。」

俊之が言うと

「当ててやりますよ。」

田崎が言うと大きく拳を振りかざした田崎は勢い余って噴水の方へよろけた。

「危ない。」

俊之は言って手を差し伸べたが田崎の身体は思ったより傾いていた。もう一度手をかけた俊之も大きくバランスを崩した。ふたりは噴水の中に水しぶきをあげて落ちていった。水音だけが静けさに大きく響いた。すぐに噴水の中からふたりが這い上がってくる。

「もうやめよう。」

俊之は言った。

「タイムオーバーですね。」

田崎が言うと

「寒中水泳は身体に堪えるよ。」

俊之は言った。

「急に寒くなりましたね。」

田崎が言うと

「頭を冷やすだけでなくて身体全体を冷やしてしまったね。」

と俊之は言いながらスーツの上着とコートを着てマフラーを首に巻いた。